第95話【ツケを増やしたのは、元Fランクの風使い】
宿舎に設置された訓練装置を起動した翔星達は、
情報を物質化した訓練用の硼岩棄晶を難無く駆除した。
「翔星さんとサイカさんが戻って来ましたよ」
「おかえり~、お熱いようで何よりだ」
黒い額当てに意識を集中した焔巳が肩を掴んでひとつに重なった人影を指差し、大きく手を振って迎えたピンゾロはからかうような笑みを浮かべる。
「硼岩棄晶の全滅を確認、任務終了と判断」
「あらら、マジレスかよ……あの程度じゃ物の数でも無いってか?」
無駄の無いスムーズな動きで着地したサイカが淡々と報告し、力無く笑ったピンゾロは芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「ちょうどいい肩慣らしだったぜ」
「こっちもマジレスかよ、並の異能者なら相当苦戦する数だったぞ?」
サイカに解放された翔星が肩を軽く回しながら余裕の笑みを浮かべ、ピンゾロは呆れた様子で聞き返した。
「確かに、ここまで統率の取れた動きは厄介だったね」
「前半のリザード級とバイソン級は俺ちゃん達が遭遇した大発生にそっくりだ」
Lバングルを操作した斑辺恵記録映像を出し、ピンゾロもLバングルを操作して過去の記録と照らし合わせる。
「おそらく後半は、聡羅達が対峙した組み合わせだろうな」
「過去の遭遇事例を参照していると推測」
続けてLバングルを操作した翔星も一覧から該当の記録を浮かべ、サイカは手のひらに画像を浮かべて淡々と推測した。
「なるほど、これなら本番まで退屈しないで済みそうだ」
「まさか連続で使う気か?」
「実戦訓練終了後は戦闘時の各種分析を推奨」
浮かべた記録画像を指で弾いてスライドさせた翔星が口元を緩め、戦慄するピンゾロに割って入るようにサイカが窘める。
「さすがはサイカだ、さっそくさっきの訓練を見直すとするか」
「あ~あ、互いに毒されちゃってるよ」
手放しで感心しながらサイカの頭を撫でる翔星にピンゾロが呆れて肩をすくめ、一同は宿舎へと戻って行った。
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「コード確認、モニター展開。ミーティングモードに移行」
「食堂にこんな机を隠してたなんてね~」
「しかもモニターになってるなんて、まるで秘密基地だ」
手のひらに鍵の画像を浮かべたサイカの言葉に合わせて食堂の中央に巨大な机が現れ、ピンゾロと斑辺恵は映し出された宿舎周辺図を眺めながら両側面に立つ。
「実戦訓練時の動作を再生する」
「それぞれを記号にすると、ここまで分かりやすくなるのか」
机の正面に立ったサイカが青と赤に分けた三角形の光を周辺図に映し出し、光の意味に気付いた斑辺恵は深々と頷いた。
「なるほど、こういう風に展開してたのね」
「何じゃと? お主は見えておらなんだか?」
「俺ちゃん、索敵は独学だけど苦手だからね~」
腕組みをして頷いたピンゾロは、隣で呆れるコチョウに手を振って笑みを返す。
「では見えない範囲の硼岩棄晶にはどう対処しておるのじゃ?」
「漠然とした空気の振動は分かるけど、ほとんど勘だぜ」
画面片隅に集まる赤い光をコチョウが指で囲いながら聞き返し、ピンゾロは手のひらに小さな風を起こしてから首を横に振った。
「それでよく、1人で生き残れたのう」
「異能力に頼らない実戦のノウハウを蓄積、と電子天女は推測」
呆れながら腕組みをしたコチョウが大袈裟にため息をつき、サイカは手のひらに簡便なレポート画像を浮かべる。
「それではまるで、記録に残っている武術の達人みたいではありませんか」
「まさにSランク魔法使いの再来だね」
驚きの声と共に焔巳が古文書のような手のひらに画像を浮かべ、斑辺恵は少年のように目を輝かせる。
「俺ちゃん独学だから、そんな大層なものじゃないって」
「独学でも生き残れば本物じゃ、よく頑張って来たの」
思わぬ称賛に戸惑うピンゾロの横でコチョウが机に膝を乗せて手を伸ばし、ピンゾロの頭を優しく撫でた。
「勘弁してくれ……とにかく先に進めようぜ」
「とはいえ、圧倒的なワンサイドゲームだったからね」
「何も苦戦しませんでしたし、どこに注目すれば」
頭を掻いて誤魔化したピンゾロがモニターを指差し、瞬時に消えていく赤い光を指差す斑辺恵に続いて焔巳も首を傾げる。
「いや、あるぜ。翔星先生の動きだよ」
「ふむ、今までの跳躍よりも速くなっておるの」
慌てて汗を拭ったピンゾロがひときわ速く跳び回る青い光を指差し、コチョウも大きく頷く。
「これも例のジャンプの賜物か?」
「発想跳び。今後はこの呼称を使うよう、電子天女より通達」
「名前はともかく効果は本物だって分かっただろ?」
青い光を目で追った斑辺恵が視線を落とし、手のひらに映像を浮かべたサイカに並んだ翔星が複雑ながらも自信に満ちた笑みを返した。
「この発想跳びを使いこなせば、捌ける数も範囲も増える訳か」
「早いうちに効果を証明できたのは収穫だ」
