第92話【双丘に囲まれたのは、元Fランクの風使い】
宿舎周辺の確認を終えた翔星達は、
各々の輝士械儕と共に次の訓練に備えた。
「さて、異能者と輝士の連携って何をすりゃいいんだ?」
「マニュアルによると、まずは貴官の異能力を再確認」
宿舎の側面を遥か遠くに見据える場所に移動した翔星がLバングルに手を当て、横から裾を引いたサイカはマニュアルを手のひらに浮かべる。
「俺の? もう教えてるし、省略しないか?」
「マニュアルに省略の記載は無い、続行を推奨」
Lバングルから手を離した翔星が誤魔化すように愛想笑いを浮かべ、静かに首を振ったサイカは真剣な眼差しを返した。
「こういうところは融通が利かないんだよな、簡単に済ませるぞ」
「了解した」
「まず異能力の属性は光だが、俺は明度を0にして闇として使ってる」
返す言葉が出て来ずに頭を掻いた翔星は、敬礼してから真剣に見詰めるサイカに複雑な笑みを返しながら指先に灯した光の球の明るさを徐々に下げる。
「この闇を広げれば、硼岩棄晶の視界を奪うと同時にコアを光らせる事が出来る。まあ、こんなものか?」
「イマジントリガーについての説明を要請」
「闇を凝縮した針で光るコアを貫いて破壊する。これでいいだろ?」
左手を払って広げた闇をすぐに消した翔星は、距離を詰めて来たサイカから半歩後ろに下がりつつ抜いたRガンの銃口に闇の針を作り出した。
「円刃についての説明も要請」
「オーバーサークルは輝士と敵対する可能性を考えて編み出した、今にして思えば若気の至りだよ」
満足そうに頷いたサイカが手のひらに記録映像を浮かべ、翔星は闇の針を出したままのRガンをしばらく指で回してから止めて自嘲の笑みを浮かべる。
「樹海の探索では大いに助かった」
「硼岩棄晶にはオーバーキルだし、出番はもう無いかもな。とりあえず終わりだ」
手のひらの映像を消したサイカが敬礼し、Rガンを戻した翔星は解放感を味わうように全身を大きく伸ばした。
「貴官の記録は個別領域に保管した」
「結局それが目的だったのかよ……まあいい、選手交代だ」
敬礼を解いたサイカが手のひらに小箱の立体映像を浮かべ、思わず肩を落とした翔星は落ち着きを取り戻しながら手を振って返す。
「了解した」
「いや、ちょっと待て。何で服を脱ぐ必要があるんだ?」
「オプションデータを全て外してから説明するよう、マニュアルに記載」
再度敬礼をして裾丈の短いワンピース型の白い水兵服を消したサイカは、慌てる翔星にマニュアルを浮かべた手のひらを向けて淡々と答えた。
「そうか、サイカは服のデータが無かったんだな」
「貴官から受け取った服はこの体の宝物、大事にする」
視線を上に向けた翔星が記憶を辿り、サイカは白くて薄いインナーに隔てられただけの淡い胸の膨らみに手を当てて目を細める。
「分かったから、早く説明してくれ」
「了解。ガジェットテイル起動」
バイザー越しに周囲を確認した翔星が説明を促し、サイカはガジェットテイルの起動と共に随所に装甲を纏った姿に変わった。
「確かサイカは剣士型で、7種類の装備があるんだったな?」
「肯定。頭部は索敵機能のタイガーアイ、左腕部は治癒機能の龍仙光」
バイザーを外した翔星が指折り数え、軽く頷きを返したサイカはネコ耳の付いた髪留めから下ろしたバイザーを指差してから左の手甲に嵌めた青い球体を指差す。
「その2つには何度も助けられて来たな、次を頼んだぜ」
「了解。両肩部は行動予測機能の科戸、両脚部は飛行機能の瑞雲」
Lバングルに触れた翔星が記録映像を浮かべ、肩の装甲を指差したサイカは体を僅かに浮かせながら脚部装甲を指差した。
「予測と飛行にも助けられてたな、そういや光の壁はいつもどうしてんだ?」
「防御機能のフリーズフラッシュは背部装甲から全周囲に展開」
