第33話【締め出されたのは、元Fランクの異能者たち】
異能輝士隊の本部に戻った翔星は、
斑辺恵やピンゾロと共に新たなランクを確認した。
「3人とも久し振りの本部だろ? 昼までは自由にしていいぞ」
「そりゃありがたい、翔星が帰って来るまで訓練詰めだったからな」
軽い敬礼を返した充木が微笑み、ピンゾロは緊張を解いて肩を回す。
「1300、第3訓練棟に集合。時間厳守ですよ」
「それと、くれぐれも結界の外には出ないように。では、解散」
「了解した」
柔らかく微笑んだヒサノに続いて手を振った充木が会議室を出て行き、敬礼した翔星を先頭に一同は2人を見送った。
「さて、これからどうする?」
「ちょいと駆除に、って訳には行かないよな」
しばらく扉を眺めていた翔星が口を開き、ピンゾロは大袈裟にため息をつく。
「当然じゃ、わしらにはお主らを止める義務があるからの」
「輝士が本気になれば俺達にはどうにも出来ん、素直に従うか」
「賢明な判断じゃ、ちと張り合いは無いがの」
呆れた気味に頷いたコチョウは、小さく肩をすくめた翔星に含み笑いを返す。
「鬼ごっこは、またの機会だね」
「それは残念ですね、斑辺恵様を抱き締める口実が無くなってしまいました」
「ははっ……焔巳さんも冗談を言うんだね」
冗談交じりに笑った斑辺恵は、口元に手を当てて微笑む焔巳に声を震わせながら曖昧な笑みを返した。
「どこか行くなら早く決めようぜ、商業区画は距離がある」
「台刻転なら全員を即時転移可能」
軽く息を整えた翔星がLバングルに地図画像を映し出し、前に躍り出たサイカは大きく胸を張る。
「おーいサイカさん、そうホイホイ使わないの。結構エネルギー食うんだろ?」
「肯定。台刻転は通常駆動から独立したエネルギー機関を使用」
額に手を当てた翔星が首を横に振り、頷いたサイカは全身を簡略に表現した立体映像を手のひらに浮かべた。
「念のため仕組みを聞いといた方がよさそうだな」
「了解。台刻転はゲートを展開する仕組み」
しばらく立体映像を眺めた翔星がため息をつき、サイカは映像を操作する。
「つまり消費はゲートの大きさに寄るから、数は関係無いと」
「肯定。人体サイズには6分の1を消費、チャージまで1時間必要」
考えをまとめた翔星が聞き返し、サイカは円形の画像を追加しながら頷いた。
「今朝使ったから残り5回、梠接の転移も視野に入れれば4回か」
「訓練までにはチャージ完了する計算」
六等分の円形を指でなぞった翔星が呟き、サイカは時間の減り続けるタイマーの画像を映し出す。
「急な出撃があるかもしれない、当面は温存する方向で行こう」
「了解した」
静かに首を振った翔星が方針を決め、小さく頷いたサイカは立体映像を閉じた。
「では、ここでお買い物をするのはどうでしょうか?」
「ん? ああ、ポイントか」
タイミングを見計らっていた焔巳が話し掛け、一瞬戸惑った翔星はすぐに提案の意図を理解する。
「翔星はポイントを使った事があるのかい?」
「ん……ちょっとな」
「現在着用している服の購入に使用」
興味を持った斑辺恵に翔星が言葉を濁し、サイカは短い水兵服の裾を摘まんだ。
「ほほう……翔星先生もやりますな~」
「ガジェットテイルのデータ容量が大きくて、服が無かっただけだ」
しばらくサイカを眺めてから振り向いたピンゾロがからかうように大きく頷き、翔星はため息交じりに首を横に振る。
「ふむ……確かにサイカ殿のガジェットテイルは、他と少し違うようじゃの」
「選んだ生物がひねくれてるのは自覚してる」
後ろからサイカを眺めていたコチョウが何度も頷き、頭を掻いた翔星は投げやり気味に肩をすくめて返した。
「服以外にデータの不足が無いか、確認した方が良さそうですね」
「そうじゃの、これから訓練も控えておるし」
空気を和ませようと焔巳が微笑み、渡りに船とばかりにコチョウも話題に乗る。
「チェックはスズノキシティで実施済み」
「翔星さんの正式な輝士械儕になってからはしていないでしょう?」
「念のための再チェックじゃ」
表情を変えずに首を振ったサイカの肩を焔巳とコチョウが両側から掴み、同時に笑みを浮かべた。
「あまりサイカちゃんを困らせんじゃないぞ、コチョウ先生」
「分かっておる。ほれ、男子どもは外に行った」
肩を震わせながら笑いを堪えたピンゾロが手を振り、軽く笑ったコチョウは手を払って返す。
「ここは女性同士に任せるしかないな、よろしく頼んだ」
「焔巳さん。終わったら、呼んでくれないか?」
「かしこまりました」
頭を掻きながら渋々承知した翔星に続いて斑辺恵が手を振り、丁寧にお辞儀した焔巳に見送られて3人は会議室を出て行った。
