第7話【待機を命じられたのは、Fランクの異能者達】
それぞれの地で硼岩棄晶を退けた翔星、ピンゾロ、斑辺恵は、
街を目指して移動を再開した。
「ようやく見えて来たぜ」
「第22番結界街、スズノキシティ。外壁の内側に異能輝士隊の基地もある」
森を抜けた翔星が安堵のため息を漏らし、続くサイカが開けた道路の先に見える鳥居の両端から広がる外壁を指差す。
「地図だと近くなのに、結構時間を食ったな」
「平面地図に起伏のデータは未記載、街中での休憩を推奨」
バングル型の端末、Lバングルに表示した地図を翔星が複雑な顔で眺め、周囲を見回したサイカは軽く頷く。
「疲れてたのか? すまん、次からは休憩を挟むよ」
「この体の動作は良好、貴官に疲労の兆候を確認」
「そりゃどうも……」
気遣って微笑んだ翔星は、真顔で首を振るサイカに肩をすくめて歩き出した。
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「これでしばしの休息か……」
「硼岩棄晶に結界内の侵入は不可能、充分な休息が可能」
街に入った翔星が未練がましく振り向き、前を歩くサイカは満足そうに頷く。
「よく考えられた仕掛けだぜ」
「過去のネット小説を参考に防衛システムを構築した、とデータに記載」
「ちゃっかりしてるよ……」
複雑な表情で頷いた翔星は、データベースにアクセスしたサイカの説明を聞いて笑いを噛み殺した。
「到着した」
「これが基地か? 随分と小さいな」
大鳥居を抜けてすぐ横の脇道に入ったサイカが外壁を背に建つ小さなビルの前で立ち止まり、翔星は拍子抜けした様子で見上げる。
「有事の際に本部から援軍を空間転移させる」
「なら、ここの転移装置を使えるか確認するか」
「了解」
再度データベースにアクセスして説明を終えたサイカは、翔星に頷きを返した。
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「あら? いらっしゃい」
「表からご同業が来るなんて珍しいな」
白い水兵服を着た紫水晶のような髪色の女性が来客に気付いて立ち上がり、白い詰襟の制服を着て眼鏡を掛けた男が建物の奥から顔を覗かせる。
「定時間際に失礼。俺は闇使いの時影翔星、空間転移事故で本部から飛ばされた」
「輝士械儕のサイカ、同じく本部から転移した」
サングラス型のバイザーを外した翔星が敬礼し、続いてサイカも敬礼した。
「僕は雷使いの隹戸礼真。Lバングルは照合したよ」
「ワタシは隹戸礼真の輝士械儕、夏櫛と申します」
礼真と名乗った男が敬礼を解いてLバングルを軽く振り、続けて夏櫛と名乗った女性が長いスカートの前に両手を揃えて頭を下げる。
「いきなりですまないが、転移装置を使わせてくれないか?」
「Lバングルのログを確認したけど、転移装置はお貸し出来ないわ」
緊張を解いた翔星が本題を切り出し、夏櫛は静かに首を横に振った。
「どういう事だ?」
「転移事故に巻き込まれた場合、原因が解明されるまで転移は禁止されるんです」
思わぬ返答に対し翔星が冷静に聞き返し、夏櫛は真剣な表情で説明する。
「俺達自身が原因の場合は、二次災害にも発展しかねない訳か……」
「同じ理由で公共の転移機関も使用出来ない決まりなんだ」
Lバングルを眺めた翔星が渋々頷き、礼真は曖昧な笑みを浮かべた。
「本部まで直接移動するしかないか」
「結界街を物理的につなぐ道路は限定的、車両でも困難と具申」
複雑な顔でため息をついた翔星が窓から僅かに覗く大鳥居に目を向け、サイカは真剣な表情で手のひらに立体地図を出す。
「そうだよな……Lバンの通信機能はイカれてるし……」
「この体も通信機能が制限されてる」
再度Lバングルを見詰めた翔星が反応の無いボタンを何度も押し、しばし天井を見上げたサイカも首を横に振った。
「万事休すか……いや、この基地の通信機を使えるか?」
「それなら問題無いよ」
「今、準備しますね」
慎重に質問した翔星に礼真が軽く頷き、丁寧な仕草でお辞儀をした夏櫛が建物の奥に手を差し伸べた。
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『空間転移事故はこちらでも確認済みだ、無事で良かったよ』
「状況は報告した通りだ、充木隊長。合流した輝士械儕の回収を頼めるか?」
建物の中心部にある通信室に通された翔星は、備え付けの無線機を通して上官の充木に本題を切り出す。
『落ち着け時影、まだ調査中だ』
