第77話【乙女心に呆れたのは、元Fランクの怪力男】
南方剣士と赤い闘士を退けた翔星達は、
後を追って来た造酒達と合流した。
「おーい! 無事だったかー?」
「おかげさんでな」
一行の先頭を歩くピンゾロが手を振り、翔星も手を振って返す。
「何で勝手に残ったんだよ?」
「斑辺恵殿、糾弾は後じゃ。まずは情報交換と行こうかの?」
続いて近付いて来た斑辺恵が翔星に詰め寄り、後ろから窘めたコチョウは含み笑いを浮かべる。
「先ほどまで戦闘があったようですが、硼岩棄晶がいたのですか?」
「いや。例の南方剣士と、そいつの輝士に遭遇した」
黒い額当てを巻いた焔巳が慎重に周囲を見回し、翔星は事も無げに首を振った。
「何だって!? やっぱりあの剣士は敵なのか」
「上手く言えないが、別の事情がありそうだ」
「戦闘記録は電子天女に報告した、閲覧も可能」
思わず大声を上げた博士に翔星が曖昧な笑みを返し、続けてサイカが手のひらに報告を記載した画像を浮かべる。
「人間でも硼岩棄晶でも無い組成、ですか……捕獲出来ればいいのですが……」
「お願いだから手加減してね? ね?」
手のひらに浮かべた画像を読み終えたリーレが拳を握り、造酒は慌てて宥める。
「備考に『白い意識が関与している可能性あり』とありますが?」
「個体名、時影翔星の推測」
続けて読み終えた焔巳が眉を顰め、サイカは淡々と答えた。
「翔星さんに白い意識の事を話したですか!?」
「会話の流れで知ったんだが、何か拙かったか?」
突然氷騰が大声を上げ、翔星は困惑しながら聞き返す。
「いえ、いつの間にそこまでの関係になったのか興味がございます」
「うむ、これは翔星殿に詳しく聞かねばならぬようじゃの」
「サイカさんにも、ですね」
静かに首を横に振った焔巳は、腕組みして頷いたコチョウと共に含みを持たせた笑みを浮かべた。
「待ってくれ、サイカは俺の独断に巻き込んだだけだ」
「みなまで言うな、わしらの興味は命令違反の理由などでは無いわ」
「ええ、聞きたい事は他にあります」
庇うようにサイカの前へと立った翔星が慌てて弁明し、手のひらを向けて言葉を遮ったコチョウに続いて焔巳が力強く頷く。
「……何が聞きたいんだ?」
「うら若い男女が電子天女の目も届かぬところで2人きりでいたのじゃ」
「何も無いはずは無いですね」
雑に頭を掻いた翔星が投げ遣りに聞き返し、コチョウと焔巳は瞳を輝かせながら互いに見つめ合って頷いた。
「ちょっと焔巳さん!?」
「コチョウ先生も、こんな敵地のド真ん中で恋話は無いでしょ~」
全く予期せぬ展開に斑辺恵が止めに入り、ピンゾロも大袈裟に肩をすくめる。
「ピンゾロの言う通りだ、アント級と南方剣士としか戦闘してないぜ」
「それだけで白い意識を知る事は出来ませんね」
「ぼくも気になるです」
ため息をついて首を横に振った翔星に手を口元に当てた焔巳が眼光鋭く微笑み、氷騰も食い入るように見詰めて来た。
「ちょっと待ってくれ、さっきから言ってる白い意識って何なのよ?」
「オレも初耳だ」
「まずはここにいる異能者全員に情報の開示を提案する」
理解が追い付かずに口を挟んだ造酒に続いて博士も頷き、サイカは靄に包まれた人影の画像を手のひらに浮かべる。
「いいのかい? トップシークレット的なものじゃないの?」
「今まで聞かれなかったから話す必要も無かっただけです」
「なら遠慮なく教えてちょーだい」
慎重に聞き返したピンゾロに微笑んだリーレがサイカと同じく人影の画像を手のひらに浮かべ、異能者達は交代で始めた輝士械儕達の説明に耳を傾けた。
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「天女サマと袂を分かったデータリアンがいたなんてね~……」
「正確には輝士械儕計画に参加しなかっただけですね」
説明を聞き終えたピンゾロが腕組みしながら複雑な表情を浮かべ、リーレは手のひらに名簿のような画像を浮かべる。
