第74話【本音をぶつけたのは、元Fランクの闇使い】
本部に帰還しなかった翔星とサイカはアント級を殲滅し、
帰還した面々はゲートの再起動を急いだ。
「簡易ゲートの結界機能は順調に作動、転移機能は使用不可」
「ピンゾロの言ってた通りか」
金属製の鳥居に触れたサイカが首を横に振り、翔星は小さくため息をつく。
「本部からの遠隔操作を感知、再起動の実施と推測。隊規に照らして待機を提案」
「分かった。俺はそこら辺を見回って来るから、サイカは休んでてくれ」
鳥居に触れたままのサイカがもう片方の手のひらに隊規を記載した画像を出し、翔星は腰のRガンを確認してから周囲を見回す。
「哨戒は輝士械儕の任務、貴官には休息を推奨」
「やっぱり駄目か……結界があるから見回りは後回しにしよう」
「了解した、休息用プログラムの起動準備」
鳥居から離した手を伸ばして外套を掴んだサイカは、ため息と共に腰を下ろした翔星の横に座って寄り掛かった。
「いや待て、そういうのはいいから」
「理解不能、この体は貴官のために作られた」
触れて来た肩を軽く押し返した翔星が立ち上がり、胸に手を当てたサイカは上目遣いで小首を傾げる。
「そういう言い方、止めてくれないか? サイカの体はサイカのものだろ?」
「輝士械儕の体は異能者のもの」
「だから嫌だったんだよ……少しは変われると思ったのに……」
複雑な表情と共に頭を掻いた翔星は、首を振ってから見詰めて来たサイカに背を向けて大きなため息をついた。
「貴官の言動と今回の行動に関わりがあると推測」
「大した地獄耳だな、物分かりが早くて助かるぜ」
静かな口調でサイカが話し掛け、軽く肩をすくめた翔星は荒々しく腰を下ろす。
「詳しい説明を求める」
「約束だったな……簡単に言えば、輝士を束縛したくなかった」
素早く袖を掴んだサイカが顔を近付け、真剣な眼差しに気圧された翔星は慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「理解不能、この体に拘束の履歴は無い」
「物理的にじゃねえ……精神的? 心理的? とにかくまあ、そんな感じだ」
左右の腕を交互に眺めたサイカが小首を傾げ、首を横に振って頭を掻いた翔星は咄嗟に浮かんだ言葉を並べ立てる。
「人体の保護優先プログラムは自由意思を制限している、と貴官は認識」
「だいたいあってる。ご理解、感謝するよ」
聞き取った音声を分析して要約したサイカが手のひらに立体映像として浮かべ、翔星は胸のつかえが取れたような表情と共に肩をすくめた。
「貴官がこの認識に至った経緯の説明を求める」
「異能力に覚醒した俺は、色々と調べて輝士の存在を知った」
映像を閉じたサイカが顔を近付け、止めるように手のひらを向けた翔星はLバングルに資料映像を浮かべる。
「貴官の情報収集能力は称賛に値する」
「どうも。俺のいた学校では、疑問に思った事を調べる奴は変な目で見られたよ」
「理解不能」
目を細めて微笑んだサイカは、苦々しい表情を返した翔星に小首を傾げた。
「話を戻すぞ。硼岩棄晶の駆除はしたかったけど輝士を束縛したくなかった俺は、属性を偽って電子天女に嫌われる落ちこぼれになる決意をした」
「どうしてそこまで?」
Lバングルの画像を閉じた翔星が指の先に小さな球を出し、サイカは煌々と闇を湛える球をしばらく眺めてから聞き返す。
「異能輝士隊を追放されれば、俺が女の子を束縛しちまう事は無いと考えたんだ」
「貴官の優しさは不器用」
「否定はしないよ、結局は巻き込んじまったからな」
遠い目をして空を見上げた翔星は、袖を掴んで来たサイカの頭を軽く撫でてから静かに首を横に振った。
「貴官の本音を聞けた、実に有意義」
「サイカは……って言うかデータリアンには自分の意思はあるのか?」
手のひらに浮かべた会話記録を眺めたサイカが微笑み、翔星は慎重に聞き返す。
「この体に入っている意識は、情報生命体より萌芽したもの」
「つまりはひとりの女の子の意識……って事でいいんだよな?」
