第56話【幸福を自覚したのは、元Fランクの怪力男】
プラント級のコアを探し当てた翔星は、
部隊を2つに分けて破壊する事にした。
「同時破壊が必要だけど、どうやって合図しようか?」
「通信する余裕も無いし、Lバングルのアラーム機能でいいだろ」
腕組みした羽士が考え込み、翔星は事も無げに左腕を振る。
「了解した、時間はどうする?」
「穴から無限湧きする硼岩棄晶を躱すんだ、5分は欲しいな」
Lバングルの操作を始めた羽士が手を止め、翔星は広げた手のひらを向けた。
「たったそれだけでいいのかい?」
「10人がかりで全力疾走するんだ、むしろお釣りが来るよ」
操作を再開した羽士が再度手を止め、斑辺恵は余裕の笑みと共に親指を立てる。
「今さらだけど、そっちは羽士と壬奈ちゃんだけで大丈夫なのか?」
「硼岩棄晶は下に集中してるから、これがちょうどいい配分だよ」
「それに壬奈殿の速さについて行ける者は、この中におらんからの」
肩に手を乗せたピンゾロに羽士が余裕の笑みを返し、腕組みしていたコチョウは深々と頷いた。
「瑞雲の最大出力でも不可能」
「光属性のサイカに無理なら、他の誰にも出来ないわね」
足の飛行装置を指差したサイカが静かに首を横に振り、カーサは肩に掛かる髪を掬ってから大袈裟に肩をすくめる。
「いざという時に助けに行けないからぁ~、気を付けてね~」
「承知してるでござる、羽士殿は必ず某が守るでござるよ」
のんびりした口調でマーダが微笑み、壬奈は自信と覚悟に満ちた表情を浮かべて両肩の大袖を振る。
「ありがとう、準備をしたら時間合わせに入ろう」
「おっけ~よん」
Lバングルの操作を終えて微笑んだ羽士にピンゾロが親指を立て、一同は各々の装備の確認を始めた。
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「あ……何でこんな見落としに気付かなかったんだよ……」
「何かトラブルか?」
しばらく固まった羽士が項垂れ、聡羅は緊張を滲ませながら聞き返す。
「大した事じゃないよ。いつも通りの運び方だと、壬奈が弓を使えなくなるんだ」
「俺ちゃんと同じく、吊るしてもらってたんだったか?」
緊張を解こうと羽士が曖昧な笑みを浮かべ、ピンゾロは肩を指差した。
「ああ。今までは別行動だったから、全く気付かなかったよ」
「それって結構な大問題だろ、どうすんだ?」
肩を落とした羽士が力無く笑い、聡羅は慎重に聞き返す。
「上に着いたらプラント級に飛び乗るよ、敵のリアクションは未知数だけどね」
「それでは危険でござる!……はっ! いい事を思い付いたでござる!」
Lバングルにプラント級の映像を出した羽士が頂点部を指差し、激しく首を横に振った壬奈は突然袴を脱いで羽士の肩に飛び乗った。
「うわぁ!?」
「こうして太ももで挟めば、羽士殿と飛びながら弓も使えるでござる」
予期せぬ事態と柔らかな感触に羽士が思わず大声を上げ、壬奈は弓を射るような動作をしてから飛び降りる。
「今回は非常措置だ、帰ったら別の方法も検討しよう」
「是非、お願いするでござる」
首に残るぬくもりを意識しないように息を整えた羽士がずれた眼鏡を掛け直し、壬奈は無邪気な笑みを返した。
「どうした、ピンゾロ? 今度からわしも挟んでやろうかの?」
「冗談はやめようね、コチョウ先生のおみ足は大事なダメージソースでしょ」
悪戯じみた笑みを浮かべたコチョウが膝までを緑色のスパッツに覆われた片足を上げ、密かに息を呑んだピンゾロは慌てて両手のひらを向けて首を横に振る。
「それもそうじゃな、駆除の無い時の楽しみにしておくかの」
「はいはい、俺ちゃんは幸せ者だよ」
