第62話【心配したのは、元Fランクの風使い】
遅れて合流した異能者の博士は、
翔星達に調査の目的地を伝えた。
「樹海? 随分と辺鄙な場所っぽいけど、どうやって行くのん?」
「まずは最寄りの結界街までゲートで移動する」
腕組みしたピンゾロが首を捻りながら聞き返し、博士はスクリーンに映し出した地図の一点に指示棒を移動させる。
「最も近い結界街でも調査区域まではかなりの距離がある」
「事前提出したプランでは、徒歩での移動になってるですね」
「そこから調査区域の入口までは1日半ってところだ」
手のひらに浮かべた映像を地図に重ねたサイカに続いて氷騰が計画表を浮かべ、造酒は近くの椅子に胡坐をかいて豪快に笑った。
「コツさえ掴めば半日で着きますよ」
「そこはオリジナルを真似なくていいのよ? よ?」
音も無く隣に移動したリーレが微笑み、造酒は大慌てで首を横に振る。
「なるほど頼もしい輝士だ」
「戦闘は期待しないでくださいね。私、穏健派なので」
軽く頷いた翔星が小さく肩をすくめ、リーレは微笑んだまま軽く手を振る。
「俺は自分の取り分さえあれば気にしないぜ」
「そいつは頼もしいな、向こうに人数分の野外用装備があるから確認してくれ」
「おっけ~、行って来るよ~ん」
静かに首を振った翔星に含み笑いを浮かべた博士が隣の部屋に親指を向け、手を振って返したピンゾロを先頭に一同は移動を開始した。
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「ここまで準備してくれるなんて、電子天女は至れり尽くせりね」
「まさか倉庫に行って申請する手間まで省けるとはな」
簡素な机の上に並んだバックパックをピンゾロが呆れ気味に眺め、続いて入った翔星も意表を突かれた表情で肩をすくめる。
「表向きは休暇だし、派手な動きは極力避けたいんだと思うよ」
「転移も図書館区画の地下にあるゲートを指定して来ている」
複雑な笑みと共に斑辺恵がバックパックを手に取り、頷きを返したサイカは手のひらに指令書を浮かべる。
「このザック背負って、すぐに行けって事ね」
「今回の調査は今まで以上の長丁場だ、念のため装備を確認しとくか」
大袈裟に肩をすくめたピンゾロもバックパックを手に取り、残りのひとつを手に取った翔星はすぐさま開いて中身の確認を始めた。
「さすがは翔星先生、相変わらず冴えてるね~」
「お主も確認を始めとるのに何を言うておるか」
「斑辺恵様も始めてますね」
バックパックを開けてから親指を立てたピンゾロにコチョウが呆れ気味に笑い、焔巳も机の端に移動した斑辺恵に視線を向けて柔らかく微笑む。
「わしらも始めるかの」
「了解した、輝士械儕用の装備はこっちにある」
肩をすくめたコチョウが曖昧な笑みを浮かべ、手のひらに映像を出したサイカは衝立に遮られた先へと歩き出した。
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「水と食料は1週間分……往復を考えると調査に割けるのは4日か?」
「そいつは非常用だ、通常の分は輝士が運んでくれるらしい」
スティック状の袋と水筒の目盛を確認した斑辺恵が簡単に計算し、軽く首を横に振った翔星はLバングルに映像を浮かべる。
「そういえば前に、運搬も輝士の役目って教えてもらったよ」
「俺ちゃん達がバラバラに飛ばされてた時の話か?」
しばらく上を向いた斑辺恵が思い出し笑いを浮かべ、ピンゾロは思い当たる節を簡単に聞き返した。
「現地でバーベキューをした時だ。祐路とテツラさん、元気にしてるかな?」
「異能者は全員本部に帰って来てる、無事だろうが元気と言えるかは別だな」
否定する事無く頷いた斑辺恵が懐かしむように目を細め、兵舎の方角へと親指を向けた翔星は静かに首を横に振る。
「確かに今まで通りとはいかないか」
「本部にも漁業区画はあるし、何とかなるって」
「そうだね。じゃあ話を戻そう」
複雑な表情を浮かべて俯いた斑辺恵は、親指を立てて励ましたピンゾロに頷いて話題を切り替えた。
「ところで何の話だっけ?」
「調査の日程だ。輝士が運ぶ食料は10日分とある」
腕組みをしたピンゾロが誤魔化すように笑い、肩をすくめた翔星はLバングルに画像を浮かべる。
「目録があったのね。でも、この範囲を1週間で調査って厳しくないかい?」
「ポイントは絞ってあるから、そこを拠点に往復を繰り返す前提だろう」
