第44話【気付いていたのは、元Fランクの闇使い】
翔星達は異能者と輝士械儕とに分かれ、
各々の思惑を秘めながら情報を交換し合った。
「全員揃っているな? 総員に出動命令が出た」
「総員……でありますか?」
一同がドーナツを食べた数日後、切迫した表情でブリーフィングルームに入った充木に蔵が眉を顰める。
「独立部隊総動員の緊急事態だ、各シティから続々と増援要請が来ている」
「緊急事態ですので割り振りはこちらで決めました」
緊張をそのままに充木がタブレット端末を操作し、敬礼したヒサノも即座に立体映像を手のひらに浮かべた。
「時影と期雨はジョウエシティ」
「ジョウエシティだな、了解した」
「こっちも了解だ」
名前を読み上げた充木に頷いた翔星が立ち上がって敬礼し、同じく立ち上がった聡羅も敬礼する。
「斑辺と今隅はオーダイシティ」
「了解しました、オーダイシティに向かいます」
「委細承知」
続けて充木が名前を読み上げ、斑辺恵と蔵が立ち上がる。
「鵜埜と祀波はコーダイシティ」
「りょーかい、コーダイシティだな。頼りにしてるぜ、羽士」
「了解しました。僕もピンゾロの突破力は頼りにしてるよ」
最後の名前を読み上げた充木がひと息つき、崩した敬礼と共に立ち上がったピンゾロと教本通りの敬礼をした羽士は互いに頷いた。
「総員、ただちに出動準備に取り掛かってくれ」
「組み合わせは今までのデータを基に電子天女が算出しました、皆さんご武運を」
タブレット端末を脇に抱えた充木が手近な椅子を引き、手のひらに浮かべた立体映像を閉じたヒサノは直立して敬礼する。
「呆れるほど的確な人選だ、好きに暴れさせてもらうぜ」
「分かってると思うが、くれぐれも羽目は外すなよ」
軽く肩をすくめた翔星に充木が複雑な表情を返し、ブリーフィングルームを出た一行は転送室へと向かった。
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「とうとうこの時が来てしまいましたか」
「電子天女が予測してた硼岩棄晶の大量発生。覚悟はしてたつもりだけどね」
転送の順番待ちをする異能者の列を眺めていた蔵が複雑なため息と共に一礼し、羽士もLバングルを操作しながらため息をつく。
「兆候は前から観測されてたし、こっちの準備もギリ間に合ったってとこだろ」
「なるほどな、強引な茶番劇に付き合わされたのも納得だ」
静かに首を振った聡羅が安堵の表情を浮かべ、翔星は大袈裟に深々と頷いた。
「翔星ちゃんはいつから気付いてたんよ?」
「サイカの属性を聞いた時だ、さすがに狙いが見え透いてたぜ」
後ろから肩に手をかけたピンゾロがふざけながら聞き返し、翔星はわざとらしく大きなため息をつく。
「それで2か月も粘ったのか? 呆れた異能者じゃの」
「例え弱くても、男には意地ってもんがあるんだよ。そろそろ俺達の番だ」
呆れ気味に首を横に振ったコチョウに肩をすくめて返した翔星は、肩に乗るピンゾロの手をのけてから転送室の入口を親指で指し示す。
「まずはオレ達からだ、行って来るぜ」
「うむ、互いに武運を祈っておくかの」
更に列が進んで前に進んだ聡羅が軽くて手を振り、腕組みして頷いたコチョウも大きく手を振って返した。
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「現地に到着、これより駆除を開始する。大発生と言っても今まで通りのザコなら問題は無いな」
「だが油断は禁物だ、ここはセオリー通りにバット級から駆除する」
Lバングルに音声を記録した翔星がRガンを抜き、折り畳んだままのスコップを構えた聡羅は上空に舞う3つの影を見据える。
「フィールドスクリーン、モードESD! ライトニングブラスト!」
『『アィギョーッ!?』』
「ざっとこんなもんよ」
魔導書型の機器からページ3枚を剥がしたカーサは、縦に四つ折りした先端から電撃を放って3体全てのバット級を灰にした。
「残るはバイソン級が20ちょい、早く片付けて次の要請に備えようぜ」
「警告、硼岩棄晶に通常と異なる動作予測を検知」
バイザーを掛けた翔星が土煙を上げて駆けるバイソン級硼岩棄晶を確認し、肩のランプを点滅させたサイカは懐中電灯型の機器を構える。
「バイソン級が退いて行く? どういう事だ?」
「判断材料が足りないな。カーサ、ちょっと待っててくれないか?」
再度バイザーを通して遠方を確認した翔星が戸惑いの声を上げ、前に出た聡羅は広げた手のひらを後ろに向けた。
「あたしが行くわよ、マスターはコネクトカバーが届く場所にいてちょうだい」
「この体も同行する、貴官も距離を保ってほしい」
聡羅の腕を潜り抜けたカーサが首を横に振り、隣に立つサイカも振り向いて手のひらを向ける。
「分かった、俺の分を残しとけよ」
「善処する」
「戦いが好きなのは結構だけど、マスターを巻き込んだら承知しないわよ!」
諦めのため息と共に翔星が頷き、含み笑いを返したサイカの手を握ったカーサは微かな苛立ちを纏わせながら歩き出した。
