第55話【優先されたのは、元Fランクの闇使い】
大型硼岩棄晶の妨害を受けた翔星達だが、
輝士械儕達の活躍により突破に成功した。
「さーて、地獄の三丁目の第一硼岩棄晶は……って、探すまでも無いな」
「拙僧の灯明もあの中ですが、いささか大きいような?」
新たな階層に着地したピンゾロが周囲を探る振りをしながら巨大な柱を見上げ、意識を集中すべく合掌した蔵は怪訝な表情を浮かべる。
「全てのプラント級をひとつに集めたって推測、案外正解かもな」
「プラント級を見付けるまでに切り札を温存出来たのは僥倖だよ」
興奮を隠せない様子で翔星がRガンを抜き、Lバングルへの入力を終えた羽士は密かに安堵しながら眼鏡に手を当てた。
「そう言えば、壬奈ちゃんの切り札ってどんなんなの?」
「速度の上昇だよ。閉鎖空間には不向きだから、アテにはしないでくれ」
ふと思い出したようにピンゾロが聞き返し、羽士は曖昧な笑みを返す。
「わたくしの切り札も閉鎖空間向きじゃないのぉ~」
「切り札2枚が欠席なら、戦力の分散は悪手になるか」
「それに、分散が分断になってただろうからね」
周囲を警戒するように機関銃を構えながら微笑んだマーダに翔星が頷きを返し、羽士も静かに頷いた。
「ん? どゆこと?」
「奴等はエネルギー体に変わって地中を自在に移動出来るだろ?」
手にした銃器を確認する輝士械儕達を眺めていたピンゾロが首を大袈裟に傾げ、羽士は硼岩棄晶の特性を簡単に説明する。
「そりゃまあ、俺ちゃんの見たプラント級もどっか行ったものな」
「おそらく1層や2層の硼岩棄晶も同じ理屈でここに来れるはずだ」
「逆にこっちは穴を塞がれて置いてけぼり、って訳ね」
軽く頭を掻いたピンゾロは、羽士がLバングルに出した映像に納得して頷いた。
「これまでの定石が通じる相手じゃなかったけど、本丸なら話は別だ」
「ああ、出し惜しみ無しの最終決戦だ」
「とはいえあの巨体じゃ、やみくもに攻撃してもこちらが消耗するだけじゃろ?」
安堵の笑みを鋭い眼光に変えた羽士に続いて聡羅が折り畳んだままのスコップを構え、コチョウは不安な様子で以前の戦闘データを手のひらに浮かべる。
「手は限られてるだけで、無い訳じゃ無いさ」
「あの程度の大きさなら骨は折れるが、コアを探せないでもない」
静かに首を振った羽士と目が合った翔星は、確信の表情と共に肩をすくめた。
「今回は輝士が6人もいるから、増援はすぐに塞げるね」
「穴の破壊が逃走のトリガーかもしれない、塞ぐのは最後の手段だ」
周囲の輝士械儕を見回した斑辺恵が余裕の表情を浮かべるが、羽士は慌てて手のひらを向けながらLバングルの映像を切り替える。
「他に逃げられる場所があるのか知らないが、用心するに越した事は無いな」
「抵抗を掻い潜りながらコアを探す作戦になる、出来るかい?」
「簡単に言ってくれる。気に入ったぜ、この作戦」
頭を掻いて考えをまとめた翔星は、真剣な表情を浮かべて聞き返して来た羽士に小さく肩をすくめてから不敵な笑みを返した。
▼
『『グォーン!』』『『グェーッ!』』
「さすがは本丸、数も種類も滅茶苦茶だ」
「この際だ、陣形なんか無視して各自の判断で翔星を守ってくれ!」
プラント級の根元にある穴から出て来た様々な硼岩棄晶に気付いた斑辺恵が呆れ気味に身構え、羽士は簡潔に指示を出す。
「おいおい、俺の分を残しておけよ!」
「早くコアを見付けないと、全部いただいちゃうよ~ん!」
