第68話【決断を委ねたのは、元Fランクの闇使い】
樹海に足を踏み入れた翔星達は、
新型硼岩棄晶の襲撃に遭うも難無く迎撃した。
「無事だったか?」
「ああ、この程度なら問題ない」
アント級の駆除を終えた翔星が戻り、博士は落ち着いて作業着の土埃を払う。
「それにしてもハカセの爪、まるでトラクターみたいにご立派ね」
「見てたのか、オレ個人としては土属性の方がありがたかったんだがな」
続いて駆け寄ったピンゾロが軽く手を振り、複雑な笑みを返した博士はそのまま自分の手を見詰める。
「しょうがないよ、属性だけは天女サマの胸三寸なんだから」
「確かにな。だが例えどんな属性でも、いい土を耕す爪を作って見せる」
最後に合流した斑辺恵が曖昧な笑みを浮かべ、諦め混じりに頷きを返した博士は自分の手を力強く握り締めた。
「さすがはハカセだ。それに先生のイマジントリガーも見事な切れ味だったぜ」
「これも統或襍譚を真似ただけで、オリジナルには遠く及ばんのよ」
腕組みをして頷いたピンゾロが視線を隣に移しながら親指を立て、造酒は複雑な笑みと共に頭を掻く。
「オリジナルって、まさかリーレさんのモデルが使ってたのか?」
「ああ、オリジナルはDエプソード。凄まじい破壊力を持っていたって話だ」
しばし考えた斑辺恵が慎重に聞き返し、造酒は重々しく頷いてからLバングルに書物を写した画像を浮かべた。
「ん? なら何でリーレちゃんは闘士型なの?」
「統或襍譚によると武器はハンデ、銃器は拘束具だったらしいからね」
ピンゾロが大袈裟に首を傾げ、映像を切り替えた造酒は曖昧な笑みを返す。
「何かの冗談に聞こえるが、あれを見た後ではな……」
「拳を軽く振り下ろす以外は、全く何も見えなかったぜ」
「映像記録の取得にも失敗」
小さくため息をついた翔星にピンゾロが首を横に振り、サイカは手のひらに軽く右手を振って硼岩棄晶を消し去ったリーレの記録映像を浮かべる。
「皆さん大袈裟ですよ、コツさえ掴めば誰でも出来ますから」
「そのコツは人間に無理なのよ! よ!」
「コツはともかく、まずは周囲の安全確認だ」
事も無げに微笑むリーレに造酒が激しく首を横に振り、肩をすくめた翔星は進行方向を親指で指し示した。
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「ふむ……こうも木があると、ビジョンホッパーを飛ばすのもひと苦労じゃの」
「サーモピット起動……熱源は異常なしですね」
「タイガーアイによる索敵でも敵影は認められず」
小型ドローンからの映像を渋い表情で眺めるコチョウの隣で焔巳が黒い額当てに意識を込め、サイカもネコ耳付きの髪留めからバイザーを下ろして周囲を見回す。
「とりあえず安心のようだね。ありがとう、焔巳さん」
「あれを見ちまったら、簡単に安心は出来ないがな」
周囲の熱源を探る集中を解いた斑辺恵が安堵のため息をつき、バイザーを外した翔星は軽く肩をすくめた。
「見えない新種が出て来るとはね」
「ステルス級と申請、受諾された」
地面に触れて振動を探っていたピンゾロが立ち上がってから伸びをし、しばらく上空を見詰めたサイカは手のひらに立体映像を浮かべる。
「名前があるならありがたいな、次は確実に仕留める」
「他にも新種がいるかもしれないし、迂闊には進めないか……」
「一度退くか、このまま進むかは先生が決めてくれ」
腰のRガンに手を当てた翔星は、元来た道を見詰める斑辺恵に頷いてから造酒に決断を委ねた。
「いや、ここは戦闘が得意な翔星達に……」
「往生際が悪いですよ、先生」
「は、はいいぃぃぃっ!」
不安な表情を浮かべて言葉を濁した造酒は、圧を込めた笑みを浮かべるリーレに言葉を詰まらせてから敬礼する。
「気持ちは分からんでもないが、全スケジュールを把握してるのは先生だけだ」
「それなら皆の意見を聞かせてくれないか?」