記録映像を切り替えた翔星が映像を一時停止して聞き返し、背を向けたサイカは装甲の一部分を点滅させる。
「ありがとな、ちょっと気になってたんだ。これで残り2つか」
「胸部装甲には転移機能の台刻転、この体の六連装の切り札」
「便利だけど、回数制限があるな。今後はこの機能を中心に鍛えるといいのか?」
Lバングルにメモ画像を浮かべた翔星は、正面に向き直って胸元の装甲へと手を当てたサイカの説明を聞きながら考え込む。
「次の説明に移る。攻撃機能の虎影灯襖虚はテイルの先端」
「光の刃で斬るだけかと思ったら刃を飛ばせるなんてね、中々に頼もしいぜ」
胸元の装甲から手を離したサイカがガジェットテイルの先端に付いた懐中電灯を握り、翔星はLバングルに浮かべた記録映像をサイカに重ねて頷いた。
「説明は以上、開始した状態に移行する」
「いや、そこは服を着てくれ」
敬礼したサイカが装甲を収納して白いインナー姿へと戻り、翔星は慣れながらも呆れた口調と共に手のひらを向けて首を横に振る。
「了解した。次の項目へ移行する」
「随分と地味だな、斑辺恵はともかくピンゾロはサボったりしないだろうな」
裾丈の短い白の水兵服を身に纏ってから敬礼したサイカが手のひらにマニュアル画像を浮かべ、翔星は複雑な表情と共に他の異能者が消えた方向を見据えた。
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「ここなら他の方々の目も届きませんよ、斑辺恵様」
「そ、そうだね……」
宿舎の裏手へと回り込んだ焔巳が眼光鋭く微笑み、斑辺恵は視線を泳がせながら慎重に頷く。
「たまには寝室以外もいいですね、心拍数がいつもより上がっていますよ」
「訓練だから! 焔巳さん、これは訓練だからね!」
獲物を狙う猛禽類のように目を細めた焔巳が手を伸ばし、胸元に柔らかな感触を受けた斑辺恵は慌てて後ずさりした。
「はい、まずは斑辺恵さまのお体を隅々まで調べましょう」
「何で脱がそうとするの!? 異能力の確認なんだから、このままでいいよね?」
更に踏み込んだ焔巳の指が斑辺恵の制服のボタンに絡み付き、悲鳴にも似た声を上げた斑辺恵は焔巳の手をそっと握って引き剥がす。
「あら残念、新しい刺激に悶える斑辺恵様を見られると思いましたのに」
「今は大事な時なんだ、終わるまでは寝室だけに……してくれないか?」
「かしこまりました、存分に癒せるようにしますね」
からかうように微笑みつつ口元に手を当てた焔巳は、慎重に首を横に振ってから小声で譲歩した斑辺恵にお辞儀をしてから満面の笑みを返した。
「とにかく!……異能力の説明から始めるよ。僕の本当の属性は炎だ」
「でも複雑な事情があって、風使いを名乗っていたのですね」
「ああ、炎を出す量や時間を調整して作った爆風を風に見せてたんだ」
考えを切り替えるべく頭を掻いた斑辺恵が指に小さな炎を灯し、手のひらに記録映像を浮かべた焔巳に頷きを返しながら手のひらに小さな風を起こす。
「その上、イマジントリガーの鎌鼬まで風に見せるのには感服いたしました」
「極限まで圧縮した炎を一瞬だけ出してコアを焼き切るのが僕の鎌鼬だからね」
手のひらの映像を切り替えた焔巳が手放しで称賛し、懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵は軽く振ってから口元を緩める。
「電子天女でさえも見抜けなかった異能力の操作は、お見事でした」
「でも僕はここまでだ、翔星のオーバーサークルみたいな技を編み出せなかった」
竹とんぼの羽を眺めていた焔巳が丁寧にお辞儀するが、斑辺恵は竹とんぼの羽を懐へと戻してから静かに首を横に振った。
「よろしいではありませんか、今のままで」
