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第8話【予測を外したのは、Fランクの闇使い】

無事にそれぞれの結界街に到着した翔星(しょうせい)達は、

空観転移事故の原因が判明するまで待機を命じられた。

「支給品のあり合わせですけど、どうぞ」

「唐揚げとは豪勢だな、温野菜まである」

 配膳を終えた夏櫛(カクシ)がテーブルへと手を差し伸べ、翔星(しょうせい)は感心しながらテーブルに並ぶ数々の食器に盛られ料理を眺める。


「大袈裟だな~、いつも何を食べてんだよ?」

「普段は携帯糧食(こいつ)で済ませてる」

 向かいに座った礼真(らいしん)が思わず吹き出し、翔星(しょうせい)はポケットからスティック状の袋を取り出した。


「Fランクの異能者(バディ)って、そんな制限があるのか?」

「いや、(オレ)の勝手だ」

 眉を(ひそ)めた礼真(らいしん)が慎重に聞き返し、翔星(しょうせい)はあっさり否定する。


「では、待機中の栄養管理はこちらでしますね」

「栄養管理に異論は無いが、備蓄の枯渇を憂慮」

 礼真(らいしん)の隣に腰掛けた夏櫛(カクシ)が微笑み、翔星(しょうせい)の隣でサイカは慎重に食卓を見回した。


「実は先日の定期補充が多めに来てしまって、少し困ってたんです」

「へぇ……変わった偶然もあるもんだな」

 頬に手を当てた夏櫛(カクシ)が複雑な表情を浮かべ、翔星(しょうせい)は静かに頷く。


「追加補充の申請も通りましたし、何も問題ありませんよ」

「では遠慮無くいただく」

 微笑む夏櫛(カクシ)が手のひらに立体映像を出し、軽く頷いたサイカは箸を手に取った。



「世話になるの、ツイナ殿」

「備蓄には余裕がある、遠慮しないでくれ」

 食堂に入ったコチョウが気さくに手を振り、紺色の水兵服とロングパンツを身に着けたツイナと呼ばれた短い茶髪の女性が柔らかく微笑む。


「おりょ? 2人分?」

政之(まさゆき)とボクは外で食べる事にしたよ」

 続けて入ったピンゾロがテーブルに並ぶ食器の数に疑問の声を上げ、遠慮がちに微笑んだツイナは親指で窓を指し示した。


「そいつは悪い事をしたな……」

「問題無い、本人の趣味なんだ」

 遠慮がちに頭を掻いたピンソロが愛想笑いを浮かべ、ツイナは涼しく微笑む。


「ツイナ殿を見るに、蒔峯(まきみね)殿はキャンプが趣味のようじゃの」

「屋上でベランピングだけど、本人は渡りに船と喜んでたよ」

 後ろから伸びる鷹の尾羽にテント型の収納ケースを組み合わせた機器を確認したコチョウに頷いたツイナは、嬉しそうに天井を指差した。


「なら遠慮はいらないな」

「そちらも2人でゆっくりしてくれ」

 納得した様子でピンゾロが微笑み、含み笑いを返したツイナは食堂を後にした。



「ここまで食糧を行き渡らせるなんて、大したもんだねぇ」

「組織は人、人は胃袋で動くからの」

「なるほどね、それで食事は普通に取れるのか?」

 食器をひとつ空にしてひと息ついたピンゾロは、美味しそうに頬張ったピラフを飲み込んでから頷くコチョウを眺めながら疑問を口にする。


輝士械儕(オーダイド)は食料をエネルギーに変換出来るからの」

「へぇ……そう言う事だったのか」

(こうしてると、普通の女の子なんだよな~……)

 誇らしそうに胸を張ったコチョウが食事を再開し、軽く頷いたピンゾロは複雑な笑みを浮かべた。



「どうだい、祐路(ひろみち)の釣って来た魚は?」

「はい。とても美味しいですよ、テツラ様」

 青い髪を後ろで束ねた大柄の輝士械儕(オーダイド)が大皿に載せた川魚のムニエルに手を差し伸べて胸を張り、向かいに座った焔巳(エンミ)は小皿に移したムニエルを食べて微笑む。