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「ホーミングフレア、発射ぁ~」
『『アギギョーッ!?』』
2丁の巨大銃を構えたマーダが火炎弾を連射し、バット級は残らず炎に包まれて灰燼と化す。
「見事でしたぞ、マーダ殿。残るはキャンサー級、早々に駆除しましょう」
「焔巳さん、キャンサー級の位置を」
合掌して一礼した蔵がスコップを構え、斑辺恵は焔巳に索敵の指示を出す。
「かしこまりました、サーモピット起動。あら? これはいったい?」
「後退? いや転進か? ここの結界街を諦めたとは思えないが……」
黒い額当てに意識を集中した焔巳が首を傾げ、炎の異能力を応用して硼岩棄晶の熱源を追っていた斑辺恵も顎に手を当てて考え込んだ。
「ここは偵察に行った方がよさそうですな」
「では自分が……」
「いえ、私が行きます」
腕組みをした蔵の提案に斑辺恵が乗ろうとするが、横から焔巳が遮る。
「わたくしも行きますねぇ~」
「仕方ないな、すぐに合流出来る距離だけは確保してくれるかい?」
間髪入れずにマーダも名乗りを上げ、観念した斑辺恵は妥協案を出す。
「かしこまりました、斑辺恵様。緋翼展開」
「蔵くんも、それでお願いね~。ファングライダー展開」
妥協案を快く受け入れた焔巳が翼状の機器を広げ、扇のような機器を両側頭部に広げたマーダと共に空へと飛び上がった。
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『『アギョェーッ!?』』
「バット級を殲滅、アント級の駆除に向かうでござる!」
「僕はここで進路を塞ぐ、壬奈は思い切り暴れて来てくれ」
無数に散った氷の礫でコアごとバット級の全身を貫いた壬奈が森に見え隠れする紅玉のような光を目で追い、羽士は逆向きに伸びた氷柱の壁を作り出す。
「いつも通りでござるな、任せるでござる!」
「ありゃま、もう見えなくなっちまった……コチョウ先生、どったの?」
力強く頷いた壬奈が飛び立ち、遥か遠くまで続く氷の軌跡を目で追っていたピンゾロは難しい顔をするコチョウに気付いて声を掛ける。
「うむ、アント級の動きがおかしいのじゃ」
「確かに結界街から距離を置くように移動してるね~」
偵察用小型ドローンから送られた映像をコチョウが手のひらに浮かべ、しばらく眺めたピンゾロは慎重に頷いた。
「壬奈殿もかなり離れたし、わしが中間位置の哨戒に出よう」
「俺ちゃんも行こうか?」
手のひらの映像を周辺地図に変えたコチョウが反対側の手で指差し、ピンゾロは大きく伸びをしながら聞き返す。
「お主は残ってくれぬか? 狙いが分断なら、人間をひとりにするのは悪手じゃ」
「人間の弱さは自覚してる、ここは僕とピンゾロが残るよ」
マフラー状の機器を装着したコチョウが静かに首を横に振り、眼鏡に軽く触れた羽士は複雑な表情と共に頷きを返す。
「そう言う事なら仕方ないな、くれぐれも無茶すんなよ」
「当然じゃ。では、行って来るかの」
「いってらっさ~い」
ため息を誤魔化すように頭を掻いてから親指を立てたピンゾロは、マフラーから翅状の機器を広げて飛び立ったコチョウに大きく手を振って見送った。
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「やっぱり別働隊が来たか」
『『アォーンッ!』』
「って……マジかよ」
突如として地から湧くように現れた気配に身構えたピンゾロは、犬のような頭が胴から3つ生えた硼岩棄晶を前に絶句する。
「ケルベロス級!? いったいどこから!」
「データ整理は後だ、まずは迎え討つ!」
「待て、様子がおかしい!」
氷柱の壁に身を隠してLバングルの操作をした羽士が微かな異変に気付き、踏み込んだピンゾロを止めようとする。
『『アォーッ!』』
「しまった! ご自慢の自爆テロは健在だったか!?」
見計らったかのようにケルベロス級が3つの頭を下に向けて衝撃波を放ち、袖で咄嗟に顔を庇ったピンゾロは衝撃波に抉られて舞い上がる土砂を前に舌打ちした。
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『『グルルル……』』
「この形状は!?」
「距離を取るんだ! 翔星が取り逃がすほどの曲者だ!」
突如として現れたケルベロス級を前に蔵が炎を灯したスコップを構え、斑辺恵は大きく後方に跳んで空気弾を放つ構えを取る。
『『アォーンッ!』』
「くっ! 射程内だったのか!?」
間髪入れずにケルベロス級が地面に衝撃波を放ち、斑辺恵は苦い表情と共に手のひらに集めた空気弾を放った。
▼
『『アォーン……』』
「どうやって隠れてたのか知らんが、今度は逃がすかよ」
「まずは足を止める! その隙に闇だ!」
かつて逃した仇敵を前にした翔星がRガンを構え、聡羅は折り畳んだスコップを構えて雷を集める。
『『アォーォンッ!』』
「なっ!? 速い!」
「くっ!……衝撃に備えろ!」
先手を取って衝撃波を放ったケルベロス級に聡羅が驚愕の声を上げ、翔星は巻き上がる土砂の下に広がる巨大な空洞に向けてRガンを撃った。