足を戻したコチョウが大きく胸を張り、手を振って返したピンゾロは嬉しそうに大きなため息をついた。
「宴もたけなわなのは結構だが、そろそろ時間合わせ行くぞ」
「今、みんなのLバングルにカウントダウン専用のアプリを送った」
呆れ気味に笑った翔星がLバングルを指差し、小さく頷いた羽士はLバングルの操作を始める。
「お、どんな仕掛けをしたのかな?」
「壁の解除と同時に起動するだけだ、カウントは5から行くよ」
「委細承知」
Lバングルを眺めるピンゾロに照れ笑いを返した羽士が神妙な面持ちに変わり、今まで成り行きを見守っていた蔵が合掌と共に一礼する。
「5、4、3、2、1、ゼロ! アローウォール、解除!」
「よし、作戦開始だ!」
息を整えてカウントを開始した羽士が終了と同時に氷柱の壁を消し、翔星の声を合図に一同はプラント級に向かって走り出した。
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『『グルルァーッ!』』『『アォーンッ!』』
「進行方向、敵多数!」
「相変わらず数も種類も滅茶苦茶だ事で」
硼岩棄晶の大群を確認したサイカが手にした懐中電灯から光の刃を伸ばし、ピンゾロは呆れ気味に全身のバネを溜める。
「今こそわしの出番じゃな」
「こんな手前で切り札を使う道理は無いぜ、ここは任せてくれ」
額に手を当てようとしたコチョウに手のひらを向けて止めたピンゾロは、全身のバネを深く溜めながら親指を立てた。
「ピンゾロの言う通りだ、パームブラスト!」
『『キィァーッ!?』』『『ブモァッ!?』』
足元に爆風を放って跳び上がった斑辺恵が無数の空気弾を両手のひらから交互に撃ち、攻撃態勢に入っていたワーム級やバイソン級を吹き飛ばす。
「ナイスだ、斑辺恵! 真空金剛散弾!」
『『グェァーッ!?』』『『グォァーッ!?』』
足のバネを伸ばして斑辺恵を追い越したピンゾロが両手のひらで圧縮した空気の散弾を投げ、リザード級の円盤やキャンサー級の装甲をまとめて貫く。
「いい位置だ。Rガン、ダブルファイア!」
『『ギャインッ!?』』『『グルェァーッ!?』』
地面にRガンを撃った反動で跳び上がった翔星が更に引き金を2回引き、側面に回ったハウンド級やアント級の脚部を次々と熱線で焼き払った。
「あんた達も硼岩棄晶に負けず劣らずメチャクチャね……」
「褒め言葉として受け取って置く」
再生するために動きを止めた硼岩棄晶の大群をカーサが呆れ気味に眺め、慣れた調子で着地した翔星は余裕の笑みを返す。
「ですがこれで、しばらく硼岩棄晶は動けませんな」
「今のうちに行くぞ!」
気を取り直して合掌した蔵がスコップを構えながら一礼し、一行は聡羅の号令を合図に再度駆け出した。
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「そろそろ頂点部分だ、一応警戒を」
「この高さでござる、いるとしてもバット級くらいでござろう」
Lバングルに意識を集中していた羽士が慎重に上を向き、壬奈は挟んだ太ももの間から聞こえて来た声に余裕の笑顔を返す。
「奴等はいつも裏をかいて来た、油断は禁物だ……!?」
『『ギィイェアーッ!』』
横に振ろうとした首を慌てて止めた羽士の忠告は、唐突に上から出現した奇怪な咆哮に遮られた。
「新種の飛行タイプだって!?」
「アーカイブにデータ無し、モスマン級と申請したでござる」
スコップを取り出した羽士が氷の弓を張り、上を向いて電子天女にアクセスした壬奈は目を通して得た映像を手のひらに浮かべる。
「その名前はまさか……また僕のデータベースを覗き見たんだね」
「お叱りは帰ってから受けるでござる」
