第87話【遭遇を避けたのは、元Fランクの異能者達】
情報の整理を終えた翔星達は、
ゼロ番街に出発する準備を整えた。
「ところで、ゼロ番街に行くゲートはどこにあるんだい?」
「いつもの転移ゲートだ」
「入力可能な座標は大気圏外も含まれる」
訓練場を出てすぐ左右を見たピンゾロに頷いた翔星が上を指差し、サイカも手のひらに円環型のゲートの画像を浮かべる。
「だよな~、ある意味で安心したぜ」
「そいつは何よりだ、さっさと行こうぜ」
安堵の笑みを返したピンゾロが頭の後ろで手を組み、吹き出すのを堪えた翔星は近くの階段に親指を向ける。
「随分と急ぐね、何かあるのかい?」
「ゼロ番街行きが決まった者を本部に長く留まらせるのは危険じゃからの」
「ああ、どこから情報が漏れるか分からんからな」
怪訝な表情を浮かべて聞き返した斑辺恵に含み笑いを返したコチョウが軽く首を振り、翔星は否定する事無く頷いた。
「そう言う事でしたら今すぐ参りましょう、斑辺恵様」
「え、焔巳さん!? 腕に当たって……」
「お気に召しませんでしたか? では、両腕で抱きかかえましょう」
弾むように微笑んだ焔巳は、咥え込むように挟まれた腕を離そうとする斑辺恵に涼しい顔を返してから片腕を腰に回す。
「……いえ、このままでいいです……」
「かしこまりました、斑辺恵様」
逃げられないと知りつつも仰け反った斑辺恵がぎこちなく首を横に振り、焔巳は満面の笑みを浮かべて力強く抱き着いた。
「ピンゾロはどうしてほしいのじゃ?」
「どーせ逃げらんねーんだ、今はこのままにしてくれねーか?」
悪戯じみた笑みを浮かべたコチョウに制服の裾を引かれたピンゾロは、観念した表情と共に頭を掻いてから留め置くように手を重ねる。
「後回しは高くつくぞ?」
「覚悟はしてるけど、お手柔らかに頼んだぜ」
「うむ、楽しみにしておれ」
天井を見上げながら含み笑いを浮かべたコチョウは、複雑な笑みと共に再度頭を掻いたピンゾロに力強く頷いてから裾を僅かに引いた。
「ゲートルームまでのルート算出終了」
「ん? こいつは?」
「科戸とタイガーアイの同時起動、人と接触しないルート」
タイミングを見計らって手のひらに立体映像を出したサイカは、首を傾げて覗き込んだピンゾロに淡々と答えながら小さく展開した肩装甲を指差す。
「どこまでも徹底してるね~」
「それだけの大仕事なんだ、気合い入れろよ」
呆れつつ感心するピンゾロに翔星が大袈裟に肩をすくめ、一行はサイカを先頭に移動を開始した。
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「本当に誰にも会わずに来れちゃったよ……」
「まさかサイカさんにこんな特技があったなんてね」
キツネにつままれたような表情と共に周囲を見回したピンゾロがゲートルームに入り、続けて入った斑辺恵も複雑な表情を浮かべる。
「科戸の行動予測機能を強化、今は広範囲の予測が可能」
「ある程度のポイントが樹海で入ったからな」
「ドッペル級の本体とアント級の大群ですね」
最低限の機能のみ展開した肩の装甲を指差しながら部屋に入ったサイカに続いた翔星が肩をすくめ、ゲートを確認していた焔巳が手のひらに記録映像を浮かべた。
「今まで温存していたポイントも合わせてギリギリ強化出来た」
「おかげですっかりオケラだよ」
小さく頷いたサイカが手のひらに収支表を浮かべ、翔星は力を抜いた両手を軽く振る。
「これも貴官を護るため、この体があればポイントはまた稼げる」
「そうだな。だが、稼ぐのは俺だ」
「貴官の闘争心に今後も期待する」
胸元に手を当て微笑んだサイカは、腰のRガンに手を当てて不敵な笑みを返した翔星に期待の眼差しを敬礼と共に返した。
「よかったですね、サイカさん。きっと満足出来ますね」
「またその話かよ……」
両手で包むようにサイカの手を握った焔巳が目を細め、翔星は苛立ち紛れに頭を掻く。
「その様子ですと、まだ見付かっていないようですね」
「ああ。平時に役立つ闘争心なんて、皆目見当が付かんよ」
口元に手を当てた焔巳が悪戯じみた笑みを浮かべ、翔星は首を横に振って返す。
