第59話【任務から外れたのは、元Fランクの異能者達】
プラント級硼岩棄晶の駆除から翔星達は無事帰還し、
異能輝士隊は新たな問題を抱えたまま1か月が経とうとしていた。
「劇的な勝利からひと月、そろそろ落ち着いた頃かね~」
「自分で劇的とか言うかの……簡単にまとまる話でも無かろうよ」
本部の中庭をのんびりと歩いていたピンゾロが大きく伸びをし、隣でコチョウは静かに首を横に振る。
「敵が消えた途端に組織縮小の話題だものな~」
「結界街の駐在員は随時本部に帰還中、実に平和な話だよ」
Lバングルにニュース画像を出した斑辺恵が複雑な表情を浮かべ、翔星は皮肉を込めて肩をすくめた。
「まだ硼岩棄晶が完全にいなくなったと証明された訳でも無いのにな」
「帰還した駐在員と俺達が増援待機してるから、大惨事にはならんだろ」
画像を切り替えた斑辺恵が小さくため息をつき、兵舎の一角に目を向けた翔星は言葉に含みを持たせて頷く。
「異能力覚醒の確率も含めれば、被害は最小限に抑えられる」
「結界も維持してるし、ナイーブになっても意味無いか」
手のひらにシミュレート映像を浮かべたサイカが淡々と計算し、更に画像を切り替えた斑辺恵は諦め混じりに首を振った。
「それより俺ちゃん達の身の振り方よ」
「確かに異能輝士隊が解散したら、どこにも行くアテなんて無いよ」
「ここでどれだけ活躍しても最終学歴は中学中退、通常街では暮らせないよな~」
頭の後ろに両手を回してから空を見上げたピンゾロは、画像を閉じてから周囲を眺める斑辺恵に頷いてから大袈裟に首を横に振る。
「本部とゼロ番街の存続は絶対条件」
「データリアンと電子天女の協力が必要な事くらい、政府も理解出来るだろうに」
「硼岩棄晶と手を組む人間でもいない限り、ここは安泰だろうよ」
サイカが切り替えた手のひらの画像を斑辺恵が複雑な表情で眺め、翔星は不敵な笑みを浮かべてから遠い目をする。
「おいおい翔星ちゃん、そういうフラグじみた事はやめてくれよ~」
「安心しろ、言葉が全部伏線になるほど世の中は単純ではないよ」
大袈裟に身をすくめる仕草をしたピンゾロが首を横に振り、視線を戻した翔星は余裕の表情と共に肩をすくめた。
「違いねえ、それじゃ張り切って訓練に……」
「電子天女より指令、至急ブリーフィングルームに集合せよ」
身をかがめたまま肩を震わせて笑ったピンゾロが訓練棟を指差し、しばらく上を向いたサイカは指令を諳んじる。
「随分と急な呼び出しだな、緊急事態か?」
「周囲の空気が大人しい、呼び出しは俺達だけらしいな」
「ここで考えてもしょうがないし、行ってみるしか無いようだね」
思わず身構えたピンゾロに首を振った翔星が動きの無い兵舎を指差し、斑辺恵の提案を合図に一行は移動を開始した。
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「待機のシフトが入ってないのに、来てもらって悪いな」
「今日の予定は訓練、変更は誤差の範囲」
ブリーフィングルームに入った面々を充木が複雑な表情で迎え、サイカは表情を崩す事無く淡々と手のひらに予定表を浮かべる。
「それより何があったんだ? 硼岩棄晶が出て来たのか?」
「落ち着け時影、それなら待機の面々で充分だ」
「ふっ、それもそうか。なら何の用だ?」
冗談交じりに聞き返した翔星は、呆れてため息をついた充木に肩をすくめてから冷静な口調で再度聞き返す。
「電子天女から時影達に休暇を取らせるよう命令を受けた」
「ふっ、いよいよお役御免って訳か」
手にしたタブレット端末を充木が操作し、翔星は静かに目を閉じた。
「そう早合点するな。表向きは文字通りの休暇、バカンスだよ」
「表向き?」
曖昧な笑みを浮かべた充木が手のひらを向け、翔星は眉を顰める。
「3人にはプラント級の駆除からこっち、ずっと待機と訓練だっただろ?」
「それと、無断外出ですね」
頭を掻いた充木がタブレット端末を確認し、ヒサノは含みを持たせて微笑んだ。
「上手く撒けるようになったと思ったら、しっかりバレてたのね」
「無断外出を見逃す代わりに結界の外を調査させてた訳か、大したものだ」
