第58話【警告されたのは、元Fランクの闇使い】
翔星達がプラント級を駆除した直後、
地下空洞が崩落を始めた。
「だいぶ崩れて来たな、どう脱出したものか……!?」
落ちて来た岩を避けたピンゾロは、突然上から伸びて来た巨大な手に息を呑む。
「みなさぁ~ん。緊急事態ですので、こちらにお乗りくださぁ~い」
「何かと思えば、マーダちゃんの手か」
「この大きさは……さっきまでは地下だから巨大化をセーブしてたのか」
緩やかな声を聞いて巨大な手の正体を理解したピンゾロが安堵のため息をつき、咄嗟に身構えた斑辺恵も声を絞り出しながら納得した。
「その制限を解いたのじゃ、崩落は思ったより早そうじゃの」
「サイカ、台刻転で地上に出るにはどこまで戻る必要があるんだ?」
しばらく巨大な手を眺めていたコチョウが視線を上に向け、翔星はサイカに転移機能の有効範囲を聞く。
「全員が通常サイズならひとつ上、個体名マーダが巨大化状態なら最初の階層」
「分かった、まずは聡羅達と合流しよう」
髪留めからバイザーを下ろしたサイカが巨大な手をスキャンしてから手のひらに映像を浮かべ、翔星は頷いてから上を指差した。
「了解、瑞雲起動」
「おっと……よじ登るよりは早いか」
飛行装置を起動したサイカに襟首を掴まれて肩をすくめた翔星を先頭に、一行は次々とマーダの手に乗る。
「全員乗ったぜ、マーダちゃん」
「フリーズフラッシュも展開済み、強引な引き上げにも対応可能」
「はぁ~い。では、行きますよぉ~」
周囲を確認してから声を風に乗せたピンゾロに続いてサイカが光の壁を展開し、巨大なマーダの手は上の階層へと戻って行った。
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「やぁ、蔵達はそっちにいたのか」
「これが最も効率のいい方法ですからな」
マーダの手により上の階層まで引き上げられた斑辺恵が手を振り、反対側の手に乗った蔵は含み笑いを浮かべて合掌する。
「ちょうどいい、このまま最初に転移した階層まで戻れるか?」
「そこが転移可能な場所なんだね?」
「巨大化したままならな」
バイザーを通して上の階層を見据えた翔星は、質問の意図を推測して聞き返した羽士に肩をすくめて返した。
「分かった。蔵、マーダさん、聞いての通りだ」
「カーサ殿。相すまぬが、マーダ殿の頭に防御機能を展開してくださらぬか?」
軽く頷いた羽士が横を向いてから上を向き、蔵はカーサの魔導書に目を向ける。
「わかったわ、出し惜しみなしよ! フィールドスクリーン全展開!」
「ありがと~、カーサちゃん。ファングライダ~、出力最大~」
カーサが魔導書から剥がした全ページの頭上への移動を確認したマーダは、頭の両側に扇のような飛行ユニットを広げて上昇を開始した。
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「体を大きくして速度を増したのか、見事なものだ」
「六連装の切り札をこんな風に使うとは、恐れ入谷の何とやらでござるな」
Lバングルにデータを入力した羽士が計算結果に感心し、壬奈も深々と頷く。
「お褒めいただき光栄ですが、壬奈殿の速さには敵いませぬよ」
「僕と壬奈ではこれだけの人数を運べなかった、まだまだ研究の余地はあるよ」
気恥ずかしそうに蔵が頭を掻き、しばし俯いた羽士は静かに首を横に振った。
「羽士殿、そろそろ天井でござる」
「これならすぐに上の階層まで行けそうですな」
「いや、様子がおかしい。これは、減速……してる?」
手招きした壬奈が上方を指差し、安堵の表情を浮かべた蔵に頷きを返そうとした羽士はLバングルを通じて異変に気付く。
「マーダ殿! 何かトラブルですかな?」
「えぇ~と……ここの天井って、そんなに穴が大きくないのぉ~」
ついに上昇が止まって膝をついた蔵が大声で尋ね、ホバリングを続けるマーダは困った表情を下に向けた。
「来た時は力を温存してたからね」
「なら簡単よ! フィールドスクリーンをドリルにして天井を破るわ!」
「待って、カーサさん。やみくもに掘るのは危険だ」
原因を解明した羽士は、魔導書を操作しようとするカーサを慌てて止める。
「でも、計算する時間なんて無いでしょ!」
「計算は端折るけど、フィールドスクリーンに変わる防御機能は必要だ」
釈然としない様子でカーサが反論し、羽士は映像を切り替えて上を指差す。
「この体にあるフリーズフラッシュなら代用可能」
「足りぬ分は、わしのタイフーンスティックと」
「私の卍燃甲で埋めますね」
反対側の手に乗るサイカが立ち上がり、続けてコチョウと焔巳も立ち上がった。
「それなら防御機能を展開次第、掘削を開始。みんなもそれでいいね?」
「もちろんだ」
「頼りにしてるよん」
簡単な作戦を立てた羽士が周囲に確認を取り、代表して頷いた翔星の横からピンゾロが手を振る。
「ありがとう。掘削しながら上昇、目標地点に入ったら転移開始で頼んだよ」
