第45話【得物を落としたのは、元Fランクの闇使い】
大規模な増援任務に参加した翔星達は、
それぞれが遭遇したケルベロス級が空けた穴から地下空洞へと落ちた。
「……っと、やってくれたな……!」
穴の側面に何度も体を打ち付けた翔星が転がりながら落下の勢いを削ぎ、外套の土埃を払いながら即座に立ち上がる。
「らしくないな、この高さなら仕方ないけどさ」
下にRガンを撃ち続けた聡羅がゆっくり着地し、自分達が落ちて来た青空が遥か遠くに見える穴を呆れ気味に見上げた。
「いや、落下中にRガンをやられた」
「何だって!?……本部に戻るまでオレのを使うか?」
右手を振った翔星が周囲を見回し、聡羅はRガンをホルスターに納めて指差す。
「聡羅に何かあったら輝士にどやされる、後で気長に探すさ」
「探すとしても救助が来てからな、迂闊に動くのは危険だぜ?」
手のひらを向けて首を振った翔星が軽く肩をすくめ、聡羅は背丈の倍以上はある無数の横穴を慎重に見渡す。
「分かってる、救助が来るまで退屈しなくて済みそうだ」
「気楽に言ってくれるぜ、今はコネクトカバーも無いってのに」
懐から懐中電灯を取り出した翔星が不敵な笑みを浮かべ、小さくため息をついた聡羅は腰のケースからフォールディングスコップを取り出した。
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「地の底に誘い込むとは、地獄の番犬と呼ばれるだけの事はありますな」
「冗談を言える余裕があるなら大丈夫だね」
穴の底に降り立った蔵が遥か遠くの空を見上げ、安堵のため息をついた斑辺恵は周囲を見回す。
「上に戻れなければ本当の地獄に一直線ですからな」
「コネクトカバーが戻るまでは、自分が何とかするよ」
視線を戻した蔵が合掌して一礼し、静かに頷いた斑辺恵は懐に手を入れる。
「拙僧とて異能者の端くれ、共に参りましょうぞ」
「ああ、まずは降りかかる火の粉を払うとしようか」
一礼した蔵が柄を伸ばしたスコップを勢いよく振り、懐から竹とんぼの羽を取り出した斑辺恵は力強く頷きを返した。
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「随分と入り組んでるみたいだな、掘ったのはアント級か?」
「確かに適役だ、まだデータが無いから断定は出来ないけどね」
見上げるのに飽きたピンゾロが側面に広がる横穴を見据え、羽士は冗談交じりに笑いを返してLバングルを操作する。
「無くて当然だろ? こいつは俺ちゃん達向けの初見殺しだろうし」
「異能者と輝士の分断、確かに今まで使わなかったのが不思議なくらいだ」
大きく両腕を伸ばしたピンゾロが真顔に戻り、静かに頷いた羽士はLバングルの画面を切り替えた。
「一度でも秘策を使えばこっちも対策を立てる、って向こうは考えてる」
「襲来初期から電子天女が分析を続けてたからね」
握りこぶしをもう片方の手のひらで包んだピンゾロが肩をすくめ、蔓を摘まんで眼鏡の位置を戻した羽士はLバングルの画面を更に切り替える。
「今回も分析してくれるだろうけど、気長に待てる状況とは言えないな」
「どれだけ分断されたか知らないけど、僕達だけでも生き残らないとね」
上に伸ばした手をすぐに戻したピンゾロが慎重に横穴の奥を睨み、羽士も画面を閉じてスコップを取り出す。
「生身で行けるのか?」
「イメトレとシミュレーションなら。頼りにしてるよ、ピンゾロ」
「おっけー、任された!」
大きく肩を回したピンゾロは、先端を折り曲げたスコップに氷の弓を張りながら曖昧な笑みを返した羽士に親指を立てて自信に満ちた笑みを返した。
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「コチョウ殿! 羽士殿は何処にござるか?」
「おそらくは、あの大穴の下じゃ」
背負ったロケットで上空から硼岩棄晶を追跡していた壬奈が異変に気付いて引き返し、コチョウは翅状の機器をはばたかせながら地面を指差す。
「なんと!? では今すぐ救助に!」
「待つのじゃ! アント級の駆除が残っておる」
慌てて穴へと向かおうとする壬奈を引き止めたコチョウは、地上を歩くアリ型の巨大な生物を指差した。
「それは羽士殿を救助した後に……」
「あの数では戻る前に結界が破られるかもしれぬ、今は堪えるのじゃ」
躊躇いを顔に出した壬奈が縋るように言葉を濁し、コチョウは静かに首を振る。
「コチョウ殿……ピンゾロ殿もあの下にいるのに」
