第37話【策を見抜いたのは、元Fランクの闇使い】
聡羅達の増援専門部隊に配属された翔星達は、
新たな任務への期待に胸を躍らせた。
「全員集まったな、タテハマシティから支援要請だ」
「20体を越すキャンサー級硼岩棄晶が出現したとの事です」
訓練の翌日、第四独立隊のブリーフィーングルームに集まった翔星達を確認した充木に続いてお辞儀したヒサノが手のひらに立体映像を浮かべる。
「今回は期雨が行ってくれ、人選は一任する」
「了解した、3人も来てくれないか? もちろん輝士も含めてだ」
手にしたタブレット端末を充木が操作し、敬礼した聡羅は翔星達に声を掛けた。
「構わんが、戦力が過剰ではないか?」
「見学だよ。仕事を覚えるなら、現場の空気を肌で感じるのが早い」
「そう言う事か、お手並み拝見させてもらう」
訝しんで聞き返した翔星は、緊張を解すように微笑んだ聡羅の説明に納得する。
「蔵と羽士は別の要請に備えて待機だ」
「委細承知」
「任せてよ」
聡羅の指示に敬礼を返した蔵と羽士に見送られ、一行は会議室を後にした。
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「少し急いだ方がいいんじゃないか?」
「現地駐在員だって輝士がいるし、充分持ちこたえてくれる」
「結界街まで逃げればいいし転移装置もあるから、むしろおつりが来るわよ」
転送室に入った斑辺恵が落ち着きのない様子で声を掛け、聡羅とカーサは同時に余裕の表情を浮かべる。
「確かにそうだな。サイカ、今回は台刻転を使うなよ」
「説明を要求する」
隣で頷いた翔星に釘を刺されたサイカは、小首を傾げて聞き返す。
「毎回俺達が出る訳ではないからな」
「承知、通常任務の学習を優先する」
簡潔に答えた翔星が小さく肩をすくめ、サイカは得心の行った様子で頷いた。
「分かったのならゲートを起動するわよ」
「これよりゲート起動、タテハマシティに向かう。起動してくれ、カーサ」
門のように立てた金属の輪へと近付いたカーサが振り向き、聡羅はLバングルを口元に近付けてから頷きを返す。
「今のは?」
「作戦中は音声記録を残すんだ、アプリはこいつを使う」
「なるほど、覚えておくよ」
興味を持った表情で声を掛けた翔星に簡単な説明をした聡羅がゲートへと入り、翔星もLバングルを確認してからゲートに向かった。
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「タテハマシティ到着確認、これより現地に向かう」
「ん? ここは……基地の外?」
ゲートを出てすぐ聡羅がLバングルに音声を記録し、最後に出て来たピンゾロは慎重に周囲を見回す。
「基地には増援用ゲートが複数配置してあるの、今回はここにしただけよ」
「的確な判断、メモリに記録した」
手のひらに基地周辺図を出したカーサが現在地を指差し、静かに頷いたサイカは上空に顔を向けた。
「今回は記録だけよ、マスターとあたしの任務なんだから」
「了解した、記録に専念する」
腰に手を当てたカーサが覗き込むように顔を近付け、サイカは敬礼を返す。
「分かればよろしい」
「随分と仲良くなったな、行くぞ」
腕組みしたカーサが大きく頷き、頭を撫でた聡羅を先頭に一行は移動を始めた。
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『『グォォォーン!』』
「こいつはまた、なかなかの団体さんだねぇ」
「あの網は現地の駐在員が? 彼等は無事なのか?」
クモの巣のように広がった竜巻に阻まれたキャンサー級硼岩棄晶を確認したピンゾロが無意識に身構え、斑辺恵は慎重に周囲を見渡す。
「現地輝士械儕には退避ルートを送信済みよ」
「今、どこにいるか分かるか?」
慣れた様子でカーサが手のひらに映像を浮かべ、折り畳んだスコップを手にした聡羅が聞き返す。
「とっくに退避済み、駆除はこちらに一任するって」
「賢い判断だ、始めるとしようか」
手のひらの映像をカーサが切り替え、聡羅は折り畳んだスコップを構えた。
「任せてマスター、ガジェットテイル起動するわね!」
「マント? 帽子?」
紺色の水兵服の上に黒いマントを羽織ったカーサが上の尖ったつばの広い帽子を被り、しばらく眺めていたサイカは小首を傾げる。
「あたしは法師型だからよ、攻撃もちょっとしたものなんだから」
「了解、大いに期待する」
マントの端を摘まんで翻したカーサが胸を張り、サイカは真剣な眼差しと共に頷きを返した。
「それよりあんた達も早くしなさい、自分のマスターは大切にするものよ」
「助言に感謝。ガジェットテイル起動、コネクトカバー展開」
緩む頬を必死に堪えたカーサが険しい眼光を返し、再度頷いたサイカの水兵服が消えてインナーの上に装甲を配した姿に変わる。
「こちらも展開が終わりました」
「分かった、これより駆除に移行する」
後方から裾丈の短い着物姿の焔巳がお辞儀し、聡羅は前方を警戒しながらLバングルに音声を記録した。
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『『グォォーッ!』』
「そろそろ網が消えるわ!」
竜巻の網に張り付いたキャンサー級が一斉に暴れ出し、異変に気付いたカーサは咄嗟に身構える。
「先手を許したか、まずは凌ぐぞ!」