「テツラ、これ以上オレの趣味に付き合わせたら悪いだろ」

「いいじゃねえか、祐路(ひろみち)。美味いって言ってくれてるぜ」

 祐路(ひろみち)と呼ばれた小柄の男が隣から釘を刺し、テツラと呼ばれた輝士械儕(オーダイド)は豪快に笑いを返した。


「優しい人はそう言ってくれるんだよ」

「お世辞なんかじゃないですよ。テツラさん、山源(やまもと)さん」

祐路(ひろみち)でいいよ、こっちも斑辺恵(はんべえ)と呼ばせてもらう」

 小さくため息をついた祐路(ひろみち)は、向かいに座る斑辺恵(はんべえ)の言葉に頬を緩ませて笑みを返す。


「分かった。それで祐路(ひろみち)、出来れば融通して欲しいものがあるんだが」

「オレの出来る範囲でなら協力するぜ、何が欲しいんだ?」

 大きく頷いた斑辺恵(はんべえ)が慎重に話題を変え、祐路(ひろみち)は気さくに微笑みを返した。


「何か衝立(ついたて)になる物は無いかな?」

衝立(ついたて)? 何だってそんなものを?」

「さっきも説明したけど、焔巳(エンミ)さんは自分の輝士(オーダー)ではないんだ」

 遠慮がちに要望を伝えた斑辺恵(はんべえ)は、怪訝な顔で聞き返す祐路(ひろみち)に理由を話す。


「事情は大体理解した。頼めるかい、テツラ?」

「減るもんじゃ無し、別にいいだろ?」

(ワタクシ)も特に構いませんよ?」

 複雑な笑みを浮かべて頷いた祐路(ひろみち)の指示をテツラが拒み、焔巳(エンミ)もしばらく考えた振りをしてから微笑む。


「このまま同じ部屋で過ごすのは、本来の異能者(バディ)に申し訳が立たないよ」

「その気持ち分かるぜ。衝立(ついてた)の用意を頼むよ、テツラ」

祐路(ひろみち)がそこまで言うなら仕方ない、後で何か探しとくぜ」

 悲壮な表情で訴える斑辺恵(はんべえ)に強く頷いた祐路(ひろみち)が再度指示を出し、尻尾を摘まんだムニエルに頭から齧り付いたテツラの了承をきっかけに一同は食事を再開した。



