第82話【同情したのは、元Fランクの闇使い】
リーメと対峙したリーレだが、
最強の決め技を放つ寸前に手を止めた。
「報告。電子天女との接続に成功」
「ここまで近付いていながら、また逃げられるとはね……」
木漏れ日を辿るようにサイカが空を見上げ、翔星は苦々しい表情を浮かべながら周囲を見回す。
「いえ、どうやら記録の再生を止めたみたいです」
「再生を? どういう事だ?」
「記録の再生があと2秒続いていたら地球は滅んでいたかもしれなかった」
首を振ってから微笑んだリーレに翔星が眉を顰めて聞き返し、入れ替わるように造酒が答えた。
「先生!? 無事だったのか?」
「ついさっき、おっか猫から解放された。リーレさんのおかげで傷ひとつないよ」
思わず大声を上げたピンゾロが振り向き、大きく肩を回した造酒は余裕の笑みを返す。
「私こそ先生のおかげで助かりました。次があったら、またお願いしますね」
「は、はいぃぃぃい!」
満面の笑みを浮かべたリーレが両手で包むように手を握り、背筋に冷たいものが走った造酒は恐怖に裏返った声を上げる。
「苦労をお察しするぜ、先生」
「先生の苦労に比べりゃ、俺達はまだまだだかもな」
大袈裟な仕草でピンゾロが天を仰ぎ、翔星も肩を震わせて笑った。
「話を戻そうか? リーレさんとリーメの作り出した異常な力場に気付いたから、慌てて再生を止めたんだろう」
「でも、何でまた?」
「リーメを作り出したデータリアンも地球を守るのが目的だから、だろうな」
ようやくリーレに解放されて咳払いをした造酒は、おどけるように聞き返すピンゾロに持論を説明すべくLバングルを操作する。
「肯定。個体名リーメの力は未知数、封印を推奨との事」
「ん? どうしてサイカちゃんにそんな事が分かるの?」
「それに『個体名』って……まさか!?」
小さく頷いたサイカが手のひらに警告映像を浮かべ、首を傾げながら映像を覗き込んだピンゾロに続いて斑辺恵が違和感の正体に気付いて大声を上げた。
「電子天女を介して白い意識と接触、今後は異能輝士隊に協力するとの事」
「ここに来て頼もしい味方が増えたものだな」
手のひらの映像を切り替えたサイカが上を指差し、翔星は物足りなさそうに頭を掻く。
「でも正面から戦う必要が無くて本当によかったよ」
「俺達の強さは対硼岩棄晶基準に過ぎないからな」
「当面の脅威も去った事だし、ここらで答え合わせと行きますか」
心の底から安堵のため息をついた斑辺恵に翔星が自嘲を込めて肩をすくめ、ピンゾロの言葉を皮切りに一同は各々のLバングルの操作を始めた。
▼
「結局のところ、データリアンと硼岩棄晶が樹海の謎を作ってたわけだね」
「まずはデータリアンの白い意識からだ。サイカ、説明を頼めるか?」
白と黒とに色分けした画像を斑辺恵がLバングルに浮かべ、白い画像を指差した翔星はサイカに目配せする。
「白い意識は土地の記憶を読み取り、質量のある記録を作り出す方法を考案した」
「土地の……って事は、まさか!?」
頷きを返したサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、しばし考え込んだ斑辺恵はハッとした表情を浮かべた。
「肯定。個体名リーメとおっか猫のオリジナルはかつてこの樹海に存在した」
「『存在した』と言っても硼岩棄晶が襲来するより以前の話じゃ」
淡々と頷いたサイカが手のひらの映像を切り替え、腕組みをしていたコチョウが隣から注釈を入れる。
「とんでもない力を持ってたけど、オリジナルは何者だったんよ?」
「白い意識は正体不明と回答」
力を測らんとばかりにピンゾロが拳を強く握り、サイカは静かに首を振った。
「データリアンや硼岩棄晶がいるんだ、何がいても不思議は無いな」
「あそこまで再現してたのに、何も分からないのか?」
緊張が解けた様子で笑みをこぼした翔星が無理矢理肩をすくめ、納得の行かない様子で斑辺恵が聞き返す。
「白い意識が参考にしたのは動作のみ、日常生活は戦闘に不要と判断」
「統或襍譚の解読が進むと思ったのに、もったいない」