「理解してるが、せめてもの道筋は欲しい」
慣れた様子で充木が宥め、翔星は尚も食い下がる。
『たった今、ヒサノが電子天女からメッセージを受け取った』
「電子天女は何と?」
密かな安堵と共に充木が追加情報を示唆し、翔星は落ち着いて聞き返す。
『時影翔星とサイカは原因解明まで待機を命じる、との事だ』
「マジかよ……」
息を整えた充木がメッセージを読み上げ、翔星は力無く項垂れた。
「この体も電子天女から同様のメッセージを確認した」
「はい、こちらの施設はご自由に使ってください」
しばし天井を見詰めたサイカが静かに頷き、同じく見上げていた夏櫛も柔らかい微笑みを浮かべる。
「分かった。夏櫛、部屋の用意を頼めるか?」
「かしこまりました」
静かに頷いた礼真が指示を出し、夏櫛は丁寧にお辞儀をして通信室を後にした。
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「こちらの部屋を使ってください」
「部屋はひとつ……なのか?」
夏櫛に案内された翔星は、部屋を見回してから躊躇いがちに聞き返す。
「異能者と輝士械儕は共に生活する規則ですので」
「説明しづらいんだが、サイカは俺の輝士ではないんだ」
軽く頭を下げた夏櫛が含み笑いを浮かべ、頭を掻いた翔星は説得を試みる。
「これも電子天女からの指示ですので」
「異論は聞かない訳か」
静かに首を横に振った夏櫛が凛とした気配と共に微笑み、翔星は半ば折れる形で納得した。
「悪いな、こうなったら命令を覆せないんだ」
「いや、こっちこそ無理を言ってすまなかった」
最後尾で様子を見ていた礼真が愛想笑いを浮かべ、翔星も愛想笑いを返す。
「お食事の準備が出来たら、お呼びしますね」
「俺達の分まで、いいのか?」
緊張を解いた夏櫛が柔らかく微笑み、翔星は慎重に聞き返した。
「異能輝士隊は軍隊同様に完結した組織ですので」
「おかげで地方基地の出張はちょっとしたスローライフだよ」
手のひらに立体映像を出した夏櫛が淡々と説明し、礼真は小さく肩をすくめる。
「なるほど、天職って訳だ」
「否定はしないよ」
得心の行った様子で翔星が含み笑いを浮かべ、礼真は誇らし気に腰の工具入れに手を当てた。
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「ここが当座のねぐらか、設備が整ってるのは幸いだな」
「構成員の安定した生活は、組織の維持に必要不可欠」
部屋に入った翔星がひと通り見回し、先に入っていたサイカは壁に寄り掛かって頷く。
「安定ね、なら俺ひとりにしてほしいもんだ」
「法律上この体は端末、この部屋には貴官ひとりと認識」
「はぁ……今頃斑辺恵やピンゾロはどうしてんだろうな~」
複雑な表情で頭を掻いた翔星は、真顔で胸に手を当てるサイカにため息をついてから遠い目で窓を眺めた。
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「日が暮れる前に到着出来てよかったです」
「まさかフカズシティの近くに飛ばされてたなんてね」
翔星達とは違う基地へと辿り着いた焔巳が微笑み、斑辺恵は寝室の窓から見える大きな川を眺めながら安堵のため息をつく。
「おかげで今夜はゆっくり休めそうですね、お風呂もありますし」
「後で衝立になる物を頼まないと……」
寝室の奥を確認した焔巳が覗き込むように微笑み、慌てて目を逸らした斑辺恵は疲れた様子でため息をついた。
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「歩いてすぐの場所にシバダイシティがあったのは僥倖じゃったの」
「嬉しいのは分かったから、もう少しお淑やかにしようね」
窓から湖の見える寝室のベッドに寝転がったコチョウが両脚を広げ、ピンゾロは複雑な笑みを返す。
「わしは輝士械儕じゃ、気にせんでいいぞ」
「下手に意識するよりは楽か」
うつぶせになったコチョウが半球状のガジェットテイルを振り、ピンゾロは落ち着いて頭を掻いた。
「先に風呂に入って来るぞ」
「そういうところは人間と変わらないのな」
再度寝返りを打ったコチョウが起き上がり、ピンゾロは肩で笑いを噛み殺す。
「外皮は人肌と大差無いからの、でも覗くでないぞ」
「はいはい」
(都合で機械と女を使い分けんじゃないよ)
からかうように笑ったコチョウが寝室の奥に消え、手を振って返したピンゾロは心の中で毒づいた。




