第4話【獲物を奪われたのは、Fランクの闇使い】
別々の場所に空間転移した翔星、ピンゾロ、斑辺恵の3人、
光の輝士械儕、サイカと遭遇した翔星は近くの街を目指す決意をした。
「闇よ……ようやく落ち着いたぜ」
「それは何?」
白い制服に手を当てた翔星が息を整え、サイカは表情を変えずに聞き返す。
「俺の異能力で制服を黒くしただけだ、他に効果なんて無い」
「色の変更? 説明を求む」
黒く変わった制服を確認した翔星が軽く肩を回し、サイカは尚も理解が出来ない様子で聞き返す。
「白い服は嫌いなんだ。それなのにこいつは、どんな技術を使ってるのか戦闘服を兼ねてる上に通年仕様だから他の色は無いと来てる」
軽く頭を掻いた翔星は、制服をひと通り見回してから苦い顔を浮かべた。
「許可の無い制服の改造は規定に反する」
「その条文には但し書きがあったはずだぜ?」
手のひらに立体映像を浮かべたサイカが首を横に振り、翔星は疲れた様子で立体映像を指差す。
「データ閲覧終了。異能力の効果を阻害する場合は申請不要」
「その通り、白い服は闇と相性が悪い」
該当の条文に目を通したサイカが淡々と読み上げ、大袈裟に肩をすくめた翔星は不敵な笑みを返した。
「制服の件、承知」
「ご理解感謝する。それにしても、データが頭に入ってるのは便利だな」
外套を羽織り直したサイカが立体映像を閉じて敬礼し、軽く敬礼を返した翔星はLバングルと交互に見ながら感心する。
「貴官の情報も閲覧した。時影翔星17歳、仲間からはキッド・ザ・スティングと呼ばれる射撃の名手」
「俺はつらぬき太郎で充分だ……って、もしかして通信も出来るのか!?」
軽く頷いたサイカがデータを諳んじ、自嘲気味に首を振った翔星は思わず大声を上げる。
「電子天女とは常時リンクしている」
「それなら本部に救援要請は出来ないか?」
手のひらに立体映像を浮かべたサイカが頷き、翔星は興奮気味に聞き返した。
「今は電子天女のデータベースしか閲覧出来ない」
「こっちから連絡するのは不可能、って訳か」
目を閉じて空を見上げたサイカが首を横に振り、翔星は静かに頷いて頭を掻く。
「まずは貴官の決定に従い、最寄りの結界街への移動が優先」
「異論は無いぜ。日が暮れる前に、どうやって探すか考えよう」
周囲を見回したサイカが頷き、軽く頷きを返した翔星は近くの木に寄り掛かる。
「現在地と周辺地図ならダウンロード済み、貴官に転送する」
「何とも便利な事で……協力、感謝する」
事も無げに頷いたサイカが手のひらに立体映像を浮かべ、Lバングルを確認した翔星は呆れ顔で敬礼した。
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「止まれ! 硼岩棄晶だ」
しばらく進んだところで翔星が足を止め、バイザー越しに周囲を見回す。
「タイガーアイ起動、索敵行動に移行……」
「そちらも便利な目を持ってるようだな」
尻尾のようなチューブの一部を取り外したサイカが猫の耳のような機器の付いた髪留めに変え、翔星は含み笑いを浮かべる。
「貴官も通常の異能者とは異なると認識」
「輝士のいないFランクは、自分しか頼れないんでね」
髪留めを付けたサイカが眉ひとつ動かさずに聞き返し、自嘲気味に笑った翔星は腰からRガンを抜いた。
「電子天女に確認、コネクトカバーの使用不許可」
「別に構わん、攻撃を食らわずにコアを壊せば問題無い」
チューブの先に付いた懐中電灯型の機器を手にしたサイカが首を横に振り、鼻で笑った翔星はRガンを構える。
「了解した。前方にアント級硼岩棄晶を4体確認」
「バット級も4体いるし、1体だけだがワーム級までいやがる。どうしたものか」
慎重に頷いたサイカが正面を見据え、周囲を見回した翔星は苦い顔を浮かべた。
「現状、人間である貴官の護衛が最優先事項」
「この数なら俺でも対処出来る、そっちは大人しくしててくれないか?」
木々の間に見える影を確認したサイカが前へと踏み出し、軽く首を振った翔星は全身のバネを溜める。
「規定に反する提案は拒否する。ガジェットテイル展開、戦闘モードに移行」
脱いだ外套を投げたサイカの尻尾状のチューブから複数の機器が浮かび上がり、広がりながらサイカの胸部と両肩、両腕と両脚に張り付く。
「おっと……仕方ないな……」
