第81話【和んだのは、元Fランクの怪力男】
南方剣士達の防衛線を突破した翔星は、
リーレに似た少女に遭遇した。
「こいつはまた、随分と楽しめそうな趣向を持ってきやがったもんだ」
「大丈夫か、翔星!」
強引に余裕の笑みを作った翔星がRガンを構え、造酒は腰が引けた状態で手招きする。
「何とかな。それより、どうして造酒がここに?」
「突然剣士と闘士が消えた、みんなも後から来る」
隙を突いて滑り込むように後退した翔星が聞き返し、造酒は後ろに親指を向けて簡単に顛末を説明する。
「つまりあのリーレさんのオリジナルらしきものが、探索の本命か」
「おそらくあれは、ここで収集したオリジナルの記録だろう」
手早く状況を整理した翔星が不敵な笑みを浮かべ、Lバングルを操作した造酒は慎重に頷いた。
「どっちも派生か……どっちが強い?」
「何とも言えない、あえて言うなら再現度の高い方だ」
軽く頷いた翔星がトーンを下げつつ聞き返し、造酒はお手上げと言わんばかりに大きく静かに首を横に振る。
「だがリーレさんにはガジェットテイルがあるだろ?」
「統或襍譚の記述が事実なら、ワシの発想も周囲の援護も誤差にすらならんよ」
返答を訝しんだ翔星が眉を顰め、造酒は自らのライフワークである書物の立体映像を複雑な表情と共にLバングルに浮かべた。
「何やらとんでもないものがいたのは分かった」
「話を聞いてたのか、翔星!? ワシらの手に負える代物じゃないんだぞ!」
興奮と恐怖を混ぜ合わせて飲み込むように息を整えた翔星がRガンを手に取り、造酒は慌てて止めに入る。
「それでも待つのは性に合わないんでね」
「ワシでは止められないのは、よく分かったよ」
「次元が違い過ぎて足手まといになるようなら、速攻で手を引く」
静かに首を横に振った翔星は、観念し切った表情を浮かべた造酒に余裕の笑みを返して肩をすくめた。
「決まりだな、自分も行くよ」
「俺ちゃんも手伝うぜ」
「速かったな、2人に何かあったら焔巳さんとコチョウさんに申し訳が立たない」
続けて合流して来た斑辺恵とピンゾロが両側から肩に手を乗せ、さり気なく手を払った翔星は手のひらを向けて2人を留めようとする。
「翔星も同じだよ、サイカさんが悲しむ」
「斑辺恵ちゃんの言う通り、今回も3人で生き残ろうぜ」
「随分と焼きが回ったもんだな、俺達も。しゃーない、行くか」
曖昧な表情と共に首を横に振った斑辺恵に続いてピンゾロが力強く親指を立て、諦めのため息をついた翔星を先頭に3人は人影に向かって歩き出した。
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「勢いで飛び出したけど、なんか作戦はあるんかい?」
「無い、当たって砕けるだけだ」
リーレと同じ姿の少女を見据えたピンゾロが慎重に距離を詰め、隣で同じように距離を詰める翔星は軽く首を横に振る。
「言うと思ったよ。こっちもデータが無い以上、作戦なんて立てられないけどね」
「造酒が言うには、リーレさんしか対処出来ないらしい。まずは情報収集だ」
更に隣を歩く斑辺恵が慣れた様子でため息をつき、親指を後ろへと向けた翔星は地面に向けて撃ったRガンの反動で跳び上がった。
「出来るだけデータを引き出すんだね、パームブラスト!」
「俺ちゃんも行くぜ~、真空金剛散弾!」
側面に回り込んだ斑辺恵が両手のひらから空気弾をいくつも放ち、反対側に回り込んだピンゾロも手のひらで圧縮した空気の散弾を投げ付ける。
「Rガン、ダブルファイア!」
『エイッ』
タイミングを合わせた翔星がRガンの引き金を素早く2回引いて熱線を放つが、攻撃に気付いているはずの少女は一歩も動く事無く手を軽く振り下ろす。
ぺちっ!
