第86話【重罰を受けていたのは、元Fランクの闇使い】
再襲来する硼岩棄晶の情報を得た翔星は、
ゼロ番街で迎撃する作戦を伝えた。
「ゼロ番街だって!? 随分と急だね~」
「ここを引退すれば行く場所じゃ、下見と思えばよかろう」
大声を上げたピンゾロが声のトーンを落として頭を掻き、腕組みしたコチョウは笑みに含みを持たせる。
「そりゃそうかもしれないけど。何て言うか……心の準備がね」
「ああ、さすがに駆け足な気がするよ」
「本隊の駆除は予想も付かない長丁場だ、早目に慣れた方がいい」
言葉を濁したピンゾロに斑辺恵がぎこちなく頷き、翔星は宇宙空間に並ぶ光球の画像をLバングルに浮かべながら首を横に振った。
「理屈は間違っちゃいねえな。それで、どれくらいが行くんだ?」
「本部には訓練生と事務職員だけを残す」
渋々納得したピンゾロが気持ちを切り替えがてら聞き返し、サイカは手のひらに出した異能輝士隊本部の立体映像に少数のヒト型画像を重ねる。
「総力戦って訳ね、こいつは絶対に負けられないな」
「訓練カリキュラムは順調に進行中」
「結界街は健在だし、万が一の時でも今まで通りにまでは挽回出来るはずだ」
小さくため息をついたピンゾロにサイカが手のひらの映像を切り替え、翔星も大鳥居に隔てられた結界街の画像をLバングルに浮かべた。
「ははっ、縁起でも無いな。こりゃ安心だ」
「気に入ってくれたようで何よりだ」
「ひとり頼もしい後輩がいるんよ」
しばらく画像を見詰めてから口元を緩めたピンゾロは、涼しい顔で肩をすくめた翔星にひとしきり笑ってからずれた眼鏡を戻す。
「個体名頼野和是、待機任務中に保護したと記録がある」
「ビンゴだ、サイカちゃん。和是なら俺ちゃんをあっさり超えてくれるぜ」
「そこまでピンゾロが言うなら安心だ、そろそろ輝士械儕も支給される頃か」
手のひらの画像を名簿へと切り替えたサイカにピンゾロが指をパチンと鳴らして片目を瞑り、翔星もLバングルにスケジュール表を浮かべて頷く。
「そいつは結構だが、何で翔星ちゃんがそこまで詳しいのよ?」
「言われてみれば、連行されてから今まで何してたんだ?」
「そうだな……まずはそこからか」
腕組みをして頷いてから眉を顰めたピンゾロに続いて斑辺恵も聞き返し、翔星は大きく伸びをしてから頷いた。
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「そもそも逮捕されたよな? 今はそんな雰囲気じゃないけどさ」
「憲兵輝士械儕に拘束及び連行されたのは事実」
頭を掻いて考えを纏めたピンゾロが話を切り出し、サイカは小さく頷く。
「そのまま椅子と机のある小部屋に連れて行かれたんだ」
「まるで取調室だな、カツ丼は食ったのか?」
「ある訳無いだろ、古典じゃないんだから」
闇を灯した指を動かして空中に簡単な絵を描いた翔星は、冗談めかして笑うピンゾロに肩をすくめて返した。
「それで誰にどんなことを聞かれたんだい?」
「担当は審判と同じ形のロボットだったし、簡単な聞き取りだけだったぜ」
入れ替わるように斑辺恵が聞き返し、翔星は隅まで移動した円筒形のロボットに親指を向ける。
「意外だな、ロボットだなんて」
「輝士はデータリアンから生まれた自我を保存する器だからな、どうしても面倒な感情が入るんだろうさ」
しばし部屋の隅を眺めた斑辺恵が複雑な笑みを浮かべ、翔星は隣に座るサイカに視線を落としてから静かに首を横に振った。
「そうか……どんな服を着てたのか、少し興味があったんだけどな」
「斑辺恵様?」
ため息をついた斑辺恵が誤魔化すように頭を掻き、覗き込むように顔を近付けた焔巳が怪訝な表情を浮かべる。
「そう言う意味じゃなくて、異能輝士隊の運用形態とかの好奇心であって……」
「かしこまりました。そろそろ趣向を変えないと、飽きてしまいますものね」
「焔巳さん!? な、何を言ってるのかな……?」
慌てて首を横に振った斑辺恵は、眼光鋭く微笑んだ焔巳に指で胸元を撫でられて小さく声を裏返らせた。
「ちょいと、おふたりさん。続きは帰ってからにしてくれねーか?」
「うむ、今はこっちの2人じゃの。それでサイカ殿は何を聞かれたのじゃ?」
