第80話【博打に出たのは、元Fランクの闇使い】
南方剣士と赤い闘士に苦戦する翔星達は、
状況を打破すべく作戦を変更した。
「そろそろ翔星達が戻って来る、いったん離れよう」
「うむ。アンテナスロウ、起動! ドライブキック・熱風重力返し!」
手のひらから空気弾を放った斑辺恵が慎重に振り向き、頷きを返したコチョウは手早く額に指を当ててから回し蹴りと共に衝撃波を放つ。
『フンッ!』
『……!』
「コチョウ先生、硼岩棄晶の動きを止める超音波じゃ無理だって」
「ふむ……やはり生物とは根本的に違うようじゃの」
後方へと跳んで衝撃波を躱した赤い闘士と南方剣士を確認したピンゾロが複雑な笑みを浮かべながら全身のバネを溜め、コチョウも不敵な笑みと共に身構えた。
「では。罷ノ分、起動!」
『ヌゥ……ッ!?』
『……!?』
意識を集中した焔巳が2体の分身を左右に飛ばし、赤い闘士と南方剣士は樹海の奥へと進む別々の分身に釣られるように別れて追い掛け始める。
「これでしばらくは分身に気を取られるはずです、今のうちに下がりましょう」
「助かるぜ、焔巳ちゃん」
しばし前方を警戒してから振り向いた焔巳にピンゾロが親指を立て、一同は駆け寄って来た翔星達と合流すべく後退した。
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「どうやら無事だったようだな」
「おかげさんでね、ゲートの方は大丈夫なのん?」
涼しい顔で翔星が手を振り、手を振って返したピンゾロは後方の鳥居へと視線を向けて聞き返す。
「スライムネットを張りましたので、もしもの時でも時間は稼げます」
「後は自分達の立ち回り次第って訳か」
周囲の木々に網を張った画像をリーレが手のひらに浮かべ、斑辺恵は画像を眺めながら慎重に呟いた。
「それで、ここからどうするんだ?」
「全員で防衛ラインを突破する」
「なんだって!?」
正面を見据えながら万年筆を握り締めた造酒は、軽い口調で返した翔星に思わず大声を上げる。
「あいつらは防御の薄い死角を突いて、こっちが庇い合う状況を誘発して来る」
「逆にこっちが防御を捨てれば、向こうが防御に回る訳か」
窘めるように手のひらを向けた翔星がゲートのある後方に親指を向け、隣から博士が得心の行った様子で頷く。
「はっきり言って作戦とすら言えない大博打だが、他に手は無い」
「ここまで来たら腹を括るしか無いか」
腰に手を当てた翔星が大袈裟に首を振り、造酒は諦め混じりにため息をついた。
「いくら分身でも焔巳さんが攻撃されるのは気分がよくない、早く行こう」
「分身にも卍燃甲がありますから、問題ございませんが?」
弧を描くように分身を追う剣士と闘士を目で追った斑辺恵が今にも走り出さんと両脚に力を込め、焔巳は落ち着いた様子で微笑む。
「焔巳殿、複雑な男子の心を察してやらぬか」
「心配されるのが嬉しくて、つい意地悪してしまいました」
呆れ気味にため息をついたコチョウに丈の短い着物の裾を引かれた焔巳は、手を当てた口元からちょろっと舌を出した。
「お熱いね~」
「恋する乙女は強いな」
「ピンゾロはともかく翔星まで……」
これ見よがしに手で扇いだピンゾロに続いて翔星が涼しい顔を浮かべ、斑辺恵は複雑な笑みと共に目元を引きつらせる。
「ご安心ください、斑辺恵様は必ずお護りしますから」
「うむ、恋する乙女連合の出陣じゃ!」
「もう勘弁して……」
揺れる胸元を押さえて微笑んだ焔巳に大きく頷きを返したコチョウが走り出し、大きくため息をついた斑辺恵も雑念を振り払うように走り出した。
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『ムッ!?』
「あいつら、ようやくこっちに気付いたな」
突然足を止めた南方剣士と赤い闘士が同時に振り向き、ピンゾロは速度を落としながら不敵な笑みを浮かべる。
「焔巳さんの分身が功を奏したんだ。このチャンス、無駄にしない!」
「ちょいと、からかい過ぎたかな? 俺ちゃんも行くぜ!」
「張り切るのは構わんが、目的を忘れんなよ」
