第73話【言い訳を考えたのは、元Fランクの闇使い】
鳥居型ゲートの設置を終えた一行は、
ドッペル級の駆除を終えた翔星達と合流して転移を開始した。
「ここは……図書館区画の地下か」
「戻って来れたみたいだな」
転移ゲートを抜けた先の光景をピンゾロが慎重に確認し、博士は安堵のため息をつく。
「全員いるか? いない人は手を挙げてくれ」
「またベタなネタを、みんないるに決まって……」
冗談めかして笑った造酒が軽く手を挙げ、呆れ気味に首を振った斑辺恵の言葉が途中で止まった。
「翔星がいないぞ」
「サイカさんもいないです!」
人数を確認した博士が重いため息をつき、氷騰も大慌てで周囲を見回す。
「同じ状況なら俺もそうするか……」
「何ぞ言うたか、ピンゾロ?」
「いや、何でもない。それより翔星達はどこに行ったのかしらん?」
頭を掻いて静かに呟いたピンゾロは、睨み付けるように聞き返すコチョウに愛想笑いを返してから誤魔化すように周囲を見回した。
「転送直前にRガンで跳躍した音声が記録されていますし、樹海に残りましたね」
「どうしてそんな事を……」
手のひらに浮かべた立体映像から音声を再生したリーレが複雑な笑みを浮かべ、氷騰は理解出来ない様子で呟く。
「考えても仕方ねえ、今は2人を助けるのが先決だ」
「氷騰、ゲートの転移機能はどれくらいで使えるようになる?」
「全工程が順調に行っても3時間は必要になるです!」
曖昧な表情と共に頭を掻いたピンゾロに頷きを返した博士がLバングルの操作を始め、氷騰は計算結果を手のひらに浮かべた。
「ん? キャンプ地のゲートは朝一番で終わってなかったかい?」
「今回は最短での起動を優先したので、その設定の解除も含まれるです」
腕組みをしたピンゾロが首を捻り、氷騰は映像を切り替えながら答える。
「ゲートに接続して操作するから、現場で直接設定するのとは勝手が違うんよ」
「更には予定外の救出任務が発生した」
一行が抜けて来たゲートに親指を向けた造酒が複雑な表情を返し、博士はLバングルに浮かべた画像を切り替えた。
「うちの翔星が迷惑掛けた」
「いえ、ピンゾロさんの責任では無いです」
「サイカ殿もおるし、大事には至らんじゃろ」
居心地が悪そうに目を閉じたピンゾロが頭を掻き、慌てて首を横に振った氷騰に続いてコチョウが余裕の笑みを浮かべる。
「確かにゲートが使える頃には、虫食い部分も移動するかもしれないな」
「そうだな。ポン酒の、氷騰、ゲートの再調整を始めるぞ」
目を見開いたピンゾロが頭の後ろに手を回し、軽く頷いた博士は手順書をLバングルに浮かべる。
「はいっ、ハカセ! 今すぐ取り掛かるです」
「待ってる間に俺ちゃん達は、これまでの情報を整理するか」
力強く敬礼した氷騰が伸ばしたガジェットテイルをゲートに接続し、ピンゾロを先頭に残りの面々は転移室から出て行った。
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「上手く行ったと思ったのに、サイカが台刻転を使ってまで残るとはね……」
「この体は貴官と一蓮托生、今回の行動について説明を求める」
大きなため息をついた翔星が視線を落とし、目が合ったサイカは真剣な眼差しを返す。
「もう少し暴れたかった、で納得してくれないよな?」
「貴官に開示拒否の意思があるなら受け入れる」
視線を上に逃がした翔星が頭を掻き、サイカは胸元に手を当てて微笑む。
「何でこういう時だけ……まずはこいつらを駆除する、言い訳はその後だ」
「了解した。虎影灯襖虚、起動」
しばらく俯いた翔星が距離を置いて警戒をしていたアント級の群れにRガンを向け、サイカは手にした懐中電灯から光の刃を伸ばした。
「考えを纏めるまで全滅するなよ……闇よ!」
『『グルァ!?』』
不敵な笑みを浮かべた翔星が手を払い、闇に視界を奪われたアント級は困惑したような鳴き声を上げる。
「まずはひとつ!」
『グルァァーッ!?』
Rガンの銃口の出した闇の針を目の前で佇むアント級のコアに突き刺した翔星の合図を皮切りに、2人は黙々とアント級の駆除を始めた。
