第53話【猫になったのは、元Fランクの闇使い】
プラント級の駆除に向かった翔星達は、
予想外の反撃を受けて作戦を変更した。
「こちらも準備を済ませましょう、ガジェットテイル展開」
「焔巳さん!? 別に抱き着かなくても……いいんじゃないかな?」
輸送機の後方まで移動した焔巳が裾丈の短い着物姿へと変わり、斑辺恵は背中に当たる柔らかな感触に戸惑いの声を上げる。
「自由落下では転移ゲートから逸れる可能性がある」
「それで俺の首根っこを掴んでるのか、これではどっちが猫か分からんな」
静かに首を横に振ったサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、翔星はもう片方の襟首を掴む手を指差してから肩をすくめる。
「お互い苦労するね~、翔星先生」
「吊るしてもコネクトカバーの範囲内じゃ、それとも背中に抱き着こうかの?」
胡坐をかいたピンゾロが肩に視線を落とし、すぐに吊るして飛べるように両肩を掴んだコチョウは覗き込むように微笑んだ。
「以前受領したデータの実践には、ガジェットテイルの収納が必要」
「おーいサイカさん。何だか知らんが、本末転倒な事だけは勘弁してくれよ」
手のひらの映像を切り替えたサイカが重心を傾け、胸部装甲の感触を何度も背に受けた翔星は呆れ気味に窘める。
「了解、データの試行は寝室に戻ってからにする」
「どうでもいいけど、お手柔らかに頼むぜ」
重心を戻したサイカが含み笑いを浮かべ、翔星は複雑な笑みを返す。
「ふむ、わしらはどうするかの?」
「今のままでいいぜ、こっちの方が慣れてるからな」
2人のやり取りを眺めていたコチョウが再度覗き込み、目を合わせたピンゾロは屈託の無い笑みを返した。
「マスタぁー、あたしはこうしてていいよね?」
「もちろんだ、頼りにしてるぜ」
「ふみゃぁ~」
背中に抱き着いてから頬を擦り付けたカーサは、聡羅に頭を撫でられて陶酔したように目を細める。
「蔵くんも準備いいかなぁ~?」
「色即是空……入我我入……! 覚悟は出来ましたぞ!」
「もぉ~、大袈裟なんだからぁ~」
両側頭部に扇のような飛行ユニットを展開したマーダは、合掌して力強く両目を瞑った蔵の背中に抱き着いた。
「壬奈、今回はみんなに合わせて飛ぶ必要がある。出来るかい?」
「善処はするでござる」
Lバングルを操作した羽士が立体映像を浮かべ、後ろから覗きこんでいた壬奈は曖昧な笑みを返す。
「分かった。僕がナビするから、壬奈はいつも通りに飛んでくれ」
「承知したでござる!」
優しく頷いた羽士が映像を切り替え、壬奈は自信に満ちた表情を返した。
「皆さん展開は終わったようですね」
「いつでもいいぜ、隊長」
操縦席に展開した立体映像を確認したヒサノが声を掛け、一同を代表して翔星が親指を立てる。
「こっちもいいコースに入った。ヒサノ、カウントを頼む」
「了解しました。後部ハッチ開放まで10、9、8……」
「いよいよか……」
操縦桿を握った充木に頷いたヒサノが秒読みを始め、翔星は軽く息を整える。
「……3、2、1、0! ハッチ、開放します!」
「行くぞ!」
秒読み終了と同時に輸送機後部のハッチが開き、一同は翔星の掛け声に合わせて夜空の闇へ飛び込んで行った。
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「うおっ!? まぶしっ!」
「地上からの電撃は隊長が引き受けてくれてるみたいだな」
吊るすように両肩をコチョウに掴まれたピンゾロが突然走った閃光を袖で遮り、襟首をサイカに掴まれた翔星は電撃を遮る泡に包まれた輸送機を見上げる。
「では今のうちに移動じゃな」
「間もなく転移可能な座標に到達」
慎重に地表を確認したコチョウが降下を再開し、サイカは空いた手のひらに立体映像を浮かべた。
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「よし、全員揃ってるな?」
「いや、羽士達がまだだ」
サイカの降下が止まると同時に翔星が周囲を確認し、聡羅は首を振って返す。
「ロケットは速いし、勢いが付いたのかな?」
「作戦は力押しですが、細かい部分は羽士殿の計算が頼りですぞ?」
後ろから焔巳に抱き着かれた斑辺恵が平静を装いながら周囲を見回し、柔らかな感触を背に受け続ける蔵も合掌して気を紛わせ続けた。
「少々お待ちください……あちらの方角からですね」
「うわわっ……」
黒い額当てに意識を集中した焔巳は、片手を開けるべく斑辺恵を抱き寄せながら一定の方角を指差す。
「個体名祀波羽士及び壬奈の接近を確認」
「間に合えー!」
「ゲート展開域への侵入を確認、台刻転起動」
続けて羽士達を目視したサイカは、氷のロケットを噴射しながら飛び込んで来た壬奈に合わせて転移機能を起動した。
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「おっとっと……危うく壁にぶつかるところでござった」
「みんな、迷惑掛けて済まなかった」