サイカが投げた外套を受け取った翔星は、手が塞がらないように外套を羽織ってRガンを構え直した。
「科戸照射……瑞雲起動……」
両肩の機器に付いた小型ランプを数回点滅させたサイカは、両脚のブーツに取り付けたエンジンを起動する。
「Rガン、ダブルファイア! 俺の分を残してくれよ」
「理解不能、この体の任務は敵の殲滅。虎影灯襖虚起動、攻撃を開始する」
迫って来た影に翔星が熱線を照射し、サイカは機器が剥がれて白と黒の縞模様に変わったチューブの先端に付いた懐中電灯から光の刃を伸ばす。
「何とも頼りになる話で……まあいい、先に行くぜ」
「理解不能、護衛対象は後方待機を推奨」
「なっ!? 何て速さだよ……」
Rガンを足元に撃った反動で跳び出した翔星は、即座に飛び上がって追い抜いたサイカの後ろ姿を呆然と見詰めた。
『『グェアァァー!!』』
『キェェエー!』
腹を折り曲げたアント級が一斉に酸弾を発射し、先端に殻を付けた筒の姿をしたワーム級も殻の内側から多数の棘を撃ち出す。
「フリーズフラッシュ正常起動確認、攻撃行動を続行する」
「動きを止める閃光の壁か……便利なもんだな」
飛んで来た酸弾や棘がサイカに当たる寸前で止まって消え去り、バイザー越しに分析した翔星は地面にRガンを撃って加速した。
『グルェェ!?』
「まさに閃光だな……っと」
光を纏って地表を飛ぶサイカが擦れ違いざまにアント級の首を刎ねて灰に変え、ようやく追いついた翔星はRガンを上空に向けて撃つ。
『アギョッ!?』
「逃げ道なんて無いぜ!」
奇怪な悲鳴と共に皮膜を焼かれたバット級が墜落し、駆け寄った翔星はRガンを喉元に突き付けてコアを撃ち抜く。
「硼岩棄晶の駆除を確認、認識を更新」
「バット級はすぐに逃げて仲間を呼ぶ、駆除は早い方がいい」
「承知」
更に2体のアント級を駆除していたサイカは、翔星のアドバイスに従って空へと飛び上がった。
『『アギョェーッ!』』
「空を自由に飛べるって便利だね~……残りは全部いただく、闇よ!」
上空を縦横無尽に飛び回るサイカがバット級を次々斬り伏せ、翔星は左手を軽く振って周囲を闇で覆う。
『グェ?』『キキッ!?』
(まずは面倒なワーム級から!)
視界を闇に遮られた硼岩棄晶の声が響き、翔星はワーム級に向かって走り出す。
「もらった!」
『キェーッ!?』
地面にRガンを撃った翔星が跳び上がり、闇の中に光るワーム級のコアに銃口を突き付けて引き金を引く。
「道はもう閉ざされてるぜ」
『グェ?……グェア!?』
ワーム級を駆除した反動で飛んだ翔星は、アント級の喉元に肉迫してコアを撃ち抜いた。
「こんなもんか……そっちも終わったようだね」
「バット級の殲滅は終了した」
闇を消した翔星が軽く肩を回し、着地したサイカも光の刃を納める。
「お疲れさん、見事な切れ味だったぜ」
「妥当な評価、この体は剣士型」
「ん? 確かに得物は剣だったな……」
軽く労ってから外套を投げ渡した翔星は、外套を受け取ったサイカの言葉を軽く聞き流す。
「貴官に傷を見受けられる」
「ん? アント級の酸弾が掠っただけだ、別に大した事無いぜ」
突然サイカが険しい表情へと変わり、手の甲に小さな火傷を確認した翔星は手を振る。
「傷を放置するのは危険、龍仙光照射」
「ケガまで治せるのかよ……」
静かに首を振ったサイカが球体を取り付けた左の手甲を向け、球体の発する光を浴びた翔星は傷の癒えた手を眺めながら静かに唸る。
「攻撃、防御、回復はひと通り可能」
「所詮異能者は輝士の添え物って訳か」
軽く頷いたサイカが尻尾状のチューブを揺らし、翔星は自嘲気味に鼻で笑った。
「異能者が……人間がいなければ、電子天女は輝士械儕すら作れない」
「どういう事だ?」
心持ち不機嫌な顔をしたサイカが静かに首を横に振り、翔星は慎重に聞き返す。
「電子天女は何でも作成可能。でも、人間の欲や想像力が無ければ作成不能」
「そういう話か……ピンゾロか斑辺恵なら気も合うんだろうが」
胸に手を当てたサイカが再度首を横に振り、頭を掻いた翔星は遠い目をして空を見上げた。
「鵜埜戒凪と斑辺恵の無事は確認済み」
「なんだって!?」
同じく空を見上げたサイカが微笑み、翔星は思わず聞き返す。
「電子天女を介して、それぞれと共にいる輝士械儕を確認した」
「なるほど、向こうも向こうで苦労してんだな」
軽く頷いたサイカが淡々と答え、翔星は呆れた様子で肩をすくめた。