第46話【小脇に抱えられたのは、元Fランクの怪力男】
救助を待つピンゾロと羽士は、
続々と現れるアント級の迎撃を始めた。
『『グルァァッ!?』』
「いやはや、ホント底無しだね~」
両腕を伸ばして2体のアント級を同時に駆除したピンゾロは、周囲を警戒しつつ額の汗を拭う。
「大丈夫か、ピンゾロ? こっちで少し休むか?」
「お誘いは嬉しいけど、まだまだ余裕だぜ」
先端を上にした氷柱の壁の隙間から羽士が声を掛け、ピンゾロは静かに首を横に振る。
「今はコネクトカバーが無いんだ、無理だけはしないでくれよ」
「無理してるつもりはねえ。ちょいと前に戻っただけだ、ぜ!」
「頼もしいな。やっぱり規格外だよ、ピンゾロ達は」
諦め気味に頷いて氷の弓を張ったスコップを突き出した羽士は、語気を強めつつ手近なアント級に踏み込んだピンゾロの背中を見ながら複雑なため息をついた。
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「両刃雪崩!」
「ドライブキック・反動隕石割り!」
『『グルァァァッ!?』』
壬奈が射った氷の矢が砕けて破片となり、合間を縫うように跳ね回るコチョウの蹴りを受けたアント級が続々と灰となる。
「ようやく突破したでござるな、ところでここは?」
「あれは?……あれも硼岩棄晶かの?」
横穴とつながる巨大な空洞に出た壬奈が飛行したまま周囲を見回し、コチョウは空洞の上まで続くビルのような柱状の物体を慎重に見上げる。
「コチョウ殿、あの穴からアント級が!」
「ふむ、これを駆除出来れば戦況が変わるかの?」
柱を観察していた壬奈が根元の穴を指差し、コチョウは静かに頷きを返した。
「では、早々に駆除を……」
「壬奈殿、待つのじゃ」
背中の筒から壬奈が氷の矢を取り出そうとし、コチョウは腕を伸ばして遮る。
「コチョウ殿、何故止めるでござるか!?」
「あの大きさじゃ、やみくもに撃ってもコアに当たるとは思えぬ」
尚も壬奈が矢を取ろうとし、振り向いたコチョウは静かに首を横に振った。
「一理あるでござるな。して、如何様な策を?」
「小難しい策はわしにも無理じゃ、まずは出口を塞いで手数を減らすかの?」
息を整えた壬奈が落ち着きを取り戻し、コチョウは根元の穴を指差す。
「心得た! 両刃雪崩・飛天撃ち!」
『グルァッ!?』『グルェッ!?』
力強く頷いた壬奈が筒から取り出した氷の矢を次々に放ち、山なりに降り注いだ無数の破片が出て来たアント級ごと穴の周囲を削って塞いだ。
「見事なものじゃの」
「次はどうするでござるか?」
「ちと骨が折れるが、しらみ潰しにコアを探すしか無いかの」
塞がった穴に頷いたコチョウは、期待に満ちた瞳で見詰める壬奈に複雑な笑みを返す。
「お任せあれ! コチョウ殿はアント級の足止めを!」
「その方が適材適所じゃの」
遥か遠い柱の上部を見据えた壬奈が飛び立ちながら氷の軌跡を描き、大きく肩を回して着地したコチョウは周囲のアント級を睨み付けた。
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「下がって! アローウォール!」
『『グルァ……!?』』
掛け声と共に羽士が地面に手を当て、突如出現した氷柱の壁に触れたアント級の表皮が凍り付く。
「なるほどね。横穴を塞げば、追加は出なくなる訳か」
「呆れるほどシンプルだけど、ピンゾロがいなければ実践出来なかったよ」
「そいつはどうも、これでしばらくは持ちそうだな」
思惑を理解して頷いたピンゾロは、自分の周囲に張った氷柱の壁を解いて微笑む羽士に安堵のため息をついた。
『『グルルゥゥ……』』
「これは? アント級が後退していく?」
「獲物を前に後退か、何かあるな」
壁向こうの異変に気付いた羽士が首を傾げ、ピンゾロは眼光鋭く奥を見据える。
「言っても聞かないんだろ? こうなったら地獄の底まで付き合うよ」
「ヤバくなったら逃げるぞ、合図は俺が出す」
「ああ、頼りにしてる」
軽くため息をついて肩をすくめた羽士は、真剣な眼差しと共に頷いたピンゾロに口元を緩めて頷いた。
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「両刃雪崩・暴れ撃ち!……これも駄目でござるかっ!」
