第83話【連行されたのは、元Fランクの闇使い】
白い意識との接触に成功した翔星達は、
任務を終えて帰還の準備を始めた。
「最強タッグは心強いけどさ、リーメちゃんは狙われてなかったかい?」
「確かにそうだ、硼岩棄晶にコピーされる危険は無いのか?」
双子のように並ぶリーレとリーメをピンゾロが交互に眺め、斑辺恵も心配そうな表情と共に聞き返す。
「もしコピーされたら地球は終わりなんだろ? 俺達も手伝うよ」
「輝士械儕に使用しているコピーガードを提供したので問題ありませんよ」
一瞬顔を輝かせた翔星が平静を装い協力を申し出るが、リーレは手のひらに立体映像を浮かべて説明してからやんわりと断った。
「やはり無理か……」
「そこまで露骨に残念がるなよ、休息も立派な任務だぜ?」
「これが最後の戦いかと思うと落ち着かないんだ」
力無く肩を落とした翔星は、複雑な笑みを浮かべた造酒に気恥ずかしそうな顔を返して頭を掻く。
「大した闘争心じゃの」
「ええ、翔星さんの闘争心は平和な世にこそ必要ですね」
腕組みをしたコチョウが呆れ気味に首を横に振り、焔巳も豊満な胸に手を沈めるように当てて深々と頷いた。
「どういうことだ? さすがに意味すら考えられないぞ?」
「ちと早かったかの? 今は休む事じゃ」
しばらく考えた翔星が雑に頭を掻き、小さく笑ったコチョウは背伸びをして諭すように翔星の背中をさする。
「結局それかよ、宇宙に逃げた本隊がいつ戻って来るのか分からないのに」
「だからこそですよ、翔星さん」
「うむ。明日かもしれぬし、100年後かもしれぬ」
大袈裟にため息をついた翔星を焔巳が真剣な眼差しで見詰め、コチョウも言葉に含みを持たせてから腕組みをする。
「100年後なんて手の打ちようが無いだろ」
「ありますよ、待機任務中に教わりませんでしたか?」
「待機任務?……嫌な事を思い出させるな」
腰のRガンと自分の手を交互に見詰めた翔星は、自信に満ちた微笑みを浮かべた焔巳の言葉に苦い顔を返した。
「何が嫌なものか、新たな命を育むのは尊い事じゃろ?」
「俺には似合わないってだけだ」
全く理解出来ない様子でコチョウが首を振り、翔星は涼しい顔で肩をすくめる。
「新世代の異能者を育てるのもこの体の重要な役目、貴官の協力は不可欠」
「分かったから、少しひとりにさせてくれ」
正面から体を密着させたサイカが鋭い眼差しで見詰め、思わず身を仰け反らせた翔星はそのまま樹海の奥へと立ち去った。
「行ってしまいしたか、意外と純粋なのですね」
「ちと急かし過ぎたかのう」
遠ざかる翔星の背中を見送った焔巳が口元に手を当て、腕組みをしたコチョウも複雑な笑みを浮かべる。
「実践までには猶予がある、情報の整理を最優先に行動する」
「うむ、存分に話し合って来るのじゃな」
「頑張ってくださいね」
手のひらに時計のような立体映像を出したサイカが翔星の影を追い、コチョウと焔巳は期待の眼差しと共に手を振って見送った。
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「何してんだよ、俺は……」
「呼吸と脈拍に乱れを検知、深呼吸を推奨」
隠れるように近くの木に寄り掛かった翔星が額に手を当て、追い付いたサイカは淡々と声を掛ける。
「……ったく、何で着いて来るかな?」
「自分の意思で一緒にいると決めた」
軽く息を整えた翔星が困惑気味に聞き返し、サイカは含み笑いを返した。
「そうだったな。すまない、何だか子供みたいに逃げちまって」
「貴官は未成年、行動に不自然な要素は無い」
「こうもはっきり言われるとはな……否定したら、ますます子供みたいだ」
力無く愛想笑いを返した翔星は、背伸びをして頭を撫でようとするサイカに気が付いて腰を下ろしながらため息をつく。
「ありのままの自分を受け入れるのは成長のあかし」
「まるで年上みたいな事を……データリアンだから長く生きてて当然か」
密かに安堵の笑みを浮かべたサイカに柔らかな手付きで頭を撫でられた翔星は、呆れるように呟いてから目の前の少女の正体を思い出してひとりで納得した。
「情報生命体は遥か以前から存在、この意識の萌芽は貴官の異能力覚醒と同時」
「何だって!? それなら最初から……」
否定する事無く頷いたサイカが胸元に手を当てて目を閉じ、思わず大声を上げた翔星は後に続く言葉を失う。
「輝士械儕にとって異能者は運命の相手」