隣の列に座る輝士械儕に目を向けたピンゾロが大袈裟な仕草で天を仰ぎ、翔星は得心の行った様子で肩をすくめる。
「おかげで貴重なデータが手に入ったよ」
「役に立ったようで何よりだ、そろそろ本題に入ってくれないか?」
「それなら結論から先に言うぞ。時影、斑辺、鵜埜の3名には輝士械儕と共に調査任務に就いてもらう」
悪戯じみた笑みを浮かべた充木は、急かすように聞き返す翔星に頷いてからタブレット端末を操作してデータを送信した。
「調査? 何の調査か書いてない?」
「すまんが、詳しくは図書館区画で聞いてほしい」
Lバングルに受信したデータを映し出した斑辺恵が何度も確認し、充木は複雑な笑みを浮かべる。
「大したミステリーツアーだな、確かにいいバカンスになりそうだ」
「それだよ、それ。何で表向きは休暇なんだ?」
同じくデータを読んでいた翔星が軽くLバングルを振り、ピンゾロは思い出したように聞き返した。
「この微妙な時期に大きな動きが待機部隊にあれば、面倒な事になりかねん」
「混乱を最小限に抑えるには、速やかな調査を秘密裏に行う必要があります」
「だから待機部隊から外れても不審に思われない方法が必要になる訳か」
静かに頷いた充木の説明にヒサノが続き、翔星は納得して頷く。
「ケガしてた連中も復帰したし、入れ替わりで休んでも不思議は無いからな」
「何にせよ久々の実戦だ、ありがたく『休暇』を取らせてもらうぜ」
「あくまで調査だ、期待に添えなくても文句言うなよ」
タブレット端末を操作して含み笑いを浮かべた充木は、腰のRガンに手を当てた翔星に曖昧な笑みを向ける。
「まだ硼岩棄晶が出ると決まった訳では無いのですね」
「図書館区画に行けば分かるのじゃろ? ならばまずは行くまでじゃ」
「先方にはこっちから連絡を入れて置く、頼んだぞ」
安堵のため息をついた焔巳に続いてコチョウが腕組みを解き、一同はタブレット端末の操作を終えた充木に見送られて部屋を後にした。
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「初めて見るけど、ここだよな。図書館区画って」
「図書館区画は硼岩棄晶襲来以前の記録の修復と調査を目的としている」
しばらく歩いたピンゾロが窓の無い巨大な建物の前で立ち止まり、サイカは手のひらに立体映像を浮かべて淡々と説明する。
「考えてみりゃ、必要な情報はLバングルで見れるものな」
「Lバングルに入ってる情報はここで修復したものらしいぜ」
腕組みして頷いたピンゾロが左手を振り、サイカの出した立体映像を眺めていた翔星は感心しながら建物を親指で指し示す。
「へぇ、そいつは感謝してもしきれない施設だぜ」
「わしら輝士械儕にも重要な場所じゃな」
「肯定。ここはデータベースの源泉」
しばらく左腕を眺めたピンゾロが建物を見上げ、隣に並んで見上げたコチョウに頷いたサイカは映像を閉じて建物を見詰めた。
「重要なのは分かったけど、調査と何の関係が?」
「ここの主と呼ばれる異能者からの依頼」
静かに頷いた斑辺恵が疑問を呟き、サイカは手のひらに指令書を浮かべる。
「なるほど、確かに硼岩棄晶と決まった訳では無い訳だ」
「今回は俺ちゃんでも理解出来るぜ、図書館の主でも知らない事の調査って」
「そういう事だ」
指令書を確認して不敵な笑みを浮かべた翔星は、顎に手を当てて何度も頷くピンゾロに肩をすくめて返した。
「大事な調査の協力に斑辺恵様達を指名するなんて、どんな方なのでしょう?」
「単独行動が得意な自分達を選ぶんだ、切れ者なのは確かだよ」
首を傾げた焔巳に柔らかく微笑んだ斑辺恵は、警戒の眼差しを建物に向ける。
「データベースに該当人物の情報は見当たらない」
「輝士械儕も電子天女に顔を出しとらんようじゃの」
しばらく空を見上げたサイカが首を振り、続くようにコチョウも首を横に振る。
「全ては謎か……こうなりゃ矢でも鉄砲でも持って来いってやつだ」
「異能者の私闘は固く禁じられている」
「あのな……まあいい、行くぞ」
不安を消し去るように軽く肩を回した翔星は、手のひらの映像を切り替えて首を振ったサイカに小さくため息をついてから歩き出した。