「壬奈殿ー! 矢はどれくらい残っておるのじゃ?」
旋回しながら氷の矢を連射した壬奈が手を止め、コチョウは大声で聞き返す。
「矢は充分にござるが、外皮が厚過ぎてコア探しどころではござらぬ」
「ふむ……出直すしかなさそうじゃの」
着地した壬奈が複雑な表情で背負った筒を撫で、コチョウは撤退を即断した。
「出払った者どもを片付ければ、救助に向かえるでござるな……!?」
『『グルルァァーッ!』』
「穴を這い出た奴等が戻って来おったのか!?」
空洞に入る時に通った横穴を見上げた壬奈が言葉を詰まらせ、奥から響いて来た咆哮にコチョウは驚愕の声を上げる。
「それほどまでに重要な硼岩棄晶なのでござろう!」
「じゃがこれでは挟み撃ちじゃ、体勢を整えるどころでは無いぞ」
無理矢理自分を奮い立たせるかのように壬奈も大声を上げ、逆に落ち着きを取り戻したコチョウは打開策を見出すべく周囲を見渡した。
「ブリザードアロー!」
『『グルァァッ!?』』
突然横穴の奥から幾本もの氷の矢が飛び出し、背後から矢に貫かれたアント級の悲鳴が響き渡る。
「これは!? 羽士殿か!」
「俺ちゃんもいるぜ! 真空金剛散弾!」
『『グルェァアッ!?』』
予期せぬ伏兵の正体を見破ったコチョウに呼び掛けたピンゾロが圧縮した空気の散弾を投げ付け、逃げ場の無いアント級は一斉に脚部を破損して動きを止めた。
「随分な大物と鉢合わせたみたいだな、コチョウ先生。あれはどう料理するよ?」
「異能者がおるならコネクトカバーも使える! ここは離脱じゃ!」
アント級を駆除しながら横穴から出て来たピンゾロが巨大な柱を見上げ、咄嗟に壬奈の肩に掴まったコチョウは横穴を指差す。
「心得た! 無窮筒最大出力! 舌を噛まぬよう気を付けるでござる!」
「おわぁっ!?」
「いきなりだな!」
力強く頷いた壬奈が背負った筒から大量の氷を噴射し、一瞬で両脇に抱えられた羽士とピンゾロは同時に短く唸った。
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「ふぅ……ようやく駆除が終わったね」
「壁にしたアント級が動き出す前に駆除出来て、よかったでござるよ」
地下から脱出して1時間、周囲を見回してからひと息ついた羽士に頷きを返した壬奈が手のひらに戦闘を記録した映像を浮かべる。
「でも、ケルベロス級はどこかに行ったみたいだね」
「いないものは仕方ないでござる、2人が戻って来たでござるよ」
続けてLバングルの操作をした羽士が何度も記録映像を確認し、静かに首を横に振った壬奈は気分を切り替えがてら振り向いた。
「巣穴の駆除も終わったぜ」
「例の柱はどうでござったか?」
立ち止まったピンゾロが服に付いた土埃を払い、壬奈は慎重に聞き返す。
「駆除が終わってから見て来たけど、影も形も無くなってたぜ」
「何だって!?」
「うむ、わしもいたから見間違いはありえぬ」
軽く首を振ったピンゾロに羽士が思わず大声を上げ、横で頷いたコチョウは手のひらに記録映像を浮かべた。
「どこかに移したのでござろうか?」
「あるいは廃棄したのかもしれぬな」
映像を覗き込んだ壬奈が首を傾げ、コチョウは頷きながら映像を切り替える。
「どちらにせよ硼岩棄晶は、あれほど巨大なものを一瞬で消せる事になるね」
「ここから先は専門家の領分だ、俺ちゃん達は目の前の仕事を片付けようぜ」
Lバングルにデータを入力した羽士が複雑な表情を浮かべ、重苦しい空気を払うように大きく伸びをしたピンゾロは結界街に親指を向けた。
「他の結界街に向かった者達も気になるの」
「翔星や斑辺恵が後れを取る事は無いでしょ」
手のひらの映像を一覧表に切り替えたコチョウが静かに頷き、ピンゾロは余裕の笑みを返す。
「うむ。わしらの部隊は、このまま他の増援部隊の救助に駆り出されるかの」
「そうだな、早く引継ぎを済ませて来ようぜ」
腕組みしたコチョウが含み笑いを浮かべ、ピンゾロは静かに頷きを返す。
「急ぐのであれば、某にお任せあれ!」
「いや、この距離でロケットは……おわぁっ!?」
「やっぱりこうなるのね」
鼻息荒く頷いた壬奈を止めようとした羽士が小脇に抱えられて悲鳴にも似た声を上げ、反対側の脇に抱えられたピンゾロは諦めのため息をついた。




