第50話【怒りを込めたのは、元Fランクの闇使い】
サイカ達と無事合流した翔星と聡羅は、
ケルベロス級を駆除して地下から脱出した。
「ライトニングブラスト!」
「路接、射出」
『ブモァッ!?』『ブモッ!?』
魔導書から電撃を放ったカーサに続いてサイカが懐中電灯から光の刃を飛ばし、2体のバイソン級が次々に悲鳴を上げる。
「残存する硼岩棄晶なし、殲滅完了」
「おつかれ、サイカ。硼岩棄晶の殲滅を確認、駆除任務完了」
猫耳付きの髪留めに手を当てたサイカがバイザーを下ろし、翔星はLバングルに音声を記録した。
「電子天女より指令、即時本部へ帰還せよとの事」
「数分と掛からない引継ぎを省略か……状況はかなりヤバいみたいだな」
しばし空を見上げたサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、翔星は適当に頷きを返す。
「了解……」
「おーいサイカさん、台刻転は使うなよ」
静かに頷いたサイカが胸元に手を当て、翔星はため息交じりに釘を刺す。
「説明を求める」
「次の任務があるだろうし、力は温存するに越した事は無い」
「理解した、通常の転移装置まで移動する」
上目遣いで聞き返したサイカは翔星の説明に淡々と頷きを返し、一行は結界街の基地に向かった。
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「どうやら惨憺たる有り様らしいな」
「それでも輝士と合流出来てるからマシな方だ」
本部の転移ゲートに戻った翔星が異能者を抱える輝士械儕を複雑な表情で眺め、聡羅も曖昧な表情を浮かべる。
「分断作戦は増援部隊全体に及んだ訳か」
「翔星達以外は、単独行動に慣れてないからな」
「最悪の事態もありうるか」
語気に静かな怒りを込めた翔星は、首を横に振った聡羅に表情を曇らせた。
「戦いが好きな割には優しいのね、今はまだ大丈夫よ」
「そっか……でも何で分かるんだ?」
呆れ返った様子で髪を手で掬ったカーサが小さくため息をつき、密かに安堵した翔星はひと呼吸置いて聞き返す。
「異能者がひとりでも命を落とせば、全輝士械儕の機能が低下する」
「何だって!? そんな話は初耳だぞ!」
入れ替わるようにサイカが淡々と説明し、聡羅は思わず大声を上げる。
「黙っててごめんなさい、マスター。誰にも教えてはいけない決まりだったの」
「電子天女からの情報開示許可は今さっき下りた」
チューブ状のガジェットテイルを力無く下げたカーサが目を潤ませ、庇うように前へと出たサイカは手のひらに立体映像を浮かべた。
「分かった、前に話してくれた幸福を糧にするのと関係はあるのか?」
「肯定。異能者の幸福な感情は輝士械儕の能力を上げる」
以前の会話を思い出すべく上を向いた翔星が考えをまとめて聞き返し、機械的に頷いたサイカは手のひらの映像を切り替える。
「逆に不幸は下げるって訳か」
「そして死は最大の不幸……理屈としては合ってるか」
しばらく映像を眺めていた翔星が噛み砕くように何度も頷き、ようやく理解した聡羅も重々しく頷く。
「今わの際までに合流して看取れば、影響は最小限に止められる」
「確かに上出来の最期だ、異能者が引退しても輝士が添い遂げるのも納得だぜ」
立体映像を閉じたサイカの頭を撫でた翔星は、大袈裟に肩をすくめた。
「細かい説明は省くけど、ゼロ番街と本部はリンクしてないわ」
「どういう事だい?」
小さくため息をついたカーサがジト目で睨み付け、翔星は素直に聞き返す。
「普段は考えないようにしてるけど……人間には、寿命……があるでしょ?」
「こっちは百年満たない常命の種、いちいち死を悼んでたら心が病んじまう訳か」
「少しは気を遣いなさいよ……でも、そう言う事ね」
僅かに俯いて選んだ言葉を絞り出したカーサは、腕組みをしながら何度も頷く翔星に苛立ちを見せながらも吹っ切れたような表情を返す。
「電子天女より、ブリーフィングルームに集合せよとのメッセージ」
「ようやく話がまとまったか、もうひと暴れ出来ると嬉しいんだがな」
しばし天井を見詰めたサイカに気付いた翔星がホルスターに収めた銃を確認し、一同は転移ゲートを設置した部屋を後にした。
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「翔星! 無事だったか!」
「おかげ様でな。蔵と羽士も無事でよかったぜ」
扉が開くと同時にピンゾロが勢いよく立ち上がり、肩をすくめた翔星は奥の席に向けて手を振る。
