第84話【軌道を変えたのは、元Fランクの闇使い】
本部に帰還と同時に翔星とサイカが連行されて1か月、
斑辺恵とピンゾロはブリーフィングルームに呼び出された。
「ここに来るのも久し振りな気がするね~」
「時間通りだな、鵜埜。斑辺もご苦労」
「このひと月、どこにも行けやしないからな」
異能輝士隊本部のブリーフィングルームに入ったピンゾロは、既に入室していた上官の充木に敬礼をしてから席に着く。
「あら? 何度も無断外出を未然に防いだと報告を受けていますが?」
「元気があるのは構わぬが、少しは気配りも欲しいところじゃの」
「まいったね、こりゃ」
充木の輝士械儕を務めるヒサノが手のひらに報告書を浮かべ、示し合わせたかのように隣の席で頷いたコチョウにピンゾロは立つ瀬がない様子で頭を掻いた。
「ピンゾロも落ち着きが無いな~」
「斑辺恵様もですよ、何度罷ノ分を使った事か……」
「いつも先回りされてると思ったら、そうだったのか……」
ひとつ前の席で軽く肩を震わせて笑い出した斑辺恵は、隣の席から微笑み掛けた焔巳と目が合って誤魔化すようにこめかみを指で掻く。
「まったく……時影の件で疑いが晴れるまでは我慢できんのか?」
「雑談はほどほどにして本題に入ろうぜ、充木隊長さんよ?」
2人の様子を眺めていた充木が大袈裟にため息をつき、愛想笑いから一転真剣な表情に変わったピンゾロは踏み込むように話題を切り替えた。
「そうだな、2人は時影の様子を見て来てくれないか?」
「翔星とサイカさんは謹慎中だったかと?」
「表向きは休暇中の出来事だったからな」
慣れた調子で本題を切り出した充木は、Lバングルに辞令画像を浮かべて質問を返した斑辺恵に複雑な表情を浮かべる。
「元々異能輝士隊は懲罰に慣れておらぬからの」
「輝士ちゃんは真面目だし異能者は少数精鋭だものな」
「電子天女も今回の裁定には苦心したそうです」
腕組みをして首を横に振ったコチョウにピンゾロが同調するように頷き、複雑な笑みを浮かべたヒサノも手のひらに会話記録を浮かべる。
「わざわざ呼び出すくらいだから、ただの陣中見舞いじゃ無いんでしょ?」
「それは行けばわかりますよ」
Lバングルで行先を確認した斑辺恵が立ち上がり、一行はヒサノが浮かべた意味深長な笑顔に見送られてブリーフィングルームを後にした。
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「謹慎って言うから部屋にこもってると思ったら、こんなところにいたんだな」
「地下にこんな訓練場があったなんてね」
本部地下の頑丈な壁に囲まれた部屋へと入ったピンゾロが周囲を見回し、続いて入った斑辺恵も向かい側の壁が遠くに見える広さに感心する。
「異能輝士隊の性質上、この手の地下施設は結構あるそうだ」
「措置は何となく分かったけど、ここで翔星ちゃんは何してたんよ?」
「南方剣士や赤い闘士と戦闘訓練をしてた」
訓練場の奥から出迎えた翔星は、興味の対象が移ったピンゾロに淡々と答えた。
「何だって!?」
「白い意識が保有していた戦力の解析は重要な任務」
予想外の返答に斑辺恵が思わず大声で聞き返し、ひと呼吸遅れて訓練場の奥から現れたサイカは手のひらにひと組の男女を模した立体映像を浮かべる。
「それで命令違反した翔星を選ぶとはね~」
「例え面従腹背でも利益を引き出せる自信があるんだろうさ」
無意識に全身を強張らせたピンゾロが慎重に訓練場を見回し、翔星は自嘲気味に冷たく鼻で笑う。
「いいのかよ、そんな事言って?」
「構わんさ、人の性格は簡単に変わらんよ」
「良くも悪くも手玉に取っちまって」
顔を近付けて小声で聞き返したピンゾロは、事も無げに肩をすくめた翔星に呆れながら頭を掻いた。
「それよりどうだ? せっかくだから手合せしてみないか?」
「いいけど、ルールはどうする?」
訓練場の奥に親指を向けた翔星が話題を切り替え、ピンゾロは腕まくりして聞き返す。
「以前の模擬戦で使った首輪の使用を申請する」
「硼岩棄晶のコアを疑似的に再現した首輪か。分かりやすくていいな」
「輝士も含めて人数分用意した、早く付けて始めようぜ」
球体の収まった首輪を身に付けた翔星は、納得した様子で頷いた斑辺恵に新たな首輪を手渡した。
「待ってくれ、チーム分けはどうすんだ? バトルロイヤルじゃないよな?」
「もちろんチーム戦だ。こっちは俺とサイカ、そっちは4人でいいだろ」
首輪を受け取った斑辺恵が躊躇いがちに聞き返し、翔星は不敵な笑みを返す。
「本気かよ!?」
「ああ、今の力量を試したい」
「相当の訓練を積んだのは理解したよ」
隣で思わず大声を上げたピンゾロは、涼しい顔で頷いた翔星に呆れる振りをして密かに口元を緩めた。
「ですが、私達は輝士械儕ですから人間を攻撃できませんよ?」
「この訓練場限定で停止解除プログラムの使用許可が下りた」
円形と斜線を合わせた停止マークを人型のシルエットに重ねた画像を焔巳が手のひらに浮かべ、ゆっくりと微笑みを返したサイカは指で触れて停止マークを消す。
