第27話【過去を克服したのは、Fランクの風使い】
祐路の成長を見届けた斑辺恵は、
自らの異能力と向き合う覚悟を決めた。
「ところで、なんでバーベキューなんだ?」
「自分と向き合うには、これが手っ取り早いんだ」
河原に置かれたバーベキューコンロの前にした祐路が首を傾げ、斑辺恵は道具を入れて来た袋に手を入れながら簡単に答える。
「斑辺恵のトラウマってバーベキューに関係あるのか?」
「いや、こっちだ」
「マッチ?」
慎重に聞き返した祐路は、小さなマッチ箱を手にした斑辺恵に聞き返す。
「正確には自分で火を付ける事だ」
「ローソク持って練習する場所探してたからさ、ついでにバーベキューしようって流れになったんだ」
「なるほどね、でもなんで火を付ける事なんだ?」
静かに首を横に振った斑辺恵の横から豪快に笑ったテツラが力こぶを作る仕草を見せ、腕組みをして頷いた祐路が新たな質問を投げた。
「それは……」
「斑辺恵様、硼岩棄晶です!」
「訓練は後回しだね」
しばし躊躇ってから口を開こうとした斑辺恵は、黒い額当てを頭に巻いて言葉を遮った焔巳に頷きを返してから対岸を見据えた。
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「これは、ワーム級?」
「ヒドラ級です! 太い胴体があります!」
目を閉じて手のひらを向けた斑辺恵が眉を顰め、焔巳は慌てつつも的確に近付く脅威を報告する。
「何だって!? いや、既にピンゾロと翔星が駆除してる。手はあるはずだ」
「データならあるぜ。コアをつなぐバイパスに異能力を流せばイチコロだ!」
思わず大声を上げた斑辺恵が即座に息を整え、しばし空を見上げたテツラは手のひらに立体映像を浮かべた。
「分かった、誰が異能力を流すんだ?」
「この中だとテツラさんだろうね」
前方を警戒しながら頷いた祐路が軽く見回し、斑辺恵は複雑な表情を返す。
「確かに、流すくらいだから水の方がいいか」
「祐路も斑辺恵も洒落が利いてるね~」
腕組みして考えた祐路が納得して頷き、テツラは力強く肩を回した。
「それだけじゃない、この中で一番の火力がある」
「火力なら焔巳だろ? 炎の輝士械儕なんだし」
曖昧な表情で首を振った斑辺恵が真剣な表情で対岸を見据え、テツラは大袈裟な仕草で首を傾げる。
「ここでいう火力は攻撃力だよ、正式な異能者のいない焔巳さんでは力不足だ」
「分かった、今はそう言う事にしとくぜ。いっちょ、こいつをブチ込んで来る」
緊張を解いた斑辺恵が複雑な表情と共に首を振り、含み笑いを浮かべたテツラは腰に付けた簗のような機器から鉤爪手甲を取り出した。
「いいのか? 危険な役目だぜ?」
「聞くだけ野暮だぜ、危険は誰も同じだ」
あっさりとした返答に祐路が躊躇いがちに聞き返し、静かに首を振ったテツラは屈託の無い笑みを返す。
「そうだな、オレ達は囮を引き受ける」
「頼りにしてるぜ。ウィアトラップ、フライトモード!」
観念して頷いた祐路が腰から釣り糸を取り出し、テツラは変形させた簗のような機器に飛び乗った。
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『『キィィェーッ!』』
「パームブラスト!」
「こっちも行くぜ!」
しばらくしてから姿を現した巨大硼岩棄晶に手のひらを向けた斑辺恵が空気弾を放ち、祐路も水を纏わせた釣り糸を伸ばす。
『キェァッ!』『キィッ!』
「なっ!? 避けただと!」
「まさかこれも変異体なのか!?」
それぞれの首が予測していたかのように空気弾と釣り糸を躱し、斑辺恵と祐路は同時に驚愕の声を上げた。
「これじゃ、こっちも近付けないぜ」
「何とかチャンスを見付けませんと」
『『キィィェァーッ!』』
変形させた簗状の機器に乗るテツラと赤い翼状の機器を広げた焔巳が上空を飛び回り、ヒドラ級の首は一斉に刃状の棘を甲殻の内側から放つ。
「おわっと!?」
「くっ! 万事休すか」
大きく後方に跳んだ祐路が着地しつつバネを溜め、同じく距離を取った斑辺恵は状況を確認するべく周囲を見回した。
「手ならあります! 斑辺恵様、ランクの確認を」
「こんな時に何言ってんだよ!」
上空から焔巳が声を掛け、隣でテツラが大声を上げる。
「言いたい事は理解した! 斑辺恵、炎使い!」
「ようやく正直になってくださいましたね、後はお任せください」
左手を空に向けた斑辺恵が大声で叫び、上空でお辞儀をした焔巳の翼が眩い光を放ち出した。
「選手交代だ、アタシは牽制に回るぜ」
「でも、こっちの攻撃は当たらないぜ?」
