第76話【銃を回したのは、元Fランクの闇使い】
南方剣士と遭遇した翔星とサイカは、
輝士械儕に似た赤い闘士にも遭遇して戦慄した。
「Rガン、ダブルファイア!」
『キィェェエーイッ!』
Rガンの引き金を素早く2回引いた翔星が闇と光を仕込んだ熱線を放つが、南方剣士は僅かに軸を逸らして熱線を躱しながら肉迫する。
「くっ……足止めにもならないとはな」
「必要なら2体同時の相手も可能」
「ご冗談、少しは楽しませろ」
苦い表情と共に全身のバネを溜めた翔星は、含み笑いを浮かべるサイカに余裕の笑みを返しながらRガンを地面に向ける。
「了解した、赤い闘士に専念する。科戸照射、動作予測開始」
『ガジェットテイル展開』
小さく頷いたサイカが肩装甲の小さなランプを点滅させ、赤い闘士はチューブのようなガジェットテイルから展開した蛇腹の機器を右の靴底に装着した。
「よろしく頼んだぜ」
『チェストォーッ!』
「また同じ動きかよ、踏み込みはあんなに複雑なのに……速い!?」
軽く手を振った翔星は呆れ気味に注視していた南方剣士が振り下ろす杖の速度に慌て、地面にRガンを撃った反動で横に跳ぶ。
『キィェェエーイッ!』
「動きは読めても速過ぎる!」
(闇を使ってもいいものか……)
再度杖を持ち上げた南方剣士が着地予想点に先回りし、着地前にRガンを撃って躱した翔星は躊躇い気味に左手を握りながら着地した。
▼
「虎影灯襖虚起動、梠接射出」
『マシラビローズ起動、吽猛棍射出』
手にした懐中電灯からサイカが光の刃を飛ばし、赤い闘士は靴底に付けた蛇腹の機器を踏んで飛び出して来た赤い三節棍を手にして弾き飛ばす。
「行動解析。靴底の機器より射出した火炎を物体化して武器を作成」
『ハッ!』
「データ確認、教本の記載を完全に再現」
バイザーを通じて相手の能力を見破ったサイカは、正面から踏み込んで来た赤い闘士の振り下ろす三節棍を躱しながら手のひらに小さく立体映像を浮かべた。
『トリャッ!』
「くっ!……科戸の予測値を突破、アルゴリズム修正」
宙を蹴って側面に回り込んだ赤い闘士が三節棍を振り払い、光の刃で受け止めて軌道を逸らしたサイカは肩のランプを更に激しく点滅させる。
「サイカ! 一旦距離を取るぞ、台刻転は使うな!」
「了解。瑞雲、出力最大!」
「おっと、いきなりだな……Rガンダブルファイヤ!」
不利と判断して短い指示を出した翔星は、両脚の機器からから光の粒子を出して飛んだサイカに背を掴まれた勢いで熱線を後方に撃って離脱した。
▼
「サイカ、ここで止めてくれ」
「了解」
Rガンを構えていた翔星が指示を出し、サイカは両脚から出していた光の粒子を止めて着地する。
「やっぱりそうだ……追撃して来ない」
「説明を要求」
「距離を取ると追って来ない、まるで何かを守ってるように見えないか?」
しばし後方を観察してからRガンを下ろした翔星は、警戒を解かずに懐中電灯を構えるサイカに2体の人影を指差しながら聞き返した。
「データが不足、断定は早計」
「あの奥には、あれらを作った何かの大事なものがあるかもしれない」
懐中電灯を構えたサイカが首を振り、翔星は気に留める事無く持論を展開する。
「憶測が多数、軽率な行動は危険」
「この状況がとっくに軽率だ、今さらだろ」
右手に掴んだ懐中電灯を前方へと向けたままサイカが振り向き、翔星は投げ遣り気味に肩をすくめた。
「貴官の考えを聞きたい」
「まずは奥を確認して、それから考える」
「正面突破は困難、台刻転の使用を具申」
思わず口元を綻ばせて聞き返したサイカは、人影の間を指差す翔星に頷いてから胸元に手を当てる。
「切り札は残り少ない、別の手を考える」
「了解した、具体的な指示を求める」
手のひらを向けて首を横に振った翔星が頭を掻き、サイカは懐中電灯を手放して敬礼を返す。
「判断材料が足りない、空から相手の出方を窺う」
「承知した、瑞雲起動」
上を指差した翔星に頷きを返したサイカが背中から抱き着き、2人は光の粒子に乗って飛び上がった。
▼
『フンッ!』
「回避成功」
「なるほど、伊達や酔狂で魔法使いと名乗った訳では無いらしいな」
