第94話【割り切れなかったのは、元Fランクの異能者達】
訓練をサボって中心街に出たピンゾロは、
思わぬ再会と共に有用な情報を手に入れた。
「午後の訓練で試したい事があるって聞いたが、いったい何をするんだ?」
「へへっ、ちょっとした仕掛けをね」
翌日の昼食を終えた頃、草原に立った翔星の質問に手を振って笑ったピンゾロが地面を指差す。
「電子天女から許可が下りたぞ。ミストデバイス、起動じゃ」
『『……グルルゥ……』』
「なっ!? いつの間に硼岩棄晶が!」
上空を指差したコチョウが指を弾いて音を出すと同時に遠くから低いうなり声が響き、斑辺恵は慌てて身構える。
「落ち着けよ、こいつは電子天女が作った練習相手だ」
「うむ、データを物体化したものじゃな」
『『グルルゥ……』』
余裕の笑みと共に仕様書をLバングルに浮かべたピンゾロに続きコチョウも手のひらに解説用の立体映像を浮かべる間も、うなり声は着実に近付いて来た。
「どうやら『まて』が出来る手合いではなさそうだ」
「駆除そっちのけで雑談する異能者なんていないからな」
「起動したらすぐ開始なんて、何とも立派な実戦仕様ね」
腰のRガンに手を当てながら口元を緩めた翔星に斑辺恵が小さく肩で笑い、ピンゾロも呆れ交じりに全身のバネを溜める。
「低級硼岩棄晶の混合部隊、総数100」
「アント級が20、リザード、バイソン、ハウンド、キャンサーが15じゃな」
「あとはバット級とワーム級が、それぞれ10ですね」
ネコ耳付きの髪留めからバイザーを下ろしたサイカが土煙を上げる大群を捉え、小型のドローンを浮上させたコチョウと黒い額当てを巻いた焔巳も分析を終えた。
「キリのいい数字なのはシミュレーターだからかね~」
「にしても、100を6で割るのは面倒だね」
「難しく考える必要はない、早い者勝ちだ」
指折り数えて呆れるピンゾロに斑辺恵が複雑な笑みを返し、涼しい顔でRガンを抜いた翔星は両足の靴底に意識を向ける。
「いったん宿舎に退く手もあるぞ?」
「この体の異能者、個体名時影翔星は単独でも駆除を開始する」
「言おうとした事を全部言いやがって……まあいい、行くぞ」
正面を見据えたまま後ろへと親指を向けたコチョウにサイカが静かに首を振って返し、小さくため息をついた翔星はRガンを地面に撃った反動で跳び上がった。
▼
「Rガン、ダブルファイア!」
『グェ!』
宙を蹴りつつRガンを構えた翔星が引き金を素早く2回引くが、放たれた熱線は二足で立つ巨大なトカゲのような硼岩棄晶の円盤型の前足に弾かれる。
「リザード級の盾を前面に出して防御を固める作戦か」
「下がっておれ! ドライブキック・熱風重力返しじゃ!」
距離を取って着地した翔星が円盤を構えて並ぶリザード級を睨み、マフラーから翅状の機器を広げて追い越したコチョウが回し蹴りを放って空気を震わせる。
『『グェェ……ッ!?』』
「逃がすかよ!」
『グェァ……っ!?』
弧を描いて広がる衝撃波に首のコアを砕かれたリザード級が次々と消滅し、逃げ延びたリザード級に踏み込んだピンゾロは首を掴んでコアを力任せに捻り潰した。
「見事だね、ピンゾロ。自分も負けてられな……!?」
『『ブモォ!』』
「卍燃甲展開!」
遅れて着地した斑辺恵に向かって牛のような雄叫びと共に稲妻が光り、間に入るように飛んで来た黒い円盤が稲妻を弾く。
「助かったよ、焔巳さん」
「本来はリザード級が防御、バイソン級が電撃で攻撃する役割だったのでしょう」
「敵もなかなか考えてるようだね。今度はこっちから行くよ、パームブラスト!」
前方を警戒しながら後ろへ手を振った斑辺恵は、3枚の黒い円盤を浮かせながら前へと躍り出た焔巳の頭を越すように跳び上がって手のひらから爆風を放った。
『『ブルルッ!?』』
「遅いよ」
爆風によりバランスを崩したバイソン級に踏み込んだ斑辺恵は、竹とんぼの羽を懐から取り出して素早く振る。
『『ブモァ……ッ』』
「まずは4体、残りは……」
「柩連焔刃、ニードルモード!」
高圧縮した炎の刃にコアを焼き切られた4体のバイソン級が同時に倒れ、周囲を見回す斑辺恵の頭を飛び越した焔巳が手にした円盤から無数の火花の針を飛ばす。
『『ブモモモァーッ!?』』
「あはは……やっぱり焔巳さんに持ってかれたか……」
火花の針にコアを焼き貫かれた残りのバイソン級が一斉に消滅し、斑辺恵は肩を落としながら複雑な笑みを浮かべた。
「油断するなよ、斑辺恵ちゃん。そいつらは囮だぜ」
「分かってる。ここまで教本通りだと、ある意味感心するよ」
短く肩を回したピンゾロが全身のバネを溜め、斑辺恵も軽く体を解してから手のひらに意識を集中する。
「盾と電撃の正面突破、失敗した時は側面から別働隊が挟撃」
「結構速いな……このまま、ここで迎撃するか」
バイザー越しに周囲を確認したサイカに頷いた翔星がRガンを構え直し、一同は各自の装備を確認しながら迎撃態勢を整えた。
▼
