第67話【見落としたのは、元Fランクの異能者達】
テントで一夜を明かした翔星達は、
翌朝、樹海へと足を踏み入れた。
「いるな……」
「まさか樹海に入って早々に出くわすとはね」
日の届かない剥き出しの地面を踏みしめた翔星がRガンを取り出し、ピンゾロは円陣を組むように背を向けながら全身のバネを溜める。
「こんなに近くにいるのに、どうして昨日は来なかったんだ?」
「さあな、それを含めての調査なんだろ。それより駆除の準備だ」
「了解した、ガジェットテイル展開」
隙間を塞ぐように背を向けながら疑問を呟いた斑辺恵に翔星が肩をすくめ、間に入ったサイカは丈の短い水兵服を消して胸と手足を装甲で覆った。
「翔星先生、張り切ってますな~。それでこそ主役だね~」
「こりゃピンゾロ、調子に乗るでないわ。わしらも戦闘態勢に入るぞ」
背中から伝わる気配にピンゾロが肩を震わせて笑い、穿いているハーフパンツを消して緑色のスパッツに変えたコチョウは呆れ気味に窘める。
「焔巳さんは、2人に卍燃甲を」
「お任せください、斑辺恵様」
懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵が合図し、裾丈の短い和服姿に変わった焔巳は黒い円盤を2枚浮かべて後方に移動させた。
「そんなに危険な状況なのか?」
「まだ数も種類も分からないだけだ。いざとなったら、樹海の外まで逃げてくれ」
緊張した様子で博士が聞き返し、緊張を解くように微笑んだ斑辺恵は元来た道を親指で指し示す。
「なるほど、的確な判断だ。作戦は一任するぜ」
「そいつはありがたい、思う存分暴れられる」
腕組みをして頷いた造酒が片目を瞑って親指を立て、翔星は不敵な笑みを浮かべながら肩をすくめた。
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「敵影補足。アント級13体を確認」
「数は多いけど、案外普通だな……」
バイザー越しに周囲を確認したサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、斑辺恵は密かに安堵のため息をつく。
「とはいえこっちは1カ月ぶりの実戦じゃ、油断するでないぞ」
「戦い方は体に染み付いてる、たったひと月で消えはしないぜ」
足のバネを溜めていたコチョウが神妙な顔付きと共に振り向き、Rガンを構えた翔星は不敵な笑みを返した。
「へへっ、そゆこと。それで翔星先生、割り振りはどうすんよ?」
「円陣のまま先生とハカセを守りつつ迎撃、誰に来ても恨みっこなしでどうだ?」
コチョウの隣で頷いたピンゾロが軽く肩を回し、翔星は木々の間に見え隠れする巨大なクロアリのような硼岩棄晶を指差す。
「俺ちゃんはルーレットでも構わないけど、翔星はいいのか?」
「ある程度を返り討ちにしたら、俺の方から出向く」
「ちゃっかりしてるけど、翔星にしか出来ないからね」
頷きながら悪戯じみた笑みを返すピンゾロに翔星が涼しい顔で頷き、思わず噴き出した斑辺恵は背中合わせのまま頷いた。
「そういうわけで、4人はこのままで頼む」
「ぼくも戦うです!」
振り向いた翔星が肩をすくめ、氷騰は納得の行かない様子で首を横に振る。
「氷騰ちゃんはハカセを守ってくれないか?」
「それはもちろんですけど……」
続けて振り向いたピンゾロが柔らかな笑みを浮かべ、氷騰は尚も食い下がる。
「氷騰ちゃん、ここは翔星さん達を信じましょう」
「分かりましたです……」
見兼ねたリーレが肩に手を乗せ、氷騰は渋々頷いた。
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『『グルルァーッ!』』
「まずは隊列を乱す! Rガン、ダブルファイア!」
円陣を囲むように並んだアント級硼岩棄晶にRガンを向けた翔星が闇を纏わせた熱線を撃ち、間髪入れずに閃光を纏わせた熱線を撃つ。
