第48話【亡霊に呆れたのは、元Fランクの闇使い】
輝士と合流した斑辺恵と蔵が地下から脱出し、
取り残された異能者は残りひと組となった。
『ナニミテンダヨ……』『ザケンナ……』
「ドッペル級だと!?」
学生服を着た少年の姿をした硼岩棄晶が続々と地から湧き、穴の底から脱出する手段を探していた聡羅は身を強張らせる。
「ふっ、化けて出て来たか。よほど殺され足りないと見える」
「翔星は下がってろ、それとも意地を張らずにこいつを使うか?」
ドッペル級硼岩棄晶を確認した翔星が鼻で笑い、庇うように躍り出た聡羅は折り畳んだスコップを持った手でホルスターを軽く叩いた。
「どっちも断る。これがあれば充分だ」
「ブリーザーライトなんかでどうすんだよ?」
軽く首を横に振った翔星が呼吸器のチューブを咥えたまま懐中電灯を逆手に持ち替え、聡羅は納得が行かない様子で聞き返す、
「ちょいと輝士の真似事をするだけ、だ!」
『ボコボコニシテヤ……ルッ!?』
聡羅の脇をすり抜けて手近なドッペル級に踏み込んだ翔星は、懐中電灯の先端に出した光の針をそのまま喉元に突き立てた。
「驚いた……そんな攻撃も出来たのかよ」
「俺のイマジントリガーはRガンに限定しないからな」
一瞬の出来事に聡羅が舌を巻き、針の明度を抑えて闇の針に変えた翔星は不敵な笑みを返す。
「そういえば、異能輝士隊に入る前から硼岩棄晶を駆除したって言ってたな」
「詳しい話はここを切り抜けた後だ、コアは首にある」
「分かった! フラッシャーサーベル!」
以前の会話を思い出すように上を向いた聡羅は、脇目も振らずにドッペル級へと向かう翔星に頷いてから折り畳んだスコップを振って駆除を開始した。
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「出て来なさい! ライトニングブレイク!」
『『ガォォオーッ!』』
魔導書型機器からページを2枚剥がしたカーサは、一度屏風のように畳んでから広げて巨大な雷の虎を作り出す。
「時間が無いわ、秒で決めて!」
『ガォーッ!』『グォオーッ!』
『『ブモォァーッ!?』』『『ブモーッ!?』』
カーサの声に合わせて雷の虎が駆け出し、バイソン級硼岩棄晶の群れは爪や牙の餌食となって瞬く間に灰へと化した。
「地上に展開した硼岩棄晶の7割を駆除、異能者探索を再開する」
「ねえサイカ、マスターのいる場所まで転移できないの?」
猫耳の付いた髪留めからバイザーを下げたサイカが周囲を見回し、カーサは縋るような瞳で聞き返す。
「台刻転は座標指定が必要。現状、異能者の所在は不明」
「わかったわ、地道に探すしか無い訳ね」
「肯定。まずは爆心地の探索を推奨」
静かに首を横に振ったサイカは、渋々頷いたカーサに頷きを返してから翔星達の消えた大穴を指差した。
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「オリジナルだとばかり思ってたが、ただの中継装置だったとはね」
『チョウシニノル……ナッ!?』
複数のドッペル級が振り回す腕を躱した翔星は、距離を取り続けるドッペル級の喉首に闇の針を突き立てる。
「これでしばらくは出て来ないだろ」
「出来れば二度と出て欲しくないな、あまりいい気分では無い」
懐中電灯を振って闇の針を消した翔星が同時に崩れ落ちたドッペル級を確認し、聡羅は複雑な表情を浮かべて首を横に振った。
「気の毒だが、奴等は俺が死ぬまで同じ手札を切り続けるぜ」
「やけに詳しいな、どういう事なんだ?」
緩む口元を隠すように俯いた翔星が懐中電灯の握り具合を確認し、聡羅は眉を顰めて聞き返す。
「さて、どこから話せばいいかな?」
「オレもいるのに、何で狙いは翔星って言い切れるんだ?」
考えをまとめられずに頭を掻いた翔星が曖昧な表情を浮かべ、聡羅は単刀直入に質問を返した。
「あのドッペルどもは俺が初めて駆除した硼岩棄晶だ」