「それでやってる事が輝士のパチモン作りとは世話ないぜ」
「輝士械儕とは原理が根本的に違う、質量のある動画再生に近い」
腰に手を当てた造酒が呆れ気味に首を振り、サイカは手のひらに戦闘を記録した映像を浮かべた。
「なら何故、歴代の異能者と輝士を再生してないんだ?」
「確かに記録にあるのは、南方剣士と赤い闘士だけだ」
顎に手を当てた博士が静かに口を開き、斑辺恵も映像を眺めながら小さく頷く。
「数もだけど再生の範囲も変だ、どこにも出て来たって報告は無いぜ」
「電子天女と同じく硼岩棄晶の排除が目的なら、いつぞやの大攻勢の時に加勢して来ても不思議は無かったはずじゃの」
「樹海にある何かを守ってるのかもしれない……」
Lバングルを操作して画像の検索をしたピンゾロに頷いたコチョウが手のひらに過去の戦闘記録を浮かべ、翔星もLバングルに同じ映像を浮かべて呟いた。
「心当たりがあるですか?」
「口に出ちまってたか、まだ憶測の段階だ」
「南方剣士と赤い闘士は一定のポイントを防衛する動きをしていた」
顔を覗き込んで来た氷騰に愛想笑いを返した翔星が軽く手を振り、サイカは手のひらを映像を別の戦闘記録に入れ替える。
「ついさっき防衛ラインを突破したけど、確認する前に逃げられちまった」
「どうやら調査の本命は消える防衛ラインの先にあるようだな」
観念したようにため息をついた翔星がLバングルに記録映像を浮かべ、しばらく眺めた博士は静かに頷いた。
「ところでサイカ殿、翔星殿に白い意識を教えるきっかけを教えてくれぬか?」
「共有した秘密と連動、情報の開示を拒否する」
情報整理がひと段落したと判断したコチョウが話題を変え、サイカは静かに首を振って返す。
「それなら仕方ありませんね」
「うむ、順調で何よりじゃ」
目を細めた焔巳が頬を緩め、コチョウも腕組みをしながら大きく頷いた。
「いいのかよ!? いや、聞かれても何て答えればいいか困るけどさ……」
「輝士械儕の役割を考えれば、それが最高の回答です」
「ちょっと引っ掛かるが今は助かる。それで、これからどうすんだ?」
思わず大声を上げてから口ごもった翔星は、満面の笑みを浮かべる焔巳に慌てて話題を変える。
「第二調査ポイントを目指しながら翔星達を探す予定だった」
「奇しくも露払いをしてた訳か」
複雑な意図を汲んだ造酒がLバングルに地図を浮かべ、翔星は力無く頭を掻く。
「一緒に来れるかい?」
「俺は問題無い。サイカは大丈夫か?」
「動作に支障は無い」
樹海の奥を指差す造酒に軽く頷いた翔星が下を向き、目が合ったサイカは淡々と頷きを返した。
「決まりじゃの、次の調査ポイントに着いたら本部に帰還じゃ」
「ええ、おふたりの仲は落ち着いた場所で進展させるべきです」
「あ~らら……2人ともすっかり乙女モードになっちゃったよ」
腕組みしながら深々と頷いたコチョウに焔巳が鼻息荒く同意し、ピンゾロは呆れ気味にため息をつく。
「乙女は皆、オオカミじゃからの」
「素敵なお言葉ね、どちら様の名言かしらん?」
「歴史に埋もれたネット小説のセリフじゃよ」
耳聡く振り向いたコチョウは、肩をすくめたピンゾロにウィンクした。
「斑辺恵様、私達も負けていられませんよ」
「うわぁ!? ここでは勘弁してくれないかな……」
「はい、続きは帰ってからにしましょう」
対抗心を燃やして抱き着いた焔巳は、困惑する斑辺恵の腕を胸に挟みながら含み笑いを浮かべる。
「ハカセ~」
「帰ってからだ」
「ありがとうです!」
甘えるような声を出した氷騰は、頭を撫でた博士に陶酔したように微笑んだ。
「私はレプリカですから、何も遠慮はいらないですよ?」
「今はノーコメントだ」
思い思いに心を通わせ合う面々を眺めていたリーレが意味深長に微笑み、造酒は慣れた様子で背を向ける。
「話は済んだのか?」
「ああ、後悔なら最初からしてる」
「お互い締まらないな」
早々に輪から離れた翔星と合流した造酒が互いに複雑な表情と共に肩をすくめ、一行の先頭に立って目的地へと歩き出した。




