第78話【爆心地に立ったのは、元Fランクの異能者達】
合流した仲間と情報交換した翔星は、
そのまま第二の調査ポイントへ向かった。
「第二の調査ポイントは大岩か」
「ここもただの映えポイントじゃないんだろ?」
開けた場所に出た翔星が苔むした大きな岩の前で足を止め、後ろから眺めるピンゾロも何の気なしに聞き返す。
「はい、この磁場なら転移ゲートを設置できますね」
「周囲には硼岩棄晶も南方剣士もいないみたいだな」
柔らかな微笑みを浮かべたリーレが周囲の分析結果を手のひらに浮かべ、博士は地面に手を当ててから立ち上がる。
「わしらは作業の邪魔にならぬよう周囲を見回るかの」
「作業が順調に進めば、お夕飯までには本部に帰れますね」
資材を取り出すリーレを見詰めるコチョウが弾むような口調で歩き出し、焔巳も口元に手を当てながら後に続いた。
「乙女モードでフラグに全然気付いてないよ……」
「もうひと暴れ出来るなら、俺は構わん」
「ははっ……翔星は相変わらずだね」
笑い合う2人の様子を呆れ気味に眺めていたピンゾロは、Rガンを抜いて動作の確認を始めた翔星に複雑な笑みを浮かべる。
「改めて見ると不思議だな、今までの場所より木が細いよ」
「言われてみれば、木が細くも見えるね~」
話題を変えようと斑辺恵が周囲の木々を見回し、ピンゾロは渡りに船と頷いた。
「ここはフォーサイドインパクトの爆心地に近いです」
「氷騰ちゃん。何とかインパクトって、いったい何なの?」
小型の機器を運んでいた氷騰が足を止め、ピンゾロは興味を持って聞き返す。
「え~……っと、それは……」
「以降の説明はこの体が引き受ける、任務の継続を推奨」
「ありがとうです!」
機器を手にしたまま目を泳がせた氷騰は、肩に手を乗せて親指を立てたサイカに小さく頭を下げてから走り去る。
「お優しいね~。いっちょ頼んますよ、サイカ先生」
「ここがどんな場所か知っておけば、何か分かるかもしれない」
「そうだな。俺達にも聞かせてくれ」
「了解した」
軽く頭を撫でたピンゾロに続いて斑辺恵と翔星も集まり、サイカは静かに3人の前へと移動した。
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「フォーサイドインパクトは硼岩棄晶襲来以前に観察された謎の爆発」
「それならデータリアンも地球にいなかったよな、どうやって知ったんだい?」
爆発の復元想像図を手のひらに浮かべたサイカが概要を読み上げ、斑辺恵は首を傾げて聞き返す。
「事象に関する文献を参照した」
「文献? 歴史の図鑑にも教科書にも載ってなかったぞ?」
書物の形をした立体映像にサイカが切り替え、翔星は納得の行かない様子で口を開く。
「この記録は一部の人間以外には非公開のもの」
「非公開?……まさか、統或襍譚か!?」
静かに首を振ったサイカが立体映像に錠前の画像を重ね合わせ、しばらく考えた翔星は思わず大声を上げた。
「肯定、記録を参考に樹海を観測して事象の発生地点を特定した」
「さすがは天女サマ、何でも出来るのね」
小さく頷いたサイカが上空から樹海を撮影した画像を浮かべ、ピンゾロは深々と頷く。
「統或襍譚は欠落も多くフィクションも多い、現時点でも解読は半分を下回る」
「何でもありだって造酒も言ってたから、そりゃ苦戦するだろうさ」
再度書物の映像を浮かべたサイカが首を振り、完成しつつある鳥居型のゲートに視線を向けた斑辺恵は曖昧な笑みを浮かべる。
「現状では正式名称も不明」
「ん? どゆこと?」
軽く頷いたサイカが淡々と説明を続け、ピンゾロは眉を顰めて聞き返した。
「関連すると思しき箇所から解読出来た『4』と『サイ』の記載から推測」
「それでフォーサイドインパクトって呼んでるのか」
