第93話【再会したのは、元Fランクの怪力男】
別行動をとった翔星と斑辺恵は、
それぞれの輝士械儕と能力を確認し合った。
「それじゃ、連携の訓練とやらを始めますか」
「まずは異能者と輝士械儕の能力を再確認するようじゃの」
宿舎の正面玄関からしばらく離れた所でピンゾロが立ち止まり、コチョウは手のひらに浮かべたマニュアルを軽く読む。
「俺ちゃんの異能力は風ってだけで、他に説明のしようが無いぜ?」
「圧縮した空気を手や足に纏わせ、空気バネの要領で怪力にしておったのじゃな」
退屈そうに伸びをしたピンゾロが指先に一瞬だけつむじ風を起こし、手のひらに過去の戦闘記録映像を浮かべたコチョウは笑みを浮かべる。
「そゆこと、でもまさかコチョウ先生まで同じ武器を使うとは思わなかったぜ」
「うむ。ガジェットは空気ブレーキじゃからの」
「でもってテイルはバッタ、キックで繰り出す衝撃波は頼もしいねえ」
肩を震わせるように笑ってから空を見上げたピンゾロは、力強く頷いてから胸を大きく張ったコチョウに肩をすくめて返した。
「ガジェットテイル、起動じゃ。では軽く、おさらいと行くかの?」
「展開するとマフラーにベルト、まるで俺が憧れたヒーローだ」
白いハーブパンツを消して緑色のスパッツを穿いた姿に変わったコチョウが含み笑いと共に片足を上げ、ピンゾロは半ば呆れ気味に頷く。
「好きなものに余計なものを足してしまったかの?」
「そんな事はねえ、今はどっちも大切だ」
「正面から言われると、さすがに照れるの。とにかく説明に入るぞ」
腰の後ろへと手を回したコチョウは、目が合う高さまでしゃがんで微笑んだピンゾロに照れ笑いを返してから軽く咳払いした。
「よろしく頼むぜ、まずは偵察ドローンからか?」
「うむ。ベルトの左には偵察用の小型ドローン、ビジョンホッパーじゃな」
腰に手を当てて体を解したピンゾロが人差し指で空への軌道を描き、コチョウは左腰にぶら下げた筒に手を当てて頷く。
「ドローンをここまで小さく出来るなんて、やっぱり天女サマはすごいねえ」
「そうでも無いぞ。人間の知識と想像力が無ければ、何も作れなかったからの」
しばらく筒を眺めていたピンゾロが視線を上に逸らし、口元を緩めたコチョウは静かに首を横に振った。
「なら、そのベルトの機能は俺ちゃんの想像から生まれた訳ね」
「その通りじゃ。右側からは防御機能のタイフーンスティック、真ん中からは治癒機能のモルタルホイールを取り出せるようになっておる」
気恥ずかしそうに頭を掻いたピンゾロが視線をベルトに戻し、満足そうに頷きを返したコチョウはベルトの機能を次々と展開する。
「まさに夢のヒーロー揃い踏みだ、マフラーも決まってるぜ」
「このサイクロンマフラーには飛行機能の翅を仕込んでおるの」
曖昧な笑みを浮かべたピンゾロが首元に視線を移し、展開していたベルトを元に戻したコチョウはマフラーに手を当てて翅状の機器を広げる。
「でもって、極め付けがキックって訳か」
「うむ。このブーツ、ブレイキングホッパーは衝撃波を出せる仕組みじゃ」
「ああ、いつも世話になってるぜ」
続けて足元へと視線を向けたピンゾロは、翅を畳んでからブーツ側面に円筒形の機器を展開したコチョウに愛想笑いを返した
「何だか、心ここにあらずじゃの? まだ始まったばかりじゃぞ?」
「なあ、どうせなら町に行ってみないか?」
「最初からそれが目的で、宿舎の正面に回ったのじゃろ?」
心配そうに顔を覗き込んだコチョウは、慌てて後ろに歩きつつ宿舎を指差すピンゾロに安堵のため息をつく。
「ありゃりゃ、最初からバレてたのね」
「わしはお主がFランクの頃から見ておったからの、では行くぞ」
あからさまに視線を泳がせたピンゾロが誤魔化すように頭を掻き、会心の笑みを返したコチョウはガジェットテイルを収納してハーフパンツの姿に戻る。
「やっぱりダメか……って、えっ!?」
「何を呆けておる? 異能者の幸福は輝士械儕の活力じゃ」
「たはは……こいつは参ったね」
流れるままに肩を落とす途中で驚きの声を上げたピンゾロは、慈しむように目を細めたコチョウに複雑な笑みを返しながら宿舎へと向かった。
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宿舎から本部のある中心街へと転移したピンゾロとコチョウは、直接宇宙空間を臨める展望施設へと向かった。
「やはりここが気になっておったか」