「肯定、電子天女との接続が切れても自我を保有」
胸に手を当てたサイカは、言葉を詰まらせつつ聞き返した翔星に頷いてから手のひらに立体映像を浮かべた。
「つまりデータリアンから切り取って、輝士の器に入ったと考えればいいのか?」
「肯定、地球に興味を持って萌芽した意識から志願したものが輝士械儕になる」
しばし腕組みをした翔星が手で千切る仕草をし、口元を緩めたサイカは靄の奥に見える人影のような映像に切り替える。
「確かに全部のデータリアンが輝士にならなくても不思議は無いな」
「この白い意識は輝士械儕計画始動前から別計画を画策していた」
映像を覗き込んだ翔星が頷き、サイカは前列に立つ白い人影を指差した。
「そいつは初耳だ、どんな計画なんだい?」
「電子天女とはつながりの無い意識、詳細は不明」
俄然興味を持った翔星が聞き返すが、サイカは映像を閉じて首を横に振る。
「なら仕方ないか……ん? いや、まさかな」
「不明瞭な言動、説明を求める」
曖昧な表情を返した翔星が頭を掻く手を止め、サイカは目を細めて問い質す。
「ただの思い付きだ、気にしないでくれ」
「呼吸、心拍数共に確信と酷似した反応。重ねて説明を求める」
「隠すほどでも無いな、さっきの南方剣士が計画の一部なんじゃないかってね」
軽く手のひらを振った翔星は、全身を舐め回すように顔を近付けて来たサイカの熱意に根負けしてLバングルに記録映像を浮かべた。
「貴重な情報、電子天女との接続が回復したら検討を要請する」
「そいつは助かる」
手のひらに同じ映像を出したサイカが木の葉に遮られている空を見上げ、翔星は安堵のため息をつく。
「もし本当なら大手柄」
「別に手柄が欲しいとか、そんなんじゃねえよ」
映像を丸めるように閉じたサイカが親指を立て、翔星は軽く頭を掻いてから首を大きく横に振った。
「貴官の行動は目的が不明」
「本当は消えるつもりだったんだ、もう無理だけどさ」
小首を傾げたサイカと目が合った翔星は、目を逸らした先に袖を掴む手が視界に入ってため息をつく。
「隊規に照らせば、貴官の処罰は免れられない」
「命令違反には違いないからな」
袖から手を離したサイカが手のひらに画像を浮かべ、翔星は開放感を確認すべく伸びをした。
「この体も貴官と共に処罰を受ける」
「俺が勝手にした事だ、サイカは関係無いだろ」
「自分の意思で残った」
胸に手を当てて目を閉じたサイカは、静かに首を横に振った翔星に目を見開いて迫る。
「そっか。なら仕方ないな」
「どこまでも一緒にいると決めた」
「ありがたいね」
観念して頭を掻いた翔星は、再度袖を掴んで来たサイカから逃れられずに片側の肩だけすくめた。
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「そっちはどれくらい終わった?」
「あと半分です」
図書館区画地下の転送ゲートにケーブルを挿した端末の操作を続ける博士が横を向き、ゲートにガジェットテイルを巻いた氷騰は手のひらに工程表を浮かべる。
「もどかしいですね、樹海手前に設置したゲートから向かってもいいですか?」
「消耗したままの行軍は危険だ、今は休息を優先してくれ」
ゲートの正面に立ったリーレが軽く屈伸し、静かに首を横に振った博士は近くの椅子に親指を向ける。
「仕方ありませんね」
「頼むからおとなしくしてね? ね?」
軽く伸びをしたリーレが椅子に腰掛け、端末を床に置いて振り向いた造酒は手のひらを向けて慎重に宥めた。
「とにかく急ぐぞ、ポン酒の」
「ああ、このままだとリーレさんが何をしでかすか……」
「それもあるが、向こう側も心配だ」
端末の操作を続けながら声を掛けた博士は、頷きを返してから端末を手に取った造酒に首を横に振って返す。
「どういう事だい、ハカセ?」
「あの翔星が大人しく待つとは思えない」
「違いない、急ごう」
作業の手を止めた造酒に博士が肩をすくめ、一同は淡々と作業を再開した。




