第29話【ネタバレを食らったのは、Fランクの怪力男】
硼岩棄晶の混成部隊と遭遇したピンゾロ達は、
連携を分断する策を取って難無く駆除した。
「うむ……他に硼岩棄晶はいないようじゃな」
「そいつはよかった、政之達は大丈夫か?」
戻って来た偵察用小型ドローンをコチョウが確認し、ピンゾロは安堵した様子で周囲を見回す。
「あっちはもう2人の世界に入ってしもうた」
「以前聞いた話を考えれば、いずれはああなってただろうさ」
ドローンを操作したコチョウがテントのような記録映像を浮かべ、複雑な笑みを返したピンゾロは腕組みをして頷いた。
「そういえば、焔巳殿が正式に斑辺恵殿の輝士械儕になったそうじゃ」
「焔巳ちゃんって炎の輝士だったか?」
映像を閉じたコチョウが含み笑いを浮かべ、ピンゾロは何食わぬ顔で聞き返す。
「いかにも、斑辺恵殿も炎使いだったそうじゃ」
「なるほどね……世の中上手く行かないもんだ」
大きく頷いたコチョウが更に手のひらに立体映像を浮かべ、ピンゾロは軽く頭を掻く。
「以前お主の言ってたフリーの風使いは斑辺恵殿の事じゃろ?」
「まあな、俺ちゃんも焼きが回ったかねぇ~」
「みなまで言うな、この程度は可愛いものじゃ」
悪戯じみた笑みを浮かべて聞き返したコチョウは、観念してため息をついたピンゾロに手のひらを向けてから静かに首を横に振った。
「ははっ……!?……おいおい、マジかよ……」
「2人とも、新たな硼岩棄晶だ!」
曖昧な笑みを返したピンゾロが言葉を失いつつ湖へとつながる川を見詰め、駆け寄って来たツイナが手を振りながら大声を上げる。
「こっちでも感知したぜ。コチョウ先生、悪いがこの話は後だ」
「うむ、もうひと暴れしてから考えるかの」
手を振って返したピンゾロに続いてコチョウも肩を回し、一同は移動を始めた。
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『『グェグェ……』』『『ブルルゥ……』』
「リザード級とバイソン級を使って正面から押し潰す気か」
対岸の森から続々と出現するリザード級とバイソン級の集団を確認した政之は、地面に当てた手の振動を通じて森の奥までを確認する。
「敵が七分に緑が三分ってところか?」
「そこまで大袈裟じゃないけど。あの数はどうしたものかな」
「新種やヒドラ級が出ないだけマシってものじゃ」
冗談めいて笑ったピンゾロに首を振って返した政之がLバングルの操作を始め、大きく伸びをしたコチョウはガジェットテイルを起動した。
「ここで退く訳にはいかないだろ、迎え討つしかない」
「応援要請なら出した、しばらく足止めに専念する。土よ、壁となれ!」
テント型の外套を羽織ったツイナが中に隠し持った剣の柄を握り、Lバングルの操作を終えた政之は地面に手を当てて土の壁を作り出した。
『『グェーッ、グェグェ……』』『『ブルルッ……』』
「くっ……数が多いと壁は何の役にも立たないな」
土の壁に阻まれた硼岩棄晶を足場に後続の硼岩棄晶が壁を乗り越え、政之は苦い表情を浮かべる。
「だが、隊列は乱れる。綻びを少しずつ広げれば勝機も見えるはずだ」
「ならば、ツイナは空中から攻撃。ピンゾロとコチョウさんはしばらく足止めを」
硼岩棄晶の動きをツイナが慎重に観察し、政之は簡単な作戦を立てる。
「いい作戦だ、任せろ」
「必ず距離を取るんだ、絶対に囲まれないように」
「承知した!」
鷹の翼型の機器を広げたツイナは、政之の助言に大きく頷いてから飛び立った。
「こちらも行くぞ! ライドハーケン、シュート!」
「金剛散弾、連続で行くぜ!」
『『グェァッ!?』』『『ブモァァッ!?』』
コチョウが放った衝撃波に合わせてピンゾロが砕いて圧縮した石を散弾のように投げ、壁を乗り越えて来た硼岩棄晶がバランスを崩して倒れる。
