第39話【間に合ったのは、元Fランクの怪力男】
蔵たちの増援任務に同行した斑辺恵は、
微かな疑問を抱えて帰路についた。
「はよせぬか、ピンゾロ。集合時間ギリギリじゃぞ」
「そう慌てなさんな、遅刻した訳でも……ありゃ?」
木の葉が舞い込むかのようにコチョウがブリーフィングールームへと駆け込み、悠々とした足取りで続いたピンゾロは言葉を詰まらせる。
「安心しろ鵜埜、時間通りだ。早く席に着いてくれ」
「へへっ、りょーかい」
明らかな作り笑顔を返した充木が空いている椅子を指差し、ピンゾロは軽く手を振って移動した。
「まったく……これで全員揃ったな? ノージシティから救援要請だ」
「バット級を中心とした混成部隊に苦戦しているとの事です」
ため息をついた充木がタブレット端末を操作し、続けてヒサノが手のひらに立体映像を浮かべる。
「おりょ? 前回もバット級だったような?」
「変異体のバット級に即応出来なくて増援を要請するパターンが多いんだ」
「そう言う事か、バット級はすぐに仲間を呼ぶからな」
腕組みをして首を傾げたピンゾロは、静かに頷いた羽士の説明に大袈裟な仕草で頷きを返した。
「今回は祀波に行ってもらう。いつも通り、人選は任せた」
「了解しました。ピンゾロ、一緒に来てくれるかい?」
操作したタブレット端末を脇に抱えた充木が敬礼し、立ち上がって敬礼を返した羽士は隣の席に視線を落とす。
「ようやく真打ちの登場だな」
「頼もしいけど、出来れば今回は補助に徹して欲しい」
「構わないけど、危険と判断したら乱入するぜ?」
勢いよく立ちあがったピンゾロは、曖昧に笑う羽士に不敵な笑みを返した。
「噂の怪力を間近で見れるのは興味あるけど、そうならないよう努力するよ」
「某も全力を尽くすでござる」
軽く眼鏡の蔓に手を当てた羽士が小さく肩をすくめ、隣の席に控えていた壬奈も大きく胸を張る。
「それは頼もしいのう、まずはお手並み拝見と行こうか?」
「お任せあれ、でござる」
腕組みをしたコチョウが含み笑いを浮かべ、胸を張ったままの壬奈は屈託の無い笑みを返した。
「頑張って来いよ、羽士」
「くれぐれも油断せぬように」
「ああ、任せてよ」
軽く手を振った聡羅に続いて合掌した蔵が一礼し、羽士は腰に下げたスコップに手を当ててから頷く。
「あまり羽目を外すなよ、ピンゾロ」
「くれぐれも迷惑掛けないようにね」
「おうよっ!……って、この温度差は何なのよ?」
からかうように肩をすくめた翔星と肩を震わせながら笑いを堪える斑辺恵に手を振って返したピンゾロは、大袈裟に肩をすくめてから羽士達と部屋を後にした。
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「ノージシティに到着、今から現場に向かうぜ」
「蔵の交戦記録から推測するに、もう結界まで迫ってる可能性もあるね」
目的地に到着したピンゾロが音声を記録し、羽士はゲートの大鳥居を見詰める。
「では早速、羽士殿。ガジェットテイル……」
「まだだよ。壬奈のガジェットテイルは、外で起動しないと危険だ」
「かしこまったでござる」
最前列に躍り出た壬奈が鳥の尾羽と筒を組み合わせた形状のガジェットテイルに意識を集中するが羽士に止められ、大鳥居に向かって歩き出した。
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「結構距離があるな、もう少し近付くか?」
「駐在の異能者と輝士械儕の退避は確認したでござる」
大鳥居の手前で立ち止まったピンゾロが遠くの小高い丘を見据え、空を見上げた壬奈は手のひらに立体映像を浮かべる。
「よし、ここを現地としよう。ピンゾロ、音声記録を頼む」
「分かった。現地に到着、これより駆除に移る」
しばらく考えた羽士が作戦開始を決定し、頷きを返したピンゾロはLバングルに音声を記録した。
「お待たせ壬奈、思いっ切り飛んでいいよ」
「心得た! ガジェットテイル起動、コネクトカバー展開!」
微かに頬を緩めた羽士が丘を指差し、壬奈は水兵服から銀を基調とした鎧武者の姿へと変わる。
「随分と物々しい格好じゃの」
「某は武者型でござるからな」
白いハーフパンツから緑色のスパッツに変わったコチョウが呆れ気味に見詰め、壬奈は両肩に付いた大袖を軽く振った。
「でもって背中の羽でひとっ飛び、と」
「羽士殿が考える最強の生物は鷲でござるからな」
「あと僕が氷から連想したのはロケットだからなのか、飛行速度は異能輝士隊でもトップレベルになるらしい」
横から翼状の機器を眺めるピンゾロに壬奈が大きく頷き、羽士は緩みそうな頬を堪えて眼鏡の蔓に触れる。
「ガジェットとテイルの相性が噛み合ったという訳じゃの」
「ただの偶然だよ、狙った訳じゃ無い」
