第85話【数に驚いたのは、元Fランクの怪力男】
再会してすぐ模擬戦を始めた元Fランクの異能者達、
結果は翔星の圧勝であった。
「まいったよ、ここまで強かったなんて」
「久々に本気で戦えたぜ、ありがとよ」
疑似コアを切断された首輪を取り外した斑辺恵がそのまま座り込み、翔星は緩む口元を噛み締めながらRガンを腰のホルスターに納める。
「お世辞でも嬉しいぜ、本当は余裕だったんだろ?」
「そのつもりだったが、結構ギリギリだったぜ」
外した首輪に指を通して回していたピンゾロがからかうように聞き返し、無傷の首輪を取り外して腰を下ろした翔星は静かに首を横に振った。
「俺ちゃん達も捨てたもんじゃないのね」
「それでも輝士械儕に勝ち星上げたのじゃ、相当の実力を身に付けておるの」
指で回していた首輪を腕に通したピンゾロが拳を握り、腕組みをしたコチョウは何度も頷く。
「油断だけではありませんでしたね、私も力不足を痛感しました」
「自分も、もっと訓練が必要だ」
外した首輪を両手で持った焔巳が思い返すように目を瞑り、斑辺恵は強い意志を込めた瞳で手にした竹とんぼの羽を見詰める。
「じゃが、今まで通りの訓練だけでは難しいかのう?」
「そうだぜ、あのメチャクチャな軌道は何だったんよ?」
重苦しい空気を振り払おうとしたコチョウが含みを持たせた笑みを浮かべ、ピンゾロは翔星が空中で何度も変えた軌道を指で再現しながら聞き返した。
「赤い闘士が使ってた炎の足場を参考に、闇の足場を作って跳んだだけだ」
「でも何も見えなかったぞ?」
赤い闘士との戦闘記録画像をLバングルに浮かべた翔星が足元広がる細い糸状のものを指差し、足元に視線を落としたピンゾロは首を横に振って返す。
「足場を周囲に張り巡らせたら身が持たないからな、必要な時だけ靴底に出した」
「その足場って、自分でも作れるのかな?」
静かに首を振った翔星が自分の靴底を指差し、斑辺恵は自分の靴底を眺めてから覚悟を決めた表情を浮かべて聞き返した。
「斑辺恵様!? 何もそこまで……」
「そこまでじゃ、焔巳殿。男子の覚悟を汲んでやらぬか」
「覚悟なんて大袈裟なものはいらないぜ、異能者でも使えるよう調整したからな」
思わず大声を上げてから俯く焔巳に手のひらを向けて止めたコチョウが柔らかな笑みを浮かべ、翔星は複雑な笑みを浮かべる。
「へぇ~、調整ね……いったい天女サマは俺達に何をさせたいんでしょ?」
「そうだな。サイカ、説明を頼む」
「了解した」
腕組みをしたピンゾロが天井を見上げ、翔星に手招きされたサイカは手のひらに画像を浮かべた。
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「この画像を参照」
「何だぁ? この光るタマタマ達は?」
「レディの前じゃぞ、もう少し『でりかしい』と言うものをだな……」
多数の光球が写った宇宙空間の画像を浮かべたサイカの手のひらを見詰めたピンゾロがおどけるように首を傾げ、隣でコチョウが小さくため息をつく。
「私は構いませんよ? いずれお世話になるのですから」
「焔巳さん!? い、今は大事な話の最中だから……」
「はい、続きは今夜にいたしましょう」
口元に手を当てた焔巳が眼光鋭く微笑み、逃げ出すように目を逸らした斑辺恵の視線を追いながら握った手の指をそっと絡めた。
「この空気、どうするんじゃ?」
「わるかったよ、この話は無しだ。サイカちゃん、話を進めてくれないかいな」
2人の様子を眺めていたコチョウがジト目で振り向き、両手を大きく払ったピンゾロは手のひらに画像を浮かべたまま待機するサイカに複雑な表情を向ける。
「了解。この画像はゼロ番街で撮影したもの」
「ただの天体観測じゃないんだよな?」
軽く頷いたサイカが説明を再開し、ピンゾロは慎重に聞き返す。
「太陽系外を最大望遠で撮影、通常の天体とは異なる反応」
「つまり、何者かの意思で作られたものなのね」
撮影地点を明かしたサイカがデータを追加し、ピンゾロは慎重に頷いた。
「電子天女は硼岩棄晶の群体と判断」
「何だって!? まさか、この光は地球から逃げたUFOと同じ奴なのか?」
「肯定。地球から逃亡した硼岩棄晶の10倍以上と推測」