「ここなら政之を巻き込まないな……オーロラブレード、連続シュート!」
『『グェァアッ!?』』『『ブモォッ!?』』
上空から地上の位置関係を確認したツイナが剣を振って磁気の刃を放ち、歩みを止めた硼岩棄晶のコアを次々と切り裂いた。
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「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か? 政之」
「小官は大丈夫だが、ツイナが心配だ」
土の壁を広範囲に展開しつつ肩で息を始めた政之は、身を案じるピンゾロに首を振ってから空を見上げる。
「確かに、動きが少し鈍くなっておるの……ぬ!?」
『『アギャギャギャーッ!』』
続けて上空を確認したコチョウは、森の奥から飛来して来たバット級硼岩棄晶の大群に息を呑んだ。
「ここに来てバット級だと!?」
「完全に、してやられたの……」
思わぬ伏兵に政之が大声を上げ、コチョウも苦虫を噛み潰したような顔をする。
「前座にも出て来なかったのは、ここまでの布石って訳か」
「どうする、蒔峯殿? 結界街まで退くかの?」
呆れ気味に感心したピンゾロが石の散弾を投げ続け、上空を見据えたコチョウは政之に聞き返した。
「音頭を取ってる奴は用意周到だ、まだ策を隠してるかもしれない」
「今回ばかりはイチかバチかって訳にはいかないよな」
しばらく考えた政之が静かに首を横に振り、軽く頷いて同意したピンゾロは絶え間なく石の散弾を投げる。
「とはいえ、ここで踏ん張るには戦力が心許ないのも確かだ」
「手ならあるぞ。ピンゾロ、ランクの確認をしてくれるかの?」
上空で身構えるツイナをしばらく眺めた政之が腕を組んで考え込み、コチョウは確信に満ちた含み笑いを浮かべた。
「言いたい事は分かったけど、どれくらい足止め出来るんだ?」
「分からぬ、全力で蹴り砕くだけじゃ」
石の散弾を投げ続けるピンゾロが頬を緩め、大袈裟に首を横に振ったコチョウは不敵な笑みを返す。
「気に入った! 鵜埜戒凪、風使い!」
「うむ! 最終セーフティー解除、アンテナスロウ起動!」
大きな息を短く吐いて頷いたピンゾロが石を投げ終えた左手を高く掲げ、力強く頷いたコチョウは右手の人差し指と中指を額に当てた。
「ん? 何か変わったのか?」
「それは見てのお楽しみじゃ。ライドハーケン、シュート!」
腕組みをしながら全身を見回すピンゾロに悪戯じみた笑みを返したコチョウは、左足を高く蹴り上げて衝撃波を空に放つ。
『『アギョギョッ!?』』
「これなら……コチョウ、バット級は任せろ!」
『アギャッ!?』『アギギョーッ!?』
衝撃波を避けたはずのバット級の羽ばたきが一斉に止まり、ツイナは機械の翼を大きく羽ばたかせて落下するバット級を次々と切り伏せた。
「うむ、ツイナ殿に任せた! さて、そろそろ壁も限界のようじゃな」
「俺ちゃんなら、いつでも行けるぜ?」
上空に向けて親指を立てたコチョウが前方を見据え、軽く伸びをしたピンゾロは両脚のバネを溜める。
「蒔峯殿、壁を消してもらえるかの?」
「分かった。壁よ、戻れ」
「では、行くぞ! ドライブキック・熱風重力返し!」
緑色のマフラーから伸ばした翅状の機器を広げたコチョウが政之の返した頷きを合図に飛び上がり、周囲の空気が震え上がるほどの回し蹴りを放った。
『『グェァッ!?』』『『ブモァァッ!?』』
「平衡感覚を鈍らせる超音波を仕込むなんて、面白い事を考えるね~」
消えた壁から堰を切ったように押し寄せた硼岩棄晶の大群が一斉に動きを止め、静かに耳を澄ませていたピンゾロは肩を震わせて笑う。
「灰色コンビの小説に出て来た真空閃を参考にしたのじゃ」
「え?……あーっ! あれまだ最後まで読んでないのに、ネタバレすんなよ~」
