第66話【過去を明かしたのは、元Fランクの闇使い】
大胆な手段で安全を確認した翔星達は、
温かな食事を楽しんだ後に各々のテントに向かった。
「みんなは寝ちまったのか?」
「このテントには音声遮断機能が付いている、会話が漏洩する可能性は皆無」
テントに入った翔星が一旦腰を下ろしてから落ち着かない様子で周囲を見回し、天幕の内側を軽く撫でてから正座をしたサイカは手のひらに立体映像を浮かべる。
「そうか、ちょっと見回りに行って来る」
「周辺区域に硼岩棄晶はいない」
軽く頷いた翔星が立ち上がり、サイカは白い制服の袖を掴んで引き止めた。
「硼岩棄晶がいないだけで、他の危険が無いとも限らないだろ?」
「このテントは野生動物を遠ざける機能も完備」
思わず膝をついた翔星が静かに首を横に振り、サイカはテントの立体映像を手のひらに浮かべて機能の説明を追加表示する。
「分かったよ、約束したからな……他に何かしてほしい事はあるのか?」
「貴官の話を聞きたい」
観念した翔星が腰を下ろし、サイカは頬を緩ませた。
「仕方ないな……何が聞きたいんだ?」
「異能輝士隊に入る前の話」
「至って普通だよ。本を読むのが好きで周りから浮いてて仲のいい友達なんて誰もいないだけの、どこにでもいる普通の中学生だったよ」
ため息をついて頭を掻いた翔星は、上目遣いで見詰めるサイカから逃れるように視線を逸らしながら短く答える。
「理解した、可能なら異能力に覚醒した時の話も聞きたい」
「分かった……期待はするなよ」
「情報の開示に感謝」
小さく頷いてから視線に割り込んだサイカは、慌てて逸らそうとする翔星の頭を掴んで顔を近付けた。
「ある程度は察してるんだろうけど、俺はいじめられていた」
「暴行、脅迫、強要等の刑法犯に相当する犯罪行為。決して許されない」
慎重に両手を振りほどいた翔星が寝転がり、手のひらに映像を浮かべたサイカは静かに首を横に振る、
「さすがは天女サマだ。だが、人間はそうも行かなかった」
「心中察する」
「ん……あの日の俺は、何かに付けては殴って来る奴に街の外に連れ出された」
複雑な笑みと共にため息をついた翔星は、近付いて頭を撫でたサイカに軽く手を振って返してから記憶を掘り起こすべく目を閉じた。
「市川誠、硼岩棄晶の犠牲者として記録あり」
「そういやそんな名前だったな。連れ出された俺は、すぐさま森に連れ込まれた」
頭を撫でる手を止めたサイカが手のひらに名簿を浮かべ、逃げるように寝返りを打った翔星は背を向けたまま鼻で笑う。
「硼岩棄晶との遭遇は森の中?」
「ビンゴだ。奴はあっさり飲み込まれて、次は俺って時に異能力に覚醒した」
名簿をしばらく眺めたサイカが聞き返し、弾むように親指を立てた翔星は続けて立てた人差し指の先端に光の球を灯した。
「既存種から変異したドッペル級が貴官の初陣、詳しい説明を求める」
「最初は指先から光を飛ばしてたけど、数が増えるばかりで焦ったぜ」
映像を切り替えたサイカが更に近付き、翔星は背中に当たる膝の感触から逃れるように人差し指を突き出して銃を撃つ真似をする。
「本来の目的は救援到着までの生存、イマジントリガー習得の経緯を知りたい」
「撃ち出す光が眩しかったから暗く出来ないかと考えたら、その通りになった」
首を横に振ったサイカが肩に手を乗せ、僅かに体を強張らせた翔星は人差し指に灯した光球の明るさを徐々に下げた。
「それが闇使いのきっかけ?」
「まあな。どこまで暗く出来るか試したら、闇を作る事が出来たんだ」
肩から手を離したサイカが小首を傾げ、振り向いた翔星は即座に背を向ける。
「実に貴官らしい行動」
「かもな、それで目隠しになると考えて周囲を闇に包んだらコアが光ってた」
口元に手を当てたサイカが目を細め、翔星は背を向けたまま肩をすくめる
「今では異能輝士隊に欠かせない能力」
「残り少しだから続けるぞ。近くの枝を拾った俺は、コアを貫く針をイメージして駆除に成功した」
手のひらに記録映像を浮かべたサイカが力強く頷き、投げ遣り気味に手を振って返した翔星は細いものを握る仕草をしてから手のひらを広げた。
「イマジントリガーは偶然の産物?」
「後から考えればそうだろうな。恐怖から逃れるために、とにかく考えてた」
