第42話【要望を聞いたのは、元Fランクの怪力男】
同時に来た増援要請に向かった斑辺恵とピンゾロは、
それぞれの現地で難無く硼岩棄晶の駆除を終えた。
「ただいま~、オータシティの増援終わったぜ」
「おつかれ、ピンゾロ。新種は見なかったか?」
崩した敬礼をしたピンゾロがブリーフィングルームに入り、室内で待機していた翔星は労いながら聞き返す。
「いや? こっちはバット級とリザード級だけだったぜ?」
「うむ、わしとピンゾロで軽く蹴散らしてやったわ」
後ろの席に腰掛けたピンゾロが首を横に振り、隣に座って軽く頷いたコチョウも大きく胸を張った。
「おかげでゆっくりとデータの収集が出来たよ」
「羽士殿と飛べて某も満足でござった。どうやらナンデンシティに行った面々も戻ったみたいでござるな」
最後列の椅子に腰掛けた羽士がLバングルを操作し、満面の笑みを浮かべて隣に座った壬奈は再度開いた扉に視線を向ける。
「おかえり、斑辺恵。そっちに新種は出なかったか?」
「事情は察したけど、いきなりだね。こっちはハウンド級だったから警戒はしてたけど、合体はしなかったよ」
「はい、いつも通り問題無く駆除出来ました」
いち早く声を掛けて来た翔星に斑辺恵が曖昧な笑みを浮かべ、続けて入って来た焔巳も丁寧なお辞儀をする。
「斑辺恵殿の鎌鼬、実に見事でした」
「焔巳ちゃんの柩連焔刃も綺麗で面白かったですぅ~」
「蔵とマーダさんもお疲れ、とりあえず座ろうぜ?」
最後に入って来た蔵とマーダが続々と思いの丈を口にし、入口付近に座る聡羅は複雑な笑みと共に部屋を親指で指し示した。
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「新種は出て来なかったのか……いったいあれは何だったんだろうな?」
「データが少ないから、電子天女も分析に時間が掛かるのかもね」
「今は精進するのが肝要かと」
しばし首を捻って唸っていた翔星に羽士がLバングルの操作をしながら頷き、蔵も合掌して一礼する。
「そうだな。とりあえず、これで打者一巡した訳か」
「ああ。3人とも予想以上の結果だって、充木隊長も褒めてたよ」
頷いて気持ちを切り替えた翔星が部屋を見回し、聡羅は否定する事無く頷いた。
「そいつは光栄だね~、って肝心の隊長さんはどこ行ったんよ?」
「うちの隊の勤務時間はとっくに終わってる、今はもう非番だ」
腕組みして頷いたピンゾロが大袈裟な仕草で周囲を見回し、聡羅は曖昧な笑みを返す。
「次の部隊への引き継ぎも完了してるわよ」
「それじゃ先に帰って当然ね」
聡羅の隣でカーサが髪を掬って払い、ピンゾロは大袈裟に肩をすくめた。
「出陣組が戻ったら出来るだけ早く帰るように、との伝言だ」
「学校かよ!?……年齢的には間違ってないけどさ」
Lバングルを確認した翔星が親指を出口に向け、思わず大声を上げたピンゾロはすぐに落ち着きを取り戻して頭を掻く。
「異能輝士隊は軍隊を参考に組織したが、軍事機密やデータ損失により再現不能の箇所は学校やゲームなどの文化を参考にした」
「そいじゃ今は放課後みたいなもんか」
しばらく天井を見上げたサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、軽く頷いたピンゾロは大きく伸びをした。
「ならば学生らしく青春するのはどうじゃ?」
「青春はどうだか知らんが、行きたい所があるならお供するぜ?」
隣の席から袖を引いたコチョウが含み笑いを浮かべ、一瞬眉を顰めたピンゾロはすぐに切り替えてに微笑みを返す。
「では、みなさんでショッピングなんていかがでしょう?」
「何か青春っぽくてよいのう、買い物で決まりじゃな」
嬉々とした表情で焔巳が手を合わせ、コチョウは即座に頷いた。
「了解、今日は待機だったから余力は充分にある」
「その光って、まさか!?」
静かに立ち上がったサイカが胸に手を当て、突然足元に出現した光の輪に翔星は思わず立ち上がる。
「肯定、台刻転起動」
「ちょっと待ちなさいよー!……」
淡々と頷いたサイカが転移機能を起動し、慌てて止めに入ったカーサの声と共に一同は光の輪に吸い込まれた。
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「わわ!?……あなたのマスターは転移機能を慎重に使うよう言ったでしょ!」
「仮に緊急招集で戻っても残り4回、作戦行動に支障は無いと判断」
光が消えると同時に巨大なドームの外観を確認したカーサがガジェットテイルを立てて怒鳴り、サイカは平然とした表情で手のひらに立体映像を浮かべる。
「実に見事な采配でござる」
「見事かはともかく、平時に使えるリボルジョーカーなんて初めて見たよ」