着地しながら胸を張ったコチョウが手のひらに立体映像を浮かべ、映像を眺めて大声を上げたピンゾロは冗談めいた仕草でため息をつく。
「それは悪い事をしたのう。今夜、埋め合わせをせねばな」
「ツイナちゃんの真似なら、もうちょい色っぽくしてほしいな!」
「まったく……まだ、始まったばかりじゃからの」
立体映像を閉じてしなを作ったコチョウは、逃げるように跳び立ったピンゾロを見上げながら翅状の機器を再度広げた。
「まともに動けなくて可哀想だけど、これも生存競争なんでね」
『グェッ!?』『ブモッ!?』
軽く肩を回したピンゾロが手近な硼岩棄晶のコアを掴んでは捻り砕き、呻き声が次々と上がる。
「こっちも行くのじゃ! ドライブキック・真空二段返し!」
『『グェァァアーッ!?』』『『ブモモォーッ!?』』
続いて跳び蹴りの体勢で飛んで来たコチョウが着地した足を軸にして反対の脚を大きく振り、硼岩棄晶の悲鳴が土煙と共に舞い上がった。
「いつになく張り切るね~、お前らもそう思わないか?」
『グァッ!?』『ブモァ!?』
複雑な笑みを浮かべたピンゾロが歩き回りながら手を伸ばし、周囲の硼岩棄晶が順々に崩れ落ちる。
「まとめて行くのじゃ! ドライブキック・疾風プラズマ落とし!」
『『『グォェァァアーッ!?』』』『『『ブモァモォーッ!?』』』
空高く飛び上がって狙いを定めたコチョウが閃光を纏いながら急降下し、着地と同時に無数の硼岩棄晶が断末魔の悲鳴を轟かせて戦闘は幕を閉じた。
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「相変わらず、滅茶苦茶な破壊力だね~」
「ちと遅れたが、出来るだけ早く駆除したかったからの」
「そうだな……お疲れさん」
呆れながら周囲の見回りをしていたピンゾロは、小型ドローンで念入りに周囲の偵察をするコチョウの頭を軽く撫でる。
「報告、終わったよ。増援部隊は待ち構えてた別働隊に遭遇して駆除したそうだ」
「そっちもお疲れ、もし退いてたら挟撃を食らってた訳か」
離れた場所でLバングルを操作していた政之が合流し、併せて労ったピンゾロは大きく伸びをした。
「2人のおかげで助かったよ、感謝する。もちろん、政之の采配にもね」
「それにしても怪力の正体が風の異能力だったとはね」
空中の偵察から戻ったツイナが笑みを浮かべ、目が合った政之は誤魔化すように視線を逸らす。
「ああ、体の周りに圧縮した風を流して強力な空気バネにしてたんだ」
「何でそんな真似を?」
広げた腕に沿ってピンゾロが小さな風を起こし、政之は怪訝そうに聞き返した。
「異能力に覚醒した時に近所で転落事故があってね、面倒は避けたかったんだ」
「それなら異能輝士隊に入った後も隠す必要は無かったじゃろ?」
Lバングルに該当記事を表示したピンゾロが曖昧な笑みを返し、コチョウは呆れ気味に首を振る。
「俺の憧れたヒーローは、女の子を盾にしなかったからな」
「属性を偽れば、輝士械儕が出来ぬと踏んだのじゃな。わしのガジェットテイルは空気ブレーキとバッタじゃ」
観念した様子で頭を掻いたピンゾロが複雑な笑みを浮かべ、得心の行った様子で頷いたコチョウは後ろを向いて金属板を蛇腹に重ねた半球状の機器を振る。
「空気ブレーキは怪力のヒント……バッタは憧れを抱いたヒーローのモチーフ……確かにどっちも俺ちゃんの発想だ」
「そう言う事じゃ、電子天女に隠せぬものは無い」
噛み砕くように記憶を辿ったピンゾロが晴れやかな顔に変わり、コチョウは胸を張って大きく頷く。
「天女サマの前では小さな意地だった訳ね、今後ともよろしくな」
「こちらこそじゃ」
器の小さな自分を吹き飛ばすように笑ったピンゾロが手を差し出し、手を握って返したコチョウは満面の笑みを浮かべた。




