第31話【猫の名前を辿ったのは、元Fランクの闇使い】
新種の硼岩棄晶を前に苦戦する翔星は、
自分が光使いの異能者である事を明かした。
「何も変わってない? 光ってるのに?」
胸元を見詰めている自分に気付いて目を逸らした翔星は、壁のように並ぶ巨大な果実の姿をしたミックス級硼岩棄晶を警戒しながら慎重にサイカの体を見回す。
「今の光はプロテクトの解除、ここからが本番」
『『ギャギャギャギャ!』』
「その前に掃除が必要か」
胸を覆う装甲に手を当てて光を消したサイカが微笑み、目が合った翔星は壁から離れて向かって来るミックス級を睨み付けて迎撃体勢を急ぎ整えた。
「任せて。台刻転起動、梠接射出」
『ギギャッ!?』 『ギョゲェッ!』
懐中電灯型の機器を握ったサイカが前に突き出し、先端から飛び出した光の刃は正面のリンゴ型ミックス級を貫いた直後に側面の桃型ミックス級を貫く。
「刃が曲がった?……いや、瞬間移動か!」
「肯定。台刻転は転移装置」
予期せぬ軌道に驚愕した翔星が即座に正体を推測し、胸元に手を当てたサイカは静かに頷いた。
「厳重に封印されてた訳だ、射線を確保したら頼んだぜ」
「必要無い、今から移動する」
「今から?……まさか!」
呆れ気味に納得してRガンを構えた翔星だが、掴んだ外套を引いて来たサイカの言葉に振り向いた顔を引きつらせる。
「話が早くて助かる、台刻転起動」
「おぅわぁ!?」
悪戯じみた笑みを返したサイカの全身が光に包まれ、翔星は叫び声ごと光の中に飲み込まれた。
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『グギィッ!?』
「……っと、随分と間抜けなツラ晒しやがって」
大木に吊り目と裂けた口を適当に描いたようなトレント級硼岩棄晶が奇妙な声を上げ、着地と同時に見上げた翔星は即座にRガンを構える。
『『ギャギャギャギャ!』』
「美味しいところは貴官に譲る、背中は任せてほしい」
突然背後に出現した気配を察知したミックス級が一斉に振り向き、サイカは光の刃を伸ばして身構えた。
「言ってろ……闇よ!」
『グギギッ!?』
軽く肩をすくめた翔星が周囲を闇に閉ざし、トレント級は戸惑いの声を出す。
「その程度の高さで逃げられるかよ!」
『グギェァアッ!?』
下に向けてRガンを撃った反動で跳び上がった翔星が銃口に闇の針を作り出し、眉間に針を突き立てられたトレント級は断末魔の叫びを上げて灰になった。
『『ギャギャギャギャ!』』
「親玉が消えても子分は消えないパターンか」
闇を解くと同時にミックス級が叫び声を上げ、翔星はRガンを構えながら不敵な笑みを浮かべる。
「ミックス級の増殖は認められず、駆除を続行する」
「このまま包囲殲滅戦といきますか……闇よ!」
上空を観測したサイカが光の刃を構え、翔星は再度闇を広げる。
「ミックス級のコアを確認、殲滅行動に移行する」
『ギャギャッ!?』『ギィェッ!?』
ネコ耳型の機器の付いた髪留めからバイザーを起動したサイカが闇に飛び込み、辺りに様々なミックス級の悲鳴が響き渡った。
▼
「ようやく片付いたね」
「ほとんどは夏櫛さんとサイカが駆除したからな」
挟撃する形で合流した礼真が微笑み、周囲を見回した翔星は軽く肩をすくめる。
「翔星だって相当な数を駆除してたぜ?」
「このためだけに異能力を磨いて来たようなものだからな」
Lバングルを起動した礼真が映像記録を浮かべ、翔星は複雑な笑みを返す。
「どういう事だい?」
「俺の決意は、ただの思い違いだっただけの話だ」
思わぬ返答に礼真が聞き返し、翔星は静かに首を横に振った。
「そっか、でもまさか翔星が光使いだったなんてね」
「元より異能力の属性に闇はございませんから」
軽く頷いた礼真が話題を替え、見回りから戻って来た夏櫛が柔らかくも圧のある笑みを浮かべる。
「最初からバレてた訳か、こんな茶番を仕組むくらいだからな」
「貴官の勇気ある決断に感謝する」
「ただのちっぽけな意地だよ、感謝される筋合いはない」
圧を受け流すかのように頭を掻いた翔星は、いつの間にか戻って来たサイカから逃れるように視線を上に逸らした。
「意地?」
「女の子にダメージを肩代わりさせるってやり口が気に入らなかっただけだ」
視線を追い掛けたサイカが小首を傾げ、観念した翔星は大きくため息をつく。
「それでコネクトカバーを初めて見た時に、あのような顔をされたのですね」