「そうだね、まずはここを切り抜けよう」
コウモリのような飛膜に覆われた歪なヒト型を確認してため息をついた羽士は、力無く肩を落とした壬奈を落ち着かせるように笑みを返した。
「お任せあれ。零弓凍星起動、両刃雪崩!」
『ギィァ!』
背丈ほどもある大弓を構えた壬奈が手近な1体に氷の矢を射るが、モスマン級は鋭利な破片へと散らばりながら飛んで来た氷の矢を全て飛膜で叩き落とす。
「なんと!?」
「ブリザードアロー! こっちも援護する、とにかくコアを目指すんだ!」
予期せぬ事態に壬奈が思わず動きを止め、スコップから小さな氷の矢を連射した羽士はプラント級を指差した。
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「嘘でしょ!? 上に新型が出たみたい!」
「大丈夫なのか!?」
「ちょっとヤバいかも……」
帽子の先端にあるレーダーで異常事態を察知したカーサはしばし意識を集中し、慌てて聞き返して来た聡羅にぎこちなく振り向いて言葉を絞り出す。
「行けよ、こっちは俺達で充分だ」
「ですが、羽士さんのいるところまで飛ぶには……」
「あるんだろ? 羽士達と並ぶ手段が」
軽く息を整えて親指を上へと向けた翔星は、静かに首を横に振った焔巳の苦言を遮って聡羅達に聞き返した。
「まあな。気を使わせると悪いから、羽士に隠れて訓練してただけだ」
「この期に及んで隠し通したら、本末転倒にございますな」
「そうだな。カーサ、頼んだぞ」
観念と安堵が入り混じったような表情を浮かべて肩をすくめた聡羅は、合掌して頷いた蔵に親指を立ててからカーサに声を掛ける。
「任せて! 震分身、起動!」
「「モードESD! ライトニングブラスト、シュート!」」
聡羅の背に抱き着いて翼状の機器を広げたカーサが2体の分身を作り出し、魔導書型の機器から地面に向けて放った電撃の反動で飛び立った。
「なるほど、分身を多段ロケットみたいにしたのね」
「こちらも参りますぞ、マーダ殿」
消えた分身を確認したピンゾロが深々と頷き、続いて蔵がマーダに声を掛ける。
「は~い、しっかり掴まってくださいねぇ~。エレガント・ズーム、起動ぉ~」
「あれがマーダさんの切り札だったのか」
左腕を蔵の肩に回したマーダが見る見る巨大化し、斑辺恵は得心の行った様子で4倍の背丈にまで伸びたマーダを見上げる。
「ファングライダー起動ぉ~、皆さん気を付けてくださいねぇ~」
「ちょうどいい、こっちもあの風を利用させてもらおう」
下を見て警告したマーダが扇状の機器を頭の両側に広げ、翔星達はマーダが飛び上がるタイミングに合わせて前進を再開した。
▼
『『ギィィアッ!』』
「くっ! こっちの目的はお見通しって訳か」
進路を塞ぐようにモスマン級が飛び回り、羽士は苦い顔を浮かべながらルートの算出を続ける。
「どうにかして突破口を……あれは?」
「モードESD! ライトニングブラスト!」「ホーミングフレア~、発射ぁ~」
『ギィェアーッ!?』『ギョィェーッ!?』
狙いを定めあぐねていた壬奈が視線を落とした瞬間カーサとマーダの声が響き、飛膜で攻撃を弾くタイミングを逸したモスマン級が雷や炎に包まれて消滅した。
「どうして聡羅達がここに!?」
「細かい説明は後です、まずは任務を」
予期せぬ援軍に羽士が思わず大声を上げ、マーダの差し出した手のひらへと乗り移った蔵は片手で一礼してからスコップを構える。
「ありがとう、背中は任せたよ」
「任せろ、派手に反撃と行こうぜ!」
スコップの先端に氷の弓を張り直した羽士が親指を立て、聡羅も護拳に見立てて畳んだままのスコップを片手で構えながら親指を立てた。