指示に不満を覚えた翔星が手にしたRガンを振り、ピンゾロは冗談じみた笑みを返して大きく手を振る。
「言ってろ! サイカ、まずは硼岩棄晶が出て来る穴の周辺をチェックだ」
「トレント級との比率や貴官を警戒する傾向から、コアは上方にあると推測」
緩んだ口元で毒づいた翔星が表情を切り替えてプラント級の根元を指差し、手のひらに立体映像を浮かべたサイカはもう片方の手でプラント級の上部を指差した。
「裏をかく可能性もゼロじゃない、可能な限り確認したいんだ」
「了解した。出力最大で突破」
静かに首を横に振った翔星が再度根元を指差し、サイカは両脇で抱え込むように構えた大型熱線銃の引き金を引く。
『キィェーッ!?』『ギャインッ!?』
「穴を塞がずに硼岩棄晶だけを撃破か、見事なもんだ」
2門の銃口から放たれて重なった熱線が刃の如く進路上の硼岩棄晶を薙ぎ払い、開けた視界の先にある無傷のプラント級に翔星は舌を巻いた。
「出力低下、熱線銃を破棄」
「機密保持とかは大丈夫なのか?」
「購入に使用した分のポイントを使い切れば、データに戻って自動的に分散する」
躊躇う事なく熱線銃を投げ捨てたサイカは、慎重に聞き返した翔星に得意満面な笑顔を返す。
「何とも便利な話だな。だが、今のうちだ!」
「瑞雲起動、貴官の体力温存に協力する」
「大した名目を考えやがって……まあいい、ここは頼んだぜ!」
霧のように消えた熱線銃を呆れ気味に眺めながらRガンを地面に向けた翔星は、直後に襟首を掴んで来たサイカに複雑ながらも決意に満ちた笑みを返した。
▼
「硼岩棄晶の接近を確認。以降の戦闘行動は、ガジェットテイルを使用する」
「ここまで来れれば上等だ、闇よ……!?」
『『アォォーンッ!』』
バイザーを通して周囲を確認したサイカがガジェットテイルの先端に付いた懐中電灯を握り、闇に包む体勢に入った翔星は側面からの衝撃波に気付いて身構える。
「データ照合、ケルベロス級と一致。速やかな離脱を推奨」
「この程度なら俺が……っと!」
『『ギャイン!?』』
着地と同時に進行方向を指差したサイカに首を振った翔星がRガンを構えるが、直後にケルベロス級は3つの頭部と腹部のバイパスに銃撃を受けて倒れた。
「援護はありがたいが、どこから撃ったんだ?」
「弾丸の軌道を自在に操るラウンドショット、法師型の取って置きよ!」
灰となって消え行くケルベロス級を確認した翔星が周囲を見回し、2丁の拳銃を両手に持ったカーサが得意げに胸を張る。
「ありがたい、今のうちに近付くぞ!」
「了解した」
軽く手を振った翔星がプラント級に向かい、サイカも続くように駆け出した。
▼
「いい具合に引き付けてくれてるな、闇よ!……なっ!?」
「こちらでもコアを確認、貴官の推測通り」
プラント級の根元を闇に包んだ翔星が言葉を詰まらせ、サイカは小さく頷く。
「バイパスみたいなものも上まで伸びてるな、確認するぞ!」
「了解した」
プラント級のコアを指差した翔星が続けて上に向け、サイカは再度襟首を掴んで上昇を開始した。
▼
「闇よ! 闇よ! 闇よ!……中継地点も無いとは恐れ入るぜ」
「間もなく頂点部分に到達」
淡く光ってどこまでも上に伸びるバイパスに翔星が呆れ返り、サイカは天井部に張った根のようなものを指差しながら上昇速度を緩める。
「闇よ!……見えた! プラント級は高く伸びた上下にコアを持ってやがる!」