しばらく立体映像を見詰めていた壬奈が深々と頷き、隣で曖昧な笑みを浮かべた羽士は気を取り直すように眼鏡に手を当てる。
「そんな別名が台刻転にはあるのか?」
「と言うよりは、F以外の番外とAランクの輝士が持つ特殊機能の俗称かな?」
興味を持った翔星が聞き返し、羽士は静かに首を横に振った。
「ん? どゆこと?」
「輝士には通常動力から独立した特殊な機能があるんだ」
後ろでピンゾロが首を傾げ、羽士は輝士械儕の構造を簡単に説明する。
「そういや前にも、サイカがそんな説明してたな」
「連続使用の上限が6回故に六連装の切り札という名が定着したそうです」
納得するように翔星が頷き、蔵は由来を説明してから一礼する。
「なるほどね~。それじゃ、コチョウ先生も持ってるの?」
「うむ、いつぞやの大群を返り討ちにしたアンテナスロウがそれじゃ」
「なるほどね、確かに切り札だわ」
頷きながら視線を落としたピンゾロは、額に指を2本当てたコチョウに大袈裟な仕草で肩をすくめて返した。
「もしかして、焔巳さんも持ってるのかい?」
「はい、今ここでお見せする事は出来ませんが」
僅かに離れた位置でやり取りを眺めていた斑辺恵が慎重に横を向き、目が合った焔巳は柔らかな微笑みを返す。
「切り札って言うくらいだし、まだ見なくてもいいかな?」
「では、今夜お見せしますね」
逃げるように視線を逸らした斑辺恵がぎこちなく首を横に振り、焔巳はからかうように含み笑いを浮かべる。
「お手柔らかに頼むよ……」
「はい、今はショッピングを楽しみましょう」
複雑な笑みと共にため息をついた斑辺恵に焔巳が丁寧な仕草でお辞儀し、一行は巨大なドームの入口へと向かった。
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「いろんなお店がありますねぇ~、どこに行きましょうかぁ~」
「確かに目移りしちゃうね~、とりあえず行ける店を調べてみますか」
ドームに入ってすぐの手すりに駆け寄ったマーダがすり鉢状に広がる空間を覗き込み、同じように覗き込んだピンゾロは階段近くの案内板を親指で指し示す。
「ショッピングモールと商店街が混ぜこぜになってるこの区画は、歴史の教科書と違って何か落ち着かないんだよな」
「本部の機能は、硼岩棄晶の駆除以外に文化の復興もありますからな」
入れ替わるように覗き込んだ翔星が階層ごとに張り巡らせた回廊に並ぶ店を眺めながら複雑な笑みを浮かべ、隣に並んだ蔵は含みを持たせた笑みと共に一礼した。
「土地が限られてる以上は仕方ないか」
「本部には商業区画以外にも農業や漁業、工業に関する区画もあるからね」
気持ちを切り替えるように翔星が頭を掻き、羽士は簡略化した見取り図をLバングルに浮かべた。
「漁業か……何だか懐かしいな」
「確か斑辺恵は、フカズシティに飛ばされたんだったか?」
見取り図を眺めていた斑辺恵が思わず口元を緩め、Lバングルの記録を確認した聡羅が聞き返す。
「ああ。祐路は釣りが趣味で、毎日が見回りを兼ねた釣り三昧だったよ」
「なるほど、現地駐在員は思った通りの性格だった訳か」
懐かしむように斑辺恵が肩をすくめ、聡羅は笑いを堪えながら頷いた。
「ところで羽士、工業区画で何を造ってるのか分かるかい?」
「翔星にしては歯切れの悪い質問だね?」
反対側から見取り図を眺めていた翔星が慎重に口を開き、眼鏡の蔓に手を当てた羽士は眼光鋭く聞き返す。
「待機任務中に引っ掛かる事があってね」
「なら図書館区画に行くといいかもね。あそこには硼岩棄晶襲来前の記録や資料の再現や保存をしてるって話だ」
「分かった、機会があったら行ってみるよ」
頭を掻いて言葉を濁した翔星は、察するように微笑みながら見取り図を指差した羽士に感謝の笑みを返した。
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「おーい野郎どもー。ドーナツ食いに行くけど、いいかー?」
「構わないが、どういう経緯だ?」
しばらくしてピンゾロが階段脇の案内板を指差しながら大きく手を振り、先頭に立って合流した翔星は好奇心から聞き返す。
「輝士ちゃん達の要望だよ、帰還したばかりで小腹が空いたからな」
「あたしは頭脳派の法師型だから、糖分の接種が最適って判断しただけよ」
「自己メンテナンスも重要な役目、実に参考になる」
笑顔で親指を立てたピンゾロの言葉をカーサが髪を掬いながら訂正し、サイカは真剣な表情で何度も頷く。
「あのねぇ……!?……ふみゃぁ~」
「いい仲間が出来て良かったな、そろそろ行くぞ」
「はっ!? 待ってよ、マスター」
聡羅に頭を撫でられたカーサは空気が抜けたように目を細めるが、すぐさま我に返って階段を下りる一行の後を追った。




