第35話【雷を褒めたのは、元Fランクの闇使い】
訓練施設に足を踏み入れた翔星達は、
模擬戦に向けて準備を始めた。
「全員疑似コアを付けたな?」
「準備オッケーだ」
「こっちもオッケーよん」
周囲を見回した充木に聡羅が頷き、ピンゾロも手を振って返す。
「では、それぞれの持ち場に着いてくれ。時影、鵜埜、斑辺の3名は東側」
「了解した、移動する」
タブレット端末を操作した充木が広い訓練室の隅を指差し、3人は翔星を先頭に移動を開始する。
「期雨、今隅、祀波の3名は西側だ」
「了解だ、行くぞ」
続けて充木がもう一方の隅を指差し、聡羅は2人を伴って移動を開始した。
「輝士械儕の皆様は、こちらで待機をお願いします」
「わかったわ、マスターの強さを見て驚かない事ね」
充木の隣に控えていたヒサノが上階に続く階段に手を差し伸べ、髪を掬うように払ったカーサはサイカに勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「承知、戦力の分析は重要な任務」
「あのねーっ!!……わぷっ!?」
淡々と頷くサイカに苛立ちを募らせたカーサだが、突然柔らかなものに包まれて大声を止める。
「そこまでよ、カーサちゃん。向こうで一緒に見ましょうね~」
「むぐぐ~……ぷはぁっ! ちょっとマーダ、離しなさいよ!」
「だめですよ~、みなさんと仲良くしましょうね~」
横から抱き着いて来たマーダの豊満な胸から脱したカーサは抗議と抵抗も虚しく小脇に抱えられ、他の輝士械儕と共に上階の観覧席へと移動した。
▼
「あっちは賑やかな事で」
「輝士全員が電子天女でつながってる訳ではないようだな」
観覧席を見上げたピンゾロが肩をすくめ、翔星も値踏みするように観察する。
「機会があれば聞いてみればいいさ。それより、こっちの作戦はどうする?」
「手のうちは変わらんのだろ? 今まで通りに動けばいい」
隣で頷いた斑辺恵が本題を切り出し、翔星は事も無げにRガンを抜く。
「だな、俺ちゃんも好きに動く」
「お互い変わってないね、安心した」
続けて頷いたピンゾロも数回屈伸を繰り返し、斑辺恵は安堵した様子で頷いた。
▼
「時間だ、訓練開始!」
「みんな行くぞ!」
観覧席近くの審判台に移動してモニターを起動した充木が右手を上げて合図し、聡羅は号令と共に駆け出す。
「ふっ、小細工なしで突っ込んで来るか」
「そいつはお互い様だ」
先頭に立って走る聡羅が感心しながら正面を見据え、向かいの先頭で目が合った翔星はRガンを構えた。
「だが、先手はもらう! フラッシャーサーベル!」
折り畳んだスコップを下に向けて裏側の柄を掴んだ聡羅が護拳に見立てて振り、5本に枝分かれした雷の刃が飛び出す。
「灯明トマホーク!」
続けて蔵が伸ばしたスコップの先端部に炎を灯し、力強く振り払って規則正しく並んだ炎の礫を飛ばす。
「ブリザードアロー!」
立ち止まった羽士が先端部を下に折り曲げたスコップに弓型の氷を張って前方に向け、握りこぶしほどの氷の矢を連続して撃ち出した。
「3人同時の攻撃か、息がぴったりだ」
「さすがは増援専門、見事な威力だね~」
足元にRガンを撃った反動で右に大きく跳んだ翔星が3種の攻撃を難無く躱し、真上に大きく跳んだピンゾロも感心しながら下を通り抜ける攻撃を見送る。
「これはこれで参考になるよ」
「「なっ!?」」
澄まし顔で頷いた斑辺恵が手のひらに起こした爆風で大きく左に躱し、聡羅達は驚愕の声と共に身構えた。
「お返しだ! パームブラスト!」
「ぬぅ!?」「おわっ!?」
更なる爆風で左側面へと回り込んだ斑辺恵が両手のひらからいくつもの空気弾を放ち、蔵と羽士は爆風に煽られて構えを解く。
「もう隠す必要も無いな、真空金剛散弾!」
「重い!……これが空気なのか!?」「どうにか耐えるんだ!」
