第49話【勝負を預けたのは、元Fランクの闇使い】
強引な手段で聡羅を遠ざけた翔星は、
単独でのドッペル級駆除を決意した。
「まずはひとつ!」
『イマナンテイッ……タ!?』
微かな光を追って足踏みを続けるドッペル級に近付いた翔星は、先端に闇の針を出した懐中電灯を喉首に突き刺して駆除する。
「もういっちょ!」
『ナメタクチキイテンジャネエ……!?』
懐中電灯を逆手に握り直した翔星が手近な淡い光に突き立て、別のドッペル級が人間の言葉を真似る鳴き声を止めて倒れる。
(早く本体、もとい中継装置を駆除しないと身が持たないな……)
「前回は数が少なかったから、片っ端から潰したんだったか?」
周囲のコアをざっと数えた翔星は、うんざりしながらも愉悦を噛み締めるような笑みを浮かべた。
『フザケンナ!』
「っと……破れかぶれでも数が揃えば事故る可能性がある訳か」
1体のドッペル級が大きく腕を振り、軽く軸を逸らして躱した翔星は手を動かし始めたドッペル級の大群を警戒しながら移動を始める。
(だが、今の動きで分かって来た)
「ふっ、手よりも足を動かすドッペル級はお前だけだ」
他と違う動きをする個体に狙いを定めた翔星は、素早く踏み込んで淡い光を放つコアを闇の針で貫く。
『オレヲオイテク……ナッ!?』
「ま、こんなものか」
(闇を解くのが遅れたおかげで、面白いものが見れたよ)
人語のような鳴き声を詰まらせたドッペル級が灰のように崩れ去り、闇を解いた翔星はしばらく壁の向こうを見据えた。
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「翔星!? もう駆除したのか!」
「コツがあるからな。それより、さっきはすまなかった」
視界が開けると同時に聡羅に声を掛けられた翔星は、軽く息を整えてから気まずそうに頭を掻く。
「過ぎた事だ、それより、早く脱出する方法を考えないと」
「わかった。ライトの酸素はどれくらいもちそうか?」
肩をすくめた聡羅は自分達が落ちて来た大穴を見上げ、チューブを咥えた翔星は先端につながる懐中電灯を確認した。
「あと1時間が限界だ」
「1時間か……」
チューブを咥えたままの聡羅が左肩に固定した懐中電灯を確認し、翔星は複雑な表情を浮かべる。
「何かあったのか?」
「ただの推測だ、まだ確証は無い……いや、今しがた確信に変わった」
懐中電灯を元に戻した聡羅が聞き返し、曖昧な笑みを返した翔星は即座に緊張の表情と共に身構えた。
『『アオォーンッ!』』
「今度はケルベロス級だと!?」
「ちょうどいい。悪いが聡羅、少し下がっててくれないか?」
音も無く現れた巨大な3つ首の犬型硼岩棄晶に聡羅が驚愕の声を上げ、前に出た翔星は手のひらを後ろに向ける。
「構わないが、大丈夫なのか?」
「コアを確認したら、すぐ闇を消す」
意図を察した聡羅が後方に下がり、翔星は不敵な笑みを返した。
「そう言う事か、頼りにしてるぜ」
「まかせろ、闇よ!」
『『アォォーンッ!』』
作戦を理解した聡羅に頷いた翔星が左手を振り、暗闇に包まれたケルベロス級は奇妙な鳴き声を上げる。
「ちっ、そう来やがったか」
「どうした? コアの位置は分かったのか?」
「いや。理屈は分からんが、コアが消えた」
苦い表情と共に闇を解除した翔星は、折り畳んだスコップを護拳のように構えた聡羅に首を振って返した。
「どういう事だ?……!?」
『『アォォーッ!』』
怪訝な表情浮かべた聡羅は、膨れ上がった殺気に反応して大きく後方に下がる。
「……って、それどころじゃないな!」
「こっちが迂闊に手を出せないと学習させちまったか」
ケルベロス級の衝撃波によって削り取られた足元を確認した聡羅が体勢を整え、翔星は懐中電灯を構えながら側面に回り込む。
『『アォ?』』
「そこだ! ライトニングサーベル!」
『ギャインッ!?』
回り込んだ翔星に3本の首が同時に気を取られ、隙を突いて聡羅がスコップから放った雷のサーベルが1本の首をコアごと切り落とした。
「コアはハウンド級と同じく首にあるらしいな」
「そんな単純だったら闇からコアを隠す必要無いぜ」
新たな雷の刃を出した聡羅が放つ構えを取り、翔星は静かに肩をすくめる。
「なるほど、そう言う事か」
『『グルルルッ!』』
直感的に踏み止まった聡羅は、唸り声と共に首が再生したケルベロス級を睨んで即座に納得した。
「ヒドラ級と同じくコアをバイパスでつないでるんだろうさ」
「しかもヒドラ級とは作りが違う、って言いたいんだろ?」
懐中電灯を構えた翔星が全身のバネを溜め、聡羅も両足のバネを溜めながら含み笑いを返す。
「そうだな、同じだったら隠す必要が無くなる……っと!」