「あやつはセオリー無視のエキスパート、そのうち羽士殿を担いで来るじゃろ」
不安を呑み込むように壬奈が頷き、コチョウは無理矢理作った笑顔を返す。
「某の羽士殿も後れは取らぬでござる」
「その意気じゃ、まずは帰る場所を確保するかの」
「心得た!」
負けじと笑みを返した壬奈にコチョウが親指を立ててウィンクし、2人は侵攻を続けるアント級の群れへと向かった。
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『『グルル……』』
「地下もアント級か……動き回るのを引き受けても、上がガラ空きになるな」
横穴を自在に這い回るアント級の群れを確認したピンゾロは、苦い顔を浮かべて全身のバネを溜める。
「ブラスター滑空術は着地に使う程度だ、生兵法で太刀打ちなんて出来ないよ」
「俺ちゃんと背中合わせは無理って訳ね」
「残念ながら、でも策なら講じておいたよ」
腰のホルスターに軽く触れながら首を振った羽士は、大袈裟に肩をすくめたピンゾロに含み笑いを返す。
「今はその言葉を信じるぜ、羽士先生」
「ああ、任せてくれ。アローウォール!」
力強く頷いたピンゾロが手のひらに空気を集め、大きく後方に跳んだ羽士は上に向いた氷柱を並べた壁を作り出した。
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「ライドハーケン、二段返しじゃ!」
「両刃雪崩・飛天撃ち!」
『『グルルァァァアーッ!?』』
コチョウの蹴り飛ばした衝撃波と壬奈の射った氷の矢が空から降り注ぎ、街へと向かうアント級が続々と倒れる。
「残りはどれくらいでござるか?」
「ふむ……減るどころか増えておるの」
手を止めた壬奈が呼吸を整え、コチョウは難しい顔で小型ドローンから送られた映像を見詰めた。
「なんと!? では一気に大技で……」
「落ち着かぬか、異能者の救助に力を温存せねばならんのじゃぞ」
慌てて壬奈が新たな矢を手に取ろうとし、手のひらを向けて制止したコチョウは静かに首を横に振る。
「ならばせめて、増えるからくりを」
「もう確認しとる、巣穴のような場所から出て来ておるの」
「では、決まりでござるな」
動揺を隠す事無くアント級の動きを観察した壬奈は、確信の笑みと共にドローンからの映像を手のひらに浮かべたコチョウに力強い頷きを返した。
「まず壁を作るかの。アンテナスロウ起動、ドライブキック・熱風重力返し!」
『『グルァァ……?』』
右手の人差し指と中指を額に当てたコチョウが回し蹴りを放って空気を震わせ、侵攻を続けるアント級は平衡感覚を失って一斉に動きを止める。
「そこでしばらく壁になっておってくれ、では行くかの」
「心得た!」
その場で体を小刻みに震わせるアント級を確認したコチョウは、声に勢いを取り戻した壬奈と共に続々とアント級が這い上がってくる穴へと向かった。
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『『グルルゥ……?』』
「思った通りだ。動きが二次元的でも進路を塞げば同じ事」
地下空間を自在に這い回るアント級の半身が氷柱の壁に触れて凍り付き、羽士は内壁に沿って垂直に立てた氷柱の壁を満足そうに眺める。
「シンプルかつ大胆な発想です事」
「単純な手段は修正も効く、現状を生き延びる最適解だよ。ブリザードアロー!」
『『グルァ……ッ!?』』
続々と足を止めるアント級をピンゾロが感心しながら眺め、Lバングルにデータ入力を終えた羽士はまだ壁に触れていないアント級に向けて氷の矢を連射する。
「確かにな、真空金剛散弾!」
『『グルゥァ……ッ!?』』
大きく頷いたピンゾロが手のひらに集めた空気を投げ放ち、高圧縮された空気の散弾を脚部に受けたアント級が一斉に倒れ込んだ。
「少しは数を減らしておくか!」
『グルゥァッ!?』
脚のバネを伸ばしたピンゾロが倒れたアント級に向かって踏み込み、乗り越えて来た新たなアント級のコアを掴んで握り潰す。
「こっちからも行くよ! クレセントアロー!」
『グルァァッ!?』
氷柱の壁の隙間から羽士が弓状の氷を飛ばし、弧を描き飛ぶ氷の刃はアント級のコアを切り裂いて灰燼に帰す。
『『グルルゥゥ……』』
「数で押し潰す気か。輝士がいないと、ここまで無力とはね」
「弱気になるなよ、輝士ちゃんは必ず来るぜ」
横穴から溢れ出すアント級を確認した羽士が苦い顔でスコップの先端に氷の弓を張り、ピンゾロは走り回りながら檄を飛ばした。