「人間には言えない事をあっさりと……ともあれ、責任は重大か」
ゆっくりと目を開いたサイカが微笑み、翔星は予測は出来ても回避出来なかった言葉を受け止め切れずに頭を掻いた。
「責任を全うする意思があるのなら、貴官の幸福は必須事項」
「こんな事なら適当に使い潰されてオサラバした方がマシだったぜ」
視線の高さにしゃがんだサイカが正面から見詰め、逃げるように視線を逸らした翔星は居心地悪そうに頭を掻く。
「闘争を求めるのも、過去に優しさを否定されたが故と理解した」
「かなわないな……どう足掻いても」
立ち上がったサイカが包み込むように頭を撫で、翔星は観念した表情と共に遥か樹海の奥を見詰める。
「お~い、急いで戻って来てくれ~」
「ピンゾロの声だ、何があったんだ? とりあえず戻るぞ」
「了解した」
突然風に乗って飛んで来たピンゾロの呼び声に振り向いて立ち上がった翔星は、考えがまとまらないままサイカの手を包み込むように握ってゲートに向かった。
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「すまない、待たせたか?」
「いや。それより急ぎになってすまん、すぐにプラント級の駆除を開始するんだ」
「構わんが、位置はもう分かってるのか?」
鳥居型ゲートの前で息を整えた翔星は。振り向く事無く転移機能をチェックする造酒に興味本位で聞き返す。
「はい、白い意識が常に監視していましたから」
「なるほどね~、確かに樹海は庭みたいなもんか」
「転移座標もありますから、このゲートから転移できるです」
自信に満ちた笑みを浮かべたリーレの言葉に近くの岩に腰掛けていたピンゾロが何度も頷き氷騰も手のひらに封筒型の立体映像を浮かべてからゲートを指差した、
「何とも便利だね~、俺ちゃん達はあれだけ苦労したのに」
「そう拗ねるでないわ、わしらの集めたデータが役に立ったのじゃ」
大袈裟に両手を広げたピンゾロが曖昧な表情と共に頭を掻き、横からコチョウが静かに首を振る。
「リーメさんと手を組めるのも、プラント級を駆除出来る情報があるからですね」
「はい、プラント級は上下のコアを同時に破壊する必要がありますから」
並び合う少女を見詰めた焔巳が目を細め、リーレはプラント級の立体映像を手のひらに浮かべて微笑む。
「白い意識の戦力は充分だったけど、連携が困難だった訳か」
「でも電子天女と協力した今なら可能ですね」
Lバングルに記録映像を浮かべた斑辺恵が複雑な表情で頷き、リーレはリーメと向かい合わせになってから頷いた。
「そろそろいいか? 氷騰、ゲートの起動を頼む」
「はい、すぐに起動できるです」
Lバングルで時刻を確認した博士が合図を出し、ゲートのパネルを操作していた氷騰は弾むように頷きを返す。
「世話になったな」
「ああ、達者でな」
「いいですか? ゲート起動するです」
手を振った翔星に博士も手を振って返し、氷騰の掛け声を合図に一同はゲートの中へと消えて行った。
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「ゲート動作に異常なし、本部への帰還を確認」
「いやいや、かなりの大問題でしょ」
「これはどういう事なんだ?」
図書館区画の地下に降り立ったサイカが現在地を確認し、ゲートを取り囲む黒い憲兵の制服を着た輝士械儕達に気付いたピンゾロと斑辺恵は同時に身構える。
「巻き込んですまない、この輝士達は俺に用があるだけだ」
「隊規に反する行動を取ったのは事実」
2人を庇うように前へと出た翔星が両手を上げ、サイカも裾丈の短い水兵服姿に戻って両手を上げた。
「ここで暴れても翔星達を追い詰めるだけだよな」
「仕方ないとはいえ、やりきれないね~」
取り囲む輝士械儕に無言のまま移動を促された斑辺恵が深いため息をつき、ピンゾロも素直に誘導に従う。
「電子天女も事情を知っているでしょうし、多少は温情があるかもしれません」
「わしらも出来る限り嘆願するつもりじゃ」
斑辺恵の後を追うように移動した焔巳が柔らかく微笑み、コチョウも歩きながら静かに頷く。
「みんなありがとう、なるようになるさ」
「どこまでも一緒と約束した」
周囲を刺激しないよう慎重に手を振って返した翔星にサイカが静かに寄り添い、2人は輝士械儕に拘束されてゲートのある部屋を後にした。
これにて「探索の異能者達」は終わりです
次回からは新章をお楽しみください




