第72話【誘導したのは、元Fランクの風使い】
翔星とサイカは地下空間に転移し、
ドッペル級の本体を駆除した。
「動きが止まった、どうやら翔星が勝ったみたいだな」
「いきなり翔星さん達が消えたから、びっくりしましたよ」
「安心したなら、そのスライムのドリルを戻してね! ね!」
手のひらを地面に当てたピンゾロが立ち上がり、安堵のため息をついたリーレの右腕を包むように造酒が両手のひらを向ける。
「臨戦態勢だけは取って置いた方が良さそうだね」
「やはり、ドッペル級以外もいるのか?」
周囲を見回した斑辺恵が懐に手を入れ、鳥居型簡易ゲートの動作を確認していた博士は手を止めて振り向く。
「うむ、不可解な反応をキャッチした」
「こちらでも不自然な揺らぎを検知しました」
小型ドローンの映像を手のひらに浮かべたコチョウが慎重に頷き、黒い額当てに意識を集中した焔巳も頷いた。
「ハカセに氷騰ちゃん! 鳥居の設置は、あとどれくらいだ?」
「最終チェックに5分は必要です!」
「分かった。ここは自分達で食い止める」
Lバングルで時刻を確認したピンゾロに氷騰が手のひらに浮かべた作業工程表を一斉に送信し、受信した斑辺恵は竹とんぼの羽を懐から取り出す。
「私の任務は鳥居の設置までですので、駆除を手伝いますね」
「お願いだから手加減してね! ね!」
右手のドリルを解いたリーレが拳を握り締め、何度も懇願するように釘を刺した造酒は鳥居に戻って作業を再開した。
▼
「そろそろ来るな、見えてないのに殺気みたいなものはビシビシ伝わってくる」
「何が来てるのか分かるのかい?」
「分からねえ、だからステルス級だ」
大木を背にした鳥居を取り囲むように組んだ半円形の陣の持ち場で全身のバネを溜めたピンゾロは、隣から聞き返して来た斑辺恵に余裕の笑みを返す。
「そんないい加減な」
「一度は俺ちゃん達を出し抜いたんだ、同じ手を使わない理由は無いぜ」
「確かに説得力だけはあるよ」
思わず噴き出した斑辺恵は、肩をすくめたピンゾロが続けた言葉に頷きを返して身構え直した。
「それより斑辺恵様、異能者と輝士械儕は交互に配置した方がよろしいのでは?」
「確かにその方が効率はいいと思うけど、ちょっと試したい事があるんだ」
背中合わせに陣の端に立った焔巳が慎重に声を掛け、振り向いた斑辺恵は曖昧な笑みを返す。
「ですが……」
「そろそろ来ます、もう間に合いません!」
不安と不満を伝える言葉を選ぶあまりに焔巳が口ごもり、糸状にしたスライムを地面に張り巡らせていたリーレが言葉を遮る。
「焔巳さん、今は何も聞かずに持ち場についてくれないかな?」
「かしこまりました、斑辺恵様」
曖昧に笑った斑辺恵に焔巳が頭を下げ、一同は姿無き敵を迎撃すべく身構えた。
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『『ギギーッ!』』
「斑辺恵の狙い通りに来たぜ、真空金剛散弾」
『『ギェッ!?』』
突然姿を見せたステルス級硼岩棄晶を見計らっていたかのようにピンゾロが手のひらで圧縮した空気の散弾を投げ、アリのような脚部を次々に吹き飛ばす。
「まさかこんなに上手く行くとはね、パームブラスト!」
『『ギギョッ!?』』
密かに口元を緩めて微笑んだ斑辺恵も手のひらから空気弾を放ち、ステルス級は爆風に不意を突かれて足を止めた。
「あの硼岩棄晶は斑辺恵様達を守りの薄い場所と判断したのですね」
「見えないから逆に誘導しおったのか、よう考えたの」
動きを止めたステルス級を眺めていた焔巳とコチョウは、斑辺恵が立てた作戦の意図を理解してそれぞれ頷く。
「まとめて片付けたいですけど、それではお2人を巻き込んでしまいますね」
「今は後方支援に徹するのじゃ、あれで全部とは限らぬからの」
スライムで両手を包んだリーレが狙いを定めあぐね、コチョウは持ち場に立って両脚のバネを溜める。
「帰ったら覚悟してくださいね、斑辺恵様。柩連焔刃、ニードルモード」
『ギギェッ!?』『ギョギィッ!?』
心持ち不機嫌な表情を浮かべた焔巳が両手に構えた円盤から火花の針を飛ばし、コアを焼き貫かれたステルス級が次々に消滅した。
「ありがとう、焔巳さん! ピンゾロ、防衛線を維持しつつ各個撃破だ!」