「そうか……ここに来る前に硼岩棄晶(フォトンクレイ)と遭遇したのか」

「特段苦戦はしなかったけどな」

 食事を終えた礼真(らいしん)が静かに頷き、翔星(しょうせい)は軽く肩をすくめる。


「駆除したのならポイントも入ったよね? 何に使ったんだい?」

「本人に服を選んでもらった」

 興味を持った様子の礼真(らいしん)が身を乗り出し、翔星(しょうせい)は興味の無い様子で隣のサイカを親指で指し示した。


「いきなり服を変更するなんて珍しいな」

「最初は服のデータを持ってなかったからな」

 席に戻った礼真(らいしん)が不思議そうに頷き、翔星(しょうせい)は複雑な顔で頭を掻く。


「そんな事があるのか?」

「サイカさんの場合は容量不足ですね」

 驚いた礼真(らいしん)が聞き返し、夏櫛(カクシ)はガジェットテイルからゴーグルを取り出した。


「どういう事だ?」

「まずガジェットテイルは異能者(バディ)の想像力をベースにしています」

 頭を掻く手を止めた翔星(しょうせい)が眉を(ひそ)め、夏櫛(カクシ)は基礎知識を説明する。


「具体的には異能力(トーチ)の属性から連想する道具と最強だと思う生物」

「ちなみに(ボク)の場合は、避雷針とキロネックスと言うクラゲだ」

 引き継ぐようにサイカが説明を続け、礼真(らいしん)は誇らしそうに具体例を挙げた。


「サイカさんの異能者(バディ)が考えた道具は懐中電灯、生物は虎と龍ってところか」

「いや、生物は1種類なんだ。でないと最強とは言えないからね」

 情報を整理した翔星(しょうせい)が推測を呟くが、礼真(らいしん)は静かに首を横に振る。


「それならどうして2つの生物の力を?」

「選んだ生物が虎と龍を従えるほどに強いから、としか言えないね」

 釈然としない様子で翔星(しょうせい)が聞き返し、礼真(らいしん)は複雑な笑みを返した。


「虎より龍より強い生き物なんて、すぐには浮かばないな」

「ガジェットテイルは最強の生物をベースに派生装備を作ります」

 腕組みした翔星(しょうせい)が首を振り、柔らかく微笑んだ夏櫛(カクシ)は本来の説明を再開する。


「光の刃がベースの生物、タイガーアイと龍仙光(りゅうぜんこう)は派生って訳か」

「本来は3つほどですが、サイカさんはベースを含めてイメージが7つですね」

 指折り数えた翔星(しょうせい)が情報をまとめ、夏櫛(カクシ)はゴーグルを通してサイカを眺める。


「ガジェットテイルの容量が大き過ぎて、服にデータが回らなかった訳か」

「大体そんなところですね」

 呆れ気味に納得した翔星(しょうせい)が慎重に、軽くお辞儀をした夏櫛(カクシ)はゴーグルをテイルに戻して微笑んだ。


「それで7つのイメージってのは?」

「ガジェットテイルにアクセス、プロテクトにより閲覧不可」

 会話が終わったタイミングで礼真(らいしん)が身を乗り出し、サイカは首を横に振る。


「本来の異能者(バディ)の日記を盗み見るようなものだ、(オレ)がいる間は開かない方がいい」

「それもそうだね、(ボク)も異論は無い」

「提案を了承」

 小さくため息をついた翔星(しょうせい)の提案に礼真(らいしん)が賛同し、サイカは静かに頷いた。



「ようやくひと段落か」

「お疲れ様です、充木(あつぎ)隊長。もう暖午はるま様とお呼びしても?」

 タブレット端末の画面から目を離した充木(あつぎ)が椅子に腰掛けたまま軽く伸びをし、横に立つヒサノは期待を押し隠して聞き返す。


「まだ業務中だぞ、ヒサノ。最終チェックをしたら飯食いに行くか」

「了解しました。時影(ときかげ)翔星(しょうせい)とサイカは第22番結界街、スズノキシティにて待機」

 曖昧な笑みを返した充木(あつぎ)が報告を促し、ヒサノは手のひらに立体映像を出した。


「現地にいるのは雷使い、隹戸(とりど)礼真(らいしん)夏櫛(カクシ)だな」

鵜埜(うの)戒凪(かいな)とコチョウは第25番結界街、シバダイシティにて待機」

 静かに頷いた充木(あつぎ)がタブレット端末を確認し、ヒサノは続きを読み上げる。


「現地にいるのは土使い、蒔峯(まきみね)政之(まさゆき)とツイナ、っと」

斑辺(まだらべ)(けい)焔巳(エンミ)は第5番結界街、フカズシティにて待機」

 しばし目を閉じた充木(あつぎ)が画面を切り替え、ヒサノは最後まで読み上げる。


「現地にいるのは水使い、山源(やまもと)祐路(ひろみち)とテツラか」

「ご心配はもっともですが、これも電子天女(マスターデバイス)の決定ですので」

「あいつらは何処に飛ばされても生き延びるけど、果たして成長するのかねえ」

 タブレット端末を眺めたまま小さくため息をついた充木(あつぎ)は、自信に満ちた様子でお辞儀するヒサノに作り笑いを返してから遠い目をして呟いた。

次回からは毎週金曜日の更新となります

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