「え、焔巳さん!?」
全く自然な動作で斑辺恵の後ろに回り込んだ焔巳がそのまま抱き着き、斑辺恵は背中に当たる柔らかくも弾力のある感触に驚いて振り向く。
「斑辺恵様は私がお守りしますから」
「そ、そうだね……次は焔巳さんの能力を確認しようか?」
「かしこまりました、ガジェットテイル起動」
穏やかだが決意に満ちた微笑みを返した焔巳は斑辺恵がぎこちなく指差す正面に回り、黒い水兵服から裾丈の短い着物姿へと変わった。
「まずは熱源を探知するサーモピット、斑辺恵様とお揃いですね」
「僕の熱源探知は感覚的なもの、映像化出来る焔巳さんは頼もしいよ」
頭に巻いた黒い額当てを指差した焔巳が言葉に含みを持たせ、斑辺恵は首を横に振って恥ずかしそうに頭を掻く。
「私と斑辺恵様は同じ景色を見ている、今はこれだけで充分ですよ」
「そ、それはよかったよ……次に行ってみようか?」
胸元に手を当てた焔巳が感動を噛み締めるように目を閉じ、上ずった声で頷きを返した斑辺恵は慌てて話題を切り替えた。
「かしこまりました。次は防御機構の卍燃甲ですね」
「確か、熱で膨張させた空気の壁で攻撃を防ぐんだったね」
軽くお辞儀した焔巳が顔の前に3枚の黒い円盤を浮かべ、斑辺恵はしばらく上を向いて記憶を辿ってから聞き返す。
「はい。初めて仕組みを見抜かれた時の事は、昨日のように覚えていますよ」
「そ、そうだね……とりあえず、次の機能に移ろうか?」
満面の笑みと共に頷いた焔巳が自らの豊満な胸を抱き締め、後頭部によみがえる記憶を意識しないように頷いた斑辺恵はぎこちない笑みを返した。
「次は飛行機能の緋翼ですね、斑辺恵様を包み込む治癒機能も兼ねています」
「えー……っと、それは充分に理解してるかな?」
ガジェットテイルの根元から赤い翼状の機器を広げた焔巳が近付きながら両腕も広げ、斑辺恵はこめかみを指で掻きながら目を逸らす。
「続きは寝室ですね。あとは……攻撃機能の柩連焔刃ですね」
「火花の針を放つニードルモードに炎の刃で焼き切るカッターモード、遠近一体の頼れる武器だよ」
「ふふっ……さすがは斑辺恵様の想像力から生まれた武器ですね」
翼を畳んだ焔巳が縦に連ねた金属板の先端に円盤を付けた2本の機器を左右それぞれの手に取り、一転して堰を切ったように話す斑辺恵を慈しむように見詰める。
「昔から想像してた武器だから、つい……これで確認は終わりにしていいかな?」
「これが残っていますよ、斑辺恵様。罷ノ分、起動」
「うわぁ!?……」
我に返って気恥ずかしそうに頭を掻いた斑辺恵は、悪戯じみた笑みと共に3人に増えた焔巳に取り囲まれて思わず大声を上げた。
「「どうしました、斑辺恵様?」」
「囲まれると、やっぱり目のやり場が……」
「ふふっ、初めてお逢いした頃から変わっていませんね」
左右の焔巳に抱き着かれた斑辺恵が腕に吸い付くような豊満な谷間を意識しないように目を泳がせ、1人に戻った焔巳は口元に手を当てて目を細める。
「そういえば焔巳さんも、あの頃から変わってないね」
「私は斑辺恵様のために生まれた輝士械儕ですから」
「ようやく、焔巳さんの言葉の意味が分かったよ」
柔らかく弾力のある拘束から解放されて複雑な笑みを浮かべた斑辺恵は、丁寧な仕草でお辞儀をした焔巳の瞳を真剣な眼差しで見詰めた。
「私も斑辺恵様に出逢えて幸せです」
「僕は随分と回り道しちゃったんだね」
心持ち頬を赤く染めた焔巳が満面の笑みを浮かべ、斑辺恵は恥ずかしそうに頭を掻いて俯く。
「よろしいではありませんか、これから取り戻せばいいのですから」
「ははっ……お手柔らかに頼むよ」
鋭い眼光を隠すように柔らかな笑みを返した焔巳が勢いよく抱き着き、斑辺恵は力無く肩を落としながらも覚悟を決めた笑みを浮かべた。