映像を閉じたサイカが再度小首を傾げ、背中を丸めた翔星は語気を弱める。
「恐怖?」
「駆除してる時だけだ、嫌な記憶から逃げられるのは」
「貴官が闘争を求める理由を理解した」
更に膝を詰めたサイカは、Rガンを納めたホルスターを腰から外した翔星の頭を優しい手付きで撫でる。
「俺は死ななかっただけマシだけど、異能力が無ければいずれ心が死んでたよ」
「貴官は必ず守る、睡眠を推奨」
「ははっ、今夜はいい夢が見れそうだ」
自嘲気味に呟いた翔星は、半ば強引に頭を持ち上げて太ももへと乗せたサイカに小さく肩をすくめてから目を閉じた。
▼
「おはよ~、何してんの?」
「簡易ゲートを設置しています、次回からはここに転移出来ますよ」
夜明け頃にテントから這い出たピンゾロが手を振り、リーレは幅を開けて地面に立てた2本の金属柱に2本の金属棒を鳥居のように渡しながら微笑む。
「なるほど、チェックポイントにゲートを設置するのが本当の任務って訳か」
「万全を期するために、簡易ゲートの存在は今まで伏せていたんだ」
既にテントから出ていた翔星が納得しながら肩をすくめ、造酒はLバングルから新たな指令書を送信した。
「裏切り者とまでは行かなくとも、妨害を飯のタネにする羽織ゴロがいるからな」
「奴等を出し抜くなんて、電子天女も面白い事を考えるね」
本部の一般開放区画の様子を博士がLバングルに浮かべ、手際よくテントを畳み終えた斑辺恵は興味深そうに近付く。
「さすがのハイエナ共もここまでは追って来れないさ」
「そいつは心強い、安心して次のポイントに移動出来るぜ」
周囲を見回した造酒が豪快に笑い、笑いを堪えた翔星は軽く息を整えた。
「ゲートのチェック終わりましたです、問題はありませんです」
「お疲れ氷騰、それじゃ朝飯にするか」
簡易ゲートの根元付近にガジェットテイルを巻き付けていた氷騰が大きく頷き、博士は頭を軽く撫でてから昨晩椅子に使った大きな石を親指で指し示す。
「朝食は簡単なものにしますね」
「助かった~……」
背負っていたディメンジョンバッグを下ろしたリーレが缶詰を取り出し、造酒は密かに安堵のため息をついた。
「先生がお望みでしたら獲物を探しに行きますよ?」
「まって! それだけは勘弁して!」
缶詰を取り出す手を止めたリーレが圧のこもった微笑みを浮かべ、慌てて両手のひらを向けた造酒は激しく首を横に振る。
「冗談です。準備を手伝ってくださいね、先生」
「は、はいいいぃぃっ!」
圧を消して柔らかく微笑んだリーレが缶詰を差し出し、造酒は受け取った缶詰を次々に開け始めた。
▼
「このサンドイッチ、結構いけるね」
「はい、支給品にこのような組み合わせ方があったなんて驚きです」
味付け肉を挟んだパンに齧り付いた斑辺恵がしばらく噛んでから飲み込んで頬を緩め、焔巳は隣で缶詰の映像を手のひらに浮かべながら微笑む。
「コツさえ掴めば簡単ですよ」
「では時間のある時にでも教えていただけますか?」
「もちろんですっ!」
ほぼ向かいで満面の笑みを返したリーレは、座ったまま丁寧な仕草でお辞儀した焔巳にデータを送付する。
「ありがとうございます、これで斑辺恵様にも喜んでいただけます」
「そ、それは嬉しいな……ありがとう」
受信したデータの確認をした焔巳が含みを持たせた笑みを浮かべ、パンを齧ると同時に目が合った斑辺恵は慌ててコーヒーで流し込んだ。
「お任せください、斑辺恵様。ところで翔星さん、昨夜はお楽しみでしたか?」
「いきなりだな……悪いが、そんなムードじゃなかったぜ」
口元に手を当てて微笑んだ焔巳がが切り替えるように反対側を向き、目が合った翔星は静かに首を横に振る。
「そうなんですか? サイカさん」
「大事な秘密を共有した、いかなる開示請求も受け付けない」
穏やかな雰囲気を感じ取った焔巳が身を屈め、サイカは頬を緩めて頷いた。
「あら? それは素晴らしいじゃないですか」
「うむ、関係は良好のようじゃの」
「そうなのか? 俺にはよく分からん」
表情を輝かせた焔巳に続いて反対側に座っていたコチョウが腕組みをして深々と頷き、翔星は要領を得ない様子で頭を掻く。
「いずれ分かりますよ」
「そいつは楽しみだよ」
体勢を戻した焔巳が悪戯じみた笑みを返し、翔星はため息と共に肩をすくめた。




