第97話【先を読んでいたのは、元Fランクの闇使い】
遅々ながらも成長を実感した翔星達は、
訓練の日々を重ねて最初の休日を迎えた。
「ゼロ番街で最初の休日はここでないとな」
「こっちに来た早々サボっておいて、何を言ってるんだか」
ケルベロス級のデータとの訓練を終えて数日後の休日、先頭に立って展望施設の入口に向かうピンゾロに斑辺恵が肩を震わせて笑う。
「それは言わないお約束にしてよ~」
「お主は調子に乗り過ぎじゃ」
頭の後ろで手を組んだピンゾロが笑って誤魔化し、コチョウは隣で深くため息をつく。
「まあ、今さらだな。案内は頼んだぜ」
「おう、任されて」
慣れた様子で首を横に振った翔星にピンゾロが親指を立て、一行は展望施設へと入って行った。
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「着いたぜ、ここが展望室だ」
「ガラスのすぐ向こうが宇宙空間だなんて、まるで夢みたいだ」
転移装置から降り立ったピンゾロが壁面の大きな窓に親指を向け、吸い込まれるように近付いた斑辺恵は目を輝かせる。
「ようやく表情に余裕が出て来ましたね、斑辺恵様」
「え? 自分はそんなに……?」
隣に並んだ焔巳が微笑み掛け、斑辺恵は慌てて自分の頬に手を触れた。
「はい、ずっと思い詰めた表情をしておりました」
「たぶん、新しい技が浮かばなくて焦ってたんだと思う」
複雑な表情と共に頷いた焔巳がそのまま俯き、しばし頭を掻いた斑辺恵は曖昧な笑みを返す。
「ですが斑辺恵様は先日、新たな攻撃を使ったではありませんか」
「あれだって結局は、イマジントリガーの範疇を越えてないよ」
「翔星ちゃんのオーバーサークルとは根本的に違うのよね~」
手のひらに記録映像を浮かべた焔巳に斑辺恵が静かに首を横に振り、後ろでピンゾロも硬く握った自分の右手を見詰めながら頷いた。
「だから、あれは……」
「おーい……」
続いて窓に近付いた翔星が口を開くが、遠くからの呼び声が言葉を遮る。
「ん? 誰か呼んでる?」
「ふっ、意外な再会もあるもんだ」
振り向いたピンゾロに続いて声の主を確認した翔星は、小さく肩をすくめた。
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「やっぱり翔星か」
「久し振りだな、聡羅」
手を振りながら近付いて来た白い詰襟の制服に身を包んだ銀髪の男、期雨聡羅に翔星も手を振って返す。
「この間の政之といい、随分と偶然が続くのね~」
「地球から来た異能者には物珍しい場所だ、知り合いと再会する確率も高くなる」
続けて手を振ったピンゾロが呆れ気味に頭を掻き、翔星は施設内を見回してから冷静に持論を展開した。
「相変わらずひねくれてるわね、サイカのマスターは」
「特異な視点と発想に我々は何度も助けられた、カーサの称賛も独特」
聡羅の隣で大袈裟に首を横に振った少女型の輝士械儕、カーサに手のひらの記録映像を見せたサイカが右手を口元に当てる。
「別に褒めてないわよ! でもマスターを支えるのは、いい心掛けね」
「ところで、2人だけ? 他のみんなは?」
思わず声を荒げたカーサが平静を取り戻して肩にかかる黄褐色の髪を掬うように払い、軽く周囲を見回していたピンゾロはタイミングを見計らって聞き返した。
「あいつらとは最初の休日に来たからな、今日はカーサと2人きりだ」
「マスターに頼んで、連れて来てもらったのよ」
軽く頭を掻いた聡羅が曖昧な笑みを浮かべ、カーサは隣で胸を張る。
「カーサは甘えん坊」
「あたしは法師型だから、星読みが新しい技のヒントになるのよ!」
口に手を当てたサイカがからかうように目を細め、顔を赤くしたカーサは大声を上げて黒と黄に色分けしたチューブ状のガジェットテイルを逆立てる。
「星読み?」
「Sランク魔法使いのオリジナルが保有していた天文施設のデータと推測」
聞き慣れない言葉にピンゾロが首を傾げ、サイカは手のひらにアーチ状の屋根の画像を浮かべた。
「そうよ。貴重な初代異能者の記録、必ず役立てて見せるんだから」
「偉いね~……サイカちゃんも南方剣士に剣術を習ってたし、もしかしてコチョウ先生や焔巳ちゃんも?」
平静を取り戻したカーサもサイカと同じ画像を手のひらに浮かべ、頭を撫でようとして睨み返されたピンゾロは手を引っ込めながらぎこちなく振り向く。