『『アォォーッ!』』
軽く頷いた聡羅は、ケルベロス級の咆哮に合わせて大きく横に跳んだ。
「あの衝撃波、範囲が広いから避けるのもひと苦労だ」
「俺達を輝士と分断させたのも、地下に引きずり込んだのも計算通りか」
「コネクトカバーが無ければ回避が頼りだからな」
衝撃波を紙一重で躱した聡羅は、楽しむようにケルベロス級の出方を窺う翔星に複雑な笑みを返す。
「ひとつ試してみるか」
「何か策はあるのか?」
考えを巡らせた翔星が左手を軽く握り、聡羅はケルベロス級の動きを警戒しつつ慎重に聞き返す。
「闇に光源を飛ばしてくれないか?」
「任せろ、合図は頼んだ」
「ああ、頼りにしてるぜ」
簡単な作戦を立てた翔星は、護拳に見立てたスコップを構えた聡羅に頷きを返してからケルベロス級を睨み付けた。
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「今だ! 闇よ!」
「フラッシャーサーベル!」
『『アォァッ!?』』
合図をしながら闇を展開した翔星に合わせて聡羅が5本に分かれた雷を飛ばし、暗闇に閉ざされたケルベロス級は奇妙な雄叫びを上げる。
「見えた! 奴は闇に包まれるとエネルギー体に戻って土の中に消えるんだ!」
「そいつは重畳、次はどうする?」
バイザーを外した翔星が興奮気味に見破った種を明かし、聡羅はスコップを構えながら冷静に聞き返した。
「攻撃の瞬間だけはエネルギー体に戻れないはずだ、その時に仕掛ける」
「分かった、これを使え」
新たな作戦を立てた翔星が腰を低く落とし、聡羅はRガンを抜いて手渡す。
「いいのか?」
「オレは後ろに下がらせてもらう」
「そいつは助かるぜ、そろそろ来るか」
懐中電灯を左肩に固定してからRガンを受け取った翔星は、後方に大きく跳んだ聡羅に安堵の笑みを返してからRガンを下に構えた。
『『アォーンッ!』』
「その攻撃は見切った! 闇よ!」
狙いを定めたケルベロス級が3つの口から同時に衝撃波を放ち、翔星はRガンを撃った反動で大きく側面に回り込みながら左手の闇を広げる。
『『アォァッ!?』』
「腹の下だ! 潜り込まねえと攻撃出来ない!」
「分かった! オレが仕留める!」
暗闇に包まれて奇妙な鳴き声を上げるケルベロス級を慎重に観察した翔星が闇を解き、聡羅は護拳に見立てたスコップを構えながら踏み込んだ。
『『アォォーンッ!』』
「しまっ!?……何ともない?」
「何とか間に合ったみたいね」
近付くものに反応したケルベロス級の衝撃波を受けた聡羅が無傷の自分を呆然と眺め、翼状の機器を背中に装着したカーサが舞い降りながら声を掛ける。
「カーサ!? どうやってここに……?」
「そんな事より硼岩棄晶!」
尚も呆然とした様子で聡羅が声を掛け、カーサは緩みそうな口元を無理矢理上げながらケルベロス級を指差した。
「承知! 腹部のバイパスを確認」
「サイカも来てたのか!」
続けて着地の反動を利用したサイカがケルベロス級に向かって踏み込み、翔星は小さく唸る。
「虎影灯襖虚起動、路接連続射出」
『『ギャインッ!?』』
ガジェットテイル先端の懐中電灯を手にしたサイカが光の刃を撃ち、バイパスを通してコアを同時に破壊されたケルベロス級は断末魔の声を上げて倒れた。
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「助かったぜ、カーサ。でもどうやってここが分かったんだ?」
「簡単よ、マスターの生体電気信号なら毎日見てるもの」
ひと息ついた聡羅が不思議そうに周囲を見回し、緩む口元を抑えたカーサは手のひらに立体映像を浮かべる。
「そうか、ありがとな」
「ふみゃぁ~」
片膝をついた聡羅に頭を撫でられたカーサは、抑えていた感情を決壊させて恍惚とした表情を浮かべた。
「貴官の生存にも感謝する、それとこれを回収した」
「俺のRガン!? どこでこれを?」
僅かに口を緩ませたサイカがRガンを差し出し、翔星は躊躇いがちに受け取る。
「Rガンには識別信号がある、回収は台刻転のちょっとした応用」
「助かったぜ、ありがとよ。これでまともに戦える」
「敵地上勢力の随時増援を予測。現状を分析すれば、地上への帰還が最優先」
手のひらに立体映像を浮かべたサイカは、横穴の奥を見据えた翔星に切り替えた映像を見せる。
「そうだな。状況を確認したいし、早く済ませて本部に帰ろう」
「了解、台刻転を起動する」
「頼んだぜ」
(命拾いしたな亡霊ども、決着は預けるぜ)
軽く息を整えて頷いた翔星は、転移機能の起動準備に入るサイカに微笑んでから横穴の奥に冷たい視線を向けた。