「了解。フリーズフラッシュ、起動。カーサ、掘削を要請」
緊張を解いた羽士が大雑把な指示を出し、頷きを返したサイカは細かな石を弾くたびに淡く光る壁を浮遊するページの下に展開させた。
「任せて! モードESD! ライトニングドリル、起動!」
「ファングライダ~、出力最大~」
力強く頷いたカーサの号令と共に防御用のページが一箇所に集まって雷を纏った巨大なドリルに変わり、マーダは再び上昇を開始する。
「横から跳ねて来る石はわしと焔巳殿で引き受けたぞ!」
「某も微力ながら尽力いたす!」
「うむ、頼もしい限りじゃ!」
棒状の機器を振って飛んで来る岩石を弾き返していたコチョウは、両肩の大袖に意識を集中した壬奈に力強い頷きを返した。
「俺ちゃんは出番なしか」
「ずっと空気を循環させてくれてただろ? おかげで助かったよ」
手持ち無沙汰気味にピンゾロが頭を掻き、静かに近付いた斑辺恵が小声で労う。
「隠すつもりは無かったけど、よく気付いたね~」
「自分は風使いを自称してたからね」
頭の後ろで両手を組んだピンゾロが余裕に満ちた笑みを浮かべ、斑辺恵は複雑な笑みを返した。
「そろそろ天井を突き破るわよ、舌を噛まないように注意しなさい!」
「さすがはカーサだ、思い切り行ってくれ!」
「任せて、マスター!」
遥か上方のドリルに意識を集中していたカーサは、肩に手を乗せて励ます聡羅に力強く頷いてから意識を更に集中する。
「天井を突破したわ! 後はサイカに任せたわよ!」
「了解。転移可能地点を通過、台刻転、起動!」
ドリルへの負荷の変化を感じ取ったカーサが合図し、頷きを返したサイカは転移機能を起動した。
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「何とか地上に戻って来れたな」
「六連装の切り札が多く残ってたのが功を奏したよ」
解放感に浸るように聡羅が大きく伸びをし、Lバングルにデータを入力していた羽士はひとつのデータ画像を指で拡大する。
「プラント級を前に出し惜しみ無し、って言ってたのにね~」
「本部に帰還出来る目途が付くまで温存するのが僕達の常だからね」
反対側からピンゾロが呆れた様子で覗き込み、羽士は複雑ながらも自信に満ちた笑みを返す。
「『帰るまでが遠足』とは、よく言ったものだよ」
「確かにラスボス倒してエンディング、とは行かないよな」
思い出し笑いをした斑辺恵が瓦礫に腰を下ろし、廃ビルの壁に寄り掛かったピンゾロは肩を震わせて笑い出した。
「2人とも気を抜き過ぎだ、ここはまだ敵陣だぞ」
「残念だけど敵影は無かったわよ」
Rガンを構えた翔星が小さくため息をつき、哨戒を終えたカーサは隠し切れない喜びを声に乗せる。
「そっか……もうひと暴れ出来ると思ったんだがな」
「もうそろそろサイカも戻って来るわ」
密かに安堵して緊張を解いた翔星がRガンを腰に戻し、カーサは含みを持たせた表情を浮かべて上空を指差す。
「あー……こっちの一戦が残ってたか」
「死線を潜り抜けた輝士械儕は硼岩棄晶の駆除より手ごわいわよ」
「肝に銘じとく、まずは輸送機に連絡だ」
軽く頭を掻いた翔星は、悪戯じみた笑みを浮かべるカーサに肩をすくめてLバングルを起動した。
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「帰って来たぜ。充木隊長、ヒサノさん」
「皆様、よくご無事で」
しばらくして着陸した輸送機へと乗り込んだピンゾロが軽く手を振り、ヒサノは安堵を滲ませた微笑みと共に出迎える。
「これくらい、お茶の子さいさいよ」
「それより他の戦況は?」
余裕の表情と共にピンゾロが席に着き、立ち上がったままの翔星は気もそぞろな様子で聞き返した。
「先ほど、各地の硼岩棄晶が一斉に消えたそうです」
「それって……」
「まだ細かな調査が必要だが、ひとまず人類の勝利だ」
手のひらに立体映像を浮かべたヒサノに斑辺恵が息を呑み、力強く頷いた充木は親指を立てる。
「ではさっそく祝勝会といきますか」
「こりゃピンゾロ、ここには何も無いじゃろ」
「それがあるんだよ、携帯糧食がさ」
勢いよく立ち上がって手を叩いたピンゾロは、隣の席で呆れて窘めるコチョウに片目を瞑ってからスティック状の袋を取り出した。
「結局、息つく暇なんて無かったからな」
「へへっ、そゆこと。音頭は翔星に任せるぜ」
緊張が解けた聡羅が疲労を自覚し、肩を震わせて大笑いしたピンゾロはしゃがみながら両手を翔星に向ける。
「あのな……小難しい話は無しだ。みんなお疲れさん、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
呆れ気味に頬を緩めた翔星が手短な掛け声と共にスティック状の袋を高く掲げ、続いて一同も袋を掲げた。
これにて「激闘の異能者」は終わりです
次回からは新章をお楽しみください