手のひらで叩くような軽い、コミカルとさえ表現出来る音が響くと同時に3人の放った空気弾と熱線が全て霞のように消え、辺りは重い沈黙に包まれた。
「今の……見たか?」
「ふっ、まるでハエみたいに俺達の攻撃を叩き落としやがった」
しばらく呆然としていたピンゾロが重い空気に飲まれまいと強引に沈黙を破り、翔星も額の汗を拭って言葉を絞り出す。
「ちょっと踏み込み過ぎたかもね」
「今さらだ、殿軍なら引き受けるぞ」
「断る、女の子を泣かせるのは趣味じゃないんでね」
曖昧な笑みを浮かべて全身を強張らせた斑辺恵に首を振った翔星が親指を後ろに向け、両手で頬を叩いたピンゾロは視界を遮るように前に出た。
「よう言うたの、ピンゾロ」
「斑辺恵様も無茶が過ぎます」
「仮呼称リーメの能力は個体名リーレに匹敵、撤退を推奨」
上空から弾けるような声を掛けたコチョウが焔巳と共に3人の前へと降り立ち、続けて着地したサイカも光の刃を伸ばした懐中電灯を構える。
「こっちが逃げたら向こうも逃げるだろ、ここは時間稼ぎしか無い」
「リーレ殿は氷騰殿と一緒にゲートの確認に行った、すぐに戻ってくるじゃろ」
「上等だ、もう少し楽しませてもらおう」
静かに首を横に振って返した翔星は、手のひらに地図画像を浮かべたコチョウに頷いてRガンの調子を確認した。
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「さて、ここからどうやって攻略するよ?」
「数が増えても出方が分からなければ策も練れん、まずは波状攻撃を……!?」
『ブニャァァアアー!!』
新たに加わった戦力に気を大きくしたピンゾロに首を振った翔星がRガンを構え直し、突然響き渡った野太い鳴き声に言葉を詰まらせる。
「にゃ、にゃんだぁっ!?」
「たしかに猫じゃの、デカいけど」
声の主を見上げたピンゾロが大袈裟に驚き、コチョウも落ち着いた表情で常軌を逸した巨大なネコのような獣を見上げる。
「これも統或襍譚からの引用でしょうか?」
「リーレさんの足のレプリカでは無く、本物のおっか猫……の記録だろうね」
慎重に巨大な獣を観察した焔巳が手のひらに奇書の画像を出し、斑辺恵はLバングルに該当する立体映像を浮かべた。
「道を阻むのなら押し通る。Rガン、ダブルファイア……!?」
『ブニャンッ!』
手早く息を整えた翔星がRガンの銃口をおっか猫に向けるが、軽く振り下ろした前足の風圧に押されて構えを解く。
「ふっ。こっちの魂胆はお見通しか」
「まさか時間稼ぎも出来ないなんてね……」
そのままリーメへの進路を遮るおっか猫を見据えた翔星が不敵な笑みを浮かべ、側面に回り込む足を踏み止まらせた斑辺恵は小さくため息をつく。
「みなさん、伏せてください!」
「いやああああああああああああああああ!!!!!」
『フギャギャギャァアア!?』
一行が体勢を立て直そうと身構えた直後にリーレが背後から合図をしてからスライムの塊を投げ、塊は造酒の絶叫を纏いながらおっか猫の前に着弾した。
「今のうちです!」
「あれ、先生だよな? おっかさんに潰されそうだけど、大丈夫なのか?」
「コネクトカバーとジェルシールドで包みましたから、命の危険はありませんね」
前方に手を振って合図をしたリーレは、振り向いて巨大な肉球に弄ばれる塊を呆然と指差すピンゾロに力強く微笑みを返す。
「そ、そうか……」
「これでリーメだったか? リーレさんの記録を阻むものは無くなった」
ぎこちなく頷いたピンゾロがおっか猫から背を向け、翔星も正面を見据える。
「私がレプリカで向こうは記録ですか、いいセンスですね」
「何にせよリーレさんにしか対処出来ないって話だ、後は頼めるか?」
「お任せください、いきますよー」
呼称の由来に感心して大きく頷いたリーレは、曖昧な表情を浮かべて頭を掻いた翔星に微笑んでから足にバネ型のスライムを纏わせて跳び上がった。
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「えいっ、えいっ、えいっ、えいっ!」
『エイッ、エイッ、エイッ、エイッ!』
着地したリーレが両腕をグルグルと大きく回しながら走り、リーメも同じように両腕を回しながら迎え討つ。
ポカポカポカポカ……
接近した両者の拳が何度もぶつかり合い、周囲に軽い音がしばらく響き続けた。
「何だか微笑ましい光景になってるね~……」
「騙されるな、全ての打撃が俺達の攻撃を叩き落とす威力を持っている」
ややもすればコミカルとしか形容の出来ない2人の応酬をピンゾロが呆れ気味に眺め、翔星は隣で静かに首を振ってから冷や汗を拭う、
「ここにそよ風も飛んで来ないなんて、生半可な精度じゃないよ」
「肯定。個体名リーレと仮名称リーメの中間地点に高エネルギー反応を確認」
土埃ひとつ舞い上がらない地面を指差した斑辺恵が緊張した面持ちで懐へと手を入れ、サイカはネコ耳付きの髪留めから下ろしたバイザー越しに異常を検知する。
「これでは迂闊に手を出せませんね」
「展開はさっぱりじゃが、いよいよ決着に動くみたいじゃの」
円盤型の武器を構えていた焔巳が狙いを定めあぐね、回し続けていた腕を同時に止めた2人を警戒したコチョウは全身を強張らせながら身構えた。
『噴割璃音拳破……』
「噴割璃音拳破!……!」
招き猫のように腕を上げたリーメと同じくリーレも腕を上げるが、しばらくして静かに腕を下ろす。
「あれ? 何で必殺ブローを止めたの?」
「リーメさんが消えてしまいましたので」
「ありゃ本当だ、いつの間にか綺麗さっぱり消えちったよ……」
慎重に駆け寄ったピンゾロは、淡々と報告するリーレが指差した先にあるはずの人影が消えた事に気付いてしばらく呆然と見詰めた。