同じ画像を浮かべたピンゾロが軽く目を通してから眉を顰め、画像を地図に切り替えた翔星は表示された点を指差した。
「ヒットエンドランで調査範囲を広げるのね」
「それを言うならヒットアンドアウェイじゃないか?」
地図に表示された点をピンゾロが交互に指差し、斑辺恵は呆れ気味に聞き返す。
「あ、バレた?」
「相変わらずだな、ピンゾロは」
「まあいいじゃないか、他の装備は……フォールディングスコップか」
悪戯が成功した子供のように笑うピンゾロに斑辺恵が小さくため息をつき、軽く宥めた翔星は小さく折り畳んだスコップを取り出した。
「大抵の事はRガンとLバングルで何とかなるから、ちょいとキナ臭いね」
「普段から持ち歩く異能者なんて、そうそういないからね」
「聡羅達か、何だか懐かしいな」
腰と左腕に視線を交互に向けたピンゾロは、複雑な笑みを返した斑辺恵に大きく頷いてから遠い目をする。
「まだ1か月しか経ってないのに、随分と前の事のように思えるよ」
「それだけ立て直しに追い立てられてたからな」
同意するように斑辺恵が頷き、翔星は肩をすくめて返す。
「確かに忙しかったからね。それじゃ、残りのチェックも済ませようか」
「あいよ、こういう時は斑辺恵ちゃんの真面目さが頼りになるね~」
懐かしむように頷いてから即座に気持ちを切り替えた斑辺恵にピンゾロが片目を瞑り、3人は黙々と確認を続けた。
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「チェックは済んだようだな」
「待たせて済まない、独り身だった時の癖だ」
椅子に腰掛けた博士があくびを噛み殺しながら手を振り、翔星は部屋に入るなり不敵な笑みを返す。
「それが生き延びる秘訣か、実に頼もしい人選だねえ」
「やっぱり天女サマの紹介だったのね」
隣に座っていた造酒が何度も頷き、ピンゾロは肩を震わせて笑った。
「調査予定地では電子天女とのリンクも困難、的確な人選」
「いつもの上を向いて確認が出来ないってこと?」
誇らしそうに微笑んだサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、ピンゾロは天井を指差しながら聞き返す。
「コネクトカバーの使用も不可能、座標にズレが生じる」
「それって結構な大問題じゃないか!?」
映像を切り替えたサイカが静かに首を横に振り、横で聞いていた斑辺恵は驚きのあまり大声を上げた。
「全域では無いですけど、電子天女でも見えない箇所がランダムで発生するです」
「でもって虫食い地点に入ったら、元の木阿弥って訳ね」
「そういう事じゃ、わしから離れるでないぞ」
手のひらに地図画像を浮かべた氷騰が絶えず変化を続ける観測データを再生し、静かに頷いて自分の手のひらを見詰めるピンゾロの背中にコチョウが寄り掛かる。
「私も必ず斑辺恵様をお守りしますね」
「焔巳さん!? ちょっと落ち着いて……」
隙を窺っていた焔巳に抱き付かれて大声を上げた斑辺恵は、背に当たる柔らかな感触を意識しないよう平静を装いながら小声で宥めた。
「スキンシップかぁ~、先生も抱き着いたら喜ぶかな?」
「まって! 手加減をおぼえてからにして!」
しばらく焔巳を眺めていたリーレが腕を大きく広げ、慌てた造酒は両手のひらを向けて激しく首を横に振る。
「おい、ポン酒の。遊びはそこまでにして、そろそろ行くぞ」
「分かったよ、ハカセ」
立ち上がった博士がバックパックを無造作に背負い、造酒も軽く息を整えてからバックパックを背負った。
「俺ちゃん達は自分で身を守れるからいいけど、先生とハカセは大丈夫なの?」
「リーレは統或襍譚を参考にした特殊モデル、リンクが切れても支障は無いんよ」
部屋を出ようとする2人をピンゾロが呼び止め、足を止めて曖昧な表情を返した造酒はLバングルに映像を浮かべる。
「ぼくもリーレさんほどでは無いですけど、単独行動出来ますです」
「ふむ、ガジェットテイルの組み合わせが上手く噛み合ったのかの?」
博士の後ろを歩いていた氷騰が足を止めて振り向き、コチョウは後ろに回り込みながらガジェットテイルを観察する。
「理屈はともかくオレ達はコネクトカバーで守られる、今はそれで充分だ」
「それもそうだな、案内を頼むぜ」
「おうよ、任せときな」
さり気なく氷騰の肩を引き寄せた博士に翔星が肩をすくめて返し、力強く親指を立てた造酒を先頭に一行は部屋を後にした。