地面に放った爆風の反動で跳び上がった斑辺恵を見ながら頭を掻いたピンゾロも両脚の空気バネを伸ばして跳び、翔星もRガンの反動を利用して後を追った。
「斑辺恵様!……あ、行ってしまいましたね」
「突出すれば狙われるリスクも上がる、わしらも急ぐぞ!」
呼び止めようとした手を止めた焔巳が腰から赤い翼状の機器を広げ、コチョウも緑色のマフラーから翅状の機器を広げる。
「この速度の維持を提案」
「ふむ……その策士振りは異能者譲りかの?」
先頭に躍り出たサイカが進路を塞ぎ、コチョウは速度を合わせて鎌をかける。
「想像は一任する」
「でもいい案ですね、私も協力しましょう」
「待って! 頼むから手加減してね? ね?」
振り向いて含み笑いを返したサイカにリーレが巨大な猫の足で宙を蹴りつつ腕を回し、襟首を掴まれた造酒は揺れながら必死に宥めた。
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『ヌンッ!』
「おっと……なるほど、喋ってる暇は無さそうだ」
背後の殺意を走りながら躱したピンゾロは、炎を圧縮した三節棍を手にした赤い闘士を一瞬だけ振り向いて確認する。
『キィェェエーイッ!』
「後ろに目でも付けないと全然前に進めないな」
手のひらから放った爆風の反動で南方剣士の奇声から遠ざかった斑辺恵は、更に爆風を放って距離を取った。
「背後を取られたって事は、追い抜いたって事だ」
「言われてみれば! このまま突っ切る!」
いつでも援護出来るようRガンを構えながら走る翔星が前を指差し、ハッとした表情で頷いた斑辺恵は特大の爆風を背後に放つ。
「向こうは2体、こっちは3人。誰が捕まっても恨みっこなしだぜ」
「望むところだ!」
両脚の空気バネを曲げた膝に合わせて溜めたピンゾロが勢いよく伸ばし、不敵な笑みを返した翔星も後ろに向けたRガンの引き金を引いた。
『ヌゥゥ……ッ!』
「あいつら、回り込む気だ!」
「ここで前を取られたら、ふりだしどころの騒ぎじゃなくなるぞ!」
背後から聞こえる声の変化を察した斑辺恵が意図に気付き、ピンゾロは再度膝のバネを溜める。
「烈風葉璃剣、シュート!」
「柩連焔刃、ニードルモード!」
『!?』
直後に後方から飛んで来た白と赤の針に気付いた赤い闘士が振り向き、三節棍を大きく薙ぎ払った。
「氷騰ちゃんに焔巳ちゃんか! ありがたい!」
「挟み撃ちとはサイカも上手い事を考える、後は剣士を振り切れば……!?」
「噴割璃音拳破!」
思わぬ援軍にピンゾロが素直に感謝し、作戦に感心した翔星は柔らかな声と共に飛んで来た膨大な殺気に息を呑む。
『ギニャアァアァァッ!?』
「いくらパチモンでも、ちょっと同情しちまうぜ……」
全身に衝撃波を受けた南方剣士が悲鳴を上げて塵のように消え去り、ピンゾロは呆然と呟いた。
「さ……さすがはリーレさんの攻撃だ、これで少しは楽になる」
「そうは行かないみたいだぜ、斑辺恵」
「あ~……記録を再生してるから、体の再生もありなのか……」
無理矢理納得しようとした斑辺恵は、翔星の指差した先で姿を現した南方剣士に複雑な笑みを浮かべて身構える。
「悪いな斑辺恵、ここは俺が行く」
「構わないさ、行ってくれ」
「なら、遠慮なく!」
周囲を確認してからRガンの銃口を地面に向けた翔星は、背を向けたまま親指を立てた斑辺恵に軽く手を振って跳び立った。
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「今度は消えないみたいだな……」
(この奥に何かあると思ったんだが……)
着地と同時に背後を確認した翔星は、視線を前方に戻して特に目立つ変化の無い樹海を見回す。
「あれは……リーレさん?」
「翔星、下がれ!」
「くっ……!」
視界に小さな人影が映り込んだ翔星は、背後から飛んで来た造酒の声に反応して大きく横に跳ぶ。
『噴割璃音拳破』
「ふっ……まさに間一髪ってやつか」
直後に人影が小さく手を振り下ろして衝撃波を放ち、紙一重で躱した翔星は言葉少なに冷や汗を拭った。