複雑な笑みを浮かべた翔星がLバングルを指差し、軽く息を整えた造酒は慎重に周囲を見回した。
「先生?」
「違うのよ、リーレさん! 判断材料が欲しいだけだからね!」
再度リーレが圧のこもった微笑みを浮かべ、造酒は両手を向けて必死に首を横に振る。
「輝士械儕は異能者を守るのが使命、個体名八汐造酒の決定に従う」
「わしもサイカ殿と同意見じゃ」
「私も」
ガジェットテイルを収納して水兵服姿に戻ったサイカが敬礼し、続けて水兵服に戻ったコチョウと焔巳も敬礼する。
「ぼくもです」
「ははっ……リーレさんも同じなんだよね?」
「もちろんです」
更に続けて氷騰まで敬礼を返し、ぎこちない笑みを浮かべた造酒に満面の笑みを返したリーレが止めとばかりに敬礼した。
「多数決にはしないけど、翔星達はどう思う?」
「せっかく硼岩棄晶がいるんだ、少しは楽しみたいな」
引きつった笑みを浮かべたまま造酒が異能者の方へ顔を向け、最初に目が合った翔星はRガンに手を当てながら不敵な笑みを浮かべる。
「いつ結界から出た一般人が被害に遭うか分からないし、調査は必要だと思う」
「斑辺恵ちゃんは真面目だね~、俺ちゃんも寝覚めが悪いのは嫌だけどさ」
続けて斑辺恵がLバングルに映像を浮かべながら頷き、茶化すように笑ったピンゾロは片目を瞑って親指を立てる。
「決まりだな、ポン酒の」
「そうだな、ハカセ。何かあるのは確実だ、まずは次の調査ポイントまで進もう」
軽く肩をすくめた博士に頷いた造酒が調査の継続を決定し、一行は樹海の奥へと歩みを進めた。
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「みなさーん、こちらですよー!」
「いやはや、リーレちゃんは元気だね~」
木々の合間を縫うように樹海を進むリーレが振り向いて手を振り、遥か後方から先頭に立つピンゾロが手を振って返す。
「元気なのは構わんが、道は合ってるのか?」
「個体名リーレの進行方向は調査ポイントと一致する」
「ナビも無しに、か……何とも頼もしい限りだぜ」
バイザー越しに周囲を見回した翔星は、手のひらに立体映像を浮かべたサイカに小さく肩をすくめて返す。
「リーレのオリジナルは樹海の奥に住んでいたとされてるからね」
「おいおい、リーレちゃんは物語の主人公がモデルだろ?」
「単なる作り話では無いみたいだな」
引きつった笑みを浮かべた造酒にピンゾロが笑いながら聞き返し、翔星は得心の行った様子で頷いた。
「ああ。統或襍譚は元々、現実と空想の垣根が曖昧な書籍だからね」
「だからオリジナルなのか」
否定する事無く頷いた造酒が頭を掻き、今度は斑辺恵が頷く。
「一部を除いて色々盛りすぎだから、俄かには信じ難いだろうけどね」
「輝士を使う前までは、データの再現制度にもムラがあった」
「時計の前で花びらを食べる画像を、正月の予想図にした事もあったらしいぜ」
遥か前方のリーレに聞かれないように小声で話した造酒は、博士がLバングルに出したデータ画像に近付いて隠しファイル画像に切り替える。
「なるほど、文字を読むだけでは正確な再現が出来ない訳か」
「では、今回の調査にはリーレさんが関係していると?」
「まだ確証は無いけどね」
しばらく画像を眺めた翔星が噴き出すのを堪えるように頷き、真剣な表情で聞き返した斑辺恵に造酒は静かに首を横に振った。
「総員に停止を提案」
「どうした?」
バイザーを上げたサイカが呼び止め、翔星は周囲に合図しながら聞き返す。
「個体名リーレが立ち止まった先は電子天女との接続が途切れる」
「虫食い地帯に遭遇しちまったか……迂回は出来ないのか?」
手のひらに地図を出したサイカが反対側の手で前方を指差し、ピンゾロは手元の地図を見ながら左右を見渡す。
「調査ポイントは接続切断区域内」
「ふっ、樹海は俺達を飽きさせないな」
地図を指差したサイカが首を横に振り、翔星は不敵な笑みと共に肩をすくめた。