『『アギギョギョ!』』
「上にはバット級……」
『『グルルゥ……』』『『キェー……』』
「左右にアント級とワーム級と来たか、完全包囲だね~」
空を覆う巨大なコウモリ型硼岩棄晶の群れを指差したピンゾロは、左右から迫る巨大なアリ型と頭に硬殻を持つ筒状の硼岩棄晶を指差して肩をすくめる。
『『キィェェエエー!』』
「おっと! ちょうどいい、久し振りに行くよ! パームブラスト!」
『『キョェーッ!?』』
鎌首をもたげたワーム級が頭殻から一斉に棘を撃ち出し、後方に跳んだ斑辺恵は着地と同時に地面を蹴って前方に跳びつつ両手のひらから空気弾を交互に放つ。
『『アギャギャギャーッ!』』
「逃がさねえぜ、真空金剛散弾!」
『『アギョッ!?』』
飛膜から針を飛ばしてから転進したバット級を見据えたピンゾロが両手のひらに集めた空気を圧縮し、散弾のように投げてバット級の飛膜に無数の穴をあける。
『『グァアッ!』』
「無駄だ。Rガン、ダブルファイア!」
『『グエェェエッ!?』』
アント級が腹部から一斉に放った酸弾をあっさり躱した翔星はRガンの引き金を素早く2回引き、闇と光を混ぜた2本の熱線をアント級の群れに浴びせた。
「異能者同士の連携は完璧ですのね」
「言うても詮無き事じゃ、ピンゾロ達が作ったチャンスを無駄には出来ぬ」
足を止めて自動回復するアント級に焔巳が複雑な表情を浮かべ、静かに首を横に振ったコチョウは僅かに重心を下げて全身のバネを溜める。
「バット級は引き受けた、瑞雲起動」
「行ってしもうたな、わしらは地上部隊を駆除するぞ」
辛うじて宙に浮くバット級の群れを見据えたサイカが脚部装甲のノズルから光の粒子を放って飛び立ち、しばらく見上げたコチョウは地上に目を向け直す。
「ええ。斑辺恵様の思い、無駄にはしません」
「うむ、動く前に駆除するぞ」
「ふっ、また出遅れちまったか」
地上で自動再生を待つ硼岩棄晶に狙いを定めた焔巳とコチョウが同時に身構え、翔星は自嘲気味に笑みを浮かべた。
▼
「虎影灯襖虚、起動。瑞雲、出力上昇」
『『アギギョーッ!?』』
ガジェットテイル先端の懐中電灯から光の刃を伸ばしたサイカが縦横無尽に飛び回り、飛膜の再生を待ちながら辛うじて飛び続けるバット級を次々に切り伏せる。
「バット級は作戦通りサイカ殿に任せて大丈夫なようじゃの」
「では、こちらにも行きましょう。柩連焔刃、カッターモード!」
安心した様子でコチョウが空を見上げ、焔巳は円盤から伸ばした細長い金属板を連ねた鎖を手にして炎の刃を纏った円盤を投げるように振り抜く。
『『グェエーッ!?』』『『キィーァッ!?』』
「陣形が崩れれば脆いものよのう。サイクロンマフラー、起動じゃ」
炎の刃にコアを切断された硼岩棄晶が次々倒れ、続けてコチョウがマフラーから翅状の機器を広げて飛び上がった。
『『グェ?』』『『キィエ?』』
「いい具合に固まってくれたの、ドライブキック・疾風プラズマ落としじゃ!」
損傷部を再生させながら見上げる硼岩棄晶に不敵な笑みを浮かべたコチョウは、閃光を纏いながら轟音と共に急降下する。
『『グェァーッ!?』』『『キィィァアーッ!?』』
「ここは大丈夫そうだな、ちょっと行って来る」
「お、行ってらっしゃ~い」
着地と同時に巻き起こった衝撃波に飲まれて消え去る硼岩棄晶を確認した翔星が草原の奥に向かって跳び立ち、ピンゾロは軽く手を振って見送った。
▼
「後詰めはキャンサーとハウンドか。まとめていただく、闇よ!」
『『グォッ!?』』『『アォーン!』』
草原の奥に着地した翔星は、緑色のカニと頭に布を巻いた犬のような硼岩棄晶に向けて左手を払って周囲を闇に包む。
「丸見えだ! まずはハウンド級」
『『ギャインッ!?』』
バイザーを掛けてRガンの銃口に闇の針を出した翔星は、靴底に張った異能力を足場に跳び回って闇の中に光るコアからハウンド級のものを狙って次々と貫いた。
「こんなものか、次は……ふっ、余計な事を」
「虎影灯襖虚起動、梠接射出」
残存戦力を確認した翔星が背後から迫る見知った気配に呆れつつも安堵し、闇の中へと飛び込んだサイカはガジェットテイル先端の懐中電灯から光の刃を飛ばす。
「台刻転、起動」
『『グォォッ!?』』
「ふっ。半分残すなんて、気が利くようになったもんだ」
『『グァッ!?』』
転移機能を起動したサイカが光の刃を瞬間移動させてキャンサー級のコアを線でつなぐように貫き、口元を緩めた翔星も跳躍を繰り返して残るコアを破壊した。
「よう、サイカ。早い到着だったな」
「索敵終了、周囲に敵影なし。帰還を推奨」
闇を消した翔星が手を振り、周囲の確認を終えたサイカは浮遊したまま翔星の両肩を掴む。
「まだ肩慣らしなんだが?」
「シミュレーターの起動は宿舎の周囲でのみ可能」
「分かったよ、まずは戻るか」
物足りなそうにRガンを腰に戻した翔星は、淡々と言葉を返すサイカに観念したような笑みを返して宿舎を指差した。