「『板子一枚、外は宇宙』なんて、地球には無いからな」
施設の転移エレベーターから降りたコチョウが納得した様子で頷き、ピンゾロは壁面の大きな窓に近付く。
「硼岩棄晶に壊された文化の修復は進んでおるが、宇宙開発はまだじゃからの」
「仕方ないさ。足場を固めないと、どうにもならないんだし」
僅かに弱まった重力に体を浮かせたコチョウが舞い降りるように横に並び、ピンゾロは窓の外に広がる宇宙を眺めながら首を横に振った。
「ならばこの眺めは、異能者と輝士械儕の役得じゃの」
「違いねえ。この広大な空間を見てると、悩みなんて小さく思えて来るぜ」
「言っておくが、訓練をサボるのはこれっきりじゃぞ?」
同じ風景を見詰めながら目を細めたコチョウは、腕を組んで大袈裟に頷いたピンゾロにジト目で釘を刺す。
「分かってますよ、コチョウ先生……」
「おーい」
「ん? 誰か近付いて来るぞ」
愛想笑いを返したピンゾロは、遠くから自分を呼ぶ声に気付いて振り向いた。
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「やっぱりピンゾロか、久し振りだな」
「誰かと思ったら政之か、久し振りだな」
白い詰襟制服の上にカーキ色のコートを着た細身の男、蒔峯政之に気付いたピンゾロが手を振って返す。
「今日の訓練は休みだから、ツイナにせがまれてここに来たんだ」
「ボクの行きたいところを政之が聞いてくれるなんて、嬉しい限りだよ」
「よかったな、ツイナちゃん。ゼロ番街に来た日が早けりゃ、休日も変わる訳か」
照れ臭そうに頭を掻いた政之が隣に寄り添う紺色の水兵服とロングパンツを身に付けた輝士械儕のツイナに親指を向け、ピンゾロは曖昧な表情と共に頭を掻いた。
「ピンゾロは、いつこっちに来たんだい?」
「昨日だぜ、ちょいと抜け出して来た」
何の気なしに政之が聞き返し、開き直ったピンゾロは素直に答える。
「さっそくサボりとは、ピンゾロらしいね」
「ちょいと、肌に合わなくてね」
予想外の回答に面を食らった政之が納得した表情を浮かべ、ピンゾロは悪びれもせずに肩を震わせて笑った。
「初日の訓練か、ボクは政之との時間を満喫できたから言う事無しだったよ」
「うちのピンゾロには、まだ早いからの」
目を閉じて記憶を辿ったツイナが甘美な想い出を逃がさぬとばかりに両腕で自分自身を抱き締め、諦めにも似た笑みを浮かべたコチョウは首を横に振る。
「それなら、これを使うのはどうだろう?」
「ほほう、あの草原にはこんな機能まで備えておったのか」
抱擁を解いたツイナが手のひらに出したデータを送信し、受信したデータを手のひらに浮かべたコチョウは呆れ気味に頷いた。
「噂だとキッド・ザ・スティングは戦いが好きみたいだし、満足してくれるよ」
「ツイナが小官以外の異能者に興味を持つなんて珍しいな」
屈託のない笑みを返したツイナが手のひらに掲示板の画像を浮かべ、横から覗き込んだ政之は顎に手を当てて何度も頷く。
「キッド・ザ・スティングの輝士械儕はボクと同じ剣士型だと聞くし、どんな風に関係を築いているのか興味があるのさ」
「それは少し妬けてしまうかもしれないな」
手のひらの画像をサイカの立体映像に切り替えたツイナが目を細め、腕組みした政之は複雑な笑みを浮かべてみせる。
「ボクはどんな時でも政之が一番だよ」
「いや、すまない。少し意地悪してしまったよ」
「そんな顔しないでよ、政之のこんな可愛い一面が見られたんだから」
目を閉じて静かに首を振ったツイナは、慌てて弁明する政之の顎を指で軽く持ち上げて見つめ合う距離まで顔を近付けた。
「ごちそうさん。お邪魔虫はさっさと退散するから、あとは2人でごゆっくり~」
「もう、帰るのかい?」
肩を大きく震わせて笑ったピンゾロが背を向けて手を振り、ツイナは政之の肩を両腕で抱き寄せながら聞き返す。
「せっかく教えてもらった機能じゃ、明日には試せるようにしておきたいからの」
「そう言う事なら、武運を祈ってるよ」
手のひらに浮かべたデータを眺めたコチョウが静かに頷き、ツイナは政之の頭を左腕で押さえ込んだまま右の親指を立てる。
「いつも思うけど、絶対に負けられない気分にさせられるよ」
「へへっ、お互いにな」
ツイナの腕から抜けられないままの政之が慎重に手を振り、肩で笑ってから手を振ったピンゾロはコチョウに袖を引かれて展望施設を後にした。