「それって、まさか!?」
バイザーを掛け直した翔星が肩をすくめ、聡羅は思わず大声を上げる。
「ああ。奴がドッペル級になるまで、俺は異能力に覚醒してなかった」
「じゃあ、友……知り合いだったのか?」
「同級生で加害者だ。そんな事より今は、過去のドッペルを作れる硼岩棄晶だ」
否定する事無く頷いた翔星は、慎重に聞き返した聡羅に含み笑いを浮かべてから本題を切り出した。
「心とか記憶を読んだのか?」
「それは無いだろ。心を読めるのなら、そもそも攻撃が当たらない」
すぐさま聡羅が仮説を立て、翔星は間髪入れずに片方の仮説を否定する。
「なら記憶は?」
「それこそ無いな。記憶を読めるのなら、何度も殺したい奴なんて出さないぜ?」
複雑な表情で聡羅がもう片方の仮説を切り出し、翔星は大袈裟に肩をすくめた。
「確かにな。だとしたら、どうやってドッペル級を呼び出したんだ?」
「まだ推測の域だが、硼岩棄晶もデータベース的な何かを持ってんだろうぜ」
笑いを堪えながら頷いた聡羅が冷静に戻って首を傾げ、翔星は持論を展開する。
「確かに一理あるが、翔星を標的にする理由が分からないな」
「俺は硼岩棄晶のコアを確実に知る術を持ってる」
「硼岩棄晶としては確実に天敵を始末したい訳か」
釈然としないまま頷いた聡羅は、手のひらに小さな闇の球を出した翔星に得心の行った様子で頷く。
「貴重な情報も手に入れた。どんな新種もコアの無い硼岩棄晶はいないって事だ」
「何とも前向きな話だね」
自信に満ちた表情を浮かべた翔星が手のひらの闇を光に戻して握り潰し、聡羅はため息交じりに肩をすくめた。
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「そろそろ第二陣のお出ましか?」
『『ナニミテンダヨ……』』『『ザケンナ……』』
食べ終えた携帯糧食の袋を握り潰した翔星は、湧き上がりながらヒトの形を取る大量の硼岩棄晶を警戒しつつ懐中電灯を構える。
「数で押し切る気か」
「闇が使えりゃ楽勝なんだけどな」
折り畳んだスコップを構えた聡羅が息を整え、懐中電灯の先端に闇の針を出した翔星は不敵な笑みを浮かべながら左手を見詰めた。
「翔星、オレに構わず闇を使え」
「断る、仲間を闇に巻き込まないって誓ったからな」
背中に回り込んだ聡羅が小声で合図し、翔星は静かに首を横に振る。
「そんな意地を張ってる場合かよ!」
「意地ではない、矜持だ」
思わず振り向いた聡羅が大声を上げ、翔星は落ち着いた声で訂正した。
「他に手は無いだろ!」
「手ならある。聡羅、スコップを俺に向けろ」
「何をする気だ?」
尚も食い下がった聡羅は、涼しい顔で肩をすくめた翔星の提案に戸惑いながらも頷いて護拳に見立てたスコップを向ける。
「こうするんだよ!」
「ぐはっ!?」
間髪入れずに翔星が回し蹴りを放ち、スコップに強い衝撃を受けた聡羅は大きく後方に後ずさりする。
「しばらくそこで待っててくれ、闇よ!」
「ちょっ、待てよ!……全部ひとりで背負い込む気かよ」
手のひらを向けて制止した翔星が闇を広げ、駆け寄ろうとした聡羅は躊躇いから動きを止めて項垂れた。
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『『ナンデオマエハ……?』』
(光を操作して作った幻影の迷路……こんな手のうち、誰にも見せられないだろ)
闇に浮かぶ微かな光を追うドッペル級硼岩棄晶の大群がその場で足踏みを続け、翔星は心の中で自嘲する。
「懐かしいか、市川?……って、生前の記憶なんて残っちゃいねえか」
(記憶を利用する知恵があれば、俺はとっくに死んでたぜ)
嘲るように手近なドッペル級に話し掛けた翔星は、急激に冷めて頭を掻く。
「まあいい、今度こそ黒幕を引きずり出してやるよ」
小さく息を整えた翔星は、闇に閉ざしても淡く光るドッペル級達の首元を睨んで細身の懐中電灯を逆手に持ち替えた。