手のひらの画像に解析の結果を重ねたサイカは、ようやく解放された手でLバングルに画像を浮かべた斑辺恵に淡々と頷いてから画像を切り替える。
「UFOがこれだけ雁首揃えちゃって、こいつは最終決戦になるみたいね」
「当面のな。硼岩棄晶の本星が分からない以上、完全決着にはならんよ」
サイカが手のひらに浮かべた画像を眺めていたピンゾロが大袈裟に頷き、翔星は複雑な表情と共に肩をすくめた。
「宇宙には多くの星があるからね~」
「惑星以外の可能性も考えられる」
「ますます無理な話になるのう」
腰に手を当てて大袈裟に頷いたピンゾロにサイカが小惑星帯の画像に切り替え、隣から覗きこんだコチョウは静かに首を横に振る。
「データリアンでも知らないの?」
「過去に記録無し、硼岩棄晶との接触遭遇は地球に来てから」
「宇宙はとんでもなく広大って、今ここで実感したよ」
思わず聞き返した斑辺恵は淡々としたサイカの説明に顔を引きつらせ、どうにか呼吸を整えてから言葉を絞り出した。
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「硼岩棄晶の大攻勢を察知したから、俺ちゃん達にも曲芸を仕込むって訳ね」
「多少の語弊はあるけど、大体その通りだ」
考えを纏めるべくピンゾロが頭を掻き、翔星は複雑な表情を浮かべながら頷く。
「確かに戦力の底上げにはなるけど、あの数相手だと焼け石に水じゃないか?」
「ああ、地球に降りたらひとたまりも無いだろうな」
指でなぞるように軌道を再現した斑辺恵が釈然としない様子で聞き返し、翔星は不敵な笑みを返した。
「人類は結界街の中に逆戻りか……」
「いや。一度大規模な外出許可を出した以上、すぐに撤回は出来ないそうだ」
Lバングルに大鳥居の画像を浮かべた斑辺恵が小さくため息をつき、翔星は諦め切った表情で首を横に振る。
「そんな!?……」
「撤回してもしなくも騒ぐメディアがいるからの」
思わぬ返答に斑辺恵が言葉を失い、コチョウは諦め切った表情と共に過去の報道記事を手のひらに浮かべた。
「ああ、本部を張ってる羽織ゴロ共に僅かでも気付かれる訳には行かない」
「それで手遅れになって人類見殺しなんて、シャレにもならないぜ?」
軽く頷いた翔星がLバングルに防犯カメラの映像を浮かべ、淀み切った目をした人影の群れを睨み付けたピンゾロは大きくため息をつく。
「安心しろ、作戦は秘密裏に進行中だ」
「これより作戦概要を送信する」
映像を閉じた翔星が余裕の笑みを返し、サイカは手のひらに浮かべたファイルを一斉に送信した。
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「地球に降りる前にゼロ番街で迎撃とは、随分と思い切ったものじゃの」」
「ん? コチョウ先生は天女サマから何も聞いてなかったの?」
「うむ、ここまで徹底的な箝口令は過去にも例の無い話じゃ」
受け取ったデータを読み終えたコチョウは、不思議そうな表情で聞き返したピンゾロに否定する事無く頷いてから情報統制を手放しで称賛する。
「ゼロ番街は最後の砦、メディアには絶対に知られる訳にはいかないね」
「敵を欺くには何とやら、とはよく言ったもんだぜ」
「確かに何も知らなければ、機密が漏洩する危険は無いでしょうね」
Lバングルに浮かべたファイルを閉じて頷いた斑辺恵に返すようピンゾロが頭を掻き、焔巳も無理矢理納得するようにファイルを閉じる。
「政府が包み隠さず発表しても、メディアが不安を煽るのは目に見えてるからの」
「市井との接点にワンクッション置いている異能輝士隊にしか出来ませんね」
不満を察したコチョウが肩をさすって宥め、焔巳は吹っ切れたように微笑んだ。
「地球のピンチと情報統制は理解したけどさ、俺ちゃん達はどうすりゃいいの?」
「電子天女の計算では、ゼロ番街と発光体の接触は1カ月以上先」
「なら、それまで地下で訓練かい?」
自分達を取り巻く現状を察したピンゾロは、カウントダウンを続ける数字を手のひらに浮かべたサイカに聞き返しながら大きく伸びをする。
「いや、ここは引き払う」
「それじゃどこ行くの?……まさか!?」
「ああ、ゼロ番街だ」
静かに首を横に振って返した翔星は、聞き返す途中で答に気付いて息を呑むピンゾロに悪戯じみた笑みを浮かべて上を指差した。




