第75話【闘士に戦慄したのは、元Fランクの闇使い】
サイカの言動に苛立ちを覚えた翔星は、
今まで秘めていた本心を吐露した。
「このまま待つのも芸が無いな、少し奥を見て来るか」
「硼岩棄晶の来た方角、危険と推測」
鳥居に寄り掛かっていた翔星が立ち上がり、手のひらに地図を浮かべたサイカは静かに首を横に振る。
「もし向こうに戦力が残ってるなら、ここはとっくに取り囲まれてる」
「タイガーアイの索敵範囲に敵影は無い」
サングラス型のバイザーを掛けた翔星が結界の境界を指差し、サイカもネコ耳の付いた髪留めから下ろしたバイザー越しに周囲を確認した。
「いるとしてもステルス級くらいか」
「ドッペル級が潜んでいる可能性は?」
「オリジナルを駆除したから、もう出て来ないだろ」
バイザーを外しがてら軽く伸びをした翔星は、手のひらにヒト型硼岩棄晶の立体映像を浮かべたサイカに余裕の笑みを返す。
「別の人間を取り込んだドッペル級と遭遇する可能性もある」
「多分それは無い」
「根拠は?」
行方不明者リストの画像に切り替えたサイカは、微塵も迷わずに否定した翔星に小首を傾げて聞き返す。
「今までの駆除で俺が苦戦したのは、初陣だけだ」
「了解した。貴官の偵察に同行する」
指先に光を灯してから吹き消した翔星にサイカが頬を緩ませながら親指を立て、2人は樹海の奥へと歩き始めた。
▼
「みなさん、お待たせしたです! 最終調整終わったです!」
「氷騰ちゃん、いつもすまないね~」
転送室に隣接した待機室の扉を勢いよく開けた氷騰が満面の笑みを浮かべ、入口近くの椅子に腰掛けていたピンゾロは咳き込む仕草をする。
「それは言わない約束だよ、おとっつぁん……って、何を言わせるですか!」
「お遊びはそれくらいにして、さっさと行くぞ」
ピンゾロの背中を軽くさすった氷騰が手を離し、隣に座っていたコチョウは呆れ気味に立ち上がる。
「コチョウ先生、もしかして妬いてる?」
「そんな訳無かろう、輝士械儕には決まった異能者がいるからの」
「ははっ……やっぱり無理か」
からかうように笑ったピンゾロは、胸を張って余裕の笑みを返すコチョウに背を向けて力無く頭を掻いた。
「とにかく急ごう、今は1秒でも時間が惜しい」
「これで翔星さんを迎えに行けますね」
誤魔化すように立ち上がった斑辺恵が部屋を出て転送室に向かい、焔巳も続く。
「翔星の事だ、プラント級を見付けて駆除しちまってるかもな」
「いくら翔星でも無理だよ。でも、多少は覚悟が必要か」
密かに安堵しながら部屋を出たピンゾロが肩を震わせて笑い、立ち止まって振り向いた斑辺恵は神妙な面持ちで俯いた。
「ど、どういうことです?」
「翔星は冷めてるようで血の気が多いってだけだ」
2人の会話を耳にした氷騰が慌てて聞き返し、ピンゾロは安心させるように笑いながら頭を撫でる。
「うむ、サイカ殿も満足するじゃろ」
「ん? そこは『苦労するじゃろ』じゃないの?」
「いずれ分かる話じゃ、今は救出に専念するかの」
腕組みをして深く頷いたコチョウが仕草を真似てから聞き返したピンゾロに含み笑いを返し、一行は心持ち早い足取りで転送室へと向かった。
▼
「ゲートの正常起動を確認、目的地に到着したです」
「誰もいませんね」
樹海に出た氷騰が鳥居型ゲートの状態を確認し、続けて出て来たリーレは慎重に周囲を見回す。
「まさか……翔星さんは硼岩棄晶に……!?」
「ありえないな、あの闇を抜けられる新種がいるとは思えないぜ」
「それにサイカさんもいる、ここから移動したんだと思うよ」
両手を口で押さえた氷騰にピンゾロが首を振り、斑辺恵も余裕の笑みを返す。
「だとしたらキャンプ地まで戻ったのか?」
「いや、奥に行ったみたいだぜ」
「翔星らしいな」
ゲートを設置する時に通って来た道を見据えた造酒に首を横に振ったピンゾロが地面に手を当て、博士は呆れ気味に鼻で笑った。
「下足痕は2人分ですね。乱れも無いですし、逃げた翔星さんをサイカさんが追い掛けた訳でも無さそうです」