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「梠接、射出」
『グェアッ!?』
「相変わらず見事な腕前で」
懐中電灯を構えたサイカが光の刃を放って最後まで生き残ったアント級のコアを貫き、翔星は無機質な拍手を送る。
「目標の殲滅を確認、結界への退避を提案」
「そうだな、少し休むか」
周囲を確認したサイカが鳥居を指差し、翔星は観念したように肩をすくめる。
「休憩中に説明を求める」
「まだ言い訳は考え中だ」
覗き込むように上目遣いでサイカが見詰め、軽く頭を掻いた翔星は重い足取りで鳥居に向かった。
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「それで何の情報から整理するよ?」
「何からも何も、自分達の専門は硼岩棄晶の駆除以外に無いからね」
転送室の隣にある待機室へと入ったピンゾロが近くのベンチに腰掛け、向かいに座った斑辺恵は複雑な笑みを返す。
「斑辺恵殿の言う通りじゃ、わしらに出来る事なんぞ限られとるわ」
「これまでの探索については、本部に到着時に電子天女へ報告済みです」
ピンゾロの隣に座ったコチョウが腕組みをして首を振り、斑辺恵の隣に腰掛けた焔巳は軽くお辞儀をしてから手のひらに立体映像を浮かべた。
「助かるぜ、焔巳ちゃん。んじゃ、軽く情報の共有と行くか」
「まずは新種、隠密に特化したステルス級だね」
親指を立てたピンゾロが片目を瞑り、斑辺恵はLバングルに映像を浮かべる。
「うむ。姿を消すだけでなく、熱も振動も消しとったの」
「でも形状はアント級そっくりですね」
腕組みをしたままのコチョウが何度も頷き、焔巳も映像を切り替える。
「だからなのか、アント級と連携してるようにも見えたな」
「どういう理由か知らないけど、ステルス級はアント級に比べて極端に少ないね」
「作成のコストか時間がアント級より多いと言うのが、電子天女の見解です」
記録画像を映し出したピンゾロに頷いた斑辺恵が2種類の映像を並べて浮かべ、しばし天井を見上げた焔巳は手のひらに見解をまとめた映像を浮かべた。
「俺ちゃんと同じ予測をするなんて、珍しい事もあるじゃない」
「ふざけとる場合か、お主も危険な目に遭ったんじゃぞ」
腕組みをしたピンゾロが肩を震わせて笑い、コチョウは呆れてため息をつく。
「最初は先生とハカセ、次は俺ちゃんと斑辺恵。確実に異能者を狙って来た」
「認めたくないが、的確にこちらの弱点を突いて来ておるの」
大きく息を整えたピンゾロがLバングルの記録画像を切り替え、コチョウは渋い表情と共に頷きを返した。
「でも異能者で対処できる辺り、まだ発展途上なのかもしれない」
「アント級との連携も試行の一環なのでしょうか?」
懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵が強く握り締め、焔巳は手のひらに立体映像を浮かべてから首を傾げる。
「おそらくね。結局は全滅させたし、思惑なんて分からないよ」
「ついでにアント級も、翔星とサイカちゃんなら全部駆除してるな」
軽く頷いた斑辺恵が複雑な笑みを返し、ピンゾロは遠い目で天井を見上げる。
「仮にプラント級がいてもステルス級を主軸に置くなら、再編成はまだ先だね」
「虫食い地点のドッペル級も翔星が駆除したし、戦力の大幅ダウンは確実だ」
Lバングルに出した画像を斑辺恵が指で弾き、ピンゾロは余裕の笑みを返した。
「そうなると、残るは南方剣士かの?」
「記録画像は電子天女が分析中ですが、まだ時間が掛かりそうです」
手のひらに浮かべた杖を構えた青年の立体映像をコチョウが睨み付け、しばらく天井を見上げた焔巳は静かに首を横に振る。
「こればかりは作戦の立てようが無いか」
「また出てきたら、その時に考えればいいさ」
腕組みをした斑辺恵が深いため息をつき、ピンゾロは重々しい空気を払うように大きく肩をすくめた。




