第38話【感心したのは、元Fランクの風使い】
増援任務に見学として同行した翔星達は、
大量の硼岩棄晶を難無く駆除する聡羅達の実力を目の当たりにした。
「ん? ヒサノさんだけ?」
初の増援任務から数日後、ブリーフィングルームに待機していたピンゾロは扉を開けて入って来た女性に気付いた首を傾げる。
「今は会議に出席中ですので」
「それだけ緊急って訳か」
真剣な表情で頷いたヒサノが並んだ椅子に座った面々の前に立ち、翔星は期待を隠す事無く含み笑いを浮かべた。
「はい、ベートシティにバット級を中心にした混成部隊が出現したとの事です」
「それで、今回は誰が行くのん?」
簡単にお辞儀をしたヒサノが手のひらに立体映像を浮かべ、ピンゾロは軽く聞き返す。
「今隅さん、お願い出来ますか?」
「委細承知。同行は斑辺恵殿にお頼み申す」
真剣な表情を崩さずにヒサノが映像を切り替え、立ち上がって一礼を返した蔵は前列に座る斑辺恵に声を掛ける。
「分かった、行って来るよ」
「俺ちゃん達は留守番ね~」
「頑張って来いよ」
軽く敬礼を返した斑辺恵はおどけるように手を振るピンゾロと翔星に見送られ、蔵達と共にブリーフィングルームを後にした。
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「ベートシティに到着、これより現地に向かう」
「なかなか堂に入ってますな」
目的地に降り立った斑辺恵がLバングルに音声を記録し、腕組みした蔵は大きく頷く。
「茶化すなよ、それよりこっちの分を残してくれよ」
「う~ん、数次第かな~?」
「ははっ……期待してるよ」
真剣にゲートの大鳥居を見据えた斑辺恵は、屈託の無い笑みを浮かべるマーダに小さく肩をすくめた。
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『『アギャギャギャッ!』』
「結界近くまで踏み込まれたか」
ゲートの手前に辿り着いた斑辺恵は、空を舞う巨大な影を苦い顔で睨む。
「駐在の異能者と輝士械儕の退避は確認できました~」
「斑辺恵様、バット級が次々と仲間を呼んでいるようです」
しばらく空を見上げたマーダが大きく手を振り、黒い額当てを巻いた焔巳は手のひらに立体映像を浮かべた。
「街の防衛を預かる者が、たった3体のバット級に後れを取るとは」
「おそらく変異体だ、自分達の技はまだ見切られてない」
上空を眺めた蔵が眉を顰め、斑辺恵は特性を推測する。
「斑辺恵くん、先にわたくし達だけで行っていいかな?」
「分かった。現地に到着、これより駆除に移る」
真剣な表情でマーダが聞き返し、意図を汲み取って頷いた斑辺恵はLバングルに音声を記録した。
「ありがと~。ガジェットテイル起動、コネクトカバー展開」
「銃?……随分と大きいようだが?」
綱状のガジェットテイルの根元からマーダが取り外した部品が白い銃剣の付いた2丁の銃に変わり、斑辺恵は自分の背丈ほどもある巨大な銃を慎重に観察する。
「わたくしのモルタールートは、他の銃士型とちょっと違うの~」
「うむ。拙僧が炎から連想したのはミサイルですからな」
水兵服から茶系のベストとハーフパンツ姿へと変わったマーダが2丁の巨大銃を軽々と抱え、蔵は腕組みをして大きく頷いた。
「では、ミサイルを撃ち出す銃と言う事ですか?」
「ミサイルの形をした火の玉が正確な表現かな~? それと蔵くんが考えた最強の生物は象だから、反動が大きくても問題無いの~」
「こいつは頼もしい限りだ」
裾丈の短い着物姿へと変わった焔巳からの質問に微笑みを返したマーダが力強く地面を踏みしめ、斑辺恵は呆れと感心が入り混じった様子で頷く。
「斑辺恵殿と焔巳殿は結界で待機を」
「危なくなったら助けてね~」
スコップを手にした蔵の一礼に合わせてマーダが手を振り、2人はゲートを出て現場に向かった。
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『『アギョギョギョーッ!』』
「むっ! 灯明トマホーク!」
「ポールスタンプ~。効かないなぁ、そんな攻撃ぃ~」
上空で待ち構えるバット級硼岩棄晶が飛膜から放った針に向けて蔵が炎の礫を放ち、撃ち漏らした針もマーダの足踏みに合わせて現れた炎の壁で防ぐ。
「炎の柱で壁を作ったのか」
「防御機能を並べる方法もあるのですね」
慎重に観察していた斑辺恵が小さく唸り、焔巳も隣で静かに頷く。
「そういえば卍燃甲はひとつだけだったな」
「ポイントで増やす事も出来ますよ? そろそろ反撃みたいですね」
曖昧な笑みを浮かべた斑辺恵が頭を掻き、手のひらに立体映像を浮かべた焔巳は映像を閉じて正面を見据えた。
「ホーミングフレア~、でぃやぁ~!」
『アギギョッ!?』
