第36話【フォローしたのは、元Fランクの怪力男】
増援専門の異能者達と模擬戦をした翔星達は、
いつも通りの動作を活かして難無く勝利した。
「勝負あり、そこまで!」
モニターを眺めていた充木は、スピーカーを通して訓練の終了を宣言する。
「負けたよ、完敗だ」
「再戦を楽しみにしてるぜ」
膝を軽く払った聡羅がスコップを腰のケースへと戻し、満足そうな笑みを返した翔星はRガンをホルスターに戻した。
「拙僧も、まだまだ修行不足のようですな」
「回避が甘かったら、こっちが負けてたよ」
気を落ち着かせるためにしばらく合掌した蔵がスコップを畳み、静かに首を横に振った斑辺恵は竹とんぼの羽を懐に入れる。
「おかげで貴重なデータを取れたよ、悔しいけどね」
「それだけ言えるなら上等だ」
折り曲げたスコップの先端に張っていた氷を消した羽士にピンゾロが軽く頷き、一同はその場で観覧席から下りて来る輝士械儕を待ち続けた。
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「マスター! 大丈夫? ケガはない?」
「カーサのおかげで何ともない。ありがとな」
「ふみゃぁ~」
慌てて駆け寄ったカーサは、聡羅に頭を撫でられて陶酔したように目を細める。
「……な、何よ!?」
「異能者との交流は重要な任務、干渉する意思は無い」
我に返ったカーサが頬を赤らめ、目が合ったサイカは含み笑いを浮かべて頷く。
「まさか……俺もしないといけない流れなのか?」
「現状は不要と判断、この体は何も役に立たなかった」
笑みに含まれた意図に気付いた翔星が慎重に聞き返し、首を横に振ったサイカは力無く俯いた。
「安心しな、サイカちゃん。翔星は、いつも以上に軽々と動いてたぜ」
「ならば、わしがピンゾロに頭を撫でてもらってもバチは当たらんかの?」
「へいへい、この程度でよけりゃな」
翔星の肩に腕を回しつつ親指を立てて微笑み掛けたピンゾロは、反対側から袖を引いたコチョウの頭を軽く撫でる。
「もしかして焔巳さんも……してほしいのかな?」
「ここで無理でしたら、後ほど寝室でお願いしますね」
「ははっ……お手柔らかに頼むよ」
ピンゾロとコチョウの様子をしばらく眺めてからぎこちなく微笑んだ斑辺恵は、丁寧な仕草でお辞儀を返した焔巳に笑顔を引きつらせる。
「何だか初々しいですねぇ~、出逢った頃の蔵くんを思い出しますぅ~」
「うむ。輝士との親睦も立派な修行ですぞ、斑辺恵殿」
駆け寄って来たマーダが弾むように微笑み、平静を装った蔵は大きく頷いた。
「親睦はともかく、これで通過儀礼は終わったんだよな?」
「そうだな、まさかここまで実力差があるとは思わなかったよ」
サイカの頭を数回撫でた翔星が大きく伸びをし、呆れ気味に肩をすくめた聡羅は小さくため息をつく。
「実力と言うより、戦い方が根本的に違うと言っていいかな?」
「ん? どゆこと?」
Lバングルを操作した羽士が立体映像を浮かべ、ピンゾロは全く理解が出来ない様子で聞き返した。
「言葉のままさ、防御を頼りに正面突破するのが僕達の本来の戦い方だ」
「そりゃまあ、コネクトカバーがあるからな」
軽く頷いた羽士が映像を操作し、ピンゾロも釣られて頷きを返す。
「でも君達は、僕達の攻撃を全て避けた」
「そりゃまあ、避ける癖が付いてるからな」
映像を戦闘記録に切り替えた羽士が首を横に振り、ピンゾロは再度頷きを返す。
「その上で君達は、輝士を連れずに硼岩棄晶の駆除はしてたんだよね?」
「まあね。輝士ちゃんと組んだのは、ついこの間だ」
記録映像を数回切り替えた羽士が念を押すかのように聞き返し、否定する事無く頷いたピンゾロは照れ隠しをするように頭を掻いた。
「ウソでしょ!? コネクトカバーが無いと硼岩棄晶の攻撃を防げないわよ!」
「当たりどころが悪くなくても即死は免れない、生存率は1%未満」
一連の会話を聞いていたカーサが信じられない様子で大声を上げ、サイカは手のひらに立体映像を浮かべる。
「だから輝士を連れてない人間は、結界の外へ出る事を禁じられてるんだ」
「確かに生存率だけ聞いたら自殺行為だ」
審判台を片付けてから降りて来た充木が疲れ気味にため息をつき、吹き出すのを堪えた斑辺恵は大袈裟に頷く。
「当たらなかったから、どうと言う事は無かったけどな」
「違いない、そのために異能力を磨いて来たからな」
両手をポケットに突っ込んだピンゾロが肩を大きく震わせて笑い、翔星も不敵な笑みと共に頷いた。
「あのなぁ……」
「電子天女は入隊から3年間、あなた方の行動に困惑していました」