杖の先端から南方剣士が火球を飛ばし、難無く躱したサイカに抱えられたままの翔星はコードネームの由来にひとり納得する。
「次弾来る」
「……っと、これで輝士も控えてるんだから堪ったもんじゃ……!?」
警告を出す前に回避運動を取ったサイカに感心しつつ足元を眺めた翔星は、突然背後に迫った殺気に言葉を詰まらせる。
『ハッ!』
「科戸、最大出力。緊急回避!」
炎を圧縮した三節棍を振り上げた赤い闘士が迫り、サイカは肩の小さなランプを激しく点滅させながら高度を上げた。
「何て跳躍力だ……まさに、猿の如くってやつか」
「最初の輝士械儕クオンのテイルはサルと記録にある」
「まさかの正解か。ところでガジェットも記録はあるのか?」
手にしたRガンを足元へと向けた翔星は、抱え込むように密着したサイカが手のひらに浮かべた立体映像を眺めながら聞き返す。
「ガジェットは鞴、能力は炎の物体化。赤い闘士も同等の能力を有すると推測」
「つまり向こうは、どこでも足場を作って得意の陸戦を仕掛けられるって訳か」
映像を切り替えたサイカが淡々と説明し、遥か眼下を跳ね回る赤い影に気付いた翔星はため息をついた。
「形勢はこちらが不利、撤退を推奨」
「ならこのまま、もっと上昇出来るか?」
手のひらの映像を地図に切り替えたサイカが2体の人影の防衛圏外を点滅させ、静かに首を横に振った翔星は上を指差す。
「瑞雲の出力なら可能、目的の開示を要求」
「ちょいと試したい事がある、俺の着地可能限界まで運んでくれ」
軽く頷いたサイカが真意を問い質し、翔星は指を上に向けて含み笑いを返す。
「危険と判断したら台刻転の使用を了承するのなら」
「分かった、1回残れば上等だ」
「了解した。瑞雲、出力上昇」
条件を付けて同意したサイカは、軽く頷いて受け入れた翔星に頷きを返してから両脚の機器に意識を込めて飛び上がった。
▼
『ハッ!』
「フリーズフラッシュ、自動起動に設定」
杖を構えた南方剣士が火球を乱射し、サイカは足元に閃光の障壁を展開する。
「撃たれるたびに壊れてるけど大丈夫なのか?」
「フリーズフラッシュは合計で222枚展開可能」
「そいつは何とも頼もしい事で……!?」
足元で次々に割れる障壁を警戒する翔星は残りの数を手のひらに出したサイカに曖昧な笑みを返すが、突如迫って来た殺気に気付いて息を呑む。
『フンッ!』
「させるか!」
『……!?』
闇の針を伸ばしたRガンを人差し指に通した翔星が素早く回転させて黒い円刃に変え、赤い闘士の振り下ろした三節棍を弾き返した。
「まさか試す日が来るとはな、とりあえずオーバーサークルとでも名付けるか」
「異能者は生身の人間、輝士械儕の攻撃を弾くのは不可能」
「驚くのは構わないが、次が来るぞ」
回転を止めたRガンを複雑な表情で眺めていた翔星は、淡々としつつも困惑した口調でデータ分析をするサイカに警告しながら銃口を下に向ける。
「赤い闘士に跳躍の兆候を認められず、警戒していると推測」
「なら、今のうちに俺を防衛ラインの奥まで投げてくれ」
「座標確認、了解した」
眼下に広がる炎の足場の上で身構える赤い闘士を確認したサイカは、南方剣士の後方を指差した翔星に頷きを返してから力任せに投げ飛ばした。
▼
「いやっっっほっっうっ!」
『チェストォーッ!……!?』
Rガンを撃って加速や軌道修正をしながら着地した翔星に肉迫した南方剣士は、素早く振り下ろした杖が翔星の体をすり抜けて動きを止める。
「切り札は取って置くもんだぜ、先輩。さて、御本尊の御開帳と……!?」
屈折させていた光を解いた翔星が南方剣士の目前に映し出した幻影を消しながら全身のバネを溜めるが、幻影と同時に南方剣士も消えて言葉を詰まらせた。
「逃げた……のか?」
「赤い闘士の消滅も確認、電子天女との接続回復」
「お疲れ、虫食いは南方剣士達と関わりがありそうだな」
周囲を見回していた翔星は、着地と同時に記録映像を手のひらに出したサイカに大きく手を振って返す。
「個体名八汐造酒他、本部に帰還した部隊の接近を確認」
「もう追い付いたのか、束の間の自由だったな」
元来た道を指差したサイカが手のひらの映像を切り替え、小さくため息をついた翔星は大きく伸びをした。