「必ず分かる時が来ますよ」
「そっか、期待しないで待ってるよ」
慈しむような眼差しをサイカへと向けた焔巳が柔らかく微笑み、翔星は投げ遣り気味に肩をすくめた。
「楽しみにしていますね。では斑辺恵様、未来の新居を見に行きましょうか」
「ちょっ!? 焔巳さん!?」
期待とも不敵とも取れるような微笑みを浮かべた焔巳は、勢いよく斑辺恵に抱き着く。
「未来の新居とは言い得て妙じゃな、わしらも良い物件があるか見てみるかの」
「日当たり良好、地球が見える窓付きとか?」
「ふむ、ピンゾロらしいの」
言葉選びに感心して腕組みをしながら頷いたコチョウは、おどけるように両手を広げたピンゾロに遠慮のない笑いを返した。
「お前らなあ、もう少し緊張感持てよ~」
「座標設定完了した、転移に移行する」
「サンキュー、サイカ。お前ら、まだ続けるなら置いてくぞ~」
2組の醸し出す雰囲気にため息をついた翔星は、ゲートの操作を終えたサイカに頷きを返してから出発を呼びかける。
「待ってくれ、すぐ行く」
「続きはゼロ番街でいたしましょう」
「ここまで来て、置いてけぼりは勘弁だぜ」
「うむ、何のためにここまで来たか分からぬ」
「安全確認、ゲート起動」
翔星の呼び声に慌てた4人が続々と集まり、一行はサイカの合図と共にゲートへ入って行った。
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「目的地への転移を確認」
「もう着いたのかい?」
ゲートから出ると同時にサイカが天井を見上げ、続けて出て来た斑辺恵が躊躇いがちに本部のゲートルームと代わり映えの無い部屋を見回す。
「どれだけ離れた宇宙でもゲートなら一瞬じゃからの」
「何だかあっけないな」
縫うように追い越したコチョウが腕組みをして頷き、斑辺恵は物足りなさそうな笑みを返した。
「それに何て言うか、地球と変わらんね~」
「地上に住んでた異能者と輝士械儕が越して来るからの」
僅かに離れたピンゾロが肩や足を交互に上げて自分に掛かる重力を確認し、手のひらに案内画像を浮かべたコチョウは爪先で床を2回ほど軽く蹴る。
「そりゃ理にかなってるけど、何か腑に落ちないな~」
「まだゲートルームしか見てないけど、ここが宇宙だって実感が湧かないよ」
大袈裟に手を挙げて首を振ったピンゾロが複雑な表情と共に頭を掻き、斑辺恵も地上と変わらぬ重力を両肩で確認しながら曖昧な笑みを浮かべた。
「ここの環境は、日常生活に支障が無いよう地球を完全再現」
「生まれ故郷を離れても特に気にならない寸法だ」
小さく頷いたサイカが地上と変わらぬ街並みの映像を手のひらに浮かべ、翔星は涼しい顔で肩をすくめる。
「やけに詳しいけど、謹慎中にこっちにも来てたのかい?」
「まさか、来るのは初めてだよ」
「電子天女より毎晩、ゼロ番街の情報を取得していた」
冗談めかして聞き返した斑辺恵に余裕の笑みを返した翔星が首を振り、サイカは上からデータが転送される図解映像に切り替える。
「おーいサイカさん、余計な事は言わないの」
「ほほぅ、毎晩とな」
「ええ、これは詳しく聞き出さないといけませんね」
映像に苦々しい表情を向けた翔星が誤魔化すように頭を掻き、コチョウと焔巳は同時に笑みを浮かべて興味を示した。
「今は関係無いだろ、いいから行くぞ」
「ん? どゆこと?」
「鈍いのう、異能者は電子天女と直接話せぬじゃろ?」
大きくため息をついた翔星が足早に出口へと向かい、呆然として聞き返したピンゾロにコチョウが含み笑いを浮かべる。
「確かに電子天女と対話できるのは輝士だけ……あっ!」
「ええ、私達も負けていられませんよ」
「い、今は遠慮してくれないかな?」
隣でしばらく考えていた斑辺恵が翔星の情報源に気付いて大声を上げ、腕に抱き着いて豊満な胸を押し当てて来た焔巳に複雑な笑みを返す。
「安心せい、今回も後払いじゃ」
「そりゃどーも、こっちに来ても苦労が絶えないね~」
含み笑いを浮かべたコチョウにため息をついたピンゾロが大袈裟に肩をすくめ、一行は順々にゲートルームから出て行った。