手のひらに浮かべた画像を切り替えたサイカが該当する箇所を拡大し、斑辺恵は画像を眺めながら何度も頷く。
「肯定、現状での仮称としている」
「助かったぜ、サイカちゃん。ここがどんな場所かよく分かったよ」
「未解明の部分も多い、これ以上の説明は困難」
画像を閉じたサイカは、片目を瞑って親指を立てたピンゾロに首を振って返す。
「こればかりは先生とハカセに任せるしかないね」
「そのためにも、まずはゲートの安全確保だ」
複雑な笑みを浮かべた斑辺恵が鳥居型のゲートに視線を向け、軽く頷きを返した翔星はゲートにつながる動線に目を配った。
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「周囲に異常はありませんでした。そろそろ設定も終わりでしょうか?」
「さすがにまだのようじゃの」
見回りから戻った焔巳がゲートを眺めて頬を緩ませ、コチョウは首を横に振る。
「あら、私とした事が。でも、こんな風に焦らされるのも悪くないですね」
「うむ。焦らずじっくり、先はまだ長いからの」
口元に手を当てた焔巳が振り向き、コチョウも含みを持たせて頷いた。
「あんな風に笑う焔巳さんを見るのは初めてかも」
「順調だからって気を抜き過ぎだぜ」
焔巳と目が合った斑辺恵がぎこちなく手を振り、ピンゾロは呆れ気味にため息をつく。
「分かってる、ここが敵地なのは忘れてないよ」
「本部だから安心、とは限らないかもしれないな」
真剣な表情と共に振り向いた斑辺恵が懐に手を入れながら頷き、頭の後ろで手を組んだピンゾロは遠い目をしてため息をつく。
「カーサさんが言うには、死線を潜り抜けた輝士は硼岩棄晶より手ごわいそうだ」
「やっぱりそうなのねん」
記録画像をLバングルに浮かべた翔星が大きく肩をすくめ、ピンゾロは納得した様子で含み笑いを浮かべた。
「参ったな、相当の覚悟が……」
「警告、電子天女との接続にノイズが発生」
「まさか虫食いか!?」
含むところを察した斑辺恵は、途中で言葉を遮ったサイカに慌てて聞き返す。
「その通りじゃ、油断するでないぞ」
「何か来るかもしれません、斑辺恵様達は後ろに!」
「接続不能地点は白い意識と関連があると電子天女も推測」
同じく異変を感知したコチョウと焔巳が駆け寄り、サイカはデータを2人に送信した。
「遅ればせながら俺ちゃん達も南方剣士と再会か」
「今度こそ動く防衛ラインの先を見せてもらわないとな」
全身の力を抜いたピンゾロが拳を握り、翔星は手早くRガンを抜く。
「虫食いの正体が分かれば、今後の調査の役にも立つ」
「相変わらず斑辺恵は真面目だな、俺も同意見だ」
真剣に頷いた斑辺恵に翔星が笑いを噛み締めながらもRガンを構え、一行は警戒態勢を取り始めた。
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「氷騰ちゃん、ゲート起動までどれくらい必要だ?」
「え、え~と……」
脚のバネを溜めたピンゾロが振り向く事無く声を掛け、氷騰は俯いて口ごもる。
「今回は転移で退却しない」
「何だって!?……って言いたいとこだけど、妥当な判断だな」
「結界が南方剣士に通じる訳でも無いからな」
横から口を挟んで首を振った博士は、大袈裟に驚く振りをしてから片目を瞑って理解を示したピンゾロに大きく頷きを返した。
「あの2体は防衛ラインに近付く相手を優先する癖がある」
「それであの時はドッペル級ばかり狙ってたのか」
余裕の笑みを浮かべた翔星がRガンを地面に向け、斑辺恵は得心の行った様子で頷きを返す。
「つまり俺ちゃん達で引き付ければ、ゲートは安全って訳ね」
「正解だ、せいぜい派手に暴れるぞ」
その場で大きく屈伸したピンゾロに翔星が頷き、一同は各々の構えを取ってまだ見えぬ敵を迎え討つ体勢を整えた。