筒状の機器を背負った壬奈を側面から眺めたコチョウが深く頷き、呼吸を整えた羽士は小さく肩をすくめた。
「羽士殿、そろそろ飛ぶでござるよ?」
「よろしく頼む。ピンゾロ達はすぐ踏み込める位置で待機しててくれないか?」
待ち切れない様子の壬奈に背中から抱き着かれた羽士は、静かに頷いてからピンゾロに曖昧な笑みを向ける。
「オッケー、行ってらっしゃ~い」
「では、行くでござるよ。無窮筒起動!」
「ふーん……地球のロケットとは違う理屈みたいね」
軽く肩をすくめてから手を振ったピンゾロは、掛け声と共に空高く飛び上がった壬奈の背中から散らばる氷の破片を興味深く眺めながら見送る。
「サイクロンマフラー起動じゃ。いつぞやのような持ち方でよかったかの?」
「ああ、それで頼む」
緑色のマフラーから翅状の機器を広げたコチョウに両肩を掴まれたピンゾロは、複雑な笑顔と共に了承した。
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「壬奈、そろそろ僕を降ろしてくれ」
「心得たでござる」
飛び回るバット級を視認した羽士がホルスターからRガンを抜き、壬奈は慣れた様子で手を離す。
「ありがとう、後は好きに暴れていいよ」
「お任せあれ! 零弓凍星起動!」
落下しつつ手を振った羽士がRガンを下に向けて撃った反動を利用して着地し、無事を見届けた壬奈は背丈ほどもある大弓を左手に出現させた。
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『『アギャギャギャ!』』
「捉えた! 我が必殺の矢、両刃雪崩を食らえ!」
翼の角度を変えて前方から飛び込んで来た3体のバット級の後方へと回り込んだ壬奈は、背負った筒状の機器から取り出した氷の矢を弓につがえて放つ。
『『アィギョーッ!?』』
「もう始まってたか!」
途中で砕けて無数の破片となった氷にコアごと全身を貫かれた3体のバット級が同時に悲鳴を上げ、丘の手前で着地したピンゾロは慌てて空を見上げる。
「バット級3体をまとめて駆除しおったか、まるで氷のクレイモアじゃの」
「さすがは輝士ちゃん、俺ちゃんの散弾とは比べ物にならないねぇ~」
戦闘空域の後方に着地したコチョウが手のひらに映像記録を浮かべ、ピンゾロは自らの手のひらを眺めてから固く握りしめた。
『『ブルルゥ!』』
「バイソン級の群れでござるな! 両刃雪崩・飛天撃ち」
結界街に向けて土煙を上げる水牛型硼岩棄晶の大群を確認した壬奈は、背負った筒から続けざまに矢を取り出しては弓につがえて放つ。
『『ブモモォッ!?』』
山なりの軌道を描いた幾本もの矢が落下と同時に砕け、バイソン級の群れは降り注いで来た無数の破片に為す術無く消滅する。
「文字通り、矢継ぎ早じゃの」
「しかも矢に使う氷は、ロケットの側面から取り放題と来たもんだ」
手のひらに浮かべた映像記録を確認したコチョウが何度も頷き、ピンゾロも半ば呆れて感心した。
『ブルァッ!』
「討ち漏らしたでござるか!」
難を逃れていた1体のバイソン級が再び走り出し、壬奈は慌てて矢を取り出す。
「クレセントアロー!」
『ブモッ!?』
先端を上に向けた氷柱の壁の隙間から羽士がスコップの先端に張った弓状の氷を放ち、首のコアに直撃を受けたバイソン級は短い悲鳴と共に消滅する。
「羽士殿! かたじけない!」
「僕が後ろにいる、壬奈は思う存分暴れてくれ!」
矢をつがえる手を止めた壬奈が頭を下げ、スコップの先端に氷の弓を張り直した羽士は大きく手を振って返した。
「心得た!」
『『ブルルゥ……!』』
力強く頷いた壬奈が氷の矢をつがえ、バイソン級の群れは氷柱の壁を避けようと左右に広がる。
「少し固まっててもらうよ、ブリザードアロー!」
『『ブモォッ!?』』
壁の隙間から羽士が握りこぶし大の氷の矢を連射し、迂回を始めたバイソン級は一斉に足を止める。
「ナイスでござる、羽士殿! 両刃雪崩・暴れ撃ち!」
『『ブモォァーッ!?』』
力強く頷いて飛び上がった壬奈が旋回しながら矢を放ち続け、四方八方から氷の破片を受けたバイソン級の群れは次々に断末魔の悲鳴を上げた。
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「わしらの出番は完全に無さそうじゃの」
「同感だ。ここまで異能者と輝士の息が合うと、全く入り込む余地が無いぜ」
偵察用小型ドローンを飛ばしていたコチョウが静かに首を横に振り、ピンゾロも小さくため息をついてから頭を掻く。
「案ずるでない。わしとお主ならば、すぐに巻き返せるわ」
「そう……だな、知れば知るほど楽しくなってくるぜ」
豪快に笑ったコチョウが大きく胸を張り、慎重に頷きを返したピンゾロは不敵な笑みを浮かべた。