「パームブラスト!」
「真空金剛散弾!」
『『グルァーッ!?』』
手のひらから空気弾を放つ斑辺恵に続いてピンゾロが手のひらに集めて圧縮した空気の散弾を投げ、脚部に攻撃を受けたアント級は続々と足を止めた。
「隊列が乱れた! みんな、頼んだ!」
「虎影灯襖虚起動。路接、射出」
『グェァッ!?』
手応えを感じた翔星の指示に頷きを返したサイカは、ガジェットテイルの先端に付けた懐中電灯から光の刃を飛ばして突出して来たアント級のコアを貫く。
「ブレイキングホッパー展開! ライドハーケン、シュート!」
『グァッ!?』
ブーツの側面に筒状の機器を展開したコチョウが回し蹴りの動作と共に衝撃波を放ち、蛇行しながら迫るアント級のコアを圧し砕く。
「柩連焔刃、ニードルモード」
『『グギゲェェーッ!?』』
縦に連ねた薄い金属板をつないだ円盤の根元を掴んだ焔巳が火花の針を連射し、互いの死角を補うように迫って来た2体のアント級のコアをまとめて焼き貫いた。
「相変わらず見事な腕前で、本気で俺ちゃん達の出番ないかも」
「再生する前に残りを片付けに行くぞ」
破損した脚部を引き摺って退いたアント級をピンゾロが確認し、Rガンを地面に向けた翔星は引き金を引いた反動で跳び上がる。
「よっしゃ、任せろ!……!?」
「ちっ! 間に合わん!」
両足のバネを伸ばして跳び上がったピンゾロが異変に気付いて振り向き、翔星は咄嗟にRガンの引き金を引いた。
『『グギアァーッ!』』
「伏兵とはな……保護色を通り越して光学迷彩になってやがった」
平たい体をしたアント級に近い形状の硼岩棄晶が熱線に照らされ、翔星は着地と同時に新型硼岩棄晶の特徴を分析する。
「熱源も検知出来なかったなんて」
「空気の振動まで消してやがった、どういう仕掛けだよ」
翔星と同じタイミングで跳び上がっていた斑辺恵が周囲の熱源を確認し、僅かに遅れて着地したピンゾロも地面に手を当ててから呆れ気味にため息をつく。
「あの数、最初から先生とハカセに的を絞ってたとでも言うのか?」
「2人だって異能者だ、輝士もいる」
「そうだな、挟撃だけは防ぐぞ」
手のひらで爆風を練り始めた斑辺恵の肩に手を乗せたピンゾロが首を横に振り、3人は翔星を先頭に傷の再生を待つアント級の群れに向かった。
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「あら? 前に出過ぎてしまいましたね」
「すまぬ、討ち漏らした! コアはアント級と同じじゃ!」
ゆっくりと振り向いた焔巳が脇を通り抜けた新型硼岩棄晶を見送り、同じく振り向いたコチョウも大きく手を振る。
「えー!? こっちに来たですよ!」
「落ち着け氷騰、まだ距離はある。いつも通り頼んだぞ」
「はいです! フリーズタービュランス!」
慌てて振り向いた氷騰は、静かに手を肩に乗せた博士に頷いてから左腰の機器に意識を集中して冷風を放った。
『『グギャェッ!?』』
「今だ! イミテーションエプソード!」
『ギィァッ!?』
冷気を帯びた強風を浴びた新型硼岩棄晶が一斉に足を止め、懐から万年筆を取り出した造酒は水を圧縮した刃を纏わせて先頭で震える硼岩棄晶の首を刎ねる。
「カルチベイトネイル!」
『ギョェッ!?』
続いて博士が5本に分かれた爪の形をした風で両手を包み、体勢を立て直そうと震える新型硼岩棄晶を切り裂く。
「噴割璃音拳破」
『『ギィィァァ……』』
招き猫のように拳を上げたリーレが軽く振り下ろし、残りの新型硼岩棄晶は砂のように一斉に崩れ去った。
「ふぅ……何とかなりましたね」
「リーレさん、すごいです!」
周囲を確認したリーレが安堵のため息をつき、氷騰は尊敬の眼差しを向ける。
「やっぱりワシらの出番は不要だったかな……」
「言うな、ポン酒の……」
慌てて射線から退避していた造酒が力無く肩を落とし、隣に退避していた博士は静かに首を横に振った。