「まあな、ダメージは防御装置に転送されるって聞いて安心したよ」
得心の行った様子で夏櫛が微笑み、翔星は大袈裟に肩をすくめて返す。
「安心だなんて、お優しいのですね」
「いつもの悪い癖だ、勘違いで空回りするのは」
しばらくサイカを見詰めた夏櫛が口元に手を当てて目を細め、翔星は静かに首を振った。
「それが、貴官が心を閉ざしてる理由と推測」
「随分なご挨拶だな、正直に答えただろ?」
外套を掴んで引いたサイカが小首を傾げ、翔星は平静を装って肩をすくめる。
「呼吸と脈拍の乱れを検知、心安らぐまでこの体を使ってほしい」
「まだ、そこまで受け入れてない」
装甲をガジェットテイルに納めたサイカがインナー姿で胸を張り、翔星は疲れた様子で首を振る。
「承知した。この体は常に準備万端、いつでも使用可能」
「俺はこれからもサイカを相棒としか認めないからな」
丈の短い水兵服に体を包んだサイカが裾を摘まみ、翔星は区切りを付けるように大きなため息をついた。
「でもこれで7つのモチーフがそろったね」
「ああ、確かにそろったな」
タイミングを見計らっていた礼真が話し掛け、翔星は天の助けとばかりに頷く。
「少し整理してみよう。まず、索敵機能のタイガーアイが【虎】」
「治癒機能の龍仙光は【龍】で飛行機能の瑞雲が【雲】だな」
頬を緩ませた礼真がLバングルに一覧表を浮かべ、翔星もLバングルを操作して項目を追加した。
「予測機能の科戸が【風】、防御機能のフリーズフラッシュが【壁】ですね」
「今までは攻撃機能と封印されてた機能が不明だったんだよね?」
続けて夏櫛が手のひらに出した映像を合わせ、礼真は一覧表の空白を指差す。
「転移機能の台刻転は【ネズミ】」
「ようやく思い出したよ、俺が最強と考える生物は【猫】だ」
手のひら出した映像をサイカが一覧に追加し、翔星は最後の空白を指差した。
「猫!? どういう事だい?」
「小噺だよ、猫の名前っていう小噺だ」
呆気に取られた様子の礼真が聞き返し、翔星は気恥ずかしそうに頭を掻く。
「データ確認、長屋の住人が拾った猫の名前を決める話し合いから始まる」
「拾った男はこの世で一番強い名前にしたいから虎にしようと言ったら、別の男が虎より強い龍にしようと言い出した」
空を見上げて電子天女にアクセスしたサイカが手のひらに映像を浮かべ、翔星は静かに頷いて説明を引き継いだ。
「では、名前は龍に決まったのですか?」
「さらに別の男が龍は雲が無いと飛べないから、雲にしようと言い出した」
首を傾げた夏櫛が聞き返し、首を横に振った翔星は続きを話す。
「虎、龍、雲……今までのモチーフが順に出て来てるね、次は何だい?」
「風だ。雲は風に飛ばされるから、風にしようって話になる」
表示したままの一覧表を礼真が興味深く眺め、翔星は一覧表の中央を指差した。
「この流れだと風よりも強いものが出て来るんだね?」
「肯定。風は壁で止まるから壁にしよう、と展開する」
一覧表の下へと目を向けた礼真が含み笑いを浮かべ、映像を切り替えたサイカが淡々と説明する。
「でもって壁はネズミに齧られるからネズミにしよう、でもネズミは……」
「猫に食べられる!」
説明を引き継いだ翔星の言葉を、興奮気味に礼真が遮る。
「その通り。猫の名前はめでたく猫になって、この小噺は終わる」
「なるほど、確かに猫が最強の生物だ」
狙い通りとばかりに翔星が笑みを返し、礼真も釣られて笑い出した。
「猫の爪みたいに出し入れ出来る刃ですけど、名称に猫は入っていませんよね?」
「夏櫛の祇封雷舞だってクラゲの刺胞から取ってるし、きっと意味はあるよ」
首を傾げた夏櫛に複雑な笑みを返した礼真は、ケーブルの先端に避雷針のような機器が付いたガジェットテイルを指差す。
「肯定。虎影灯襖虚及び路接は画家の名称を参考」
「猫を手本に虎の絵を襖に描いた円山応挙に長沢芦雪、答は最初から出てた訳だ」
静かに頷いたサイカが映像を切り替え、翔星は複雑な表情と共に肩をすくめた。
「今度は貴官の番。光の異能力を闇に変えた方法を聞きたい」
「これから色んな人に聞かれるだろうし、帰ってから練習がてら説明するよ」
映像を閉じたサイカが上目遣いで見詰め、翔星は渋々承諾する。
「初めてのピロートーク、大いに期待する」
「おーいサイカさん、まずは別の話し合いが必要なようだね?」
両手で外套を掴んで引いたサイカが上目遣いのまま頬を緩ませ、盛大なため息をついた翔星は引きつった笑顔を返すしかなかった。