「プログラムの受信を確認しました、電子天女がここまで用意するなんて」
「天女サマも粋なサプライズをしてくれたもんだ」
「まあ、そんなところだ。審判ロボを設定したら、持ち場に行くぞ」
しばらく天井を見詰めてから俯いた焔巳を気遣った斑辺恵が肩をすくめ、一同は部屋の奥に親指を向けた照星を合図に移動を開始した。
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『訓練開始!』
「パームブラスト! 悪いけど先手はもらった!」
「真空金剛散弾!」
円筒形のロボットが発した声と同時に斑辺恵が手のひらを翔星に向けて空気弾を放ち、ピンゾロも圧縮していた空気を散弾のように投げる。
「悪いが、まずは異能者からじゃ! ライドハーケン!」
「ですね! 柩連焔刃、ニードルモード!」
間髪入れずにコチョウが脚から衝撃波を放ち、焔巳も隙間を埋めるように両手に持った2枚の円盤から無数の火花の針を飛ばした。
「ふっ」
「なっ!? あれがブ空術の軌道かよ!?」
「Rガンであんな動きが出来るなんて、どんな訓練したんだ!?」
床にRガンを撃った反動で軽く跳び上がった翔星が空中で何度も軌道を変えつつ全ての攻撃を躱し、ピンゾロと斑辺恵は言葉を失い立ちすくむ。
「下がっておれ! ドライブキック!」
「おっと」
翅状の機器を広げたコチョウが飛び蹴りの体勢で急降下し、翔星はRガンを上に撃った反動で着地しながら躱す。
「かかりましたね! 柩連焔刃、カッターモード!」
「いいや、読み通りだ! オーバーサークル!」
「きゃっ!?」
呼吸を合わせて炎の刃を纏った円盤で斬り掛かった焔巳だが、軸をずらして踏み込んだ翔星が指でRガンを回した円刃を真正面から受けて小さく悲鳴を上げた。
「焔巳さん!?」
「申し訳ありません、斑辺恵様。ここで脱落です」
慌てて斑辺恵が駆け寄り、頭を下げた焔巳は疑似コアを斬られた首輪を外しつつ後方に下がる。
「翔星ちゃんってば、どんな訓練したんよ?」
「あの円刃を使いこなしたのじゃ、察しは付くじゃろ」
「迂闊に突っ込めば、焔巳さんの二の舞って訳だね」
番狂わせに慌てたピンゾロに目配せしたコチョウが先頭に立ち、竹とんぼの羽を懐から取り出した斑辺恵は隙を窺うように翔星の観察を続けた。
「さすがに警戒するか。サイカ、もう動いていいぜ」
「了解した、これより戦闘モードに移行する」
安堵のため息と共に口を緩めた翔星が振り向き、直立して待機していたサイカは重心を落とす構えを取る。
「なっ!? もしかして翔星ひとりで相手するつもりだったのか!?」
「それくらいの力は付けたつもりだったからな、ここからが本番だ」
思わず斑辺恵が大声を上げ、翔星は涼しい顔で肩をすくめた。
「虎影灯襖虚、起動」
「その構えは!? まさか南方剣士か!?」
翔星の前へと躍り出たサイカがガジェットテイルの先端に付いた懐中電灯を手に取り、コチョウは全身を強張らせながら聞き返す。
「肯定。南方剣士と訓練しながら身に付けた」
「データの取得では無く訓練とはのう、付け入る隙があると思いたいものじゃ!」
「まいったね~。散々手の内は見て来たのに、まるで対処法が浮かばねーや!」
先端から光の刃を出した懐中電灯を上に向けたサイカが左手を添え、腕組みして頷いたコチョウが飛び上がるタイミングに合わせてピンゾロが駆け出した。
「自分もだよ。でも、やるしかない!」
「鎌鼬か! だが!……!?」
後ろに向けた手のひらから爆風を放って踏み込んだ斑辺恵が振る竹とんぼの羽を躱した翔星は、反撃のために構えたRガンを床に向ける。
「ドライブキック・疾風プラズマ落とし!」
「おっと」
上からコチョウの雷のようなキックを落とし、翔星はRガンの反動で躱す。
「ならば、熱風重力返し!……」
「梠接、射出」
「ぬかった!」
着地と同時に重心を落としたコチョウだが、死角からサイカが飛ばした光の刃に首輪の疑似コアを破壊されてその場で崩れ落ちた。
「今だ!」
「させるか!」
無意識にコチョウを確認した隙を突いてピンゾロが踏み込むが、翔星はRガンの反動で空中を縦横無尽に跳び回りながら銃口から闇の針を出す。
「またその軌道かよ!?」
「パームブラスト! こうなったら翔星だけでも!」
「させない! 瑞雲、起動!」
躱し切れずに疑似コアを破壊されたピンゾロの死角から空気弾を放った斑辺恵が爆風の反動で踏み込み、飛行機能を起動したサイカは床面を滑って進路を塞ぐ。
「狙いはサイカだ!」
「了解した」
大声を上げた翔星がRガンを構え、自分の首元に迫った竹とんぼの羽を紙一重で躱したサイカは返す刀で斑辺恵の首に光の刃を振り抜く。
「このタイミングで気付くなんて、まいったね……」
『勝負アリ! 訓練終了!』
首輪の疑似コアを両断された斑辺恵が膝から崩れ落ち、審判ロボットの無機質な音声が訓練場に響き渡った。