目の前の光景が剥き出しの岩肌に変化した壬奈が噴射を調整して衝突を回避し、安全を確認した羽士はその場で頭を下げる。
「いいって事よ。それより、頼りにしてるぜ」
「ある程度はまとめておいた、任せてくれ」
気にする様子も無く手を振るピンゾロに羽士が自信に満ちた笑みを返し、一行は巨大な地下空洞の床を目指して降下を開始した。
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「ようやく着地か……これが地下空間だなんて」
「ところでデカブツちゃんはどこかしらん?」
「データによると、プラント級がいるのは更に下じゃの」
着地すると同時に焔巳から離れた斑辺恵に続いてピンゾロが周囲を見回し、手のひらに立体映像を浮かべたコチョウは下を指差す。
「台刻転は転移装置と併用しない限り短距離の移動しか出来ないからな」
「最下層への直接転移は地表からでも不可能」
続いて着地した翔星が軽く土埃を払い、サイカも静かに首を横に振った。
「空中から地獄の一丁目がベストな選択だった訳ね」
『『グルルル……』』『『グェグェ……』』
大きく肩を回したピンゾロが含み笑いを浮かべ、周囲を取り囲むように出現した無数の硼岩棄晶を睨み付ける。
「なるほど、地獄とは言い得て妙ですな」
「あくまで目標はプラント級だ、地上の奴等が戻る前に突っ切るぞ!」
合掌して一礼した蔵がスコップを取り出し、翔星は自分に言い聞かせるように作戦を確認しながらRガンを抜いた。
「掘削可能地点を算出した、この地点なら破壊しても岩盤の影響が少ない」
「階段とかじゃないのね~……」
Lバングルからデータを送信した羽士が群れを為す硼岩棄晶の奥を指差し、受け取った座標データをLバングルに表示したピンゾロは曖昧な笑みを浮かべる。
「ゲームじゃないんだし、あったらそれこそ罠だろ」
「違いねえ、ここは先生方にお任せしますか」
呆れ気味に翔星が肩をすくめ、軽く頷いたピンゾロは銃を構えた輝士械儕を眺めながら全身のバネを溜めた。
「まずは隊列を崩す! 弾幕を張るんだ!」
「銃は苦手でござるが、四の五の言ってはいられぬでござるな!」
「こっちも行きますよぉ~、うおぉぉぉ~っ!」
「マシンガンアーム、起動じゃ!」
羽士の指示に合わせて壬奈が籠手に装着した機銃を発砲し、マーダとコチョウも続けて手にした銃の引き金を引く。
『『グルァッ!?』』『『グェーッ!?』』
「隊列が乱れた! 熱線で道を拓いて!」
無数の弾丸にコアを撃ち貫かれた前列の硼岩棄晶が次々と灰になり、羽士は次の指示を間髪入れずに出した。
「任務了解」
「こちらも行きますね」
『『ギャインッ!?』』『『ブモォッ!?』』
背丈を超す熱線銃を両手で抱えて前方へと向けたサイカと大口径の熱線砲を肩に担いだ焔巳が同時に引き金を引き、射線上の硼岩棄晶が次々に蒸発する。
「今だ! 掘削ポイントへ移動を!」
「心得た! 各々がた、某に続くでござる!」
更に指示を出した羽士の肩を掴んだ壬奈が瞬く間に飛んで行き、他の輝士械儕も各自の異能者と共に後を追った。
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「掘削と言ってたが、どうやって穴を掘るつもりだ?」
「そういえば翔星達には、まだ教えてなかったわね」
着地と同時に翔星が周囲を警戒し、カーサは魔導書型の機器から剥がしたページ数枚を浮かべながら含み笑いを返す。
「ん? どゆこと?」
「こうすんのよ! ライトニングドリル!」
全く理解出来ない様子でピンゾロが聞き返し、カーサは縦4つに折ったページを並べて回転させながら地面に突き立てた。
「ありゃ~、お見事。さっそく下に……」
『『グルルルゥ……ッ!』』
「もう追って来たのか!?」
程なくして空いた大穴に感心したピンゾロは、背後からの唸り声に気付いて振り向く。
「ふむ、ここはわしらに任せて先に……」
「今回の作戦は未知数の綱渡りだ、ひとりとして置いて行けないよ」
続けて振り向いたコチョウが肩を軽く回し、羽士は静かに首を横に振った。
「羽士先生、策はあるのかい?」
「もちろんさ、とてもシンプルだけどね」
全身のバネを溜めたピンゾロが聞き返し、羽士は含み笑いと共に頷く。
「分かった、先に行ってるぜ」
「ここはピンゾロに従うが、いざとなればすぐに出るぞ」
溜めていたバネを解き親指を立てたピンゾロの両肩を掴んだコチョウは、翅状の機器で浮遊しながら既に他の者が通り抜けた大穴へと入った。
「その必要は無いよ、アローウォール」
「やっぱりこういう時は、シンプルな手に限るね~」
壬奈に掴まれて最後に大穴を抜けた羽士が氷柱の壁を作り出し、ピンゾロは予想通りに塞がった穴を眺めながら何度も頷く。
「作戦立案と先陣と殿軍を買って出た理由がわかったかい?」
「これは1本取られたの」
自信に満ちた笑みを返した羽士にコチョウが手放しで感心し、一行は深くて底の見えぬ地下空洞を慎重に下りて行った。
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