『ギギョッ!?』
振り向く事無く援護の主に感謝した斑辺恵が号令しながら竹とんぼの羽を振り、小さく圧縮した炎の刃にコアを焼き切られたステルス級が消え去る。
「オッケー、任されて」
『ギェッ!?』
親指を立てて片目を瞑ったピンゾロが跳び掛かって来たステルス級の首を掴み、コアを捻り砕いて灰燼へと変えた。
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『ギギャーッ!?』
「今ので終わりか? どうやらステルス級は数が少ないみたいだね」
竹とんぼの羽を振り払ってステルス級のコアを焼き切った斑辺恵は、警戒しつつ周囲を見回す。
「上手く行ったな、斑辺恵」
「ですが、ご自分を囮に使うのはいただけませんね。今夜は覚悟してくださいね」
「あー……そこは、お手柔らかに頼むよ」
ひと息ついて伸びをしたピンゾロの言葉を遮るように焔巳が圧のこもった笑みを返し、斑辺恵はぎこちない笑みを浮かべながら振り向いた。
「みなさん! 反対側から増援です!」
「尋常では無い数のアント級じゃ!」
「やっぱり、ステルス級だけで終わりじゃないよな」
背中を向けたままのリーレとコチョウが言葉に緊張を滲ませながら身構え、ピンゾロも軽く息を整えてから身構える。
「焔巳さん、続きはここを生き延びてからだ」
「かしこまりました」
不器用に片目を瞑った斑辺恵と軽くお辞儀を返した焔巳が同時に身構え、一同は木々の奥から地響きを轟かせるアント級の群れを迎え討つ体勢を整えた。
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「噴割璃音拳破」
『『グルァァァッ!?』』
招き猫のように拳を上げたリーレが拳を振り下ろし、群れて出て来たアント級の一角が崩れ去る。
「これなら結界の起動まで持ちそうだね」
「いや、奴等はリーレちゃんの必殺ブローを測ってやがる」
半ば呆れ気味に戦況を観察していた斑辺恵が安堵のため息をつくが、ピンゾロは慎重にアント級の群れを指差す。
「大した自己犠牲の精神だね」
「命の概念が人間と根本的に違うんでしょ」
「そろそろ射程外から回り込んで来る頃かな?」
複雑な笑みを返してため息をついた斑辺恵は、興味無さそうに肩をすくめたピンゾロに頷いてから身構えた。
「ゲート起動準備、終わったです!」
「よっしゃ、ならさっそく……」
「ダメです! 翔星さん達がまだ戻って来てないです!」
鳥居型のゲートに巻き付けていたガジェットテイルを離して手を振った氷騰は、大きく肩を回したピンゾロに手のひらを向けて言葉を遮る。
「ん? サイカちゃんもゲートの操作は出来るでしょ?」
「起動を優先したので転移は1回だけです。残りは本部から遠隔になるです」
しばらく上を向いて考えを纏めたピンゾロが鳥居に親指を向けながら聞き返し、氷騰は手のひらに立体映像を浮かべながら首を横に振った。
「ここで翔星達を置いて行ったら、昨日のキャンプ地まで歩く羽目になる訳ね」
「そういう事になるです」
「でもって今は天女サマを経由した連絡も出来ない、どうしたもんかな?」
元来た道に親指を向けて確認したピンゾロは、否定する事無く頷いた氷騰の頭を撫でてから空を見上げる。
「おい、あれ翔星じゃないか?」
「本当か? 実はシカでしたなんて落ちは……無いようだな」
鳥居に立体映像のパネルを展開した造酒が遠くの人影を指差し、確認をしたピンゾロは大きく息を吸い込んだ。
「何をする気だ? ピンゾロ」
「こうする。おーい! ゲートの起動は1回だけだー! 早く戻ってこーい!」
空気の動きに眉を顰めた博士が聞き返し、親指を立てて片目を瞑ったピンゾロは自分の声を風に乗せて飛ばす。
「聞いたな、サイカ」
「無論。座標確認、台刻転起動」
風に乗って来たピンゾロの声にしばし耳を傾けた翔星がバイザーを外し、頷きを返したサイカは自分の転移機能を起動する。
「個体名サイカ及び時影翔星、本体に合流」
「合流を確認です! 造酒さん!」
「よっしゃ! ゲート起動だ!」
瞬間移動から着地するや否やサイカが敬礼し、敬礼を返した氷騰の合図に親指を立てた造酒は鳥居の転移機能を起動した。