「この体からは樹海での会話記録を提出」
呆れ気味に頭を掻いたピンゾロに頷いたコチョウが話を元に戻し、サイカは手のひらに音符の画像を浮かべる。
「まあ、お二人の秘密を明かしてしまったのですか?」
「翔星殿は承知したのか?」
「事後承諾だがな。聞かれて困るような話もしてないし、特に気にしてないぜ」
指を止めて振り向いた焔巳に続いてコチョウも複雑な表情を浮かべ、翔星は気に留める事も無く頷きを返す。
「電子天女には非公開の約束を取り付けた」
「うむ、それを聞いて安心した」
「聞き取りが簡単に済んだのも、サイカが先に記録を渡してくれたおかげかもな」
手のひらに浮かべた音声データに錠前の画像を重ねたサイカにコチョウが深々と頷き、翔星は慎重に言葉を選びながら照れ臭そうに頭を掻いた。
「関係は良好のようですね。私達も負けていられませんよ、斑辺恵様」
「え、焔巳さん!?」
満足そうに微笑んだ焔巳が斑辺恵へとしなだれかかり、胸の柔らかな感触を腕に受けた斑辺恵は再度声を裏返らせる。
「油断してたら進展しちゃって、あっちもそっちもどっちもこっちも」
「妬く事は無かろう? ピンゾロにはわしがおるのじゃから」
「ありがとよ、コチョウ先生……それより翔星、結局どういう罰を受けたんだ?」
大袈裟に首を振ったピンゾロは、鼻息荒く胸を張ったコチョウを軽くあしらって話題を切り替えた。
「謹慎と言う形で訓練所に入れられて、あとは今日まで訓練漬けだったよ」
「何か甘くないか?」
重厚な壁に囲まれた周囲を見回した翔星が腰のRガンに手を当て、斑辺恵は腕に当たる柔らかさから逃れるように身を仰け反らせながら聞き返す。
「言うなよ、外部との接触を遮断するのが重い罰だと考えてるんだから」
「何事にも例外があるって事ね、満喫したようで何よりだ」
鼻で笑った翔星が肩をすくめ、釣られて大笑いしたピンゾロは深呼吸をしてから片目を瞑って親指を立てた。
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「あまり大声では言えないが、電子天女にも余裕が無いのは事実だ」
「外宇宙から来る硼岩棄晶の大群じゃな」
周囲を見回した翔星が声を落とし、合わせるようにコチョウも小声で頷く。
「予測は大型プラント級を駆除した時に、予兆は樹海の探索中にあったそうだ」
「それでこっちも下準備が必要になった訳ね」
光球群の画像をLバングルに浮かべた翔星がトーンを戻し、ピンゾロはおどけるように肩をすくめる。
「メディア対策もあるから、まずは秘密裏に人員をゼロ番街に送っていたんだ」
「やけにシフトが減らないと思ったら、そういう事かよ」
「駐在員だった異能者をゼロ番街に送っておれば、数が合わぬのも道理じゃな」
説明を続けた翔星にピンゾロが納得した様子で頭を掻き、コチョウも手のひらに直近のスケジュール表を浮かべてため息交じりに頷いた。
「作戦は多岐に渡ってて全部は知らないが、俺が担当したのは戦力の底上げだ」
「それで赤い闘士の技を異能者でも使えるように改良したのですね」
軽く肩をすくめた翔星が話題を切り替え、複雑な表情を浮かべた焔巳は喉を軽く撫でた手を口元に移す。
「この訓練も、異能者を通じてメディアに流れるのは避ける必要があったからな」
「だから謹慎の名目で、翔星ちゃんに白羽の矢を立てたのね」
足元に目を向けた翔星が窓の無い壁を見回し、ピンゾロは腕組みをしてから呆れ気味に頷いた。
「当初は選別も含めて別の方法を考えてたらしいから、まさに棚からぼた餅だった訳だ」
「孤立させて反省を促すなんて建前をよく思い付いたものだね」
「ああ。大した強かさだよ、天女サマは」
計画を記した画像をLバングルに浮かべた翔星は、呆れ気味に感心する斑辺恵に冷めた目付きで頷きを返す。
「電子天女からゲート使用許可を受信、いつでも移動可能」
「やけに静かだと思ったら、準備してくれてたのね」
「そう言う事だ、まずはゲートに行こうぜ」
手のひらに許可証の画像を出したサイカが周囲に声を掛け、納得した様子で頭を掻いたピンゾロに頷きを返した翔星は地下訓練場の出口に親指を向けた。