「データ転送……コアの同時破壊以外に駆除は不可能と電子天女は推測」
「見た目通りの能力か、天井をぶち抜いてたらアウトだったぜ」
根を突き出している頂点部分を闇に包んだ翔星は、サイカから聞いた分析結果に安堵のため息をついてから天井部を眺める。
「プラント級に逃走の予兆は無い、一時退避を提案」
「もちろんだ、2人でどうこう出来るなんて思ってないぜ」
慎重にプラント級を観察してから下を向いたサイカに翔星が素直に頷き、下降を始めた2人は羽士が作り出していた氷柱の壁の内側に着地した。
▼
『『ブモァーッ!』』『『グルァーッ!』』
「氷柱の壁か。噂には聞いてたけど、大した強度だ」
地面から張り出した氷柱の壁に硼岩棄晶が阻まれ、翔星は呆れ気味に感心する。
「しばらくは攻撃に耐えられる、今のうちに作戦を立てよう」
「データは電子天女に転送済み」
自信に満ちた笑みを返した羽士がLバングルの操作を始め、サイカは淡々と手のひらに立体映像を浮かべた。
「どれどれ……コアの同時破壊はヒドラ級やケルベロス級のようには行かないね」
「バイパスが長いからな……中心点からコアまで攻撃が届くとは思えないぜ」
データを確認した羽士が考え込み、翔星は手にしたRガンを眺めて首を振る。
「直接破壊するしかないね、戦力の確認をしながら誰が破壊するか決めよう」
「さっきのドンパチで輝士ちゃんの得物は軒並み打ち止めだぜ?」
しばらく考えた羽士が方針を固め、ピンゾロは小さく肩をすくめた。
「残るはガジェットテイルの通常戦力と六連装の切り札だけか……」
「俺とサイカなら台刻転で同時に攻撃できるが?」
Lバングルにデータを入力した羽士が難しい表情を浮かべ、翔星はプラント級の映像の上下を順に指差してから含み笑いを浮かべる。
「念のために言うけど、翔星の帰還最優先は電子天女の決定なんだ」
「こっちは初耳なんだが、いつも通りには行かないって事か」
「肯定。貴官との距離と台刻転の使用回数が制限されている」
Lバングルに映像を出した羽士に釈然としない様子で翔星が頭を掻き、サイカは淡々と頷いて手のひらに立体映像を浮かべた。
「ありがたい話だが、あんな獲物を前に引く気は無いぜ」
「それでこそ翔星ちゃん、俺ちゃん達が援護すればいいだけの話だろ?」
大袈裟にため息をついた翔星が壁の隙間からプラント級を見据え、後ろから回り込んだピンゾロが肩に腕を乗せながら親指を立てる。
「そうだな、頼りにしてるぜ。それでコアの破壊はどうする?」
「上のコアは僕と壬奈で行くよ」
感謝するように目を閉じた翔星が切り替えるように見開き、羽士はプラント級の映像の上部を指差す。
「壬奈殿のロケットなら適任じゃろうが、コアを破壊する当てはあるのかの?」
「細工は流々、仕掛けは上々、あとは仕上げを御覧じるだけでござる」
「それは頼もしいの」
深々と頷きつつも懸念事項を確認したコチョウは、自信に満ちた笑みを浮かべた壬奈に満面の笑みを返した。
「下のコアは早い者勝ちで行くか」
「分かりやすくていいね、美味しいところはいただいちゃうよ」
軽く伸びをした翔星が壁の隙間からプラント級を見据え、ピンゾロは悪戯じみた笑みと共に頭の後ろに手を回す。
「誰が駆除しても恨みっこなしだからね」
「ああ、頼りにしてるぜ」
慣れた様子で微笑んだ斑辺恵が大きく伸びをし、翔星は静かに頷いてから不敵な笑みを浮かべた。