「避けるって事は、当たりたくないって事だろ?」
地上に降りて簗状の機器を腰に戻したテツラに祐路が難色を示し、逆に斑辺恵は余裕の笑みを浮かべる。
「そう言う事だ。アクアデトネイター、乱れ撃ち!」
「自分も続く! パームブラスト、連射でどうだ!」
『キィァ!』『キィィ!』
簗状の機器から多数の水弾を撃ち出したテツラに続いて斑辺恵が両手のひらから交互に空気弾を放ち、回避に専念するヒドラ級はその場に釘付けとなる。
「皆さん離れてください! 柩連焔刃、最大出力!」
『『キィィアァァッ!?』』
手にした円盤を下に向けた焔巳が無数の火花の針を放ち、背のバイパスを伝って全ての首に針が逆流したヒドラ級は同時に断末魔の声を上げて燃え上がった。
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「お待たせ。しかし、斑辺恵の異能力が炎だったとはね」
「そうだぜ、斑辺恵。何で嘘ついてたんだよ?」
見回りから戻った祐路がバーベキューコンロの前で大きく伸びをし、食材の焼け具合を確認していたテツラも呆れ気味に聞き返す。
「異能力に覚醒した頃に放火事件があってね、炎使いって言い出せなかったんだ」
「それで火を付けるのまで怖くなったんだな」
「もし炎が暴走して何もかも燃やしたら、と考えたらマッチでさえ怖くなってね」
指先に灯した小さな炎を吹き消した斑辺恵は、納得しながらコンロの火を眺める祐路に静かな頷きを返した。
「それでもバーベキューの前に克服するなんて、焔巳のために頑張ったんだな」
「以前火を付けるのに成功したから、今日のは心の準備みたいなものかな」
焼けた肉を取り皿に載せたテツラが嬉しそうに微笑み、皿を受け取った斑辺恵は曖昧な笑みを返す。
「相変わらず斑辺恵は野暮だな」
「まあいいじゃないか、でもどうやって風を出してたんだ?」
不機嫌そうに笑ったテツラが次の取り皿を隣に差し出し、宥めながら受け取った祐路は斑辺恵に疑問を投げ掛けた。
「手のひらの内側で圧縮した炎を一瞬だけ放つと、風が起きるんだ」
「つまり爆風って事か」
「そうだね、パームブラストも同じ原理だ」
空いた手のひらを後ろに向けて小さな爆風を起こした斑辺恵は、慎重に聞き返す祐路に誇らしそうな頷きを返す。
「鎌鼬はどういう仕掛けなんだ? 炎の異能力は検知しても解析出来てないんだ」
「限界まで圧縮した炎を燃え広がらないように一瞬だけ出して焼き切るんだよ」
取り皿を配り終えたテツラが手のひらに立体映像を出し、斑辺恵は手にした箸を得物に使っている竹とんぼの羽に見立てて振りながら簡単に説明した。
「そいつを鎌鼬と名付けておけば風使いと思い込む寸法か、見事なもんだぜ」
「でもまさか、焔巳さんのガジェットテイルにも反映されるとはね」
興奮気味に頷いて立体映像を閉じたテツラが手にした箸で掴んだ肉に齧り付き、静かに頷いた斑辺恵は複雑な表情を焔巳に向ける。
「エンジンカッターと不死鳥ですね」
「ん? 何でエンジンカッターなんだ?」
皿を手にしたまま軽くお辞儀をした焔巳が鳥の尾羽のような形状の機器を振り、川魚の焼け具合を確認していた祐路が手を止めて聞き返した。
「子供の頃にニュースで見た、火花を散らして鉄の扉を切る映像が印象的だった」
「それが鎌鼬の原点か、でも不死鳥はどう関係してるんだ?」
焼けたカボチャを皿に取った斑辺恵が恥ずかしそうに笑い、得心の行った様子で笑みを浮かべた祐路は新たな疑問を口にする。
「何度も甦るなら何度も再挑戦出来るからね」
「斑辺恵らしいぜ」
「さすがに卍燃甲の亀とサーモピットの蛇は自分にも分からないけどね」
照れ笑いを浮かべながらも真剣な眼差しで空を見上げた斑辺恵は、納得して頷く祐路に複雑な表情で首を振って返す。
「亀は冬眠から目覚める姿が、蛇は脱皮が生まれ変わりの象徴とされています」
「不死つながりか、自分にも分からない事がありそうだ」
空いた方の手に立体映像を浮かべた焔巳が簡単に解説し、斑辺恵は釈然としない自分を楽しむような笑みを浮かべた。
「既に私は斑辺恵様のものですから、何でもお聞きください」
「もの扱いはしたくは無いけど、否定は出来ないんだろうな」
息を大きく吸った焔巳が満面の笑みを浮かべ、斑辺恵は複雑な笑みを返す。
「斑辺恵も年貢の納め時だな、分から無い事があったら何でも聞けよ」
「ははっ、何とも頼もしい先輩だ」
いつの間にか興奮気味のテツラに抱きしめられていた祐路が半ば同情するような笑みを浮かべ、斑辺恵は空気が抜けるように力無く笑った。