再度サイカが首を横に振り、造酒は大袈裟にため息をついた。
「記憶の再収集は困難との事」
「『困難』と言うだけで、不可能では無いそうです」
手のひらの映像を切り替えたサイカが淡々と説明し、しばらく空を見上げてから頷いたリーレが柔らかく微笑む。
「リーレさん、まさか……」
「しばらくは樹海でキャンプですね、先生」
「ひいぃぃぃい!?」
直感で顔を引きつらせた造酒は、微笑みを満面の笑みに変えたリーレに戦慄して声にもならない悲鳴を上げた。
「あらら、先生も大変ね~」
「気にすんな、ポン酒とリーレさんにしか出来ない事だ」
複雑な笑みを浮かべたピンゾロが頬を指で掻き、博士は慣れた様子で首を振る。
「確かオリジナルは、統或襍譚にも載ってるんだよね」
「個体名リーレ及びリーメのオリジナルに当たる人物はフォーサイドインパクトに関する記録以降、記述が途切れている」
曖昧な笑みを返した斑辺恵が飲み込むように頷き、サイカは手のひらに浮かべた映像を切り替えてから爆心地たる足元を指差す。
「爆発に巻き込まれた程度で消えると思えないし、異世界にでも行ったのかね~」
「まさか、小説でもなかろう」
逞しく生える細い木々を見回したピンゾロが肩を震わせて笑い出し、コチョウも続けて笑い出した。
「あとは先生の領分だ、俺達の出る幕は無い」
「確かにそうだな、ところでシロの先生は何でずっと樹海にいたのん?」
堪えていた笑いが収まった翔星が肩をすくめ、ピンゾロも話題を切り替える。
「物体化した記録、個体名リーメを硼岩棄晶がコピーしたら地球の存続が不可能と判断」
「それで樹海にこもって南方剣士や赤い闘士に守らせてたのか」
空を見上げたサイカが手のひらに少女と巨大な猫の立体映像を浮かべ、斑辺恵は得心の行った様子で頷いた。
「南方剣士と赤い闘士は地球降下前に参照したデータから作り出した」
「それなら異能者や輝士は知ってても、他の連中を作れない訳だ」
杖を持った青年と水兵服を着た女性の映像に切り替えたサイカが上空からなぞるように指を動かし、ピンゾロは呆れ気味に頭を掻く。
「でもコピーって、硼岩棄晶はそんな事が出来るのか?」
「ドッペル級の例があるからな、硼岩棄晶の生態も未知な部分が多過ぎる」
硼岩棄晶の図鑑データをLバングルに浮かべた斑辺恵が首を傾げ、翔星はLバングルに仕留めた怨敵の映像を浮かべた。
「白い意識は硼岩棄晶の研究も進めていた、データは精査が済み次第開示予定」
「そいつは楽しみだ」
手のひらに圧縮ファイルの映像を浮かべたサイカが上空に投げ、翔星はRガンに触れて不敵な笑みを浮かべる。
「でも硼岩棄晶は宇宙に逃げただろ? 今さら必要なのか?」
「奴等は地球に戻ってくる、別働隊が樹海にいたのが証拠だ」
宇宙を飛ぶ光の画像をLバングルに浮かべた斑辺恵が天高く空を指差し、翔星は涼しい顔で足元を指差した。
「ん? どゆこと?……狙いはリーメちゃんか!」
「ああ。逃げたUFOで注意を引き、その隙に別働隊が樹海を目指した」
腕組みをして首を捻ったピンゾロが真意に気付いて大声を上げ、否定する事無く頷いて空を指差した翔星はも片方の手で地面を指差す。
「まるで最初からリーメ殿の存在を知ってるような動きじゃの」
「どの段階で計画してたか知らんが、随分な念の入れ方だ事で」
硼岩棄晶の行動記録を手のひらに浮かべたコチョウが慎重に見詰め、隣から覗き込んだピンゾロは呆れながら肩をすくめた
「地球に残存する硼岩棄晶はこの樹海だけ」
「残るはそいつらの駆除か」
空を見上げたサイカが電子天女からの情報を手のひらに浮かべ、翔星は弾む声を抑えて腰のRガンに手を置く。
「いえ、翔星さん達はここまでです」
「プラント級がいるなら駆除は大変だぜ?」
手のひらを向けた氷騰が静かに首を振り、翔星はLバングルに過去の戦闘記録を出して食い下がる。
「そちらはリーメさんの協力を取り付けました」
「少しだけ硼岩棄晶に同情するぜ……」
柔らかな笑みを浮かべたリーレの足元からリーメが現れ、翔星は毒気を抜かれた表情と共に頭を掻いた。