複数の赤い光を消す青い光を斑辺恵が注意深く観察し、翔星は内心の安堵を隠すように大袈裟に肩をすくめる。
「うむ。自分達の戦闘を客観的に見ると、新たな発見があるものじゃな」
「毎回こういう発見があるのかね~」
別の青い光を指差したコチョウが大きく頷き、ピンゾロは曖昧な表情を浮かべて呟く。
「無理に探す必要はない、あれば自ずと見付かるだけだ」
「そりゃそうだ。とりあえず、これからは毎日がこの訓練なのね」
余裕の笑みを返しながら大きく両腕を伸ばした翔星に釣られてピンゾロも両腕を挙げ、そのままミーティングを終了した一同は机を収納して日常へと戻った。
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数日後、翔星達は幾度目かの模擬戦に挑んでいた。
『グギィアー!』
『『ギャギャギャ』』
訓練装置であるミストデバイスの起動と同時に巨木のような硼岩棄晶のデータを物質化したものが現れ、更に上から様々な果物の姿をした硼岩棄晶が降って来る。
「今回はトレント級にミックス級か」
「ある程度の注文は出来るけど、基本はランダムみたいなのよね~」
「数は厄介だが、所詮は居玉。取り巻きを駆除すれば道を切り開ける」
続々と増えるミックス級を前に複雑な表情を浮かべた斑辺恵にピンゾロが曖昧な笑みを返し、翔星は慣れた様子でRガンを構えた。
「方針はいいとして、誰が本丸に攻めるのじゃ?」
「一番近いのでいいだろ」
壁のように立ち塞がるミックス級をコチョウが指差し、翔星は全身のバネを溜めながら投げ遣り気味に返す
「ならば、自分が行く!」
「分かった。Rガン、ダブルファイア!」
『『ギョギャッ!?』』
周囲を見回した斑辺恵が爆風と共に跳び上がり、翔星は進路を塞ぐミックス級の群れに向けて闇と光を纏った熱線を交互に浴びせて散らす。
「通してもらうよ!」
『ギョェッ!?』
懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵が軽く振り、尚も進路を塞ぐオレンジのようなミックス級のコアを両断する。
「わしらも援護するぞ。ライドハーケン、シュート!」
「ええ。柩連焔刃、ニードルモード!」
『『ギョギャギャッ!?』』
口を開くと同時に衝撃波を蹴り飛ばしたコチョウに続いて焔巳が円盤から多数の火花の針を撃ち出し、コアを破壊されたミックス級が次々と消え去った。
「もらった!」
『グギィッ!』
ミックス級の壁を抜けた斑辺恵が竹とんぼの羽を振るが、トレント級は呻き声を上げるだけに留まる。
「浅かったか! もう一回!」
『グギァーッ!?』
咄嗟に空を蹴った斑辺恵が全く同じ所に向けて竹とんぼの羽を振り、コアを切断されたトレント級は断末魔の叫びと共に消え去った。
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「どうやらミックス級の駆除も終わったみたいだね」
「お疲れ様です、斑辺恵様。発想跳びも、だいぶ使いこなしていますね」
「ありがとう、でもちょっと焦ったよ」
竹とんぼの羽を振る手を止めた斑辺恵が周囲を見回し、水兵服に戻りながら労う焔巳に曖昧な笑みを返す。
「ですが、見事な機転でした」
「案外何とかなるもんだね、あっ……」
手のひらに記録映像を浮かべた焔巳が手放しで称賛し、照れ臭そうに視線を下に向けた斑辺恵は手にした竹とんぼの羽に視線を戻した。
「どうなさいました、斑辺恵様?」
「これなら翔星のオーバーサークルにも負けない威力の技が出来るかも」
映像を閉じた焔巳が心配そうに聞き返し、斑辺恵は決意に満ちた表情を返す。
「だから斑辺恵、あれはもう必要のない……」
「敵戦力は未知数、手段の増加は効果的と判断」
「サイカの意見も一理あるな、訓練に支障のない形でなら好きにすればいい」
複雑な心境を整理するべく頭を掻いた翔星は、横から外套を引いて来たサイカの言葉に頷いてから折衷案を出した。
「自主訓練は夜しかないか……」
「えー!? それでは寝室に戻るのが遅くなってしまいます」
Lバングルに浮かべたカリキュラムを確認した斑辺恵が小さな声で呟き、焔巳は大声で驚いてから小さく握った手を口元に当てて俯く。
「ごめん、多分疲れて寝ちゃうと思う」
「お気になさらず。私、楽しみは先に取って置くタイプですので」
しばし考えた斑辺恵は申し訳なさそうに愛想笑いを返し、気を落ち着かせるべく呼吸を整えた焔巳は穏やかな笑みを返した。
「ありがとう、必ず埋め合わせはするから」
「はい、楽しみにしていますね」
密かに安堵した斑辺恵がぎこちない笑みを浮かべ、焔巳は鋭い眼光を細めた目に隠して微笑んだ。
「焦らされる事すら自分の楽しみにするとは、焔巳殿はなかなかの策士じゃの」
「相当大きなツケになるな……武運を祈るぜ、斑辺恵先生」
深々と頷いたコチョウが笑いを堪え、ピンゾロは先を歩く斑辺恵の背中に複雑な視線を送った。




