第71話【涙を忘れたのは、元Fランクの闇使い】
次の調査ポイントに到着した翔星は、
近くに潜むドッペル級を単独で駆除する提案をした。
「ドッペル級相手にひとりって正気か!?」
「元々あれは俺が生み出したようなものだ、決着も俺が付けるのが筋だろ?」
思わぬ言葉に斑辺恵が大声を上げ、翔星は涼しい顔で首を横に振る。
「輝士械儕として翔星さんの意見に賛同出来ません」
「焔巳殿の言う通りじゃ、翔星殿が責任を感じる必要なぞなかろう」
厳しい表情を浮かべた焔巳が首を横に振り、コチョウも腕組みして頷いた。
「参ったな……ここはすんなり見送ってくれるところじゃないのか?」
「今までとは違うみたいね、翔星ちゃん。で、本心は何なの?」
戸惑いのため息をついた翔星が頭を掻き、しばし肩を震わせて笑ったピンゾロは含みを持たせて聞き返す。
「動きが鈍ってる今のうちに、ドッペル級の本体を見極めたい」
「今まで本体だと思っていたのは中継装置だって報告してたよね?」
「ああ、そいつだけ地下にバイパスが伸びていた」
不敵な笑みを返した翔星は、Lバングルに報告書を浮かべた斑辺恵に頷いてから自分のLバングルに硼岩棄晶の立体映像を浮かべた。
「分かった、片を付けて来いよ。こっちは任せてくれ」
「ああ、これは翔星にしか出来ない事だ」
静かに頷いたピンゾロが片目を瞑って親指を立て、腕組みをした斑辺恵も力強く頷く。
「よろしいのですか?」
「うむ、ここはわしらのどちらかが行くべきかの」
「分かってないな、コチョウ先生は。翔星はひとりの方が強いだろ?」
困惑して聞き返した焔巳に頷いたコチョウが周囲を見回し、首を横に振ったピンゾロは悪戯じみた笑みを浮かべた。
「確かにデータを見れば理に適っていますね」
「でも、ひとりにするのは賛成できないです」
手のひらに記録映像を浮かべたリーレが強引に飲み込むかのように頷き、氷騰は絶対に頷くまいと頭を左右に振る。
「問題無い、同行者ならここにいる」
「危険だ、と言っても聞かないんだろ?」
「当然、この体は貴官を護るためにある」
周囲の注目を集めるかのように胸を張ったサイカは、無駄と知りつつ聞き返した翔星に力強く頷きを返す。
「決まりですね」
「サイカ殿なら翔星殿の闇の中でも動けるからの」
「まったく頼もしい限りだよ……それじゃ、行って来る」
同時に会心の笑みを浮かべた焔巳とコチョウにため息をついた翔星は、軽く手を振ってからサイカと共に硼岩棄晶が潜伏する場所へ向かった。
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「まだドッペルを出さないか、このまま本体に近付ければいいんだが……」
「地表のエネルギー体に変化あり、警戒を厳にする」
周囲の光を屈折させて姿を消した翔星が慎重に近付き、サイカは隣からネコ耳の付いた髪留めから下ろしたバイザー越しに視線を地面に向ける。
『ナニミテンダ』『ザケンナ』
「ドッペル級の実体化を確認」
不良少年の姿をしたドッペル級硼岩棄晶が人の言葉を真似る鳴き声を上げながら続々と姿を現し、サイカはガジェットテイルの先端に付いた懐中電灯を手にした。
「造酒達に向かったら危険だ、出来るだけ引き離すぞ」
「了解、虎影灯襖虚起動」
『イマナンテイッ……タ!?』
銃口に闇の針を作り出した翔星に頷いたサイカが懐中電灯から伸ばした光の刃を振り、首を刎ねられた先頭のドッペル級の鳴き声が途切れる。
『オレヲオイテクナ!』
「おっと、そろそろいいかな? 闇よ!」
側面に回り込んでいたドッペル級が腕を振りおろし、難無く躱した翔星は左手を振って周囲を闇に包んだ。
『ナニミテンダ』『ザケンナ』
「もらった!」
『イマナンテイッ……タ!?』
地面から湧き出していたドッペル級の動きが一斉に止まり、翔星は手近な1体のコアに闇の針を突き刺して駆除する。
「梠接、射出」
『ザケン……ナ!?』
髪留めのバイザーを下ろしたサイカが懐中電灯から光の刃を切り離して飛ばし、進路を塞ぐドッペル級のコアを貫いて駆除した。
「貴官に本体の探知を要請する」
「あの逃げ腰になってるドッペル級だ、足元に細いバイパスがある」
背中合わせに合流したサイカが懐中電灯に新たな刃を伸ばし、翔星はやや遠くに離れた個体を指差す。
「光学解析最大ズーム、バイパスを確認」
「あんな細いバイパス、ヒドラやケルベロスを見る前なら気付けない訳だ」
しばしドッペル級を観察していたサイカがようやく頷き、ため息をついた翔星は自分に言い聞かせるように肩をすくめる。
「座標確認完了、これより本体の駆除に向かう」
「虫食い地帯だけど、行けるのか?」
「この転移機能は電子天女との接続は不要、台刻転、起動!」
バイザーを通して地中深くまで観察したサイカは、慎重に聞き返した翔星の腕を掴んで転移機能を起動した。
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「地下にこんな空洞を作る必要があるとかね……」
「既存のドッペル級と異なる反応を確認」
直径5メートル近いドーム状の地下空間に着地した翔星が慎重に周囲を見回し、同時に着地していたサイカは中心地点を指差す。
『オレヲオイテクナ』
「髑髏か、いい趣味してやがる」
警戒しつつ中心部まで移動した翔星は、窪みに半分ほど埋もれた人間の頭蓋骨を模した物体を確認してから鼻で笑った。
『ザケンナ』『ナンデオレダケ』
「ドッペル級を多数確認」
「分かりやすいな、闇よ!」
突然周囲に複数のドッペル級が湧き出し、手にした懐中電灯から光の刃を伸ばしながら躍り出たサイカの背後から翔星が左手を振り上げて周囲を闇に包む。
「バイパス確認、やっぱり髑髏が本体か」
『ナニミテン……ダ!?』
闇に包まれたドッペル級が映し出す僅かな光に目を凝らした翔星は、バイパスを追った先に行き着いた頭蓋骨にRガンから伸ばした闇の針を突き立てた。
「目標の消滅を確認」
「……案外呆気ないもんだな」
「貴官の心情を察する」
周囲を見回してから光の刃を消したサイカは、闇を解いた翔星の背にそっと抱き着く。
「まさか、こんな事で泣く奴はどうかしてるぜ」
「データエラーと判断、適切な行動を再検索」
「泣けない奴もどうかしてるか……難しいな、普通ってのは……っ!?」
反射的に仰け反ってから静かに首を横に振った翔星は、小首を傾げて手のひらに映像を浮かべたサイカの頭を撫でた直後に周囲の異音に気付いて身構えた。
「ドッペル級本体の駆除により間も無く崩落と推測」
「長居は無用だな。サイカ、頼んだ」
手のひらの映像を切り替えたサイカが胸部の装甲に意識を集中し、肩をすくめた翔星は上を指差した。
「座標は確認済み、台刻転起動」
(あばよ亡霊、もう遭う事もないだろうぜ)
得意気な表情と共に親指を立てたサイカが胸部装甲から浮き出た光の輪を前方に広げ、一瞬振り向いた翔星は躊躇う事無く光の輪を潜り抜けた。