銃身を上へと向けて力強く左足を踏み鳴らしたマーダが引き金を引き、銃口から飛び出たミサイルを模した炎の塊が先頭のバット級に当たって爆発する。
「誘導式の火炎弾ですね、それ以外も併用していますが」
「しかも熱感知で硼岩棄晶の配置を常に把握してる、これはひとたまりも無いね」
炎に包まれて落ちるバット級を分析した焔巳が周囲に目を配り、斑辺恵も真剣な表情で頷いてから頬を緩めて肩をすくめた。
「まだまだぁ~」
『『アィギョーッ!?』』
再度左足を踏み鳴らしたマーダが両腕に抱えた銃の引き金を同時に引き、残った2体のバット級を炎に包む。
「2丁同時なんて反動も凄いだろうに……」
「これでバット級の駆除は完了、もう増援はありませんね」
「ああ、残るは地上の連中だけだ」
全くバランスを崩さぬマーダの姿に舌を巻いた斑辺恵は、空中を確認した焔巳に大きく頷きを返した。
『グェ、グェ!』
「先頭はリザード級か! 来迎トマホーク!」
『グェァアッ!?』
円盤状の前足を盾のように構えたリザード級に気付いた蔵は、先端に斧型の炎を灯したスコップを振り下ろしてリザード級を円盤ごと両断する。
『『グルル……』』『『アォーン!』』
「後続はアント級にハウンド級か! マーダ殿!」
「は~い、ホーミングフレア~!」
『『グルェェァッ!?』』『『ギャィィィンッ!?』』
駆除したリザード級の後ろに群れ為す硼岩棄晶を蔵が確認し、マーダは腰だめに構えた2丁の銃から矢継ぎ早にミサイル型の火炎弾を放つ。
「連射まで可能なのですね」
「誘導ミサイルの弾幕か、さすがに少しだけ同情するよ」
絶え間なく起きる爆発を焔巳が真剣な表情で観察し、逃げ惑う硼岩棄晶を的確に追尾する火炎弾を眺めていた斑辺恵は複雑な笑みを浮かべた。
「全部駆除できたかな~? 今、確認するね~」
『グルァァアッ!』
引き金を引く手を一旦止めたマーダが左足を踏み鳴らそうとした瞬間、地中から1体のアント級が飛び出す。
「生き残りか!」
「任せて! ガイドランサ~!」
『グルァッ!?』
咄嗟に身構えた蔵の前に出たマーダが銃剣を撃ち出し、綱状のものにつながれた銃剣は死角に回り込んで来たアント級に軌道を合わせてコアを貫いた。
「銃剣まで追尾するのか、隙も逃げ場も無かったな」
「斑辺恵様の出番も無くなってしまいましたね」
灰に帰したアント級を眺めていた斑辺恵が呆れ気味に感心し、焔巳は悪戯じみた笑みを返す。
「自分は翔星と違う、味方に危険を押し付けるのは気が引けただけだ」
「はい、そういう事にしておきましょう」
複雑な笑みを返した斑辺恵が静かに首を横に振り、焔巳は微笑みを絶やさぬまま丁寧にお辞儀した。
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「サーモスタンプには何も出ななかったよ~。斑辺恵くん、記録よろしく~」
「硼岩棄晶の殲滅を確認、駆除任務完了。お疲れ様、マーダさん」
左足を数回踏み鳴らしたマーダが大きく手を振り、頷いた斑辺恵はLバングルに音声を記録する。
「あとは現地駐在員への作業の引継ぎですね、斑辺恵様」
「斑辺恵殿と焔巳殿もお疲れ様でした、引き継ぎは拙僧が……」
「蔵くんスト~ップ! わたくしが行って来るね~」
丁寧にお辞儀した焔巳が手のひらに立体映像を出し、スコップを畳んで結界街の基地に向かおうとする蔵を慌てて呼び止めたマーダがそのまま駆け出した。
「あいすみませぬ、マーダ殿。しばらく待ちましょうか、斑辺恵殿」
「そうだね。ところで蔵って寺生まれなのかい?」
「宗教文化の復元と保存を担うハチマンシティの出身でございます」
息を整えて緊張を解いた蔵は、慎重に聞き返して来た斑辺恵に一礼を返す。
「その割には随分と……合理的な武器が思い浮かんだね」
「俗世に触れねば信仰も発展出来ませぬからな」
腑に落ちない様子の斑辺恵が言葉を選びながら話を膨らませ、蔵はLバングルを手早く操作して図鑑データの載った立体映像を展開する。
「なるほどね、それで炎の斧にミサイルなんだ」
「衆生を護る手段を制限する神仏であれば、拝む価値などありませぬ故」
しばらく立体映像を眺めた斑辺恵が納得した様子で頷き、蔵は合掌してから含み笑いを浮かべた。
「随分と豪快な解釈だね」
「電子天女を信仰対象にせぬ限りは、ある程度自由ですからな」
「それはどういう……?」
思わぬ返答に曖昧な笑みを浮かべた斑辺恵は、神妙な面持ちで一礼を返した蔵に言葉を呑み込む。
「斑辺恵様、蔵さん。マーダさんから引き継ぎ終了の連絡が入りました」
「時間のようですね、この件はいずれまた」
「ははっ……お手柔らかに頼むよ」
張り詰めた空気を掻き消すような焔巳の声に合わせて蔵が微笑み、深くため息をついた斑辺恵は疲れた足取りで基地へと向かった。