「任せて! スタティックグリモアール起動!」
スコップを構えた聡羅に頷いたカーサはガジェットテイルから取り出した筒状の機器を下敷きのように広げ、下敷きを挟んで重なるように紙状の物質が現れた。
「ノート? いや、法師型って言ってたから魔導書の類か?」
「アーカイブには漫画やゲームのデータもあるからの」
「なるほど、そういう輝士ちゃんもいる訳ね」
カーサの手元にある本のようなものを観察していたピンゾロは、コチョウが手のひらに浮かべた立体映像を感心しながら眺める。
『『グァォォーッ!』』
「そろそろ来るぞ」
「せっかくの機会だし、高みの見物と行こうぜ」
激しさを増すキャンサー級を警戒した斑辺恵が身構え、肩を押さえたピンゾロは不敵な笑みを浮かべた。
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『『グォォーン!』』
「フィールドスクリーン展開! 無駄よ!」
しばらくして回転の弱まった竜巻の網を破ったキャンサー級が一斉にハサミから火球を放ち、カーサは手にした本から剥がれた数枚のページを周囲に浮かせる。
「電磁場の盾か、見事なもんだ」
「ページの数だけシールドを張れるとしたら、相当な数になるね」
「それだけでは無いみたいだ、そろそろ始まるぞ」
降り注ぐ無数の火球を光るページが阻む様子に感心していたピンゾロに斑辺恵が緊張の笑みを浮かべ、翔星は空気の変化に神経を研ぎ澄ませた。
「フラッシャーサーベル!」
『『グォァッ!?』』
火球が収まると同時に聡羅が折り畳んだままのスコップから雷の刃を5本放ち、甲殻を撃ち抜かれた前衛のキャンサー級が呻き声を上げる。
「カーサ、今だ!」
「フィールドスクリーン、モードESD! ライトニングブラスト、シュート!」
『『グォォオッ!?』』
聡羅の声に頷いたカーサが縦に四つ折りした4枚のページを前に倒し、先端から電撃を放って前衛のキャンサー級を後衛ごと撃ち貫く。
「逃がすか! ライトニングサーベル!」
『グォァッ!?』
電撃が消えると同時に踏み込んだ聡羅が折り畳んだスコップから出した雷の刃を素早く振り下ろし、生き延びた最後尾のキャンサー級を両断した。
「凄い威力と連携だ、増援専門なだけあるね~」
「じゃが攻撃は直線的じゃ、これでは敵を分散させてしまう」
聡羅とカーサの波状攻撃を観察していたピンゾロが呆れ気味に感心し、同意して頷いたコチョウは僅かながらに難色を示す。
「だとしたら少々厄介だな……」
「斑辺恵様、いつでも出られます」
隣で会話を聞いていた斑辺恵が懐に手を入れ、近寄って囁いた焔巳は赤い翼状の機器を小さく広げた。
『『グォォォッ!』』 『『グォォァッ!』』
「完全に分散した、このままだと挟み撃ちだ!」
波状攻撃を受けなかったキャンサー級の群れが左右に広がり、斑辺恵は反射的に全身のバネを溜める。
「待てよ、斑辺恵。あの輝士、かなりの使い手だ」
「貴官と同意見、カーサは意図的に敵を分散させた」
「ああ、そろそろ始まるぞ」
片腕を広げて斑辺恵を静止した翔星は、反対側から外套を掴んで引いたサイカに頷きを返してから含み笑いを浮かべた。
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「かかったわね!」
『『グァッ?』』 『『グォッ?』』
「そうか! あらかじめ剥がしたページを配置してたのか!」
本を振るカーサの手に合わせて縦に四つ折りした複数のページがキャンサー級を囲んで電撃を放ち、作戦に気付いた斑辺恵は興奮気味に頷く。
「刹那の恐怖に切り刻まれなさい! ライトニングブレイク!」
『『ガォォー!』』 『『ガォーッ!』』
カーサの号令に合わせてキャンサー級を囲んだ全てのページが縦を向いて屏風のように開き、放たれた雷が巨大な虎の姿に膨れ上がって一斉に咆哮を上げる。
『『グォォアーッ!?』』 『『グォァアーッ!?』』
「なるほど、屏風の虎が出て来た訳か」
「これで勝負あり、見事なもんだね」
多数展開した雷の虎が振るう爪に次々と切り刻まれるキャンサー級を眺めていた翔星が軽く笑い、同じく眺めていたピンゾロも大きく伸びをした。
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「マスター、生き残りはいないわよ」
「硼岩棄晶の殲滅を確認、駆除任務完了。よく頑張ったな、カーサ」
周囲に飛ばしたページを本に戻したカーサの報告を受けた聡羅は、Lバングルに音声を記録してから帽子を取ったカーサの頭を優しく撫でる。
「ふみゃぁ~ん……な、なによ」
「こちらもコネクトカバーを解除した、報告は以上」
陶酔したように目を細めていたカーサが慌てて振り向き、サイカは表情を変える事無く敬礼した。
「そうだったな、お疲れさん。あとは現地駐在員に引き継いで帰還するだけだ」
「駐在員は基地で待機してるから、このまま帰るだけね」
ばつが悪そうに頭を掻いた聡羅が残りの作業を簡単に説明し、手櫛で軽く前髪を整えたカーサも結界街を指差す。
「お疲れさん、これなら何とか覚えられそうだ」
「手順はこの体にも記憶した、いつでも再生可能」
「ありがとよ、サイカ。いつにも増して頼もしいぜ」
曖昧な表情と共に手を振った翔星は、大きく胸を張ったサイカの頭を撫でてから小さくため息をついた。