着地と同時に右側面へと跳んだピンゾロが手のひらに集めた空気を圧縮して投げ付け、スコップで受け止めた羽士に聡羅が檄を飛ばす。
「いい位置だ。Rガン、ダブルファイア!」
「ぐぁ!?」「これは不覚!」
隙を逃さずRガンを撃って真上に跳んだ翔星が引き金を2回引き、聡羅と蔵は飛んで来た闇の直後に放たれた眩い光を受けて動きを止めた。
「このままもらうぜ!」
「させるか! アローウォール!」
「いい線行ってるけど、その手の技は熟知しててね!」
そのまま右側面から踏み込んだピンゾロは、羽士が先端を上に向けて複数並べた氷柱の壁を靴に纏わせた風で踏み砕いて跳び乗る。
「なっ!? クレセントアロー!」
「おっと……残念だったねー」
壁の隙間に狙いを定めていた羽士が慌てて弓状に張り出した氷を飛ばすが、ピンゾロは壁から跳び降りる寸前で足を止めて躱した。
「くっ、ちょこまかと! ブリザードアロー!」
「なんの!」
スコップの先端に弓状の氷を左右に張り直した羽士が握りこぶしほどの氷の矢を連続で放つが、ピンゾロは矢を悉く掴み取る。
「そんな馬鹿な!?」
「悪いな、これで終わりだ」
驚愕の声を上げた羽士の隙を突いたピンゾロが懐へと踏み込み、そのまま喉元を掴んで疑似コアを捻り潰した。
▼
「羽士殿!?……むんっ!」
「炎の斧か、それが本来の炎使いなんだろうね」
後方の異変に気を取られた蔵が先端に斧型の炎を纏わせたスコップを横に薙ぎ、後方に半歩下がった斑辺恵は自分の指に挟んだ竹とんぼの羽と見比べる。
「音に聞こえし鎌鼬……いや、音も聞こえず目にも見えぬ見事な刃」
「なるほど、同じ炎使いは相性が悪いみたいだ」
無意識に逸らした半身を戻した蔵が左手で疑似コアを撫で、斑辺恵は脚のバネを溜めて竹とんぼの羽を構え直した。
「拙僧とて同じ事、故に容赦せぬ! 来迎トマホーク!」
「風よ!」
頭を上げると同時に両手を振り上げた蔵が炎の斧を振り下ろすが、タイミングを計った斑辺恵は左手のひらから爆風を放って側面に跳ぶ。
「ややっ!? 斑辺恵殿はいずこに!?」
「悪いけど、こっちも容赦した事は無いんでね」
「ぬぅ……お見事」
咄嗟に炎の斧を手元へと戻して周囲の警戒をした蔵は、死角から踏み込んで来た斑辺恵に竹とんぼの羽を首元に当てられて静かに目を閉じた。
▼
「2点先取したが、どうする? まだ続けるか?」
「当然だ!」
軽く周囲を見回した翔星が挑発交じりに聞き返し、聡羅は折り畳んだスコップを護拳に見立てて構え直す。
「そう来なくてはな!」
「させるか! フラッシャーサーベル!」
「増援専門だけあって、頼もしい攻撃だ」
喜びを隠す事無くRガンを構えた翔星は、聡羅が放った5本の雷の刃それぞれの側面を観察しながら称賛する。
「避けながら言うなよ!……ライトニングサーベル!」
「こいつも見事なスピードだ」
苦い表情を浮かべた聡羅が1本に集束した雷の刃を伸ばして振り下ろし、翔星は余裕の表情で難無く躱した。
「くっ……」
「ふっ、今度はこっちから行くぞ」
「闇を使う気か!?」
刃を消して構え直した聡羅は、正面から踏み込んで来た翔星を警戒して無意識に左手をスコップに添える。
「いい判断だと言いたいが、仲間に闇を使う気は無いんでね!」
「なんの!」
Rガンの銃口に闇の針を作り出した翔星が正面から踏み込み、我に返って左手を離した聡羅は雷の刃を伸ばして闇の針を受け止めた。
「やはり接近戦では分が悪いか」
「抜かせ!……なっ!?」
Rガンを構え直した翔星が僅かに後ずさり、雷のサーベルを逆袈裟に振り上げた聡羅は手応えなく消えた翔星の姿に驚愕する。
「光を操れるってのは、闇を作るだけではないって事だ」
「自分の像を屈折させたのかよ……まいったね」
死角から踏み込んで来た翔星の針に疑似コアを貫かれた聡羅は、敗因を理解して静かに項垂れた。