「足跡鑑定まで出来るなんて、便利なスライムね~」
地面に広げたスライムを巻き取ったリーレが手早く読み取り、立ち上がったピンゾロは軽く伸びをする。
「でもサイカさんが翔星に協力するなんて意外だな」
「サイカさんはどうして翔星さんを止めなかったです?」
頭を掻きながら考えを纏めた斑辺恵が樹海の奥を見据え、同じ方角に目を向けた氷騰は首を傾げる。
「本人に聞けば分かる事だ、それよりこれからどうする?」
「当初の予定通り、次の調査ポイントに向かおう」
氷騰の頭を撫でた博士が振り向き、目が合った造酒はLバングルを操作してから樹海の奥を指差した。
「そうだな、方向が同じなら合流出来るかもしれん」
「おっけ~、一応声も掛けとく?」
「いや、入れ違いで戻って来た場合を考えてメッセージを置いて行く」
静かに頷いた博士は、大きく息を吸い込もうとしたピンゾロを制止したゲートに親指を向ける。
「ゲートに伝言データを貼り終えたです、2人ともどこにいるですかねぇ」
「電子天女との接続が回復すれば、2人の居場所も分かるじゃろ」
「そう言う事だ、行くぞ」
鳥居を操作して立体映像を浮かべてから俯いた氷騰の肩にコチョウが手を乗せ、一行は博士を先頭に樹海の奥へと向かった。
▼
「前方に人影を確認、要警戒」
「ピンゾロ達が先回りした訳ではなさそうだな」
下草の無い地面を歩くサイカが足を止め、翔星は腰のRガンに手を当てる。
「データ照合……呼称不明の南方剣士と合致」
「消えた剣士との再会、ね……あれは何者なんだ?」
ネコミミの付いた髪留めからバイザーを下ろしたサイカが手のひらに立体映像を出し、翔星は慎重にRガンを抜いた。
「スキャン開始……人間とも硼岩棄晶とも異なる存在」
「データリアンの白い意識が作った攻撃手段、って仮説の信憑性が高まったな」
バイザーを通して南方剣士を分析したサイカが手のひらの映像を切り替え、頭を掻いた翔星は複雑な笑みを浮かべる。
「貴官の推測を基に接触を試みる……」
「どうやら奴さんは戦う気満々みたいだぜ」
髪留めをガジェットテイルに戻して歩き出そうとしたサイカを制止した翔星は、右手で持ち上げた杖に左手を添えた南方剣士を指差す。
「警告。Sランク異能者の魔法使いは2か月で剣術をマスターしたと記録にある」
「そいつは楽しめそうだ」
ガジェットテイルを再展開したサイカが手のひらに記録画像を浮かべ、Rガンを構えた翔星は不敵な笑みを浮かべた。
▼
「Rガン、ダブルファイア!」
『キィェェエーイッ!』
「……なっ!?」
闇と閃光を混ぜた熱線を続けざまに照射した翔星は、熱線を躱しながら雄叫びを上げる南方剣士に驚愕しながら地面にRガンを向ける。
「効果無し、接近に警戒」
「見れば分かる、下がってろ!」
ガジェットテイル先端の懐中電灯を掴んだサイカに左手のひらを向けた翔星は、地面にRガンを撃った反動で前方に深く踏み込む。
『チェストォーッ!』
「おっと……ドッペルの時とまるで同じ動きだぜ……!?」
『ハッ!』
勢い良く振り下ろした南方剣士の杖の脇をすり抜けて背後に回り込んだ翔星は、自身の背後に迫る殺気に反応して地面に向けたRガンの引き金を引いた。
「……っと、待ち伏せとはな。いや、防衛か?」
「データ照合。魔法使いの闘士型輝士械儕、個体名クオンと合致」
反動で大きく跳んだ翔星が着地と同時に周囲を警戒し、前方に躍り出たサイカは殺気の主である赤いスパッツを穿いた水兵服姿の女性を分析する。
「まさか輝士と戦える日が来るとはね」
「警告。人間と輝士械儕の能力差は歴然、戦闘は推奨しない」
Rガンを構えた翔星が自らを鼓舞するように笑みを浮かべ、サイカは静かに首を振る。
「分かってる。サイカは輝士モドキの赤い闘士を、無理なら逃げるぞ」
「台刻転は2回使用可能、他の装備も戦闘に支障は無い」
「上出来だ。ひとつお手合わせ願うぜ、先輩方!」
小さくため息をついて元来た道を確認した翔星は、握った懐中電灯から光の刃を出したサイカに頷いてRガンを構え直した。