呆気に取られた充木が言葉を詰まらせ、ヒサノも隣で複雑な表情を浮かべる。
「闇は存在しない属性だからな」
「俺ちゃんも、怪力使いは無理があったね」
ため息交じりに翔星が頭を掻き、ピンゾロは誤魔化すように視線を逸らす。
「嘘は優しさから来たものと電子天女は理解していますので」
「共通の理由で嘘をついてるのは何となく察してたが」
「何の異能力を隠してたのか、お互い今日まで分からずじまいだったな」
丁寧な仕草でお辞儀をしたヒサノが含みを持たせた微笑みを浮かべ、互いに目が合った翔星とピンゾロはどちらともなく吹き出した。
「まったく。ここまで命を張ったお人好しなど、データにも無いわ」
「もう隠す必要も無いし、今後は少し真面目に異能力を使いますか」
しばし天井を眺めたコチョウが呆れ気味に首を振り、肩を軽く回したピンゾロは大きく伸びをした。
「ちょっと! それなら何であなた達の異能力が嘘の属性のままなのよ!」
「そう言われても、これしかイマジントリガーが無いからな」
「覚醒した時からこういう戦い方しかしてこなかったんでね」
一連の会話を聞いて憤るカーサにピンゾロが力強く握ってから広げた手を振り、翔星も涼しい顔で肩をすくめる。
「おいおい、まるで入隊前から硼岩棄晶を駆除してたように聞こえるぜ?」
「当然だ、覚醒したのは結界街の外だったからな」
さり気なくカーサの両肩を押さえた聡羅が呆れ気味に聞き返し、翔星は否定する事無く頷いた。
「翔星ちゃんも俺ちゃんと同じなのね」
「薄々気付いてたけど、みんな同じなんだね」
腕組みしたピンゾロが肩を震わせて笑い、斑辺恵も吹き出すのを誤魔化すように頷く。
「なんと!? では何故、自らの異能力を偽るような真似を?」
「入隊前に下調べしてたら、輝士と組む決まりがあるって知ったからな」
思わず大声を出した蔵が慎重に聞き返し、翔星は慣れた口調で説明する。
「結局は勘違いだったけど、ダメージを肩代わりさせるコネクトカバーの事もな」
「やれやれ、最初から規格外だった訳か」
固く握った拳を広げたピンゾロが頭を掻き、Lバングルにデータを入力していた羽士は呆れ気味にため息をついた。
「今後について説明する。当面は期雨達、増援専門の第四独立隊に入ってもらう」
「輝士械儕の皆様はこちらへ」
会話の落ち着くタイミングを見計らった充木が咳払いし、ヒサノは観覧席に続く階段に手を差し伸べる。
「またなのぉー? マスターぁ、また後でねぇ」
「ああ、また後でな」
大袈裟にため息をついたカーサが小さく手を振り、聡羅も手を振って返す。
「輝士との親睦は聡羅に敵わないな」
「茶化すなよ」
腕組みをした翔星が深々と頷き、聡羅は曖昧な笑みを返した。
「そろそろこっちも始めるぞ」
「分かった、充木隊長。俺達の任務は?」
「各結界街への増援が主な任務だ、細かい説明は期雨達に任せる」
輝士械儕の移動を確認した充木は、食い入るように聞き返して来た翔星に簡単な説明を返す。
「まずは歓迎するよ。最近は増援要請も増えて来たから、増員はありがたいぜ」
「この間のシバダイシティなんて、あと少しで僕達が要請を出すところだったよ」
腕組みをした聡羅が何度も頷き、Lバングルに映像記録を浮かべた羽士も複雑な笑みを浮かべる。
「シバダイ……? もしかして、あの時の!?」
「多分その時だ、あそこは滅多に増援要請を出さないからな」
「分かる気がするぜ」
思わず聞き返したピンゾロは、否定する事無く頷いた聡羅の表情を見て遠慮する事無く大笑いした。
「話が逸れたが、任務のイメージは掴めたと思う。質問はあるかい?」
「かなりの大所帯だが、全員で行くのか?」
頬を緩めていた聡羅が真剣な表情に戻り、翔星は周囲を見回しながら聞き返す。
「報告を受けた数によって判断する」
「判断基準は?」
静かに頷いた聡羅が簡単に答え、翔星は更に聞き返す。
「確実に駆除出来る戦力の2倍だ。輝士械儕がひとりで駆除出来る数を考えれば、基本はひと組になる」
「ちょっと話は戻るけど、最近は数も増えて僕達全員が出動する事も珍しくない」
人差し指と中指を立てた聡羅が中指を畳み、Lバングルに説明用の映像を出した羽士は映像を次第に上昇するグラフに切り替えた。
「それで増援要員を追加って訳か」
「今後もご教授頼んだぜ、先輩方」
グラフを眺めていた斑辺恵が納得しながら頷き、芝居がかったお辞儀をしたピンゾロは顔だけ上げて軽く手を振る。
「ああ、頼りにしてるぜ」
「任せろ、こいつは俺向きの仕事だ」
密かに安堵した聡羅が軽く肩をすくめ、翔星は自信に満ちた笑みを返した。