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「とは言ったものの、行く場所なんてないよな」
「考えてみたら、自分達は焔巳さん達の連絡先を知らないんだよね」
「待機任務中はずっと一緒にいたからな」
会議室を出てすぐの壁に寄り掛かったピンゾロが手持ち無沙汰に頭を掻き、隣に並んだ斑辺恵と翔星もそれぞれ頷く。
「向こうが知ってる可能性にも賭けたいけど、分が悪過ぎる」
「仕方ない、このまま待つか」
しばらくLバングルを操作していた斑辺恵が静かに首を振り、ピンゾロは大きく伸びをしてから腕組みをして顔を伏せた。
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「皆様お待たせしました」
「おつかれ、何か分かったのか?」
概ね1時間が経った頃、会議室の扉を開けた焔巳に気付いた翔星はLバングルの操作をしていた手を止める。
「必要なら今夜、寝室で開示する」
「とりあえず訓練には支障が無いんだな?」
「はい、それは私達が保証します」
続けて会議室から出て来たサイカの不敵な笑みに慣れた様子で翔星が聞き返し、焔巳は柔らかな微笑みを浮かべてから丁寧にお辞儀した。
「なら、ひと安心だ。ちょうどいい時間だし、飯にするか?」
「貴官の提案に賛同する」
緊張を解いた翔星がLバングルを確認し、サイカは静かに頷く。
「わしもじゃ。腹が減っては何とやら、じゃからの」
「では、訓練前の腹ごしらえと行きますか」
最後に出て来たコチョウが大きく頷き、軽く体をほぐしたピンゾロを先頭にして一行は食堂へと向かった。
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「俺は携帯糧食でいい、サイカは好きなのを選んでくれ」
「輝士械儕は異能者と同じ食事を摂取する原則」
食堂に入った直後に翔星がスティック状の袋を取り出し、サイカは外套を掴んで静かに首を横に振る。
「分かった、向こうで何か選ぼう」
「了解した」
小さく肩をすくめた翔星がスティック状の袋を戻し、頬を綻ばせたサイカと共に料理の並ぶコーナーへと向かった。
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「色々あって目移りするな……サイカはどうする?」
「これにする、初めて摂取した食品」
多くの異能者から遠巻きに奇異の視線を向けられる中、数々の並んだ料理を前に戸惑う翔星に聞かれたサイカは容器に山と盛られた唐揚げを指差す。
「そういえば、あの基地で最初に食ったのは唐揚げだったな」
「出来れば原則を守りたい」
「分かった、俺もこれにするよ」
懐かしむように頷いていた翔星は、縋るように見詰めて来たサイカにぎこちない笑みを返した。
「向こうに温野菜がある、栄養バランスは大事」
「落ち着けよ、料理は逃げないんだから」
トレーに載せた皿にいくつかの唐揚げを取り終えたサイカが別の容器に向かい、同じくトレーを手にした翔星は呆れ気味に呼び掛ける。
「翔星先生もだいぶお楽しみですな~」
「そういうピンゾロもな」
「まあな、こうなりゃ無理にでも楽しむまでよ」
離れて様子を見ていたピンゾロが悪戯じみた笑顔を浮かべ、足を止めてため息をついた翔星に軽く肩をすくめた。
「貴官に必要な栄養をひと通り揃えて来た」
「おっと、ありがとな」
いくつもの器をトレーに載せて戻って来たサイカは、翔星のトレーに器を次々と移す。
「そっちはオッケーみたいだな。では、行きますか」
「席はどうする? いつもの場所は3人掛けだろ?」
「へへっ、見て驚けよ」
タイミングを見計らって移動を始めたピンゾロは、呼び止める翔星に悪戯じみた笑みを返しながら歩き続けた。
「こいつは……」
「驚いたかい? 自分が戻って来た時には置き換えられてたんだ」
食堂の隅へと着いた翔星が向かい合わせに椅子が置かれた3組のテーブルを前に言葉を失い、最も奥に腰掛けていた斑辺恵が簡単に状況を説明する。
「どこまで用意周到なんだか」
「意地を張る必要が無くなった以上、あとは覚悟の問題だったからな」
最も外側に位置するテーブルにトレーを置いた翔星がため息をつき、ピンゾロは中間にあるテーブルにトレーを置いてから椅子に腰掛ける。
「でもって、覚悟は今も試されてる訳か」
「貴官の負担を和らげるのも、この体の役目」
「そうだな、少しずつでも慣れるしかないか」
椅子に腰掛けて苛立ち紛れに頭を掻いた翔星は、テーブルにトレーを置いてから胸元に手を当てたサイカに曖昧な微笑みを返した。