「うむ、その時が来たら見せるかの」
「どうやら、そっちの輝士械儕も新しいステージに上がってる最中みたいね」
腕組みをして笑いを堪えたコチョウが軽く頷き、カーサは満足そうに頷いてから大きく胸を張った。
「お互い、今はまだ再会を祝す時では無いようじゃな」
「はい、積もる話は次の機会にいたしましょう」
腕組みを解いたコチョウが腰へと手を移してから静かに首を振り、焔巳も丁寧な仕草でお辞儀をする。
「そうね、今度はまたドーナツでも食べに行きましょ」
「再会を楽しみにする」
髪を掬って払ったカーサにサイカが淡々と頷き、翔星達は展望施設を後にした。
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「カーサちゃん達も頑張ってるんだ、俺ちゃんも気合を入れないとな」
「そもそもあれは、俺が異能輝士隊を出る時に必要だと思っただけだ」
「ん? どゆこと?」
戻って来た宿舎の食堂に入ると同時に大きく伸びをしたピンゾロは、疲れ切った様子で椅子に腰掛けた翔星に聞き返す。
「あの頃の俺は、例え輝士械儕でも女の子を戦いに巻き込みたくないと思ってた」
「そこは自分も同じだ」
「俺ちゃんも、そうだったな」
自嘲気味に目を閉じた翔星がLバングルに輝士械儕の立体映像を浮かべ、頷いて椅子を引き摺って来た斑辺恵に続けてピンゾロも頷く。
「次だ。属性を偽ってFランクに認定されれば、俺が巻き込んでしまう輝士械儕はいなくなると考えた」
「そこも同じだ」
「確かに、そう考えてたね~」
Lバングルの映像を切り替えた翔星が指先に小さな闇を灯し、手のひらに小さな爆風を起こした斑辺恵に続いてピンゾロも力強く拳を握った。
「その先だ。どうしても誤魔化し切れず、本当の属性がバレそうになったら逃亡も視野に入れてた」
「漠然とだけど、それも考えてたな」
「最後の手段として、頭の片隅にはあったかもね~」
慎重に肩をすくめた翔星がLバングルに本部の立体映像を浮かべ、斑辺恵とピンゾロは曖昧に頷きを返す。
「そこなんだよ。異能者と輝士械儕の追跡を躱す手段が必要になると考えた俺は、密かにオーバーサークルを編み出していた」
「あ~……そこまでは考えてなかったな」
「捕まったらそこまで、輝士ちゃんと戦うなんて思い付きもしなかったぜ」
立体映像を指で弾いて回した翔星が腰のRガンに手を当て、斑辺恵とピンゾロは複雑な笑みと共に首を横に振る。
「やっぱりそこら辺に違いが出て来たか」
「でも逃げ切るための準備までしてたなんて、さすがは翔星先生だぜ」
納得しながらも複雑な表情を浮かべながら頭を掻いた翔星がため息をつき、ピンゾロは肩を大きく震わせて笑った。
「わしらから見れば五十歩百歩じゃがの」
「可愛らしくて、よろしいではありませんか」
隣のテーブルに移動させていた椅子に腰掛けていたコチョウが大袈裟に首を横に振り、向かいに座った焔巳は慈しむように目を細める。
「今から思えば若気の至りだったのは自覚してるよ」
「まだ若いではありませんか。サイカさんとは、これからですよ」
「円刃の目的も理解した、やはり貴官の優しさは不器用」
額に手を当てて盛大にため息をついた翔星に焔巳が釘を刺すかのように微笑み、胸元に手を当てたサイカは口元を綻ばせながら頷く。
「ぐっ……勘弁してくれ」
「あらあら、着実に進展しているようで何よりです」
言葉を詰まらせた翔星が逃げ出すように視線を逸らし、焔巳はサイカと翔星を交互に見ながら満面の笑みを浮かべた。
「とにかく!……これで俺を真似る必要が無いって分かっただろ?」
「逆だよ、翔星先生。おかげで俺ちゃんの編み出すものが見えて来たぜ」
「ふむ、それは興味深いの」
空気を変えようと激しく頭を掻いた翔星に首を振ったピンゾロが決意の眼差しを伏せるように片目を瞑り、コチョウは隣から身を乗り出す。
「自分もだ。焔巳さん、少し手伝ってくれないかな?」
「かしこまりました。訓練はもちろん、終わった後も丁寧にお世話しますね」
「そっちは控え目にしてくれると嬉しいかな?……」
決意を固めて振り向いた斑辺恵に焔巳が獲物を狙う猛禽類の如く鋭い眼光を隠すように微笑み、一同はそれぞれの決意を胸に食堂を後にした。




