第32話【電子天女が嫌ったのは、偽りの闇使い】
トレント級硼岩棄晶を駆除した翔星は、
自らが最強と考える生物を思い出した。
「来る時は擬装事故だったから、こっちは初めてなんだよな」
トレント級を駆除した翌日、朝食を終えて地下室に入った翔星は門のように立つ金属の輪を眺めながら複雑な表情を浮かべる。
「貴官への期待は大きい、転移ゲートの起動準備に入る」
「礼真様、遅いですね……」
続けて入ったサイカが金属の輪へと近付き、立ち止まった夏櫛は何度も地下室の入口に目を向ける。
「必ず来るさ、礼真は……っと、噂をすれば何とやらか」
「お待たせ、僕からの餞別だ」
真剣な表情で頷いた翔星が頬を緩め、走って地下室に入って来た礼真は抜き身の拳銃を手渡した。
「それは、貴官のRガン?」
「ちょっとした改造を頼んだんだ」
小首を傾げるサイカに微笑んだ翔星は、Rガンを手早くホルスターに納める。
「以前話していた予備兵装は?」
「あれは必要無くなった、本当の属性を明かしたからな」
しばらくホルスターを眺めたサイカが上目遣いで見詰め、翔星は誤魔化すように笑みを返す。
「承知。昨夜、ベッドで聞かせてもらった」
「おーいサイカさん、誤解を招く言い方は止めようね」
「承知した、楽しみは先に取っておく」
大きく頷いたサイカは、頬を引きつらせた翔星に含み笑いを返した。
「輝士との連携は良好のようだね」
「からかうなよ。すまなかったな、急に注文変えちまって」
2人のやり取りを眺めていた礼真が肩を震わせながら笑いを堪え、肩をすくめた翔星は神妙な面持ちで頷きを返す。
「別に構わないさ、色々と楽しかったよ」
「こっちも楽しかったぜ」
静かに首を振った礼真が屈託の無い笑みを浮かべ、翔星も軽く笑みを返した。
「サイカさん、本部に戻ってからが翔星さんの心を掴む正念場ですよ」
「承知した。協力、感謝する」
直立して敬礼した夏櫛が目を細め、敬礼を返したサイカも頬を緩ませる。
「協力って何の事だ……」
「秘密は乙女の嗜み、転移ゲートを起動する」
「え?……おわっ!?」
横から慎重に尋ねた翔星は、外套を掴んで金属の輪をくぐったサイカに引かれて大声を上げながら姿を消した。
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「おっと……ここは本部の会議……室?」
着地した感覚と共に目を開けた翔星は、戸惑いながら頭を上げる。
「肯定、台刻転のちょっとした応用」
「そりゃまた器用な事で」
小さく頷いたサイカが胸を張り、翔星は呆れ気味に頭を掻いた。
「さっそく翔星も振り回されてるな」
「ピンゾロか、斑辺恵や充木隊長もここに?」
からかうような声が横から入り、翔星は懐かしむように周囲を見回す。
「もちろんだ。待機任務ご苦労だったな、時影」
「ただ今帰還しました、充木隊長。次の辞令を聞かせてくれ」
目が合った充木が敬礼し、翔星も敬礼を返した。
「急くな、時影。まずは情報整理だ」
「情報の整理? 報告がまだなんだが?」
敬礼を解いた充木がため息をつき、翔星は怪訝な表情で聞き返す。
「電子天女には逐次定期報告」
「通信が使えない振りまでするとは、念の入った茶番だよ」
天井を見上げたサイカが不敵な笑みを浮かべ、翔星は小さくため息をついた。
「これも電子天女の決定です、3人には苦労を掛けました」
「ヒサノさんが謝る事じゃないよ、結構楽しかったぜ」
充木の隣に控えていた水兵服を着た輝士械儕が頭を下げ、ピンゾロは手を振って笑みを返す。
「まったく、鼻の下を伸ばしおって」
「呼吸、脈拍ともに正常、鵜埜戒凪はヒサノに特別な感情は無いと推測」
ピンゾロを見詰めていたコチョウが大袈裟にため息をつき、サイカは分析結果を小声で伝える。
「分かっておるわ、サイカは野暮じゃのぅ」
「承知、以降は気を付ける」
「うむ、そうしてくれると助かる」
腕組みをして首を横に振ったコチョウは、真顔で頷くサイカに笑みを返した。
「直接顔を合わせるのは初ですね、サイカさん」
「この体の認識は焔巳と同じ、今後ともよろしく」
「はい、よろしくお願いしますね」
コチョウの隣から焔巳がお辞儀し、静かに頷いたサイカに微笑みを返す。
「初顔合わせがどうなるかと思ったけど、余計な心配だったかな?」
「元々焔巳さん達は電子天女を通じて知り合ってたみたいだからね」
サイカ達を眺めていた翔星が密かに安堵し、ピンゾロの隣へと移動した斑辺恵は曖昧に笑う。
「斑辺恵も同じ事を聞いたのか、こっちは連絡出来ずじまいだってのに」