「俺ちゃんの心配もしてよ~」
「少しふざけ過ぎた、ピンゾロと斑辺恵も無事でよかったよ」
「ああ、お互いにな」
大袈裟に肩を落とす仕草をしたピンゾロは、ひと呼吸置いて口元を緩めた翔星に親指を立てて片目を瞑った。
「悔しいけど、届きそうにないな」
「拙僧も修行不足を痛感しました」
手のひらを上に向けた羽士が力無く握り、合掌した蔵も重々しく一礼する。
「でも羽士殿は貴重なデータを収集したでござるよ」
「壬奈殿の言う通り、わしやピンゾロには出来ぬ芸当じゃ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
慌てて立ち上がった壬奈にコチョウが腕組みして頷き、羽士は頬を綻ばせる。
「消える柱に目印を付けた蔵くんも頑張ったですよぉ」
「はい。斑辺恵様も感心されていました」
「かたじけない。まさに『みんなちがって、みんないい』の体現ですな」
手のひらに立体映像を浮かべたマーダに続いて焔巳が微笑み、表情に自信を取り戻した蔵は合掌して一礼した。
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「全員揃ってるな? 今から反攻作戦の説明に移る」
「反攻? 取り残された異能者の救助では無いのか?」
しばらくしてブリーフィングルームへと入って来た充木の言葉に違和感を覚えた翔星は、そのまま眉を顰めて聞き返す。
「そっちは各地の駐在員で対処出来るくらいに収束しつつある」
「例の消えた柱と関係しているのですか?」
軽く頷いた充木がタブレット端末を操作し、考え事をしていた蔵が聞き返した。
「現状では断定出来ませんが、硼岩棄晶出現数は減少していますので何らかの因果関係はあると推測出来ます」
「硼岩棄晶を生み出す柱については祀波と今隅のおかげで正体が掴めた」
続いて入ったヒサノが手のひらに立体映像を浮かべ、タブレット端末を操作した充木は顔を僅かに綻ばせる。
「あの柱は硼岩棄晶を生み出す工場型硼岩棄晶。以後、プラント級と呼称します」
「奴等の発生源を掘り当てた、って訳か」
手のひらの映像を切り替えたヒサノに合わせてLバングルの操作をした羽士は、何度も頷きながら情報を確認した。
「電子天女はプラント級を駆除出来るか打診してきました」
「打診? 指令じゃないのか?」
小さく頷いたヒサノが更に映像を切り替え、翔星は怪訝な表情で聞き返す。
「今現在帰還出来ている異能者のうち、再出撃可能なのはこの隊だけですので」
「命に別状は無いとはいえ、医療室をフル稼働させるほどの重傷者が多数だ」
映像を閉じたヒサノが静かに首を振り、充木も複雑な表情で肩をすくめた。
「回復を待つ事は?」
「返答の期限まで間も無い、半数も復帰しないだろう」
しばらく考えた聡羅が聞き返し、充木は淡々と事実を返す。
「数は圧倒的にこっちが不利か……」
「策で補うにも、もう一手欲しいな」
Lバングルに浮かべたプラント級のデータを眺めていた斑辺恵がため息をつき、羽士も打開策を模索しながらLバングルを操作する。
「では、お買い物をするのはどうでしょうか?」
「焔巳さん? いったい何を?」
注目を集めるべく焔巳が手を合わせ、斑辺恵は戸惑いを隠さずに聞き返す。
「ふっ、そう言う事か。確か使い捨ての火器をポイントで買えただろ?」
「さすが翔星ちゃん、冴えてる~」
「現在所持しているポイントを確認、火器データ購入に必要充分」
腕組みして頷いた翔星にピンゾロが身を乗り出して笑みを浮かべ、サイカは手のひらに立体映像を浮かべる。
「出来れば少しは色を付けて欲しいもんだね~」
「全てのデータはポイントから作成する、使用量を減らす事は不可能」
「ある意味しっかりしてるのね~」
腕組みしながら立体映像を覗き込んだピンゾロは、機械的に説明をするサイカに大きく肩をすくめて返した。
「さて。頭数は手数で埋められるとして、作戦はあるのかの?」
「奇策を考える時間も情報も無い、正面突破を軸に考えるしかないね」
ピンゾロの肩を引いて席に戻したコチョウが腕組みして考え込み、羽士は難しい表情を浮かべながらLバングルを操作する。
「情報は出来る限り集める、反攻作戦は決行と返答していいんだな?」
「もちろんだ、全員参加で返事を頼む」
「分かった。目印の効果時間を考えれば作戦開始まで数時間も無いだろう、今すぐ準備を始めてくれ」
息を整えて聞き返した充木は、無言で頷いた一同を代表して立ち上がった翔星に覚悟を決めた表情で頷いてからタブレット端末の操作を始めた。