「だがこれで、元Fランクトリオの復活って訳だ」
複雑な表情で翔星がため息をつき、ピンゾロは大袈裟な仕草で肩をすくめてから不敵な笑みを浮かべた。
「積もる話もあるだろうが、まずはランクの確認をしてくれるか?」
「そういや正式な確認はまだだったな、いつも通りピンゾロからでいいか?」
タイミングを見計らった充木が机に載せた円盤を親指で指し示し、静かに頷いた翔星はピンゾロに目を向ける。
「2人はとっくに確認済みだ、時影だけ頼めるか?」
「分かった。時影翔星、光使い」
厳然とした表情を返した充木が力強く頷き、軽く頷いてから左手を円盤に乗せた翔星のLバングルには【E】の文字が浮かんだ。
「Eランクか、いきなり2つも3つも上がらんよな」
「再確認を推奨、表記は【Ex】となっている」
文字を確認した翔星が自嘲気味に笑い、いつの間にか隣に来ていたサイカが手のひらに立体映像を浮かべた。
「本当だ、拡大しないと分からねえな。でも2文字ってまさか!?」
「肯定、Exランクは番外のひとつ」
Lバングルを操作した翔星が思わず聞き返し、サイカは淡々と説明する。
「とんでもない大出世だな、いきなり過ぎて実感が湧かないぜ」
「これも電子天女の決定だ」
しばらく呆然とした翔星が首を横に振り、充木は複雑な笑みを返した。
「天女サマの気紛れはいつもの事だ、それで2人も同じなのか?」
「自分はSランク、ウィザードと同じだ」
「初代異能者も炎使いだったか? 嬉しそうで何よりだ」
小さく息を整えた翔星は、笑顔を噛み締めながらLバングルを操作した斑辺恵に大きく頷きを返す。
「俺ちゃんはGランクだ」
「ピンゾロらしいな、それにしても全員バラバラの番外とはね」
続けてピンゾロが操作したLバングルに浮かべた立体映像の確認をした翔星は、複雑な表情と共に2人の顔を見回した。
「そもそも正式なランクは最上位のAから訓練生のDまで、それ以外は番外だ」
「ではFランクも?」
呆れ気味に充木が頭を掻き、翔星は慎重に聞き返す。
「もちろんだ。正式名称はFランク、説明は不要だろ?」
「そういや入隊した時から属性を隠してたものな」
「嫌われるのも仕方ないか」
含みを持たせ充木の言葉を受け流すかのようにピンゾロが頭を掻き、翔星も自嘲気味に肩をすくめた。
「電子天女は貴官達個人を嫌悪してない」
「ん? どういう事だ?」
静かに外套を引いたサイカが首を横に振り、翔星は訝しげに聞き返す。
「電子天女は偽りの闇使いを生み出してしまった自分自身を嫌悪した」
「ですので、あなた方3名も他の異能者と同じく庇護対象ですよ」
手のひらに立体映像を浮かべたサイカが淡々と説明し、続くようにヒサノも手のひらに別の映像を浮かべた。
「そいつは、ありがたい事で」
「ところで、どうやって翔星は光を闇に変えてたんだい?」
「光が外に向かわないように操作すれば闇に見える」
頬を緩めて軽く肩をすくめた翔星は、手のひらに出した小さな光の玉を闇に包みながら斑辺恵の質問に答える。
「周囲を闇に包むのも同じ理屈なのか?」
「ああ、大抵の光の動きには干渉出来るからな」
しばし闇の玉を眺めていたピンゾロが質問を重ね、軽く頷いた翔星は手のひらの周囲を闇に包んですぐに戻した。
「見事なもんだ、俺ちゃん達に光は似合わないものな」
「属性は心のありよう。もし闇属性があれば、異能輝士隊の9割以上が該当」
深く頷いたピンゾロが肩を震わせて笑い、サイカは真剣な表情で手のひらに立体映像を浮かべる。
「随分と巧妙な手を思い付いたものだ」
「それより翔星ちゃん、硼岩棄晶のコアを見破るのはどういう仕掛けなんだい?」
「異能力はコアの光に干渉出来ない、偶然の産物だ」
静かに感心した翔星は、言葉を遮ったピンゾロに曖昧な笑みを返した。
「偶然でも新型のコアを早期発見出来たのは手柄だ、今後も頼りにしてるぞ」
「硼岩棄晶を駆除出来るのなら、俺は構わん」
タイミングを見計らっていた充木が気さくに手を振り、翔星は腰のRガンに手を当てて静かに頷く。
「翔星ちゃんには最高のご褒美ね」
「鵜埜にもご褒美をやろう、午後は訓練室に集合だ」
「訓練室?」
肩を震わせて笑ったピンゾロは、笑顔を浮かべた充木にオウム返しで聞き返す。
「先方の要望だ、さっそく実力を確認するぞ」
「嫌な予感がてんこ盛りの辞令だね~。鵜埜戒凪、了解しました」
硬い表情に戻った充木が軽く頷き、楽しみを噛み締めるように笑ったピンゾロは真剣な表情を作って敬礼を返した。




